50 憧れの方について _とある親衛隊員_
私の学年は、例年にもないほど高位の方々が多く入学しています。
公爵家のご令嬢であり憧れの生徒会副会長ロゼ様の妹君であるクレア=キングスレイ様や同じ公爵令嬢であるアマンダ=スノウバーク様もいらっしゃいますが、何より目立つ3人の方々がいらっしゃいます。
そのうち二人が双子の王子であるミシェル=セレドニア様、アレン=セレドニア様。お二人共系統は違いますがどちらもそれはそれは麗しく、それでいて優秀で、言うまでもなく全女生徒の憧れです。お二人で廊下で仲睦まじげに話す様子はさながら薔薇の庭園に囲まれた優雅なお茶会を見ているよう。絵画の一画面のような風景で、ため息が漏れます。
そして、もうひとりがその王子様方や先輩のロゼ様、メレディス様、セシル様のご寵愛を一身に受ける麗しいご令嬢、エミリア=シルヴェスター様。普通美しい方々の寵愛を受けているようならば他のものには妬まれかねない事態ですが、エミリア様の場合は違います。
さらさらとした金糸に宝石のようにまっすぐに輝く青い瞳。お人形さんのように整った顔立ちは1歩間違えれば人間味を感じさせない冷淡なものへと変貌しそうですが、彼女の場合は違います。いつも柔らかい微笑をたたえ、愛らしく表情を変化させる姿は小動物のようで、強くも可愛らしいその姿は男女問わない羨望の的となりました。
優雅で穏やかなその気性、思わず頬を染めてしまうような優しい動きで私たちを助けてくださります。彼女によって助けていただいた者は数知れません。それでいて恩を売らないさっぱりとした気質は大変好ましく、1日に複数人の親衛隊員を増やしていきます。
私たちエミリア様親衛隊は学園生活が始まって数日で発足し、非公式ながらメンバーが集まっていきました。既にエミリア様のクラスメイトはミシェル様とアリスさん以外は全員が加入済みです。流石エミリア様ですわ。
「エミリア様を崇め、護り、幸せに」
を心情の元、密かに御見守りをし、なにか障害がありそうならば水面下で取り除き、抜けがけを牽制し合うことで成り立っています。私たちの第一目的は「笑顔を壊さない」こと。自ら友達になろうなどとはとてもとても不敬すぎて言えません。
そういえばこの前、とある授業で2人ひと組になる機会がありました。皆さんエミリア様と組みたいご様子でしたが自ら誘うような行為は不敬であり、抜けがけに値します。別の方と組んでいくようでした。
などと抜けがけをしない様を見守っていくうちに、私とエミリア様がペアを作らず残ってしまいました。するとエミリア様はぴょこりと近づいてきて
「ノズウェールさんですよね?ペア、お願いしてもよろしいですか…?」
などと上目遣いに照れ笑いを浮かべながら首を傾げるではないですか!死んでもいいと思いました。私が嬉しさと萌えを隠すため「はい」と単調に頷くと、エミリア様は嬉しそうに笑顔を向けてくださいます。その瞬間他の親衛隊員から負の視線が刺さってきます。抜けがけを非難しているのでしょう。しかしエミリア様からの誘いはその笑顔を曇らせぬよう抜けがけをすることを許可されているのです。誇らしい思いでペアを組みました。
「ノズウェールさん」
「はい、隊長様」
そのペア授業の思いを幸せな思いで振り返ると、緩やかに笑みを浮かべた親衛隊隊長であるマイラ=フロレンス様がいらっしゃいました。
マイラ様はエミリア様が入学されるずっと前からのファンでございます。なんとエミリア様と直々に友人と認めて頂いたこともあるそうです!羨ましい限りです。
「アリスさんのご様子はどうですか?」
「はい、エミリア様に本日は3度ほど文句を言いつけようと近づいてきましたので、私たちの方で水面下でエミリア様の興味をずらしました」
「それはよかったわ。あの素晴らしいエミリア様を嫌うなど節穴でしかございませんがそんなアリスさんのことすらも平等に大事に思うお優しいエミリア様のためには、制裁を加える訳にも行きませんから」
「慈悲深いエミリア様に感謝こそすれど何故こうもアリスさんは目の敵にされているのでしょう」
私の疑問にマイラ様は「そこも調べなくてはいけないわね」と肩を竦めた。
今日もエミリア様親衛隊員は忙しい。エミリア様が
「お腹減ったなあ」
と呟いていれば大量のお菓子やおむすびの類を用意し彼女の知らない間に鞄に忍び込ませなければなりませんし、他の王子様方と話している間はその愛らしい表情の変化を楽しみながらも邪魔者が現れないよう目をさらにして見張らなくてはなりません。
全ては尊いエミリア様の笑顔を守るため、今日も寮まで背後からお見送り致します。




