42 初めての学園はどきどきです
「エミリア様」
「はい」
「なぜ、男物の制服まで買ったのですか?私の目を盗んで」
「えっとですね」
「問答無用」
「聞いておいて聞かないのずるいと思う」
日は流れて明日はどきどきの入学式★のはずなのですが私、エミリア=シルヴェスターは何故かデイヴに正座でお説教されています。既にもう1時間くらいたった気がする。体感時間だけど。足が痺れて痛くなってきた。
「あのねデイヴ…えっと」
上目遣いでデイヴを恐る恐る覗き込むと怒りを通して呆れが浮かんでいる。そろそろお説教も終わるようだ。安心して足を崩そうとしたら「エミリア様」と絶対零度の声が降ってきた。すみません。
「…アリス様のためですか」
「え?」
「私はこれでも護衛も兼ねていますから。アリス様も特待生として入学するのでしょう?」
「…うん」
「そう、ですか。…別人として同じ空間で振る舞うのは難しいでしょうけど、…無理してはいけませんよ。」
「うん、その時にはデイヴを頼るね!」
私がそう言って笑うとものいいたげな表情で暫く私を見つめたあと小さく嘆息して、「お願いしますよ」と頷いた。うふふ、なんだかんだいって甘いのよね、デイヴ。そんなところが好きだ。
なんて調子に乗ったことを考えていたら「エミリア様」と再び冷たい声がかかった。ひぃっ。すみません。
こうして私の入学式前日の夜は更けていく。…私、あと一年で破滅するのにこんなノリでいいのかな。もっと国外追放対策を改めて練り直すとかアリスちゃんをどう頑張ってもいじめているように見えないようにする方法を考えるべきだったのでは。
そして入学式当日。多分漫画の演出の影響だろう、場違いに日本と同じように咲き誇る桜並木をとおって学園に向かっていた。
あ、もちろんIN車です。寮から運転手さんに送って貰ってます。寮も当然のごとく一人部屋でした。ルームメイトと共同生活とか密かに憧れていたから少し残念。
「とうとう入学、かあ…」
「エミリア、緊張してる?」
隣からご機嫌に笑いかけてきたお兄様に「少し」と苦笑する。もちろん緊張してますとも。意味は違うけど。言うなればここは私の国外追放への道となる舞台なのだ。どこに破滅フラグが転がっているかもわからない。緊張するに決まっている。少しでもアリスちゃんの不快にならないように、ミシェルとアリスちゃんの恋を邪魔しないように。お箸のだ。おさない、はたかない、障害にならない、罵らない。
「いざ、戦場…」
「エミリア、表情が怖い敵に勇気を振り絞って望むそれなんだけど、本当に大丈夫?」
「はっ」
心配した様子のお兄様に肩を叩かれて我に返ると、「骨は拾ってくださいね」と笑ってみせた。私としてはブラックジョークのつもりだったんだけどお兄様が「なに!?あの王子達と同じ学年だと危ないのかな!?よしわかった飛び級制度で3年に」とかわけのわからないことを言って焦り出したのでとりあえずなだめておいた。
「そういえばお兄様」
「なにかな!?」
「特待生って何人くらい毎年入るのですか?」
期待したように食いついてきたお兄様に疑問を告げると何故か肩を落とされた。なんですか。
「うーん、正確には決まってないけど、大体6人から9人くらいかな」
最近様子がおかしいお兄様だけど腐っても生徒会長、きちんとそのへんは把握しているらしい。それにしても1桁か。確か一学年2〜300人くらい生徒いるらしいよね。あとは貴族とか金持ちって聞くと人数多すぎるのではって思うけどそんなものなのか?その中の1桁の枠って狭き門過ぎるのでは…
「そうなんですか。成績的にはどのくらいの方なのですか?」
「うーん、大体学年の上位30人以内くらいかな。と言ってもエミリアにはよくわからないか。そうだなあ…僕なら多少手を抜いても取れるかな」
「その喩えだと途端に楽な基準に聞こえますね」
苦笑しながら肩をすくめるお兄様の言葉をぼんやりと考える。確かにお兄様は生徒会長ということは学年トップだから上位30人も楽々なんだと思う。けどまともに教育を受けていないだろう平民の子がそれだけの実力になるなんて相当の努力が必要なんだろう。さすがアリスちゃんだなあ。前世から平凡な成績の私には考えられないな。中の下最高。うんうん。
そんなことを考えているとお兄様がなにかに思い至ったのか顔を歪めた。
「もしかして、そのアリスさん…とかいう人のことを考えていたの?」
「え、なんでお兄様が知っているのですか?」
「あ、ああ、僕は生徒会長だから名簿も見せてもらったんだ。凄く優秀な方のようだね」
「!」
既にお兄様がアリスちゃんに興味を持っているってこと?確かにマンガでも友人であるミシェル王子が気になっているらしいって聞いて名簿でアリスちゃんのこと調べて興味を持つって描写あったけど、もうそこなの?早くない?まだ入学式なんだけど。
「うぇっ、もうミシェルが気になってるってこと?」
「え?なんのこと?」
こうしてはいられない。そしてお兄様の言葉を聞き流しつつ破滅対策をもう一度練り直した。皆さんご一緒に、さんっはい、押さない、はたかない、障害にならない、罵らない!!紳士な淑女を心がけるのよ!女の子には優しくを心がけましょう!
「__でして、それゆえにぃ」
校長先生の話はここの世界でも長いらしい。正確には学園長なんだけど。学園長の話をうんざりとしながら聞き流していると、今度は歓迎の言葉に移ったようで生徒会長であるお兄様が壇上に上がる。凛とした姿にまわりの令嬢たちからため息が漏れた。確かにお兄様は格好いい。最近お兄様の様子がおかしいけど、生徒会長として壇上にたつお兄様の姿は美しく、いろんな人の心を引きつけるのも分かる気がした。
すらすらと歓迎の言葉を落ち着いたイケボで述べるお兄様。また令嬢たちからほぅ…と溜息が漏れているので、やっぱりお兄様は凄い。読み終わったところで私と目が合った。私そこまで目立つ席にいたわけでもないのによく気づいたなあ。お兄様はにこりと柔らかい笑みをみせる。当然黄色い歓声が上がった。
続いて生徒代表挨拶として学年首席が壇上に上がる。また溜息が漏れた。誰かと思ったらミシェルか。デリカシー皆無でぽんこつなのに成績がいいの意外だなあと少し思ったけど、よく考えてみれば漫画でもそうだった。元来頭がいいキャラなんだろう。羨ましい。
お兄様とはまた系統の違いはあるものの、流石漫画のヒーロー。堂々とした立ち居振る舞いは正しく王者の風格と言った感じ。人前に出るの慣れてるんだなあ。舞踏会ではあんなに嫌そうなオーラ出てたのに。まあ、やる時にはやるのかしら。それにしても随分と成長したなあ。私があった時なんかひたすらにふてぶてしくて失礼な王子だったもんね。まあ今でも残念臭漂っているけど。ハイスペックなのはわかってるけど漂う残念臭。ぷぷ。…ちょっなんで気づくの睨むなよぅミシェル。
そんなことを考えているうちにつつがなく入学式が終わった。さて。確かこのあと出会いイベントがあったなあと回想する。
昔出会った初恋の相手であるミシェルを本当の身分も知らないまま探すんだけど(お付きの人がいたから貴族だって分かって、新入生代表挨拶で同学年だと知ったみたいだ)校舎が広すぎて迷ってたアリスちゃんがエミリアに声をかけられて、ミシェルを探していたら迷ったって伝えたらエミリアは豹変して「貴方みたいな平民がミシェル様に会おうだなんて非常識よ」って突っぱねるんだよねえ。そのあとたまたま校舎裏で隠れていたミシェルと再会するんだけど誰だ?っていわれてショックを受けてしまうの!
私としては全力で避けたい悪役への道なんだけどアリスちゃんがミシェルに傷つけられる展開は絶対によろしくない。私が案内をして再会を回避させるとかどうかしら。うん、そうすればアリスちゃんと交流も深められるしいい考えだ!うふふ。
そうと決めればと即刻イベントが起こる場所に移動した。途中何故かミシェルが呼び止めていた気がしたが気にしないことにした。




