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40 別れじゃない、はじまりなのです

「ええええっ!シオン、それは本当かい!?」


コデルさんが私の言葉に大声をあげた。はい、と答えると他で聞いていた街の人たちも口々に「残念だねぇ」「今度は3年後になるのか」と尋ねてくる。…お兄様が学園に行って2年、今度は私が学園に行く時期が迫っていた。15歳から貴族の令息令嬢は完全寮制の学園に通うことが義務付けられているため、嫌でも避けることが出来なかったのだ。

既にアリスちゃんやコリン等仲のいい人には伝えてあったものの、殆どの人には15歳になる前ギリギリまで伏せてあった。そのため寝耳に水といった様子の街の人達には少し申し訳ないと思う。


「それにしても…上品な坊ちゃんだとは思っていたがまっさか貴族様だったなんてねぇ。って貴族様ならちゃんと敬語で話すべきか?」

「いやいや、とんでもない。僕はこの雰囲気が好きだから隠してたんだ。是非このまま接してほしい」

「はっはっは、嬉しい事言ってくれるじゃねーか!」


コデルさんがぐしゃっとがさつに頭を撫でた。筋骨隆々な逞しい手で撫でられるのもこれからしばらくないのかと思うと少し寂しくなった。


「シオン様、3年間ほとんど会えなくなるって本当ですか?」

「すごく寂しいです…」


協会の子供たちがズボンにぎゅっとしがみついてくるのを微笑ましく思いながら優しく撫でる。すっかり懐いてくれた子供たちが別れを惜しんでくれるのを嬉しく思う。そんな様子を微笑ましげに見ていたシスターのキャロルさんも「子供たちが寂しがりそうです」と言ってくれたのに苦笑を返した。

私とて、学校に行きたくないんだ。…出来ることならこの街の人と毎日学校生活を送りたい。ビバ平民生活。

町娘の女の子達やかつて助けたおじいさんおばあさんたちにも挨拶をしてまわっていると、突如手を取られ、そのまま駆け出した。何事だと手を握っている犯人を見ると視線の先には口を噤んだコリンだった。


「…コリン、どうしたの?」


そのまま若干引き摺られるように走ること数分、気づけば昔コリンにBLを打ち明けられた思い出の野原にたどり着いた。さわさわと草木が揺れ、少し肌寒いけど心地よいこの空間は未だ変わってないようだった。


「ここ、変わらないねえ」

「まあ、な。でもほら、あそこ見てみろ」

「あれは…ね、ねえ、気のせいだと思うんだけど僕らしき像が」

「シオンの像だよ、町の有志で建てた」

「ひぃっ」


なんて恐ろしいものを作ってるんだ。あんなの知り合いに見られたら1発で説教だ。何より恥ずかしい。何度も断った気がするんだけど。この世界が魔法が使える世界観なら1発で壊してたぞ。魔法がない世界に感謝しろ。

私が魔法が使えないことに悔やんでいるとコリンがシリアスな声色で呟いた。目は寂しげに細められている。


「…シオン、本当に行くんだな…」

「うん。コリンと暫く会えないと思うと、…寂しいな」

「本当か!?」

「うん」


成長したコリンは一個下だというのに逞しく、どこか素朴だけど優しげな目元に安心感がある。王子達のキラキラした魅力と違って「ああ、ここが私の故郷…」といいたくなるような感じ。

そんな彼はぐっと寂しげに目を細めているのを見ると飼い主に置いていかれる大型犬みたいで、なんか罪悪感が湧いた。すみません。

思いを込めて撫でるとコリンは頬を赤らめ柔らかく笑ってくれた。うふふ。可愛い。


「…俺、さ。」

「コリン?」


どこか決意のこもった表情に首を傾げると、さらに真っ赤になって私に宣言した。


「必ずっ…シオンを、迎えに行くから」

「え?うん」


反射的に答えるが、意味がよく分からない。迎えに行くとはなんぞや?よくわかっていないことに気づいたのか緊張した様子だったコリンが脱力したように肩を落とした。よくわからないけど、絶対また会おうって意味かしら。…それなら勿論だ。私、というかシオンにとって1番対等な親友はコリン以外にいないと思っているし、だからこそ。


「当たり前だよ。別れじゃなくて、はじまりだから」

「シオン」

「また絶対に会おう、僕の親友(コリン)

「!!…ああ!」


私たちはひしと抱きしめ合う。若干サラシがしっかりまけているか気になったがとりあえずコリンは赤くなっていっぱいいっぱいなようなのでよしとした。多分気づかないだろう。

また会う時には是非、恋愛事情(びーえる)を聞かせてね、親友。




名残惜しそうなコリンと別れて、歩くこと数分。私はアリスちゃんの家の店を訪れていた。


「まあ!シオンくんいらっしゃい。アリスー!シオンくんよ!」

「シオン!?」


お店の主人であるアリスちゃんのお母さんに挨拶をしていると、アリスちゃんが瞳を輝かせて階段を駆け下りてきた。嬉しそうなその姿に尻尾を振るような幻影が見える。


「シオン!シオンも学園に行くのよね!」

「うん。…シオンも?」

「私も行くのよ!特待生制度を使ってやったわ!」


誇らしげに入学許可証を掲げるアリスちゃん。漫画でもそうだから知ってはいたけど改めて頭がいいんだなあと実感した。特待生制度ってあるにはあるけどよっぽど優秀じゃないと入れないらしいもの。あ、お兄様は特待生でも入れたらしいけど。流石。当然私には入れません。

ちょっと気が強くてお転婆なアリスちゃんが頭いいとか…萌える。ギャップ萌え。むしろどんなアリスちゃんでも可愛い。アリスちゃんは存在自体が神であってどんなアリスちゃんも総じて推せる。愛してる。


「シオンと離れるなんて嫌だもの!」

「アリス…」

「シオンも私と離れるのが嫌でしょう?」

「うん」


思わず反射的に言葉を返したけど自信満々だなあ。そんなアリスちゃんもしゅき…漫画とは少し性格が違う気もするけどどんなアリスちゃんもアリスちゃんだ。


「シオン、学園では一緒に過ごしましょ!」

「えぁ」


すっかり見落としていたけど、シオン追いかけられても、中の人エミリアだからどこ探してもいなくない?あれ?ここで男装の弊害が来るとは思ってなかった。

しかし期待するようなアリスちゃんのキラキラとした瞳に曖昧に頷くしかなかった。…学園でも時々目を盗んでシオンになるしかないな、これ。

エミリアを放棄するわけにもいかないため、時々シオンとして会いにいくことを決めた。普段はなるべくシオンを探さないでと伝えても難しいだろうし…どうしようかなあ。


「シオンやイケメンと学園生活…ゆくゆくは…ふふっ」


ご機嫌そうなアリスちゃんを内心冷や汗をかきながら眺めつつ、とりあえずはどうやって男子制服を買う許可をデイヴから得るか算段を立てた。

街を包んでいた冷たい空気は段々と暖かくなっていく。破滅への入口となる15歳の春は徐々に近づいていた。


…既にだいぶマンガとは違う気がするけど。

本日2度目の更新です。最近投稿頻度が不規則で申し訳ないです。

もうじきようやく学園編にたどり着けます。やったね。

ブックマーク本当にありがとうございます!励みになります。感想や評価をいただけるとやる気とクオリティと投稿頻度が上がります。よければいただけると嬉しいです。学園に入学するエミリアたちをよろしくお願いします。

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