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38 お兄様の手紙が重いです

あれから数ヶ月程。お兄様とロゼは学園へと旅立っていった。セシデイは…うまくくっつけることもできなかったから、帰省する度にけしかけることにしようと決めている。


「エミリア様、セシル様から手紙が届いております」

「…ありがとう、セシル」


それにしても。…数日おきに手紙が届くのはやり過ぎじゃないかしら。暇なのか?しかも長文で、ずらずらと。いろんなことが書いてあるのは面白いけど、返事を書くのが正直だる…いや、大変だ。帰省も短い休みの度に帰ってくるし、くるたびに何故か身の心配をされる。お兄様はだいぶ心配性だ。


「…エミリア。相変わらず、セシルは長文なのですね」

「……うん、読むのも大変」


便箋10枚分の長文をみてげんなりとしていた私の手元をのぞき込みながらアレンが苦笑した。

実はお兄様は心配性すぎてアレンたちが遊びに来ることすら禁止しようとしたらしい。流石にお客様を追い返すのは無理だとデイヴに却下されたらしいけど。私としても暇になるのでそれは勘弁して欲しかったし。


「まあでも、長文を返さなくてもお兄様は何も言わないし別にいいんだけど…」

「それにしても長すぎますよね?」

「…うん、これを4日に1回頻度はちょっと…」


相当ストレスが溜まっているのだろうか。お兄様の性格が前とは違う気がするのだ。少なくとも

『僕の大好きなエミリア。体調はくずしてないか?ほかの王子達が変なことをしてきたら遠慮なくお兄様にいうといい。すぐ飛んでいくよ。ああ、エミリアとすぐに会話を出来るように優秀な伝書鳩を飼い始めたんだ。』

『最愛の義妹へ。あと2年も同じ学園にいられないなんて信じられないよ。今からでも別の寮のない学園へ転校できないかと調べて見たんだ。ここの学校などどうだろう?ここなら毎日エミリアと会うことも出来るし。…むしろ合法的に年齢を下げることができないか考えるのもありかもしれないね。』

『愛するエミリアへ。悔しいことに生徒会へ任命されてしまった。エミリアへ手紙を書く時間を削るのはやめてもらいたいから何度も辞退したのだけど、エミリアがいざこっちへ来た時に会長としてエミリアに悪い虫がつかないようにするための伏線が必要なんじゃないかと思って引き受けることにした。』

…こんなことを真顔で書くようなキャラではなかったはずなのだ。…まともな優しいお兄様像が崩れていく。これではまるで変態などシスコンのような…いやいや、お兄様がそんな危ない人なわけがない。きっとデイヴに会えないことにストレスも溜まっているのね。デイヴに直接こんな手紙を送れないから代わりに私に送っているに違いない。エミリアの場所をデイヴに置き換えるのが多分正しい。

一緒に手紙をのぞき込んでいたアレンが凄く微妙な顔で眉をひそめている。


「ある程度は僕も理解しているつもりでしたが…認識が甘かったかもしれないですね。…エミリア。セシルが帰省した日は何があっても僕を呼んでください。」


神妙な表情で手を握ってくるアレンにこくこくと肯定を返した。…そういえば、アレンとセシルも仲良しだものね。会いたいに違いない。勿論お呼びしますと伝えるとアレンは安堵を浮かべる。…はっ、もしやお兄様はデイヴが好きだけど、アレンはお兄様に片思いをっ…。なんてことでしょう。

興奮を隠しきれずににやにやと笑う私の手を握るアレンの手が強くなる。


「エミリア。僕は…」

「はい、そこまでです」


そこで何故か握っていた手をデイヴの手刀によって引き離された。デイヴはどこか余裕そうな笑顔、アレンは青筋のはえた笑顔だ。黒い。


「デイヴ?なんの権限で僕の行動の邪魔をしたのでしょう?デイヴにはなんの関係もないはずですが」

「ああ、失礼いたしました。セシル様からのご命令でして。セシル様がいらっしゃらないあいだは特にエミリア様を全身全霊で護衛いたす所存ですので」

「……ああ、そうなのですか。護衛ご苦労様です。しかし僕はエミリアに危害を与えるつもりはまったくもってございませんが?」

「さあ、どうでございましょう?1番の要注意人物と伺っておりますが」


二人の間に冷たい空気が流れる。…そうか、恋敵だ。お兄様を取り合って険悪な仲なのも当たり前ね。セシデイを応援するつもりだったけど、アレセシも捨てがたい。アレンの可愛い系ドS攻めというのも最高にいいものね。二人の会話をにこにこと見守っていると、アレンが脱力したように眉尻を下げた。


「…まったく。エミリアはどこまでもマイペースですね。これだから…」


そういって目を細めながら優しく私の頭を撫でた。気持ちよかったのでとりあえず受け入れておく。

…ん?褒めてます?貶してます?

それはさておき、お兄様からの悲嘆のこもった手紙をパラパラと眺めていると、目を背けていた現実が見えてくる。


「あと2年したら、学園、かあ…」


やだなあと言外に漏らす。学園入学が近いということは国外追放が近いということでもあり。…凄く凄く憂鬱だ。まあアリスちゃんさえみれれば国外追放もやむを得ないといえばそうなのだけど、アリスちゃんをいじめて国外追放なんて不名誉にも程が…ん?


「エミリアは学園に行きたくないのですか?でしたら、僕と…」

「アリスちゃんと、学園生活…」


ひゃー、あのアリスちゃんと同じ学舎で過ごすなんて!アリスちゃんと過ごす春夏秋冬。春には真新しい制服に身を包み照れたようにはにかむアリスちゃんを激写し、夏はお祭りの浴衣…むしろプール授業で水着、とか!きゃっ。アリスちゃんならきっとスクール水着も似合うけど、あざとくビキニなんかも…駄目、絶対似合うけど肌出しNGです!!秋は一緒にもみじ狩りでもしましょうか。どこか寂しげなアリスちゃんの手をそっと握って「これなら寒くないでしょう?」アリスちゃんは驚いたように目を見開いたあとふんわり笑って「あったかいね」くぅ〜っ、いい!…でもあれ?これ学園関係ない?ああ学園祭もあるね。2人で回る学園祭。ベストカップル賞とか2人でとっちゃって!


「エミリア」

「そして2人でゴールイン」

「エミリア」

「あいたっ」


ぺしんと軽く叩かれ我に返る。そこまで痛いわけでもなかったけど抗議の視線を込めてアレンを見ると、不貞腐れたような、それでいてどこか驚きが入った変な表情をしている。


「アレン?」

「…エミリアは、…アリス…様をお慕いしているのですか?」


その瞳は驚いたように揺れている。…なんで?そうは思ったがまずアレンはアリスちゃんを知らないのだ。そりゃあ突然アリスちゃん愛を語られたら戸惑うだろう。落ち着いた私は笑顔でアレンに


「うんっ!とてもいい子で、推しだよ」


うんうん。愛らしさを語ろうとしたところで、アレンの顔色が悪いことに気づいた。大丈夫かと尋ねたものの「大丈夫です」と笑うだけなので諦める。


「…エミリア様…同性の方を…」


なにやらデイヴもブツブツ呟いていたが、尋ねてみるもこちらもついぞ真面目な返答はもらえなかった。

ちなみに後日お兄様から「アリスって誰」とおどろおどろしい文字で書かれた手紙が届き冷や汗をかいたのは言うまでもない。


アーガクエンタノシミダナー!!!!


手紙を受け取ったあとやけくそで叫ぶと、近くにいたデイヴが困ったように笑った。

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