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35 全力で応援いたします 前編

13歳の誕生日前日。お父様がちらちらと大量のフリルのついたドレスをもってこちらをみてくるのを華麗に無視した私は、学園への入学が近くなったお兄様の元へ駆け込んでいた。


「お兄様。好きな方がいらっしゃるって本当ですか!?」


バァンッというドアの音と共の突然の入室にお兄様は驚いたように目を見開いている。一般的にあほ面と呼ばれるような表情だったけど、お兄様が浮かべるとあーら不思議西洋映画の一画面のように優雅なんだから美青年って得だと思うわ。

…ってそうじゃなくて。先ほど耳にした情報を思い返しながらお兄様にさあさあと詰め寄った。



「……お好きな方と離れるなんて、お辛いでしょうねぇ」

「長い片想いですから…あれほどの美しい方に想われるなど羨ましいですが…」

「あの方はなかなかに好意に鈍い方ですから…まあそんなところが魅力なのでしょうけれど」


きっかけはふと耳にしたメイドたちの会話だった。武道の稽古から帰った私は恋バナの予感に思わず身を隠した。

ふおぅっ。久々に恋バナなんて耳にしたわ!!前は街に行けば恋愛相談とかもされたけど、今では「シオン様をお慕いしております」と頬を染める子ばかりなのだもの!嬉しいけども私に恋バナを頂戴!あわよくばBLで!!…昔聞いたコリンの相談なんてもう本当にリアルBLすぎて…うふっ…うふふふふふふ。あら、よだれが。

それはともかく。最近はそれがなくて寂しいのです!もっと幸せムード出しちゃおうよ。私惚気大歓迎だよ?人の迷惑になるバカップルレベルはダメだけど!淡い恋の噂とか素敵でしょ!しかも屋敷内で!長い片想い!そんな噂…聞くしかないでしょ!

秘技!武道で鍛えた気配殺し!!これ結構役に立つんだよねえ。屋敷の脱出とか、街の人のお願い叶えるための情報収集とか。しかし残念ながらまだ男の子同士のイチャコラは見たことありません。誠に遺憾です。


「あの方もだいぶ積極的にアピール受けていらっしゃるのに…」

「この前なんて見ている私の方が恥ずかしいくらいでしたわ!」

「もうすぐ離れてしまいますから、必死なんでしょうけどねえ…」


ふむ。なかなかに相手は鈍感な子なのね。話を聞いている分には綺麗な人が長年想っている鈍感な人がもうすぐ離れてしまうのに未だアピールに気づかないって感じかな。ふむ。


「ラノベか!」

「あら?なにかいいました?」

「いえ、なにも…」


いっけない。思わず突っ込んでしまったわ。事実は小説よりも奇なりというけど本当ね。話を聞く分には相当の鈍感で直接好意を表してもサラッと流しているらしい。しかも複数人にアピールを受けているとかいないとか…!ひゃー、もうこれは


「ラノベでしかない」


思わずまた呟いてしまったわ。まあ今回は声を抑えたし気づかれてないみたいだけど。鈍感無自覚ハーレムとか!現実であるんだ!しかも屋敷で噂になるってことは屋敷の人!?ひゃー、なになに、誰々!?

完全に野次馬根性で身を潜めていると、盛り上がったメイドさんは憧れのこもった溜息ををつきながら呟いた。


「あのセシル様が私を想ってくださるなら二つ返事ですのに…」

「仕方ないですわよ。セシル様方の周りには美しい方がたくさんいらっしゃいますから…」


…はい?まさかの恋の中心人物、…お兄様?

そこで話は元に戻る。


「というわけで!そんな夢みたいな恋物語は本当なのですか!」

「なにがというわけでなのか分からないのだけど…」

「とにかく!是非に是非とも教えてください!!妹ですし!」


鼻息荒く詰め寄る私に困ったように笑うお兄様。ごめんない、はしたないけどそんなラノベのような状態と聞いたら突撃するしかないですわ。しかもこんなに素晴らしいお兄様が…お兄様が…。がーん。もう親離れ…あ、違う。妹離れの歳なのかしら…。

なんか少し悲しくなってきたので表情を真剣な感じに固めてじっとのぞき込む。15歳になったお兄様は社交界デビューしたとあって頼りがいがありそうななんとも綺麗な美青年。平常時は伏し目がちの長いまつげが儚い感じがする大人っぽいお兄様だけど微笑むとすっごく可愛いのがギャップでさー…ブラコンの極み?ええい、うるさいうるさい!

私のうるさい脳内とは裏腹に真剣な私の表情に根負けしたのか小さく「エミリアには敵わないなあ」と呟いて苦笑したあと、お兄様は急に真剣な表情になって私に視線を合わせた。


「いるよ」

「え」

「好きな人」


いつの間にかぎゅっと手をとりまっすぐに私の顔を覗き込んでくるお兄様。え、あっ、好きな人。いるんだ…。誰だろう。はたと考えてみてふと気づいた。…これ、デリカシー皆無では?そしてここで邪魔をしたら、私は悪役令嬢なのだから断罪されて…ひっ、まだ学園にもいっていないのに!触れなきゃよかった!

私のそんな心境に気づいているのかいないのか、優しい笑みを零しながらお兄様は好きな方について語っている。


「想ってはいけないってわかっててもね、好きなものは好きだから。」

「もうすぐ学園に入ったら離れてしまうのは…たしかに寂しいかな」


ベタ惚れやないかああああああああぁぁぁ!!!!後生です、後生ですから、その恋路に邪魔だと判断して私を破滅に陥れるようなことはなさらずに!!邪魔しませんから!むしろ応援します!えっと、あっそうよ、ここまで来たら知った上で邪魔せずサポートに回ればいいんだわ!


「どなたなのですか?」

「んー?そうだね、お人好しすぎるくらいに優しくて、笑うと可愛くて、思いもよらないことをしてばかりで、無邪気かと思えばしっかり色々なものを見ていて、明るく太陽みたいで、線が細くて守ってあげたくなるのに武術にたけてい素直に守らせてくれなくて表情がころころと変わって気がつくと思ってもいない行動に走って無駄に紳士で以下略」


長い。長いです。お兄様。なんか長すぎて途中で聞く気失せた上に殆ど内容が頭に残ってません。とりあえずすごく好きなことがわかりました。


「お兄様にそれほど想われているなんて、少し妬けてしまいますね」


苦笑まじりに笑うとお兄様がぴたりと固まった。心做しか動揺したように目を見開いている。む?いつも余裕綽々なお兄様らしくない。私何か変なこといったかしら。思案。……。はっ!!

妬いちゃダメだろ!!!きっと妬くという発言からお兄様は想い人に嫌がらせをすると踏んだのだろう。ご、誤解とかないと…さもなくば、破滅する!!!ひぇっ。


「エミリア…」

「あっ、えと、でも、わたしたちは兄妹ですから!わたし、応援いたします!!お義姉様が出来るのもとても!とても楽しみなのです!兄妹の恋路を邪魔するつもりは全くありませんわ!!」


何故か感極まった様子のお兄様に慌てて違うということを強調してまくし立てる。兄妹ですから邪魔するつもりはないですよ〜、全力で否定するのでそんな微妙な表情浮かべないでくださいよ〜。


「お兄様はお兄様ですから!!絶対!全く!他意はございませんから、お気になさらず!応援させてください!」


あれ?心做しかお兄様の顔が青くなってきた気がする。もしかしてまだ怪しまれているのかしら。言葉を重ねようと口を開くと、「失礼します」という言葉と共に柔らかいもので口を塞がれた。もごもご。振り返ると、苦笑を浮かべたデイヴがいた。


「それ以上はオーバーキルですよ、エミリア様。」

「ふぁふぇふはぁ」


もごもごもご。諦めてデイヴの手から逃れると、お兄様はにーっこり、といった笑顔で私をみている。げ、破滅フラグ…。

悪役令嬢として慎重な行動で回避しなければいけないのに、まさかこんなことになるなんて…。私が次の破滅に備えて目をぎゅっと瞑っていると、こつんと小さな衝撃が額にはしる。


「あいたっ」


慌てて目を開くとすぐ目の前でお兄様が機嫌悪そうに目を伏せていた。


「……馬鹿」


えっ。

呟くようなお兄様の声になにがと聞き返す前にお兄様はさっさと踵を返して去っていってしまった。…なんか拗ねてるみたいだった。かわい…じゃなくてとりあえず破滅回避したってことでおーけー?


…って全然OKじゃないよ。好きな人分からないと気づかないあいだに邪魔してしまうかもしれないじゃない。お兄様にもう一度聞かないと。…あ、でも今機嫌悪いっぽいからなあ…大丈夫かな…。

こそこそ。

控えめにお兄様の行った方を追いかけると、なんとデイヴとこそこそ話をしていた。…ものすごく密着していて、仲良さそう。機嫌悪そうなお兄様の肩をぽんぽんと叩くデイヴ。お兄様は少し機嫌を直してなにか話している。お兄様はなにかをデイヴに訴えているようで…あれっ、デイヴが拒否してる。するとお兄様はさらに懇願する。…えっ…もしかして、これって…。


「セシデイ」


まさか現実のものになるなんて思ってなかったイケメン同士の恋の予感に、私は思わず生唾を飲み込んだ。


…お兄様。私、全力で応援いたします!!

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