34 ずっとふたりぼっち _クレア=キングスレイ_
奥様と旦那様はお忙しいのだから、ご迷惑をおかけしてはいけませんよ。
その言葉に私はまたこくりと頷いた。物心がついてから数年、両親の優しい笑顔を私は見たことがない。周りには甲斐甲斐しく尽くす無表情な使用人と2歳年上のお兄様。時々家に帰ってはまたどこかへ行ってしまう両親とはずっとすれ違っていた。
多分私の家は冷えきった家庭と呼ばれるものだったのだと思う。心を許せるのは私のお兄様だけ。お兄様は無表情だったけれど、私を大切にしてくれた。ああ…あともう1人、女の子がいた。幼馴染の女の子。お兄様と同い年の活発で優しいお姉さんだった。
「クレアちゃん」
そう呼んでくれるリズの笑顔はとても可愛くて、冷えきった私の周りを温めてくれたのだ。
「リズさま」
「なにかしら?クレアちゃん。」
「わたくしとずっといっしょにいてくださいますか?」
「…ええ。もちろんよ」
はにかみ笑いで笑いあった記憶は優しくて、リズが一緒に居てくれた時間だけはあっという間だった。代わりに一人の時間はとても長く感じるけど、全く苦ではなかった。そのくらい、大事な友達で、ずっと一緒にいれるものだと思っていた。親がいなくてもリズとお兄様さえいれば大丈夫。そう信じられた。
しかしそんな彼女が隣にいた時間はそう長く続かなかった。
社交的だったリズはお茶会デビューとともに他にたくさんのお友達ができたのを境に全く訪れなくなったのだ。
「…なんで?なんでなんでなんで」
「…ごめん、クレア」
「なんで。なんで、お兄様が謝るのですか?」
「…なんでもない。クレアには、…俺がいるから」
「…お兄様」
「ひとりじゃないだろ」
「……うん」
謝罪を漏らしたお兄様の表情はいつもの無表情と違って沈痛な面持ちを浮かべていたけれど、私にはなんでなのかわからない。お兄様がずっと一緒にいてくれると言ったので私は頷いた。社交的なリズと違いお兄様ならずっと本当に一緒にいてくれるはずだと思ったのだ。だってきっととられない。私以上の相手なんていない。多分、きっと。
そう思っていたのに、私は初めて参加したお茶会の場であっさりお兄様を取られてしまった。お兄様は幸いなことに他のご令嬢に興味があるわけじゃないらしいけど、近づいてくる人たちが邪魔で仕方なかった。いつの間にか距離が離され、ぽつんと一人でいるだけ。…ああ、参加するんじゃなかった。…でも、私の知らない間に変なご令嬢に奪われるんじゃなくてよかったとも言えるかもしれない。…できれば私もお兄様もお茶会に参加しないで二人でいたい。それなら、…ひとりぼっちにならない。お兄様にそう言ったら、微かに眉尻を下げて困ったような表情をされた。
二回目のお茶会の時、またお兄様が他のご令嬢にとられてしまったのでおとなしく隅っこに移動していたら、どこか興奮したようなご令嬢が私にぶつかってきた。たまたまもっていたジュースがご令嬢にかかる。
「ちょっと!ドレスが汚れてしまったじゃないの!」
「ぇ…でも…」
「なに!?口答えでもする気!?ちょっと家柄がいいからって調子乗ってるんじゃないわよ!!」
貴方がぶつかってきたんでしょ。そう言いたかったけど身がすくんで思うように言葉も出なかった。視線が突き刺さる。怖い。どうしよう。私は何も、…。お兄様に助けを求めようとちらりとみたけれど、お兄様はまだ令嬢に囲まれていてっ私を見ていないみたい。…ああ、やっぱり外に出るんじゃなかった。お兄様とふたりきりでお部屋にいれば。
「皆様方、どうなさったんですの?」
「なによ、あなた…」
「ああ、申し遅れました。わたしはエミリア=シルヴェスターと申します。以後お見知り置き下さい。」
そんな時現れた女の子は、どこか本で読んだ素敵な王子様のようにご令嬢を説得してあっという間にご令嬢の頬を赤く染めた。…まるで本の中の王子様みたい。そう思っていたら女の子は振り向いてくれた。
振り向いてくれた彼女の姿は今もずっと頭に残っている。きらきらと陽の光に輝く綺麗な金髪、真っ白な肌は壊れ物のように儚く見えて、それでいて青い瞳は透き通っていて、惹きこまれた。まるでお姫様みたいだった。
それから数年たったけど、王子様でありお姫様である彼女は今もずっときらきらと輝いている。でも、エミリア様は私の方を見てくれるけど、他にはいっぱい男の人がいて。…いい人なのかもしれないけど、また取られそうな気持ちになって、嫌だった。また、私以上に大事な人ができて私と会ってくれなくなるんじゃないかって。私を置いて行かないで。王子様二人と会って、エミリア様を溺愛するセシル様と会って、…最後にはお兄様までエミリア様が好きになってしまったみたいで。そんなことが積もるうちに、段々と独り占めする方法を考えるようになった。
ずっと一緒に。ずっと、ずっと、ずっと…ふたりきりで。
お久しぶりです。忙しくて更新が止まっておりました。次はお兄様中心のお話に。時間が飛びます。




