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32 甘く病んだ部屋でふたりきり 中編 _ロゼ=キングスレイ_

彼女がいない、それでも会場の中で迷っているかもしれない。そんな希望をかける。

…しかし、彼女はお茶会が終わっても尚、現れることは無かった。


「…ねぇ、ロゼ」

「…なんですか、アレン王子」

「……なんでおむすびがあんな人目にないところに置いてあったのに気づいたのですか?そして何故、…彼女を誘導したんですか?」


片付け終わってしまったお茶会に佇んでいると、アレン王子が歪に微笑みを浮かべた。いつもの悪戯を含んだ含みのある笑みではなく、ただ純粋に怒りを孕んだような笑顔。

…何故彼女をあそこへ連れて行ってしまったのか。

その疑問は重りのようにのしかかっている。こんなことになるとわかっていればわざわざ彼女に好物を教えたりしなかった、なんてことは今更言っても後の祭りなのだ。


「……私だって、自分が、…っ」


強く拳を握りすぎたせいか、爪が食い込み血が出ている。それでも自分が許せない。どうしてクレアに聞いたからとわざわざ教えてしまった?あそこで何も言わなければ、そうすればこんなことにはならなかったのに。…何故。どうして。そんな疑問と激しい後悔に襲われた。

他の者達も悲痛な表情を浮かべ「あの時ついていけば」「あの時止めていれば」「ロゼが言わなければ」と後悔や怒りを行き場もなく落としている。

重く緊迫した空気を壊すように、誰かの大きな溜息がした。


「…セシル?」

「こんな風に自分を責める時間も無駄です。…僕は一刻も早くエミリアを探しますので」

「…っ」


もっともな発言に思わず全員が息を呑んだ。まずは屋敷の中を探し回ろう。セシルが既に会場主であるスノウバーク夫人に話をして屋敷に入る許可を得ているらしい。…同じエミリアを想う者だというのに、ますます自分が情けない。…自分を責めている間に即座に行動ができるセシルにさらに自信をなくすが、今はそんなことをしている場合じゃないとも重々理解をしている。

…エミリア、どこへいった?見つけ出したい、一刻も、早く…。


結局それから数日、情報も手に入らずに終わった。俺たちはといえば夜は流石に危ないと家に帰らせられるが常に気が気でない。…他の大人の捜索隊や彼女の両親も探しているらしいが、一向に手がかりが入ってこない。何かの目当てかも疑われたが、犯人からはなんの音沙汰もないらしい。…彼女はもしかして、既に…。焦りと不安で眠ることも出来ない。


「…クレア」

「お兄様、どうなさいました?」

「なんか久しぶりな気がするな」

「ああ、面白い本を読むのに夢中になっていたのですわ。お兄様こそずっとどちらへ?」

「…気づいていなかったか…エミリアが、行方不明になったんだ」


そういうと、驚いたように大きな目をぱちくりと瞬かせるクレア。心配そうな様子だが彼女は少女だ。危ないことに巻き込ませるのはよくないと判断し家で待つよう伝えた。



「…必ず、見つけ出すから」

「…ええ」


妹に誓を立てると、彼女は柔らかく微笑んだ。…まだ子供だと思っていたクレアも気丈に育ったものだ。そう思い彼女の頭を撫でるとくすぐったそうだった。


エミリアの情報が入ったらしい。ミシェルの元に3人のエミリアの友人である令嬢が来て情報をくれたとか。曰く、アマンダ=スノウバークがエミリアに強く恨みを持っている様子だからなにかしている可能性があり、「目障りがやっと消えた」とほかの友人に話しているのを見かけた、と。ただの想像ではあるが藁にもすがる思いで再びスノウバーク家に向かった。


「…アマンダ嬢。…なにか知っていらっしゃいますよね?」

ツンとした気のつよそうな彼女にアレンはにこりと微笑む。しかし吹雪が吹雪いているのかと勘違いしそうになるほどの冷たい表情。目が笑っていない。西洋人形のようなその顔は見ているこちらの背筋が凍る。

まだ噂だけだしそこまで責めなくても、という気持ちはあるけれど、止める気にはならなかった。藁にも縋りたいのだ。早くエミリアのいつもの笑顔を見たいから、もし可能性があるのならという一心だった。


「し、知らないですわっ」


しかし怯えたようにしつつもきっぱり噛み付いてくるアマンダ嬢。…もしこれでさっきの証言がまったくデマな場合。私たちは関係の無い相手に迫ったことになり、それでいて…エミリアの手がかりを完全に失くす。

それがわかっていても全く認める気のなさそうな彼女の様子を見るに、これ以上責めても無駄だと判断した。他の皆もそうだったようで、どこか重苦しい空気が纏われて、沈黙が降りる。


「…ただ少し手伝っただけなのになんで私が…っ」


それはそれは小さな声だった。誰かが喋っていれば気づかないような、少しでもほかに音があれば揉み消されるようなそんな小さな声。諦めた雰囲気に気でも緩んだのだろう。

しかし丁度沈黙のその時、過敏になった自分たちの前で声を漏らすのが間違っていた。各々の瞳は怪しげに光り、その光は怒りや苛立ちに消えていく。

特に、普段笑顔のアレンとセシルが完全な無表情になったことで空気が凍った気がした。


「…手伝う…?なんだか面白い言葉が聞こえてきましたね、セシル。ふふ…」

「ええ。どうやら彼女、僕の義妹の誘拐に一枚噛んでいるみたいですね?ははっ…」


セシルとアレン王子は渇いた笑いを漏らすも全くの無表情でアマンダ嬢に詰め寄る。「ひっ…」という声が聞こえた。アマンダ嬢の顔はこれ以上にないほど真っ青に染まってる。きっと今漏れてしまった発言を後悔していることだろう。

…正直なところこの二人が怖すぎてミシェルと私は怒る気も失いさっきからちらちらとお互いの顔を見合わせていた。…いや、自分も勿論怒ってはいるのだが…全ての怒りを持っていかれた気分だ。ただただ心配だ。彼女は無事だろうか。酷いことをされていないだろうか。


「それで?主犯はどなたですか?」

「それは…」

「応えなさい、アマンダ」


「ひっ…クレア様です!!クレア=キングスレイ様に、ミシェル殿下方に好かれているエミリアを引き離したいのなら協力してくれと言われました…っ」








「エミリア…っ」


嫌な汗をかきながら全員を引き連れ戻るのは自宅。正直アマンダの言葉に信じたくない思いも強かったし、嘘だと信じたかったが、…思い出せば先程の態度に違和感を感じるしかなかった。

それでもクレアは、妹だけは関係ありませんように。その一心で屋敷内を探し回っていると、「ロゼ様」と控えめに声が掛かる。

振り返るとクレア付のメイドが立っていた。


「クレア様の寝室から繋がる隠し部屋の存在…知っていらっしゃいますか?」


案内します。そういったメイドについて歩きながら、重たい沈黙が場を支配した。誰一人として声をあげない。あれだけ恨んだエミリア誘拐の犯人が、身近な人物だと確定したようなものだから。嘘であってほしい。その思いで開く本棚から続く地下への階段を仰ぎ見て、その一心で階段を降り、開け放されたドアから彼女たちを見る。


あれほどに探し求めていたエミリアと妹クレアは…固く抱きしめ合っていた。


…どういう状況だ?


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