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30 双子コーデですねわかります

「エミリア」


令嬢たちとお喋りに花を咲かせていると、後ろから声がかかった。同時に殺意にも近い視線が降ってくるので気づかないふりをすることにした。ああ〜。紅茶美味しいなあ。なんかさっきからずっと名前を呼ばれているけどきっと気のせいだわ。小さい頃から聞いている幼馴染(ばかおうじ)の声を聞き違えるわけないって?いやいや、私ってば可愛い女の子は一瞬で覚えられるけど男の声は聞き分けられないのよお。あっ、でも愛しのお兄様はもちろん聞き分けられるけどね!うーんなんかもう一人幼馴染(はらぐろおうじ)の声が増えた気がするけど、きっと気のせいね。幻聴よ。だってこんなにも嫉妬の視線が突き刺さるわけないもの。ああ痛い、痛いわ令嬢方。私こう見えても結構精神脆いんですよ。


「…あのー、エミリア様?王子様方が…」

幻聴(きのせい)ですわ。または幽霊の仕業です」


おほほほ、と優雅に笑って言い切ったところで、ぽん、と肩に呪いのような重圧がかかる。うげ。百歩譲ってうちにくるのはいいけど人前でこんなに堂々と絡まないでいただきたいんですけど。破滅フラグが近づくじゃないか。


「エミリア、その幽霊からお話があるのですが」

「おほ、ほ…………」


ひぃっ、振り返ってもいないのに笑顔の重圧が怖い!

重圧に耐え切れず恐る恐る振り返ると、不機嫌そうなミシェルと胡散臭いほどに愛らしい笑顔を浮かべたアレンがいた。…アラマア、キヅカナカッタワ。

とりあえずここで取り繕っても仕方ないので、嫌味のように込められた自称幽霊発言は無視をして、こちらも余所行きな笑顔で素晴らしい淑女の礼をお見舞いしてさし上げた。今はよそ行きなので構わないでくださいまし。しっしっ。


「御機嫌よう、ミシェル王子、アレン王子。ご挨拶が遅れて申し訳ございません。気づきませんでしたの」

「…名前、…」


ミシェルが王子付けに不満を感じたようでなにやらぶつくさいっているが気にしないことにした。空気読んでくださいよ王子、見てくださいこの令嬢方の殺意のこもった視線。私は小心者なんですよ。


「そうですね、僕たちは所詮ただの王子。素晴らしい貴族令嬢たるエミリアには存在を感じない程に小さく石ころのような存在に等しいのでしょう…ねぇ?」


ひぃっ!!怖い怖い、怖いわ!王子が石ころなわけないじゃないか!私何様よ!くぅっ、無視をして怒らせたせいで逆に状況が悪化してるよぉっ!嫌味のオンパレードに耐え切れない…そして殺意の視線にも耐え切れない…。私が表面上の笑顔でアレンの嫌味と不機嫌そうなミシェルの視線に耐えていると「あの…」と控えめな声がかかった。

はっ、そうよ今は他のご令嬢との会話中なのよ!


「申し訳ございませんが、今は彼女たちとお話しておりますのでまた今度改めて…」

「エミリア様、他に挨拶回りもありますからわたくしたちは失礼いたしますね!」

「王子様方と並ぶエミリア様も素敵ですの…」

「頑張ってくださいね!」


ちょっとおおおおおおおおおおおおお!?!?彼女たちの善意100%の笑顔を見るに多分遠慮したつもりなんだろうけど私にとっては処刑でしかないの!!3人ともカムバアアアアアアアアアック!!!…そう心で叫んでも勿論戻ってきませんとも。…ええ。


「申し訳ないことをしてしまいましたね」


申し訳なくもなさそうにいつもどおりの笑顔を浮かべるアレン。申し訳ないと思ってるなら3人の元へ行かせてください。命が惜しいのです。あとでうちで美味しいお菓子用意しておきますから。

内心そう思いながらも愛想笑いでアレンと会話を交わしていると、「エミリア」と声がかかった。振り返るとお兄様。


「お兄様!」


更なるイケメンの登場に殺意の視線は増えた気がするけどもう気にしないことにした。それよりも腹黒王子から助けてくれる神様がやってきたのだから崇めるしかないわ。ああ、お兄様、やっぱりお兄様が一番オアシスですわ。


「……あれ、お前、セシルとそのドレス…」

「あら、気づきました?このドレスはわたしとお兄様のお揃いなのです」


何かに気づいたミシェルの言葉に私は見せつけるようにくるりとターンしてみる。するとお兄様もにこりと笑顔を浮かべた。しかし腹黒王子の笑顔は更に黒くなった気がする。…きっと気のせいだわ。


「エミリアのデザインなんですよ。僕のためだけに作ってくれたんです」


何故か僕のためを強調するお兄様。でもお兄様のおかげで私の心は救われたのでいいのよ。うふふ。私もにこにこと肯定すると、ミシェルは何かを考えている様子。アレンも見た目だけは愛らしい目をぱちぱちと瞬いている。なんかろくな事にならない気がするなあ。


「ねえ、エミリア?」

「「俺(僕)にもお揃いの衣装をつくってくれ(ませんか?)」」

「ほへ?」


思わずものすごく間抜けな声が出た。お揃いってアレミシェお揃いってことですか?この見た目だけなら最高級な二人にデザインしていいって?しかもアレミシェお揃い?お揃いだったら何がいいかしら。双子コーデなんて想像が膨らむわ。何を着せようかしら…想像しただけで鼻血ものなんですけど。ふへ、ふへへへ。

妄想によってフリーズした私の代わりに頼りになるお兄様が優雅な笑顔で代わりに返事を返してくれた。「お断りです」ねえ違う。


「勿論わたしのデザインで良ければ喜んでお引受けいたします」

「ありがとうございます、エミリア」

「待ってるからな」


二人の言葉に笑顔を返しておく。お兄様は何故か少し不満そう。なんでかしら。

と、また声がかかって見てみればロゼがいた。相変わらずの無表情だけど、どこか疲れて見える。…多分お兄様と双子王子同様令嬢たちに囲まれていたんだろうなあ。お疲れ様です。もう視線は気にしないよ〜。ここまで来たら気にしたら負けだ。私は全く気づかない鈍感令嬢ですの。


「ロゼ様も、いらっしゃってたのですね」

「………ああ。…もっとも、令嬢方に囲まれていて抜け出せなかったが」


やっぱりですか。本当に疲労困憊な様子のロゼに同情の視線を送る。またロゼは口下手だけど優しいぶん他のモテ男たち以上に断るのも一苦労なのだろう。ミシェルは基本「興味ない」でばっさり切り捨てるしアレンとお兄様は口が上手だからうまいこと逃げるだろうし。こんなんじゃあ大事な妹であるクレアちゃんについていることすらできないものね。大変だ。…ん?そういえば、クレアちゃん。


「あれ、1人でいらっしゃったのですか?いつもお茶会ご一緒する時はクレア様もいらっしゃるのに」

「?いや、クレアも来ているが」

「あれ?そうなのですか?」


新しい友達でも出来たのかな?いつもは真っ先に来てくれるのに少し寂しいなあ。ロゼは少し考えたあと、「そういえば、」と思い出したようで、


「よくわからないが今日は思うように髪のセットが出来なかったからエミリア様にはお会いできない…だとか」

「「あー」」


ほかの王子達が納得できたように頷いた。解せないわ。別に髪のセットなんて気にしてないのに。そういえばさっきディアナ様もおなじようなこと言ってたなあ。…はっ、もしかして私、女子力低すぎ!?そういえば前世でも服のデザインはするくせに自分自身への配慮が少なすぎだと言われた気がする。全くいくら紳士を目指していても紳士な淑女なのだからもう少し気にするべきなのかな…。女子力ってどうやってあげるの?スイーツとか?米を控えてスイーツを食べればいいのかな。


「そういえば、あちらに米を握った食べ物があるらしいが」

「行きますわ」


好物には抗えない。

おにぎりがまさかこんなところで出されるなんて。なににぎりかな?鮭とか梅干しもいいけど塩も好き。ポツリと人が居ない場所にそのおにぎりは置いてあった。一刻も早く食べたくてみんなを置いてきたけどまあいっか。お陰で令嬢たちとの視線もなくなったし。


「いっただっきまあす」


もぐ。うん、美味しい。いいお米を使っているのね、薄味だけどお米本来の味が際立っていて最高に美味。もぐもぐ。

美味しいおにぎりを頬張っていると唐突に眠気に襲われた。…あれ、おかしいな。こんなところで寝たら、またお兄様に…

そこで私の意識は途切れた。



☆☆☆



「まったくあいつは本当に食い意地が張ってるな…」


エミリアが走っていった先を見ながら溜息をつく。どこが紳士な淑女だよ。淑女はパーティ中に米を求めて走りだしたりしないからな…。本当に変わり者令嬢だ。…まあ、だからこそ面白くてちょっかいを出しているんだけど。


「それがエミリアの可愛いところでもあると思うよ」


苦笑交じりのアレンの言葉に肩をすくめる。…なんとなく認めたくないが、確かにそれは事実。そんなところも、……あれ、何を思ったんだ?自然と出てきそうな言葉が途中で胸につかえた。

そんな俺の様子をちらりと横目で伺っていたらしいアレンは笑顔で「僕達もエミリアの元へ行こうか」と言い出した。まあそれがいいかもしれない。なんせどうしようもない彼女のことだ、また他の令嬢に声をかけて頬を染められたり食べ過ぎて動けなくなったりしているかもしれない。


「そうですね、僕の義妹(エミリア)を迎えに行きましょうか」

「だから僕のという形容詞やめてもらえませんか?」

「…言い争いをしているようなら私が先に行くが」

「ちょっ…ロゼ、僕の義妹は渡さないっていったよね?」

「記憶にない」


わんさか近寄ってくる令嬢達は流石に遠慮したのかキャーキャー俺達の方を見ながらも近寄ってくる気配はない。さっきまで散々言い寄られていて疲れているぶん、あいつをからかって鬱憤を晴らしてやろう。そう思ったら自然と口角も上がる。


そしてロゼの案内でおにぎりの会った場所に行った俺達を迎えたのは、


美味しそうにおにぎりを頬張るエミリアではなく、

令嬢たちを口説くエミリアでもなく、

お腹いっぱい過ぎて動けなくなっているエミリアでもなく、

ただ、ぽつりと佇むように置いてあるいくつかのおにぎりだけ。


エミリアはどこを探してもいなかった。

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