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29 いつでもお譲りいたします

今日は久々のお茶会だ。あまりよく知らないご令嬢のお宅だが、全ては社会体験だとお母様に言われた。正しくその通りね。まあ勿論箱入り令嬢なのでお兄様に付いてきてもらうけど。

コゼットに丁寧に衣装や髪を整えてもらい、鏡の目の前でくるくる動いてみる。質の良い星空のような青いドレスは、動くとキラキラと輝いてみえる。控えめなフリルは大人っぽい可愛さに女の子らしいアクセントを加えている。うん、かわいい。


「エミリア。準備は大丈夫?」


控えめなノックの後、お兄様が入ってきた。お兄様の服は落ち着いているけど、星空のような首元のスカーフがポイントとなってとても格好いい。…思った通り良く似合う。数年前に大きめに作ったお揃いの衣装。私の見立ては大体あっていたようで、今の私とお兄様にフィットしていた。


「わぁ…お兄様、思った通り似合っていますわ!」


流石お兄様、とお兄様を褒めると、「エミリアもとっても可愛いね。星空色のドレスについ惹きこまれちゃいそうだよ」と笑ってくる。きゅんっ!お、お兄様ってばどこでそんな口説き文句を身につけたのかしら!そういえば昔お兄様に好きな人がいるって噂があったなあ。今はどうか知らないけど、こんなお兄様に口説かれたらどんな女の子でも恋に落ちるだろう。

そういえばお兄様、漫画でも口が上手な紳士な女たらしだったもんね…。女の子と結構遊び歩いているキャラだった気がする。今もその兆候か、お兄様を狙う女性は多いらしい。まだ13歳なのに。って思ったけど、よく考えれば15で成人なのだからそんなものなのかもしれない。

でもお兄様、昔聞いたあの恋の噂以降あまりそういう浮いた話を聞かないのよね。あれだけ令嬢にギラギラとした目で狙われているのだから、浮いた噂の1つや2つあってもおかしくないのにねえ。未だに婚約者すらいないし。まあ、漫画と同じ年齢になる頃には立派な女たらしに成長するのかな。…嫌だなあ。


「それじゃあいこうか、小さなお姫様」

「甘ったるいですね」

「あはは、甘いのは嫌い?」

「悪くないです」

「うん、じゃあこのままで行こうか。ほら、手をとって?」

「…はい」


…ほんとにもう。妹にすらこれってお兄様甘すぎませんか?




「セシル=シルヴェスターと申します。本日はお招き有難うございます。こちらは妹のエミリアです」

「エミリア=シルヴェスターです。お名前通り雪のように白い肌が素敵ですね、緑のドレスもお似合いです、スノウバーク様」

「あらまあ。話に聞いていたとおりのご令嬢ですわね。お口が上手ですわ。うふふ」

「本当に誰に似たのでしょうね…。はは…」


お兄様が笑顔ながら若干つかれたような顔をしている。誰に似たって、どうやってもお兄様だと思います。

今日は公爵スノウバーク家のお茶会だ。お茶会の主催の夫人であるスノウバーク様に挨拶している。少しふくよかだけれど気品があって綺麗な夫人ね。動作も綺麗で洗練されていて、流石公爵夫人って感じ。


「エミリア様もセシル様も素晴らしい衣装ですわねぇ。お揃いかしら?センスがいいわ」

「ありがとうございます。嬉しいですわ」

「どこのデザイナーに作らせましたの?是非わたくしも今度仕立てたいわ」

「これは妹のエミリアのデザインです」

「まあ、エミリア様が?美しいだけでなくそのような才もあるなんて、流石王子の婚約者様ですわねぇ」

「おほほ…」


いや、王子の婚約者は望んでません。全く望んでませんから。愛想笑いで誤魔化していると、夫人が一人の同年代くらいの少女を呼び止めた。呼ばれてきた少女は鋭い藍色の瞳に、すらりと通った鼻を持つ綺麗な少女だった。しかし表情はどこか冷たく、敵意に溢れている。


「娘のアマンダですわ。アマンダ。挨拶なさい」

「…アマンダ=スノウバークですわ」

「アマンダ様、はじめまして。セシル=シルヴェスターです。よろしくお願いしますね」


お兄様が笑顔で手を差し出すとアマンダ様は一瞬止まったあと、手を握り返した。若干照れているのね。可愛い。お兄様との握手を終えたあと今度は私がと一歩踏み出した。


「アマンダ様、わたしはエミリア=シルヴェスターですの。よろしくお願いしますわ」


私がそう言って笑顔で手を差し出すと、今度は一転憎々しげに私を睨みつけた。口がかすかに動く。「(なんであなたが…)」と言っていた気がしたが、聞く間もなくアマンダ様は去っていった。…あれ、もしかしなくても、わたし、嫌われてる?


「あら…ごめんなさいね?娘は恥ずかしがりやなもので…」

「まあ、うふふ」


いくら何でも違うことくらいわたしにもわかりますわ、うふふ…。

適当にごまかしつつ挨拶回りを終えると、お兄様が他のご令嬢に囲まれ始めた。まあまあ。邪魔する悪役令嬢になりたくもないので、サラッとお兄様から離れる。さらば、お兄様。ご令嬢の波に埋もれておいで〜。

…それにしても、うーん、なんか視線感じるなあ。お兄様から離れたんだからもういいでしょ?だめ?

とりあえずお茶でも飲もうかしらと食べ物コーナーへ行く。どうやら王子二人も来ているみたいだけど令嬢たちに囲まれているからわざわざ押しのけてまで挨拶する気もないし(むしろ令嬢方に睨まれる予感がするので謹んでご遠慮したい)、時々お茶会で一緒になるクレアちゃんはいれば即座に私に犬のように駆け寄ってきてずっと一緒にいてくれるけど、今日はこないから参加していないのだろう。すなわちロゼもいない。まあいても同じく令嬢に囲まれてますけどね。

そんなことを思いながらおとなしく紅茶を飲んでいると、「エミリア様」と声がかかる。振り返ると、友人となった気の強そうな3人のご令嬢。最初のお茶会でクレアちゃんと揉めているのを仲裁して以降声をかけてくれるようになり、今ではすっかり友人だ。上流階級思考の彼女たちだから正直庶民派な私と仲良くできるか心配だったけど、こうして3人は私を慕ってくれている。嬉しい限り。うふふ。


「あら、マイラ様、ディアナ様、ドローレス様、御機嫌よう」

「御機嫌よう。エミリア様がいらっしゃるのでしたらもっとヘアセットを丁寧にしておくべきでしたわ…」

「?ディアナ様は今のままでもとっても素敵ですよ。くるりとした髪もリスのようで愛らしいですし」

「え、エミリア様…」


伯爵令嬢ディアナ=ラファティの柔らかい髪をそっと撫でると頬を愛らしく赤らめた。そうすると他の二人…侯爵令嬢マイラ=フロレンスと子爵令嬢ドローレス=リーバーがディアナに「ズルいですわ」と声を上げる。…うぅん、可愛いわ…。気の強そうな3人だけど話してみれば可愛いところはいっぱいなのだ。だから私はこの3人も大好きなのです。…取り巻き臭がする?黙らっしゃい。確かに私は悪役令嬢だけどこの子たちは大事なお友達です。

ふと見ると王子たちを取り巻いているらしい女の子たちのあたりの、さっき挨拶をした少女…アマンダがいた。何故かこちら側を見ながら睨んでいる。ぶるっ。悪意には弱いんですよ。呪われそう。

私の視線の先にいたアマンダに気づいて、3人が眉を顰める。


「アマンダ様、元々ミシェル王子の有力婚約者候補でしたのよ」

「それをエミリア様に取られたのでかなり根に持ってるらしいですわ」

「まぁ、そうでしたの?」


あーなるほど。王子の婚約者候補でしたか。結局なんで私に決まったんだろうね?多分アマンダ様のほうが王子に合うと思うんだけどな。だって私、元はワガママ令嬢ですし?今となっては庶民派で不敬どころじゃないやりとりばっかだしね。まあ多分物語補正とはいえ、悪いことしちゃったなあ。というか欲しいなら全然かわりますよ〜いつでも婚約者の座を受け渡しますよ〜。いや本当。お譲りします。切実に。目指すは破滅回避なのだ。


「嫉妬なんて見苦しいですわよねえ。それに確かに王子様方も麗しいですが、わたくしからしてみればエミリア様の方が遥かに素敵ですわ…♡」

「あら、抜けがけはいけませんわよ」

「わたくしもエミリア様の方をお慕いしておりますわ!」

「ふふ、ありがとう。嬉しいです」


うーん本当に可愛いなあ。女の子ってどうしてこんなに可愛いんだろう?私はどうして女に生まれたんだろう?イケメンに生まれたら可愛い女の子と結婚できたのに!楽勝で破滅回避できたのに!…まず悪役令嬢じゃないか、イケメンなら。…むしろイケメンに生まれてミシェルと絡んだら…はっ!合法的な美しい薔薇園(ビーエル)をつくることができるじゃないの!

本物の腐女子たるもの、自分自身の犠牲すら迷いません。


…イケメンになりたいなあ。

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