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19 念願の推しとの出会い

わたし、エミリア=シルヴェスター。今街の中にいるの。


綺麗な金髪をリボンでハーフアップにした絶世の美少女だったエミリアは今、綺麗な金髪をお兄様に昔もらった髪留めで結い、小綺麗なデザインのパンツを穿いている。…つまり男装している。

数日して、むずむずが止まらなくなった私は、男装をして屋敷を脱走した。もう護身術だってかなり学んだのだし、ぱっと見もご令嬢には見えないはずだし、きっと危険はないと思うわ。うんうん。というわけでデイヴにも内緒で抜け出した。

まあ今日は完全に人払いして衣装のデザインを集中していると言っているのできっと気づかれないはず。そういうときはコゼットやデイヴも気を使って入らないでいてくれるから。それこそ急な来訪とかない限り、ね。…なんか変なフラグを立てた気がする。大丈夫ったら大丈夫よ!さあ抜け出したのだから思う存分遊ぶわよ!!


「いらっしゃい!今日はリンゴが安いよ〜!!」

「みて、あの美少年。可愛いわねえ…。庶民には見えないオーラだわ。」

「…ぅわあああん!!」

「やだ〜、かっこいいスティーヴンにはこっちが似合うわよ♡」


街の中は昔来た時と同じように騒がしく、色々な食べ物屋さんのいい匂いが混ざりあって鼻孔をつつく。う〜ん、お腹すいちゃうなあ。

「〜〜わーん!!!」

昔食べたカレー美味しかったなあ。またどこかのお店にあるかな、探してみようかs「うわああああああああん!!!」

そこでようやく座り込んで泣いている女の子に気づいた。つい街の雰囲気に夢中で気づかなかったわ。女の子に近づくと、女の子は泣きじゃくったまま私の方を見る。見たところ6、7歳くらいかな。私よりは年下ね。まんまるのくりくりとした茶色の瞳が可愛い。


「どうしたの?」

「あっ、あのね、おかーさんとね、離れちゃったの…」


うるうるとした目で見てくる女の子。どうやら街に遊びに来ているあいだにはしゃぎすぎてお母さんとはぐれてしまったらしい。ずっと箱入り娘だった私だけど前世の知識をフル活用すれば探してあげられるかしら。元々別に用事があってきたわけでもないし、困っている子を放っておくなんて紳士の名がすたる。私は優しく女の子に微笑む。


「大丈夫だよ。じゃあわ…僕も一緒に探してあげる。」

「ほんと…?」

「うん。名前は?」

「…アンズ。」

「そっか。じゃあアンズちゃん、立てる?」


優しく手を握って立たせようとするもアンズちゃんはふるふると首を振って立とうとしない。疑問に思ってアンズちゃんにどうしたの?と聞くと、じっと座った足元を見ている。視線の先を見ると、膝のあたりを擦りむいていた。どうやら転んで怪我をした様子。うーん、私箱入り娘すぎて絆創膏とかも自分ではもってないのよねえ。さっとつけてあげられればよかったんだけど。とりあえず持っていたハンカチをアンズちゃんの怪我をしたところ括ってあげた。


「よし。これで怪我は大丈夫だよ。痛くて歩けないかな?」

「…うん。」

「じゃあ、ほら、のってごらん。」


アンズちゃんを軽く肩に乗せてあげる。いわゆる肩車だ。鍛えているから大丈夫とはいえ、体格差もそこまであるわけじゃないから少し安定感ないかも。うーん、自分の女体型が疎ましいわ…!

それでもアンズちゃんは落ち着いたようで、私の肩の上できゅっと頭に抱きついている。アンズちゃん、そこ目だから。見えない見えない。


「この子のお母様はいませんか〜?この子のお母様〜!!」

「おかーさーん!!」

「やんっ!愛してるのはスティーヴンだけよ♡」

ざわざわ。ざわざわ。

「お母様はいませんか〜!!」

「きゃっ♡スティーヴンったらこんなところで大胆…♡」

「お母様は〜〜っ!!」

ああもう。さっきから愛し合ってるスティーヴン誰。気が散るわ!!リア充爆発しろ!!ほら、何かを見たのであろうアンズちゃんが固まってるじゃないか!!子供の前で何をしてるのかしら!そのスティーヴンとジュリア(仮)は!!


10分ほど肩に乗せて探し回って歩いていると、やっとお母さんが見つかった。優しそうなお母さんは「本当にありがとうございます」と涙混じりに熱烈な感謝をされた。後でお礼でもと言われたけど素性を教えると驚かれることが目に見えているので笑顔で誤魔化しておいた。

帰り際、アンズちゃんの手をぎゅっと握って「もうお母さんから離れちゃダメだよ」と笑いかけると、こくこくと真っ赤になって頷いてくれた。きっとこれでもう大丈夫だね。

さて、これでひと段落ついたし何をしようかしら!あちこちの市場を冷やかして回ってもいいし、ああ、あそこの雑貨屋さんも楽しそう!こう見ると前世の賑わいのある大通りを思い出すなあ。今度こそ遊び尽くすぞー!!


と思っていたのだけれど、結局行く先々で困っている人に出会ってはトラブルを助けてあげることになっていた。う〜ん、無視なんて出来ないからいいんだけど、それにしてもこの遭遇率は何かしら?


例えば、風船が木に引っかかってしまった男の子だったり

例えば、好きな人に告白できない女の子だったり、

例えば、飼い猫を探している女の人だったり、

例えば、家が借金まみれで夜逃げ寸前な家族だったり、

例えば、不治の病にかかった妹を助けたいお兄ちゃんだったり。

そりゃあもう色々なトラブルを解決した。ふぅ、やっぱり人の笑顔はいいねえ。


満足感に浸りつつ街を歩いていると、少し人気の少ない場所になっていた。どうやら町外れまできたらしい。こんなところにいてもどうしようもないわね、とUターンしようとしたところで、その声は聞こえた。


「やめてくださいっっっ」

「ちょっと道聞いているだけじゃねーかお嬢ちゅわん〜?」

「ちょっ…近寄らないでください!!」


不穏な気配を察して声の方に駆けつけると、チビ、デブ、ガリと三拍子揃った気持ち悪いモブブラザーズが女の子に絡んでいた。後ろ姿で表情は見えないけど、きっとモブブラザーズは下品な表情で女の子に詰め寄っているのだろう。うぇ。気持ち悪い。

とりあえず女の子を助けなきゃ行けない…そう思った私は助走をつけて走る。そして…女の子にいいよるのに夢中なモブブラザーズのデブの頭に飛び蹴り。ふふん、みたかこの威力。


「ふぎゃあ!?」


突然吹っ飛んだデブに目を丸くするほかの二人。一瞬身構えた様子の彼らだったが、つっこんできた私がまだ10にもいかない小柄でいかにも上品な男の子だから舐めてかかったのか、挑発するような嘲笑いを浮かべている。


「なに〜どっかの騎士さんのつもりでちゅか〜?」

「綺麗なお顔でちゅね〜。汚されたくなかったら大人しく回れ右してくだちゃいね〜?」


あのさ、どうでもいいけどデブは完全に伸びてるけどいいの?というか仮にも目の前でこの人倒したのになんで余裕なんだろう…。

と一瞬この人達の頭が心配になったもののまあ舐めてもらってる分には全然構わないので私は体制を整えるとチビにひらりと回し蹴りを仕掛ける。男は余裕そうに避けたところで隙あり!!背負投!!てこの原理をうまくつかってひょいと持ち上げると男を思い切り地面に打ち付けた。一本!!

空手と柔道が入り交じっているのは私ならではの戦闘法だ。大方の武道を前世では習得しているからうまく組み合わせて活用できる。まあ、今までは守られすぎて使うタイミングなかったけど。

二人目を倒したところでもう1人の男を見ると流石に怯んだようで通称ガリは呆気に取られて私を見ている。冷ややかな視線を投げつけてまだやるの?とばかりに近寄ると情けない悲鳴をあげて逃げていった。ふんっ、小物め。


「大丈夫?」


絡まれていた女の子に目を向けたところで私は動きが止まった。

雪のように真っ白く絹のように細い髪。ルビーのように透き通ってキラキラと輝く大きな目。髪に相まって白く儚く柔らかそうな肌。頬だけは唯一綺麗な桃色に紅潮している。

この超ド級の美少女を私はよく知っている。


「ありがとう…。」


アリス。私の永遠の推しであり、崇めるべき私のエンジェルであり、私の破滅の一端を担う、この世界の主人公の少女。

言葉を失ってじっと彼女を見つめていると、何故かアリスも紅潮した頬をさらに桃色に染めながら、見つめ返している。数秒にも満たなかったのかもしれないし、数時間たったのかもしれない。そんな沈黙のあと、彼女は口を開いた。


「…私は、アリス。…貴方の名前は…?」

「…………紫苑。」


咄嗟にアリスに名乗ったその名前は、私が前世に聞きなれた、私自身の名前。

漫画に萌え、オタ友と語り合い、服のデザインに精を出し、息を吐くように困った人に声をかけていた___私の名前。


「シオン。……お礼をしてもいいですか?」

久しぶりに呼ばれたその名前は、懐かしい響きがした。

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