18 お洋服を配りました
「デイヴ、いきますわよ……」
「はい、お嬢様…」
私達は家に届いたとても大きな箱を真剣に見つめていた。ごくり、喉をならす。そして二人で目を合わせたあと、ゆっくりとその箱を開いた。
「!!!!」
「これはまた…素敵な服、ですね…!」
仕立て屋に注文していた服が無事届いたのである。もちろん私デザインのものが。この大きな箱には作られたものが沢山詰まっている。大量にある執事服を一枚手に取る。うん、縫製も丁寧で作りも素材もしっかりしているわ。これならデイヴたち執事にも喜んでもらえるだろう。ミッドナイトブルーを基調とした一枚を手に取り、笑顔でデイヴに差し出した。
「デイヴ!これは貴方へです!」
服はちゃんとサイズを1人1人測っているので名前がちゃんと書いてある。嬉しそうに受け取ったデイヴはたれ目気味の目を細めて柔らかく微笑んだ。色気が溢れてるなあ…。
「…エミリア様、大切にしますね」
「ふふ、そうしてください」
デイヴの少し熱の篭った視線にちょっと恥ずかしくなってくる。なにかしら、少しムズムズするわ。居心地が悪い気がしてくるので他の人に渡していこう。
そういって慌てて立ち上がると、デイヴはゆるりとしたお色気スマイルで荷物をもってついてきてくれた。本当ならこのくらい私自身も鍛えてるから持てるのだけど、デイヴの好意なので甘えることにする。
コゼットふくむメイドたちやデイヴ以外の執事さんにもこの衣装は喜んでもらえたみたいで安心安心。これで問題がなければきっと我が家で正式に使う使用人服はこの衣装に決まるだろう。ふふ、ファッションデザイナーとして光栄の限りよ!!
次はお兄様ね。お兄様には何着か用意したから喜んでもらえるといいな。
「お兄様!!」
「ん?エミリア、どうかしたの?」
「服、できあがりましたの!」
ぱっぱかぱーんと自分で効果音をつけながら服を見せていくとお兄様は優しい笑顔でその服を見ている。うん、やっぱりこの衣装はお兄様の綺麗な黄色の瞳に似合いますわ。
「…あれ?エミリア、これ1着だけサイズが大きくないかな…?」
「ふっふっふ、それはわたしとお揃いのドレスでしてっ、じゃじゃじゃーん!!」
私が唯一自分用に用意したドレスをひらひらとするとお兄様は目を丸くする。えへ、お兄様にはお揃いを作るとはいってなかったものね。でもどう?可愛いでしょ?ふふ。ウルトラマリンをポイント的に入れたドレスは、昔お兄様にもらったアクアマリンの宝石をところどころにあしらっている。ちょっとお値段は高いけど、お父様が「値段は気にしないでよいぞ」といってくれたので心置き無く使わせてもらった。父上様様だ。お父様には衣装デザインしてないけど。
「わたしがもう少し大きくなってから使いたいので、大きめに作りました」
「そっか。使ってパーティ行くのが楽しみだね」
「そうですね」
笑顔で私の頭を撫でてくるお兄様。嬉しいけど子供扱いされている気がする。頭が禿げるわ、でも撫でて!!百面相を繰り広げるとお兄様は俯いてぷるぷるふるえている。お兄様は相変わらず笑うポイントが不明でよくわかりませんわ。でも今日も素敵です。
次はお母様だ。お母様へはもうすぐ誕生日ということもあり気合いをいれてデザインした。真紅の大人っぽい品のあるドレスは綺麗なお母様にとっても似合うだろう。うんうん。
「それにしても…エミリア様、よくこんなに色々と思いつきますね…」
「こういうのはインスピレーションですよ」
「インスピレーション…?」
「デイヴにはまだ早いかもですね。うふふ。」
「エミリア様の方が年下じゃないですか…」
呆れたような視線で見てくるデイヴにふふんと笑ってみせる。…実際には、9歳+20云々歳だからね!遥かに経験は上なのよ。…なのに割と素で振る舞う私が大人っぽいって言われないのはなんででしょう。………考えないようにしよう。
お母様の部屋に辿り着くと、お母様は難しい顔でなにか書類に目をとおしているようだった。邪魔しちゃったかしら。
「エミリア、どうしたんですの?」
「お母様、この前誕生日でしたでしょう?ようやく用意していたプレゼントが届きましたので」
デイヴに一際丁寧に包装された包を取り出すよう指示する。これは誕生日のプレゼント用なので特に丁寧に包装してもらうよう頼んでいたのだ。
「あら、なにかしら…」
丁寧な手つきで包装を外し、服をひらりともつお母様。ドレスはお眼鏡に叶ったようで、かすかに口元を緩ませている。
「素敵なデザインじゃない。どこのデザイナーに頼んだのかしら?」
「わたしが監修したのです」
「エミリアが?デザイナーではなく?」
驚いたように数回瞬きをするお母様にこくりと頷く。えへへ、褒められた〜。とだらしなく口元を緩めると、デイヴから「エミリア様」と声をかけられた。はい、ちゃんとします。
「大好きなお母様のためにお母様に似合いそうなものをと気合を入れてデザインさせていただきました」
「そう…」
「改めてお母様、お誕生日おめでとうございます。いつもありがとうございますわ。」
「全く…これからは貴族として恥じることがないようにしなさい。」
「はいっ!!」
素直じゃないお母様の注意に私は元気よく返事をした。
…場合によっては8年後、迷惑をかけてしまうかもしれない家族なのだ。…少なくとも漫画ではお兄様とデイヴに完全に見放されてしまっている。
せめて、それまでは恥じることがないように紳士な淑女でいよう。そう思った。
とはいえ。
残った自分用の服と見つめ合う。お兄様とお揃いのドレスは別として、残りの男っぽい(むしろ男物)服たちをどのタイミングで着ようか。せっかくデザインも凝ったのだから誰かにお見せしたいものだ。
…………抜け出して街で着たら、お忍びできるんじゃないかしら?
「エミリア様、くれぐれも変な考えはよしてくださいね」
「ええ」
デイヴの声に咄嗟に返事を返す。ひっ、エスパー?エスパーなの??
そう思って振り向くとデイヴは若干呆れ気味の顔で私を見ている。
まさか変なことなんてするわけないじゃないの、うふふ〜。みたいな穏やかな微笑みを浮かべてみせてみる。あ、デイヴが大きなため息をついた。
「ため息は幸せが逃げますよ」
「エミリア様さえ逃げなければ問題ありませんから」
ひっ。エスパーにも程がある!この執事…強い!!はっとした私のことをデイヴは呆れ混じりの優しい瞳でじっと見ていた。




