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17 かわいい友達ができました

「…よしっ、」

綺麗に整えた部屋を見てうんうんと頷く。元々綺麗な客室だけど、せっかくの初めての女友達の訪問なのだから気合を入れなくてはいけない。


「わざわざお嬢様がお掃除などされなくてもわたくしにおまかせくださればいいですのに…」


そういって困ったように眉尻を下げるコゼットににっこり笑いかける。そう、この部屋は無理言って自分で掃除させてもらったのだ。勿論コゼットにも手伝ってもらったけど。


「わたしがやりたかったのでいいのです。あとは自分の準備だけなので手伝ってくださいますか?」

「勿論ですともっ」

「えへっ、ありがとう。」

「と…この小さな包には何が入っているのですか?」


最後の確認をしようと部屋中をぐるりと見回したコゼットが机に置いてある小さいけど綺麗に包装した包を見て不思議そうに目を止めた。


「ああ、それはプレゼントです」

「プレゼント?」

「クレア様に似合うだろうなあと思ったものを試しに作ってみたのです。」

「それは…喜んでもらえるといいですね」


コゼットがふんわりと微笑んだ。小さな包を優しく撫でるコゼットの表情は少しくすぐったい気がする。うーんこれ以上はちょっと恥ずかしいわ。包を手に取る。


「さてっ、プレゼントはともかく準備しましょう!せっかくなら万全で迎え入れたいですもの!」


初めての女友達であるクレアちゃんがくるまで実はあまり時間が無い。コゼットに手伝ってもらいながら手早くドレスに着替え髪を整えてもらうと、丁度そこで執事の方が私の方へお客さんが来たことを伝えに来た。

慌てて玄関先へ小走りに向かうと、美少女クレアちゃんと付き添いで来てくれたのであろうロゼ様が立っていた。恥ずかしいのかクレアちゃんはリンゴのように真っ赤に頬を染めている。可愛いなあ…。


「お招き感謝する。改めて、ロゼ=キングスレイだ。今日は妹をよろしく頼む。」

「ええ、もちろんです。さあさあ、お上がりになってっ」


う〜ん、王子二人以外のお客さんなんて緊張するなあ…いや、普通は王子の方が身分高くて緊張するはずなんだけど、5歳から高頻度でずっと訪問してくるからついつい忘れがちになっちゃうのよね。

クレアちゃんはぺこぺこと、ロゼ様は無表情のままあとを付いてくる。多分クレアちゃんは私以上に緊張しているんだろうなあ。コゼットにニルギリのレモンティーでもいれてもらおう。

部屋についても落ち着きなさそうにもじもじしながら俯いている。とりあえず話を振るしかない!仲良くなるにはまず会話だ!にこっと微笑みかけながら私は口を開いた。


「クレア様も前回のお茶会が初めてなのですか?」

「え…ぇと…わたしは、その前に小さなお茶会に…」

「そうなんですの。因みにどちらのお宅に?」

「ロイス様の…お宅です。」

「ロイス様のお宅ですか!わたしはこの前のが初めてで…」

「そう、ですか…」


沈黙。うううん女の子とどんな会話してたかしら…前世では…ああ、マンガとかのオタ話に花を咲かせていた記憶しかないわ。今世は男の子とばかり話していたから最近は武道の話とか食べ物の話ばかりだし!おのれ王子ぃ…と責任転嫁して心の中で二人の王子を呪っていると、ずっと下を向いていたクレアちゃんが私を上目遣いで覗いてきた。可愛い。


「あの、ごめんなさい…こうしてお兄様以外と話すの、ひさしぶり、で…。」


元々話上手でもなくて…としゅんとする彼女。エミリアはきゅん値マックスに達成しそうです。項垂れるクレアちゃん尊いわ。


「ふふっ、気にしないでください。友達なんだもの。あ、では、一人でいる時は何されてますの?」

「本、読んでるんです。ロマンスの作品、とか…」

「本ですか!?」


Ktkrとばかりに思わず食いついてしまった私に一瞬びくっとするクレアちゃん。ああ、ごめんね、あのね、許して。怖くないよ〜。

私は前世が完全なオタクだったために最近は本に飢えていたのだ。けれど前世と違い明確な本屋さんなどに行く機会もなく、どんな本があるのかわからないために全く手を出していなかった。これはもしかしたら、オタク時代に読んでいたようなものがあるかもしれないわ…!


「こほんっ。失礼しました。ロマンス、ですか?どんなものですの?」

「はいっ!ロマンチックな恋のお話ですわ!貴族同士の恋も素敵ですが身分違いの恋は本当にロマンチックで…」


突然さっきまでのおどおどとした様子からはうってかわって楽しそうに話し出したクレアちゃん。ずっと囁いたような小さな声だった彼女だけど、小説の話をする時だけ3割くらい大きくなっている。声をかけてみるけれど、一度その世界に入るとなかなか戻ってこないみたいで、数十分聞き続けた。ロゼ様も一緒になって無表情で聞いている。でもロマンス小説がこっちの世界にもあるなんて!後でおすすめを借りようと決心した。

それから二人は物語の話をして長い時間を過ごした。最初はあんなにおどおどとしていた彼女だったけれど、小説の話をしている彼女は幸せそうで、この話題を振った私に功労賞を送りたい。


「あ、あの…私ばっかりが話しちゃって、ごめんなさい。本のお話になるとつい止まらなくて…」

「ふふ、いいのですよ。わたしもそういう物語大好きですから。それに、大事なお友達の好きなものは知りたいですし」

「ひゃ、…あ、ありがとう、ございます。」


また綺麗な頬をりんごのように染めたクレアちゃんをにこにこしながら眺めているうちにふと忘れていたことを思い出す。いけないいけない。


「あ、そうそう。忘れていました。」

「ふぇ…?」

「これ、よければもらってくださいませんか?」


クレアちゃんが小さな包を不思議そうに目を丸くして受け取ってくれる。「開けて開けて、」と促すと包を開いた。


「…わぁ…」

「大和撫子なとっても可愛いクレア様ならお似合いになると思って作ってみたのです。…お気に召すといいのですが…」


包から出てきた真紅の紐リボンは、リボンの先にモチーフがついた和風なものになっていて、我ながら可愛く出来ていると思う。気に入ってくれたのか嬉しそうに目を輝かせるクレアちゃんの髪に私が脇の髪をとって括ってあげる。照れたように頬を染めたクレアちゃんは本当に可愛らしい。…今度は着物もデザインして作ってみようかな。


「これからも友達としてよろしくお願いしますね!ぜひまた遊びに来てくださいっ」

「これからも…」


そこで急にクレアちゃんが止まった。…あれ?もしかして「もう来たくないです」とか…ふぇ…。振られたトラウマを思い出してどきどきしていると、少しだけ不安そうにじっと見つめてくるクレアちゃん。


「ずっと…一緒にいてくれるのですか…?いなくならない…?」

「!!もちろんです!」


そんなことか、とふにゃりと笑うと、クレアちゃんも心底嬉しそうに笑ってくれた。

ちなみにずっと空気になっていたロゼ様はやっぱり無表情だったけど、少し口元が緩んで見えたのは気のせいかな。


可愛らしい本好きのお友達ができた。


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