16 デザインだってできるのです
「ん〜ふふ、ん〜ふ、ん〜ふ〜ふ〜」
「随分とご機嫌ですね。エミリア様。」
いつものレッスンを終えたあと、ご機嫌で机に向かっている私にデイヴが声をかけてきた。私が記憶を取り戻した時でさえ12歳だったお兄さんなデイヴはもう16歳。とても格好いいイケメンへと成長してきている。今の温和な笑顔でも周りにメイドがいれば落ちるに違いない色気が出ている。だんだんと漫画通りの意志の強い色気のある美青年へと成長しているのだと思う。
…けれども、彼は漫画の中で最後エミリア=シルヴェスターを見切って見捨ててしまう運命なのだ。そう考えると少しちくっと胸が痛む。…いつか本当にこの優しい瞳が冷たい蔑んだ表情へと変化していくのだろうか。悪役令嬢の運命とはいえ、やっぱり怖い。…紳士を目指したところで運命が変えられる確証はないんだもの。
「え、エミリア様、さっきまでご機嫌だったのにどうなさったのですか!?」
「…いえ、なんでもないです。ふっふっふー、じゃーん、これを見てくださいっ!!」
考えていることが顔に出ていたのか、心配そうに顔を曇らせるデイヴに意識を切り替えて笑う。いけないいけない、そんなネガティブ思考私らしくないわ!!そうして書いていた紙をデイヴに掲げると、覗き込んだデイヴが「おー」と歓声をあげた。
「…エミリア様、衣服のデザインが出来るのですね」
「当たり前ですデイヴ!私をなんだと思っているのかしら!」
「お嬢様ですが」
ですよね!私は前世で駆け出しのファッションデザイナーをやっていた。…からこのくらいのデザインは当然なのだが、そういえばまだ一度も披露したことがないなって。コゼットとデイヴと話していて前から思っていたのだが、この世界のメイド服や執事服はあまりに質素すぎると思う。勿論機能性も大事だけど、機能性とオシャレさを組み合わせたデザインの方が絶対いいと思っていたのだ。…それにいうほど機能性もないしね、今の服。全体的に服は発想が古い気がするのよねえ。
…あとはもうすぐお母様の誕生日だからお母様へのドレスと、そしてついでに、自分で着る用の男物の服のデザインを書いていた。
「これはね、しつじ服です!!」
「執事服?……おお…とても使いやすそうですね。」
「ええ!これをお父様に頼んで作ってもらいます!!」
「えっ…?作るんですか?」
実際に着ることになるであろうデイヴにそう言ってもらえて自信をもった私は元気よく宣言すると、デイヴは驚いたように目を丸めた。
「当たり前ですっ!デイヴのためにデザインしたようなものですから、毎日着てくださいね?デイヴをイメージして描いたのですから、絶対デイヴに似合いますわ。」
「っ……。ええ、エミリア様。楽しみにしてますね。」
デイヴはびっくりしたような表情になったあと、嬉しそうに頬を緩めて答えてくれた。えへへ、喜んでくれたなら嬉しいわ。和やかな雰囲気で笑い合っていると、後ろから声がかかった。
「へぇ、僕にもデザインしてほしいな、エミリア。」
「お兄様に?」
「うん。ダメかな?」
別にいいのだけど、既にお兄様の衣装はちゃんとした凄い人にデザインしてもらっているからいらないんじゃないのかしら?そう思って首を傾げているとお兄様は笑って、
「エミリアのデザインした服が着たいんだ。…だめ?」
「わひゃっ」
勿論何枚でも作りますとも。手をぎゅっと握ってねだってくるお兄様ってば最高に可愛い。こくこくと頷くと、お兄様はさらに嬉しそうに微笑んだ。
11歳になったお兄様は勉学も剣術も優秀で、お父様について回って出かけることも増えてきた。着飾らなくても格好いいお兄様にはシンプルだけどセンスのあるデザインが似合うと思うのよねえ。あ、せっかくだし1着お揃いでデザインしようかしら。うふふ。
色々な衣装案を考えてお父様に提出すると、お父様は嬉々とした表情で、
「私へのデザインはどれだい?」
「ないですよ。」
「えっ…」
「え?」
「……ないの?」
「ないです。」
お父様がしゅんとした顔で私を見ているが特に可愛くはないのでとにかくお願いしますと微笑んだ。とりあえず仕立て屋に回してくれるらしいので安心安心。後日お父様のねだるような視線が鬱陶しくて仕方なかったけれど。そんなに言うのなら狸の着ぐるみでも作ってあげようか。そう話すとデイヴはお父様に不憫そうな視線を送っていた。何故かしら。
とりあえず衣装は発注できたみたいだし、完成が楽しみだなあ。格好よく仕上がるといいなあ。




