13 はじめてのお茶会 Ⅱ
初めて見るお城はとても綺麗で、白を基調とした作りはメルヘンで美しく、前世に夢見た理想の城そのものだった。ここにあの王子たちが住んでいるのか…。正直幼馴染の彼らの様子からはあまり高貴さを感じないため実感が薄い。
庭園で行われるらしいパーティ会場に、綺麗なメイドさんに案内されながら向かう。近づくにつれて華やかな声が聞こえてくる。うーん、大丈夫かしら。
「エミリア、大丈夫?」
「少し、どきどきします…」
頭を丁寧にぽんぽんと撫でてくるお兄様。うん、少し落ち着いた。そう伝えるとお兄様はとても素敵な笑顔を浮かべた。お兄様ってば全国お兄ちゃんコンテストでもあれば優勝する勢いなんじゃないかしら!?って思うくらい格好いいわ。あったら是非参加してもらおう。うふふ。
そうこうしているうちにたどり着いた。たくさんの花が咲き乱れる庭園にたくさんの令嬢や子息たちが華やかなドレスを着て歓談している。思った以上に人がいるわね。頑張れ私…!
少しフリーズしていると、お兄様が「とりあえず挨拶回りをしようか」と声をかけてくれた。はい、頑張ります。お兄様に連れられ何人かの貴族様方に淑女の挨拶をしていく。
「お初にお目にかかりますわ。エミリア=シルヴェスターと申します。」
「あら、可憐なお嬢さんね。シルヴェスター家の自慢の娘さんと会えて嬉しいわ。」
「わたしもこのような美しいお姉様にお目にかかれて大変光栄でございます。記念日にしたいくらいに…」
「あらまぁ、うふふ。」
そんなやりとりを交わしていると、お兄様に半ば強制で笑顔で引っ張られる。え、なに、真面目に和やかに挨拶していたじゃないですか!抗議のこもった視線で見つめると、お兄様は嘆息。え、なに。
「…エミリアは会場の隅で大人しくしていてくれるかな?いいかい。」
「わたしはまだ大丈夫ですよ?」
「だめ。エミリアには挨拶回りはまだ早いみたいだから。」
おかしいなあ。失礼なことでも言ったかしら。そう言われたら仕方ないのでお食事コーナーで飲み物を入れながら大人しく待つことにしよう。暇だなあ。王子二人もいるんだけど、二人は主催なだけあり挨拶回りが忙しそうだ。むーん。
「ちょっと!ドレスが汚れてしまったじゃないの!」
「ぇ…でも…」
「なに!?口答えでもする気!?ちょっと家柄がいいからって調子乗ってるんじゃないわよ!!」
と、隅の方で繰り広げられていた悶着の声が聞こえた。見ると4人ほどの令嬢が1人の黒髪の女の子に怒っている。状況を見た感じぶつかりでもしてグラスのジュースをこぼしてしまったようだ。これはいけない。助けに行かねば。使命感に駆られ私はトラブルの方へ向かった。
「皆様方、どうなさったんですの?」
「なによ、あなた…」
「ああ、申し遅れました。わたしはエミリア=シルヴェスターと申します。以後お見知り置き下さい。」
「シルヴェスター家…」
「何かあったようでしたので、思わず駆けつけてしまいました。どうなさったのですか?」
「……この子が突然現れてぶつかってきたのよ!お陰でドレスが汚れてしまったわ!」
ドレスを汚されてしまった令嬢が私に怒りを訴えてくる。たしかにドレスの裾にジュースがついてしまっている。しかし幸いなことに水分の染み込みにくいドレスだったようで、まだ染みにはなっていない。
「それは災難でしたわね。ちょっと失礼致しますね。」
「な…」
私は跪くとご令嬢のドレスについたジュースを自分のハンカチで吸収し直した。うん、大分これで目立たなくなりそう。せっかく王子様に会うために可愛いドレスを着たんだもんね。少しでも綺麗にしてあげなくちゃ。丁寧に水分をとっていると、驚いたように令嬢たちが私を見ていた。
「はい、綺麗なドレスに戻りましたよ。愛らしいドレスで着飾って王子様に会いにいらっしゃったのでしょう?汚れてしまっても綺麗ですが、せっかくなら完璧な姿を見せたいですものね。」
「は、はい…」
「ふふっ。とってもお似合いですよ。王子様にも見てもらえるといいですね。」
にこっと優しく微笑みかけてみると、ご令嬢方は真っ赤になりながら去っていった。うーん、流石にやりすぎたかなあ。汚れたハンカチをたたむともう1人の方…怒られていた少女に目を向けた。大きな真っ黒の瞳を私に向けている少女は…とても綺麗だった。
「「………綺麗。」」
二人のつぶやきが重なる。重なったのに気づいた少女は恥ずかしそうに赤くなって下を向いていた。そんな姿も小動物みたいで可愛らしい。清純そうな黒髪と黒目も相まって、大和撫子という表現が良く似合う。
「……ありがと…ざい…す…」
「うん?」
「ありがとう、ござい…ます。」
囁くような鈴のような声は小さくて、でもとても綺麗で、耳に心地がよかった。…はっ、これはお友達になるチャンスなのでは!?
「どうか気になさらないでください。せっかくこんなに素敵なお茶会なのです。綺麗な淑女同士で争っていられては勿体無いですから。…わたしはエミリア=シルヴェスターですの。あなたは?」
「……クレア=キングスレイ、です…」
あ、あのシルヴェスター家と並ぶ伯爵一家であるキングスレイのご令嬢…。驚いたけれでも、この私好みの美少女を逃すわけには行くまい。丁寧に手を取って、彼女に微笑みかけた。
「これも何かのご縁です。よければお友達になってくださいませんか?」
「ぇっ!ぁ…ぅ…」
ばひゅんっと真っ赤になった彼女は困ったように視線を右往左往して…あれ、少し涙目になってないかな?
「ごめんなさいっ」
「!?」
だっと逃げられた。呆気に取られながら彼女を追うでもなく見送ってしまう。…え。
エミリア=シルヴェスター。9歳。
初めて友達になれそうだった愛らしい美少女に、振られました。




