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こつんっと、ベランダ側の窓が何かで叩かれた。
「…なんですかー、むっつりスケベの誠司クン。」
互いの部屋がベランダを介して繋がっているのが、この家の間取りの唯一の不満だったが、今はそれを考える事もしたくないぐらいにあんずは最悪の気分だった。
「とりあえず、ここ開けろよ。」
しぶしぶ窓の鍵を開けるとなんの遠慮もなしにズカズカと上がり込まれる。
「女の子の部屋に上り込むとか犯罪だからね。」
「きったねぇ部屋。お前、仮にも女子なら部屋ぐらいカワイくしろよな」
「あんたこそ、学校で無口に気取ってないで女の子に愛想良くしたら?あんたの事で質問責めにされる身にもなりなさいよ。このインテリ童貞。
伊達眼鏡なんて似合わないお洒落してんじゃないわよ」
「…おいおい、言ってくれるじゃねーか。二重人格女のクセによ。なにが緑化委員のおっとり癒し系だ、卑しい系の間違いだろうがよ。」
挨拶がわりに言い合うのは2人にとっての日常だった。もちろん外では極力接触しないようにするのだか、スペースの限られた家の中ではそうはいかない。
悪態に悪態で返すスタイルが、誠司がこの家に来た時からの2人の会話方法だった。
「まぁ聞けよ。お前、兄貴の彼女の事どう思う?」
「120%詐欺ね。あんたもそう思うでしょ?」
鼻で笑って吐き捨てるようにあんずは言う。
「ああ、200%詐欺だ。それでだ、本題はここからだ。詐欺女を俺達で追い払おうじゃねぇか。」
「…」
「兄貴が騙されて、傷つく前に」
少し、ほんの少しだけ。
いつも罵りあっているあんずと誠司に通じ合うものがあった。
周りに期待しない者同士で通じ合うものが。
幾度となく見てきた兄の蓮が傷つけられる姿
たとえばそれは、
仲良しの友達のお母さん達からだったり、
学校の先生だったり、
親戚の奴らだったり。
育てられるのかしら、あんなまだ子供みたいな子に
やっぱり両親がいないとね、子供のママゴトじゃないんだから
ご両親の保険金はいくらでたの?
私達に寄りかかられたら困る、こっちにも生活があるんだ
いくらでも心無い言葉で兄が傷つけられるのを見てきた。
相談にのるからねと言った口で、裏では勝手な事を言い合う。
あわよくば騙していいようにしようとする輩もいる。
それが人間の本質。
「共闘ってわけね」
お互いに小さく笑いあってから、
2人は久々に手を組む事になった。
その彼女とやらに会うまでのリミットは1週間。
今まで幾度となく、兄の蓮に悟られないように煩わしい奴らを追い払ってきた2人だ。
厄介な相手に悪態をついたり、嫌がらせをしたりするだけでは完全に追い払えないことを理解している。
だったらすべき事はただひとつ。
「情報収集が先だな。」
「久しぶりね、森田のじいさん以来だわ。」
どんな方法でもいいから、弱みを見つけて脅してやればいい。