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全く最低の気分だった。
自室のベッドに腰掛けると、誠司はうなだれた。
兄貴に彼女とか、ありえない。
おっとりとしすぎてはいたけれど、優しい兄貴に今まで彼女がいなかった事の方がおかしいぐらいなのは理解しているつもりだった。
それが、俺やあんずがいる事が原因だろうという事も。
いや、俺の事が大いに関係しているのだろう。
俺は元々、兄貴やあんずとは兄妹でもない。
兄貴達の父親が、俺の父親の兄にあたる、つまりはいとこ同士だった。
小学校にあがる頃、夫婦仲最悪の我が家で飢え死にしかかってた所をこの雨野家に引き取ってもらった。
結局、母が父を刺して警察に連れていかれて以来どちらとも会ってもいない。外面だけは取り繕っていた夫婦の最期なんてこんなものだった。
同い年のクッソ生意気なあんずを除けば、雨野家は俺の理想の家族そのものだった。
あたたかいご飯に、笑いの絶えない家庭。
でも、そんなのも数年で終わった。
おじさんとおばさんの事故死で、何の前触れもなく、唐突に、呆気なく。
2人の葬儀で聞こえてきた大人達の会話に、妙に納得した思い出がある。
あの子があの家に来たから
あの子が何か良くないモノをもってる
どうして施設に放り込まなかったのか
本当に自分でもそう思う。
兄貴が俺達のために働き出した事も、なにもかもを俺達のためにあきらめてくれた事も。
こんなにいい男はどこを探したっていやしないと、同性ながらに思っていた。
本当に、人間は冷酷だから。
無関心を装う事もできない輩が、勝手きままに噂する。今度ばかりは兄貴だけは傷つけさせない。
絶対に近付けさせない。
兄貴に彼女なんて
「本当に、ありえねぇ」