2
まったく最低の気分だった。
自分の部屋に戻ると、あんずは枕をひょいと持ち上げて力一杯叩きつけてからベッドへとダイブした。
お兄ちゃんに彼女とか、ありえない。
別に兄が、女性と付き合えないような魅力のない男だからと言うわけじゃない。
さっきの一階のリビングでのやり取りだって、そういう意味で言っていたわけじゃない。
むしろあんなに素敵な人はいないと、あんずは誰に言うこともなく思っていたーーー
10年程前に事故死した両親にかわって、
決まっていた進路をなんの躊躇もなく諦めて、まだ小さかったあんずや誠司を育てる事を選んでくれた。
あの当時の兄と同じような年齢になった今、それがどれ程大変な事だったのかよくわかる。
周りの同級生が当たり前の様に進学する中、たった1人で子供2人を養う事がどれだけ兄の足枷になっていたのかも。
周りの同情を装った好奇心や、親戚からの心無い言葉からたった1人であんずや誠司を守ってくれた兄に対してあんずは妹として想ってはいけない感情で蓮を好いていた。
お兄ちゃんだっていい年なんだし、結婚だってしたいし子供だって欲しいのだと思う。
あんずや誠司が独り立ちするまでは死ねないなぁなんてよく言ってるけど、
それはお兄ちゃんが自分の幸せを犠牲にして成り立ってることぐらい分かってる。だけど、
人間は冷たい生き物だから
こんなお荷物を抱えたお兄ちゃんを支えてくれる人なんていない。
両親もいない、学生2人を養っていかないといけない身の上を良しとしてくれる女性がいるわけない。
周りはいつだって好奇の視線しか私達によこさなかった。手なんて差し伸べてくれなかった。
可哀想に
兄妹で支えあって偉いわね
立派ね
口ではいくらでも言える
けれど、誰も私達家族には深入りしない
だからそんなお兄ちゃんに彼女なんて、
「ありえないよ………。」