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夏の暑さがもうすぐそこまで差し迫っている頃、片田舎の雰囲気が漂う郊外の町の、どこにでもあるような一軒家に怒号が響いた。
日曜日の静かな朝だというのにーーー
「「はぁ!?それ絶対に騙されてる」」
「って!」
「だろ!」
はからずも揃って出された大声と、
2人が勢いよく立ち上がった衝撃とで、
テーブルに並んだトースト、サラダ、カリッと焼かれたベーコンが跳ねた。
「いや〜、騙されてるわけではなくてさ。まぁ、落ち着いて」
外見通りおっとりとした物言いで場をなだめようとする兄の蓮だったが、
アラサーど真ん中の身では、2人の高校生の勢いを止める事は到底できずーーー
「お兄ちゃんはさ、去年も私と誠司の合格祈願だなんだって変なお守り大量に買ってきちゃってさ!交通安全ならまだしも、安産祈願や子宝祈願まであった事忘れてないんだからね!
前だって苺の苗を大根だって買ってくるし!その前だって」
猛烈な勢いでまくしたてるのは妹のあんずだった。蓮によく似たおっとりとした外見とは裏腹に、気が強ければ口も良く回る。
「古典的な詐欺に1票。昔からよくある手だよ」
それで決まりだと言わんばかりに、腕を組んでいるのは弟の誠司。
普段は兄に蓮よりも落ち着いた雰囲気をまとっている彼も、今日ばかりは言葉や態度から憤りをのぞかせる。
「お兄ちゃんもいい加減見る目を養わないと!大変な事になるよ!連帯保証人とか、寸借詐欺とか、振り込め詐欺とか!」
バンバンと机を叩くあんず。
「これに関しては俺もあんずに同意する。兄貴はカモ丸出しなんだって。カモが服着てあるいてきたような感じなんだよ。」
冷めたような目でこちらを睨む誠司。
「だいたい市役所に勤めてるんなら色んな人が来るでしょ?どうして見る目を養えないかなぁ。」
「外であんまりニコニコ、へらへらすんなって前々から言ってただろ。忠告したのにこれだよ。」
ボロカスな言われようだった。
普段は互いに喧嘩腰のあんずと誠司だったが、こんな時ばかりは息ぴったりなのは兄としては嬉しい様な悲しい様な………
「ま、まぁ、とりあえず一度会ってみてくれないか?来週の日曜日に連れてくるから。」
ぐいぐい詰め寄ってくる2人を押し返せずに、壁際に追い詰められる蓮。
「本当にありえない」
「ああ、全くだ。」
「お兄ちゃんに」
「兄貴に」
「「彼女ができるとか!」」