事の顛末2
「あんたは全部知ってたんだろ、初めから。」
「………どうしてそう思うのかしら?」
相変わらず百花は微笑みを絶やさない。
夜の澄んだ風がこの庭を吹き抜けると、より一層花々の香りが混じり合う。
「この町にはお友達が多いって自慢していたじゃないか。
なら、佐倉さんから相談を受けるより前に、誰かから相談を受けてたんじゃないか?例えば智樹君の担任の先生とか。」
「あとは西屋敷家の権限なのか、
貴方が勝手に盗み見たのかは知らないけれど、
智樹君の戸籍を見れば簡単に直樹君や叔母さんに行き着くってわけよね。」
「………。」
風に髪をなびかせたまま、百花は黙り込む。
「直樹君が言ってたわ。
綺麗なお姉さんに、
智樹君をよろしくね、お兄ちゃんなら弟を守ってあげてって言われたって。
それって貴女の事でしょ?」
観念しましたとばかりに、百花は小さく笑う。
「ふふっ、すごいわね。やっぱりいいコンビよ、あんずちゃんとせーじ君は。
…じゃあ、どうして私が2人にアルバイトを頼んだのかもわかるかしら?」
「それがわからないからここに来たんだ。一体、何を企んでるんだ?兄貴まで巻き込んで。」
「やっぱりお兄ちゃんを騙してたの?何の為に?お兄ちゃんを傷付けたら許さないから。」
何が目的なのか。
一体、どの時点からこの西屋敷 百花に手玉に取られていたのかわからない。
アルバイトを持ちかけられた時から?
兄の蓮と付き合う前から?
やっぱり人間は信用できないーーー
憤る2人に、百花は静かに問いかける。
「今回の智樹君の事を見てどう思った?」
「どう思ったって…何言ってるのよ…。」
「施設の大人達はどうだったかしら?子供達は?」
互いに顔を見合わせる2人に、
百花は更に質問を投げかける。
「打算も悪意もなく、手を差し伸べてくるる人達がたくさんいたんじゃないかしら。難しい事情のある子を、優しくあたたかい目で見守ってくれるような人達が。だから、智樹君の事で色々な人達がわざわざ私に相談に来てくれた。」
「…それが俺達を言いくるめてた事の答えにはなってない」
「あんずちゃんもせーじ君も同じよ。色々な人達が2人を大切に思ってる。だからね、そろそろ周りの人達を信じてみてもいいんじゃない?」
見透かしたような真っ黒な瞳が、真っ直ぐにこちらを向いている。
「あの調査書もね、綾乃さんって女の子からもらったの。貴女はどう思っているんですか、蓮さんと2人の事をって詰問されたわ。たった1人で私に会いに来てくれたのよ、雨野家のために。」
「本当はね、蓮さんからも相談されていたの。2人が自分を頼ってくれない事が悲しい、もっと甘えて頼って欲しいって。アルバイトばかりしないで、今の生活を大切にして欲しいのよ。蓮さんは。」
突然の事の顛末に、あんずも誠司も頭が追いついていなかった。
百花が、蓮を騙しているんじゃないかという猜疑心でいっぱいだったからだ。
「綾乃がそんな事を…?でも私、綾乃の事悪く思ってなんかないよ。大好きだもん。お兄ちゃんのことだって。」
「そうだよ、俺だって」
相変わらず百花は微笑んでいる。小さな子供を見る様に。
「信じるって、甘える事でもあるから。
2人だけで肩肘はらずに、周りの人達を信じてあげて。
あんずちゃんとせーじ君ならきっとわかってくれると思うわ。今回、2人にアルバイト頼んだ理由も。」
西屋敷家には、いくつもの相談事が舞い込む。
それらを組み合わせて一番良い方向に持っていくのが
百花の役割。
「コンダクター、というものかしら?そんなに偉そうなものじゃないんだけれどね。少しだけ方向を指し示す存在になれればと思うの。」
たくさんの善意のカケラを集めてーーー




