エルフが綴る異世界小説
今週分の更新です。
楽しんで頂けると幸いです。
宜しくお願いします。
ニーニャがユグドに戻ってから早3ヶ月がたった。
3ヶ月の間にさまざまなことが起こっていた。特に大変だったのはニーニャが帰ってすぐのレフィアであった。ニーニャからの手紙を読んだレフィアは何度も何度も泣きわめき、泣き止んだとしても返事が希薄であったりと精神的にかなり追い詰められた状態であった。
明人も何度もレフィアの話し相手になろうとしたり、レフィアの好きなものを作ったりと色々な手を尽くしたが、その度にレフィアから「大丈夫ですから、気を遣わないでください。」と言われ、逆にレフィアに気を遣わせることになり、明人もお手上げ状態であった。
そんな様子を瑞波と健人に相談すると、健人は毎日のように森川家へと赴き、何度も何度も拒否されようとレフィアに会い、レフィアと話をした。それこそ、レフィアから呆れられ、ウザがられるほどに。
それでも健人は何度も何度もレフィアと話をした。それこそ、1日に10回や20回部屋から追い出されようとも。
その様子が数日間続いた結果。レフィアはいつものレフィアに戻っていたのであった。ただし、健人に対してだけは接し方が変わっていた。
「健人さん! 新しいお菓子を作ったので食べてみてください!」
「よっしゃ! 食べる食べる!」
「今回は、春も近いので桜の塩漬けを使ったお菓子です! はい、あーん!」
リビングからそんな甘々な会話が聞こえてくる中、明人と春奈はせっせと夕食の準備を始めていた。
「うんうん、幸せそうで何より」
「春奈さん、涙流しながら言う言葉じゃないですよ」
「これは玉ねぎを切ってるからよ!」
「いや、今切ってるの人参でしょ」
後ろから聞こえる会話に涙を流しながら春奈はーー。
「そりゃ、だって、彼氏いない私があんなの見せつけられたらいくら涙を流しても足りないくらいでしょ」
「前に森山先生にセッティングしてもらった合コンはダメだったんですか?」
「それは……その……今も連絡が続いてる人が1人……ねっ……」
恥ずかしそうにそんなことを言う春奈をみて、明人もホッとしていた。
「よかったじゃないですか! 恋愛なんて人それぞれでペースがあるんですから、ゆっくり育んでいけばいいじゃないですか」
「そうよね! まだスタートラインにも立ってないけど!」
「きっとスタートはすぐそこです!」
「そうよね!」
明人と春奈2人してガッツポーズをしている後ろから、レフィアがキッチンに戻ってきた。
「すみません、春奈様、明人さん。その……イチャイチャしちゃって……」
「いいじゃない! 精一杯幸せ空気を充満させて頂戴!」
聴く人によってはレフィアの言葉はただの嫌味にしか聞こえないかもしれないが、本当に幸せそうであり、その幸せを願っている春奈と明人からすれば嬉しい言葉である。
「おーい、健人、夕飯は食べてくんだよな?」
明人が少し大きな声で確認すると、健人も「食べてく」と返答した。
その言葉を聞いた瞬間レフィアの目の色が変わりーー。
「今更ですが、夕食のお手伝いをします!」
「いや、今日は僕と春奈さんでやるからいいよ。それに、キッチンが手狭に……」
明人はそこまで言うと口を閉ざした。いや、閉ざしたと言うよりは閉じざるおえなかった。なぜなら、レフィアからとてつもないプレッシャーが放たれていたからである。
「うん、それじゃあ、今日はレフィアさんと春奈さんにお願いしようかな。それでもいいですか?春奈さん」
「ええ、大丈夫よ」
「それじゃあ、よろしくお願いします」
そう言うと明人はコーヒーを入れてリビングに向かった。
「なんだよ明人、戦力外通告でも受けたのか?」
健人がおちょくるようにリビングにきた明人に声をかけるとーー。
「お前ってほんと、果報者だな」
そう言ってコーヒーに口をつけた。
それからしばらく健人は携帯を触り、明人は読みかけの小説に目を通していた。
「そういえば、瑞波はどうしたんだよ?」
不意に明人が健人に質問するとーー。
「最近は執筆にさらに熱が入っててな。春休みだからって部屋に引きこもって執筆してるよ」
「あー……あのクリスマスのニーニャの小説を読んでからか」
「そうだな、あれで火がついたらしい。流石はプライドの高い我が妹だよ」
ニーニャがユグドに戻る前に明人はクリスマスプレゼントの小説を瑞波に貸していいかを確認し、その了承を経ていた。そのため、明人はニーニャの小説を数十回読み返したのち、瑞波に貸し出したのであった。
その小説を読み終えた瑞波はニーニャに感化され、現在恋愛小説を執筆中なのであった。
「プライドじゃないと思うよ。やっぱりいい作品を読んじゃうと自分でも書きたくなるもんだよ」
実際、ニーニャの小説を何度も読み返した明人は、ファンタジー小説を書く裏で、恋愛小説も少しだけ書き始めていたのであった。
それほどにニーニャの作品は2人の心を動かしたようだ。
「それにしても、師匠帰ってくるの遅いよな」
「だね。1ヶ月程度で帰ってくるって言ってたのに」
ニーニャの帰りが遅いことに明人も毎日不安が積もるばかりであった。何か大変なことがあって帰ってこれないのではないかと。
「明人さん、そんなに不安な表情をしなくても大丈夫ですよ」
キッチンから料理を運んできたレフィアが会話に加わる。
「あの人は言ったことは守る方ですから。それに……帰ってきたら私に殴られると言う大切な約束もありますしね!」
握りこぶしで空気を切る音が聞こえる。しかし、その拳は明人や健人の目では捉えられなかった。
「あの、レフィアちゃん、その速度で殴ったら確実に師匠死んじゃうよ?」
「大丈夫ですよ。ニーニャ様なら」
レフィアは満面の笑顔であった。
その笑顔を見た健人も明人もそれ以上は何もいえず、机に並べられた料理に目を落とし静かに夕食を待つことにした。
それからしばらくすると、キッチンから全ての料理がリビングに運び込まれ、夕食が開始した。
明人と春奈はいつものように繰り返されるレフィアと健人のいちゃつきを目にしながら黙々と料理を口に入れ、食事を終えると春奈は自室へ戻り、明人は洗濯などの家事を片付け始める。
それらの片付けが終わった頃に、チャイムの音が家の中に鳴り響いた。
「はーい」
玄関のドアを開けると、瑞波と緑が立っていた。
「夜分にすみません森川くん。春奈さんはいらっしゃいますか?」
「あきとー、兄さんいるでしょ?」
「春奈さんは自室、健人はリビングにいるよ」
「それじゃあ少しお邪魔します」
「私もお邪魔しまーす」
2人は靴を脱ぎ、それぞれ目的の人物がいる部屋へと向かっていった。
その様子を見送った明人は、静かに自室へ戻り書きかけの小説にペンを走らせた。
続きを書き始めて1時間ほど立った頃。
「うーん、ニーニャに感化されて恋愛小説もいいかなーって思ったけど、異世界の冒険を書いてる時が一番楽しいな!」
独り言とともに明人は背をぐっと伸ばした。
その瞬間開けていた窓から少し肌寒い夜風が部屋の中に吹き込みーー。
「あなたの言う異世界の冒険なんてちっとも楽しくないわよ。それこそ、ただの日常を淡々と過ごすだけのことだもの」
ベッドの方からそんな言葉が聞こえた。
「そうかな? でも僕は知ってるんだよ。異世界から来たエルフがどれだけ魅力的なのかを、どれだけ世界に彩りをくれるのかを、そして、どれだけ僕の心を奮い立たせてくれるのかを。そんな存在がいる異世界に憧れを抱くなって方が無理でしょ」
そう言って明人は椅子から立ちあがり、ベッドの方に向き直る。
「ふふ、そんなに魅力的なエルフがいるなら、異世界に憧れを抱いても仕方ないわね」
明人の目の前には整った顔立をした長身の女性がブロンドの長髪を揺らしてベッドの上に土足で立っていた。そして、女性の隣には見慣れない犬のような動物が。
明人は目を見開き、少し考えたのちーー。
「すみません、ちょっと知り合いと勘違いしていたようです。えっと、この世界では部屋の中に靴を履いてはいる習慣はなくてですね」
「え? あっ、えっと、そうよね。土足厳禁だものね!」
「そうです、よくその単語をご存知ですね」
明人は土足厳禁という言葉を知っていることに驚いた。
「……えっと、明人、私のことわかるわよね?」
「えっ!? なぜ僕の名前を? もしかしてユグドの方でニーニャから話を聞いたとか?」
明人が本気でそう答えると、エルフの女性はーー。
「私! 私よ! 私がニーニャよ!」
涙目になりながら自身を指差し、自分がニーニャだと主張する。
「いやいや、そんなことないですよ。ニーニャはもっとこう身長も低かったし、貴方のような綺麗な女性じゃなかったですよ。やっぱりニーニャの知り合いの方ですね」
「だから、私がニーニャなんだって!」
エルフの女性が大声でニーニャだと主張した瞬間。明人の部屋の扉が蹴り壊され、部屋への進入者は一瞬でエルフの女性の前に立ち、目にも留まらぬ速さで頭を叩いた。
スパーンーー。
軽快な音が部屋に鳴り響き、女性は頭を抑えながらその場でしゃがみこむ。
「いた、いた、やめて、やめてよ!! やめてって言ってるでしょレフィア!!」
「何をおっしゃっているんですか? 私はただ不審者を撃退しているだけですよーーニーニャ様」
「いや、今私の名前言ったわよね」
「なんのことやら、ニーニャ様」
「言った!!」
何度も何度もレフィアが平手でエルフの女性の頭を叩きながら会話が進められており、明人も思考が追いついていない。
「えっと、レフィアさん、そのエルフって本当にニーニャなの?」
「そういえば、明人さんはニーニャ様の本当の姿を見たことがありませんでしたね」
「本当の姿?」
「はい、以前のニーニャ様はこの世界の知識の一部を得るためにあの姿になったのです。そして私も同様に。なので、こちらが本当のニーニャ様の姿なのです」
叩く手を緩めることなくレフィアは明人に説明した。
「なっ、なるほど」
「そろそろやめて、本当に反省しているから、本当にごめんなさい」
ニーニャが涙目になりながら謝ると、レフィアも叩くのをやめ、ニーニャを抱きしめた。
「おかえりなさいませ、ニーニャ様」
「ただいま、レフィア」
その様子を見ていると、森川家にいた人々が明人の部屋に集まってきた。
「明人、さっきの声って」
「うん、ニーニャが帰ってきたよ」
そう言ってベッドの上を指差す。
「おかえり、ニーニャちゃん」
春奈は優しく言った。
「ほんとだ! おかえり! ニーニャちゃん」
瑞波は驚きと嬉しさを含ませてテンション高く言った。
「おかえりなさい師匠! どこから明人の部屋に??」
健人は疑問混じりに言った。
「おかえりなさい、ニーニャさん」
緑は気配を探るように言った。
「いやー、みんなただいま。緑先生、師匠は置いてきたから大丈夫よ!」
その言葉に緑は安堵した。
レフィアがニーニャから離れ、ニーニャは明人の目の前に立つ。
「ニーニャがいない間に、一つ小説を書いたんだ」
「奇遇ね、私もあっちで一つ小説を書いたのよ」
「僕が書いたのは、エルフの少女と人間の物語」
「またまた奇遇ね、私が書いたのもエルフの少女と人間の物語よ」
2人は互いの原稿用紙を裏向きにして差し出しーー原稿に手をかける。
「ねぇ、明人、タイトルはせーので言わない?」
その提案に明人は首を縦に降る。
「じゃあ、いくわよ。せーの!!」
「「エルフが綴る異世界小説」」
そして2人はくすりと笑いーー。
「おかえり、ニーニャ」
「ただいま、明人」
そう言って2人は抱きしめあった。
「あぁ、それと、クリスマスプレゼントの返事。ニーニャ、僕も大好きだよ!」
明人は自分の思いを満面の笑みでニーニャに伝える。
「うん、プレゼントでも書いたけど、私も明人のことが大好きよ!!」
ニーニャは自分の思いを満面の笑みで明人に伝える。
2人の周りには先ほどまで手に持っていた原稿用紙が舞っていた。
ここまで、読んでいただき本当にありがとうございます。
定期更新の本編は今回の内容で区切りとさせていただきます。
今後は不定期ですがニーニャたちの短編を書いていこうと思いますので、今後ともよろしくお願い致します。
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