車で転送
今週分の更新です。
楽しんで頂けると幸いです。
宜しくお願いします。
夕食の片付けを終え瑞波と健人は自宅へ帰り、春奈もそそくさと自室へ戻っていった。
みんな明人とニーニャを2人きりにしようと気を使ったこうどうをっていたのだがーー。
「それじゃあ、明人、私は自室で明日の準備をするわね」
「うん、忘れ物をしないようにちゃんとチェックするんだよ」
「幾度の冒険をこなしてきたと思ってるのよ! それくらいチェックするわよ!」
等の本人たちはみんなの気遣いに気づくことなく、いつもの調子でニーニャは自室へと戻っていった。
その会話を部屋の扉越しに聞いていた春奈は、ため息を一つ付きーー。
「まっ、2人らしいか」
と笑いながら小さく呟き、仕事に戻った。
片付けが終わったキッチンで明人はニーニャに持たせるお弁当作成に取り掛かっていた。それから30分ほどでお弁当のおかずを作り終え、明人も自室へと戻っていた。
自室へ戻った明人は机の上に置いてある原稿に目を落とし、一文一文に集中してその原稿を読んでいった。
明人が原稿に集中してからしばらくすると、明人の部屋の扉が軽くノックされる音が聞こえた。ただ、明人は原稿に集中していたため、そのノックに気づくことができなかった。
さらに軽いノックが何度か繰り返されたが一向に明人が気づく様子もなく、ノックの音だけがヒートアップしていく。最初の「コンコン」という音はすでに「ドンドンドン」と扉を殴る音に変わっている。
それでも明人が気づかなかったため、ノックをしていた主は痺れを切らして明人の部屋の扉を開け放った。
「ちょっと明人! 寝るには早いんじゃない!」
そう言って扉を開けたニーニャが明人の部屋に入ってきて、そこでようやく明人は一旦集中を切る。
「ニーニャ? あれ、もしかしてずっとノックしてた?」
「そうよ! 何度ノックしても反応ないから寝てると思ってたんだけど、起きてるならなんで反応してくれないのよ!」
「いやー、ごめんごめん、ちょっと集中しちゃってて」
明人が手に持っていた原稿用紙が目に入り、ニーニャは「なるほど」と小さく呟き、明人に近づく。
「まぁ、その状況なら仕方ないわ。後どれくらいで読み終わりそう?」
「うーん、10分、20分くらいかな」
「わかったわ。だったら、明人のベッドの上で寝転んでるから、読み終わったら声をかけて」
「了解!」
と返事をした明人は原稿を読み進めた。
その様子を見たニーニャは明人のヘッドへとダイブしゴロゴロと転がり、ベッドの上に置いてあった異世界小説を手に取り読み始める。
ただ、その行動はフェイクで実のところニーニャは本越しの明人の後ろ姿をジッと見つめていた。
不意に明人が振り返った時に気づかれるのが恥ずかしかったため、ニーニャは本越しに見つめるという行動に出たのである。
そんな様子が30分ほど続くと、明人は机に原稿を置き伸びをしてニーニャの方に向き直る。
「読み終わったよ! ニーニャ」
「……」
「ニーニャ? 寝ちゃった?」
「寝てないわよ。で、どうだった?」
「うーん、すごくきゅんきゅんした」
その言葉を聞いたニーニャは顔を真っ赤にし、そして手に持っていた本でその顔を隠した。
「前の作品と違って女の子のキャラクターの心情に深みが出てて、恋してるんだろうなって思えたよ!」
立て続けに明人が感想を言うとその度にニーニャの耳がヒクヒクと動きながら赤みを増していく。
「ほんと、読み手に訴えかける恋愛だったよ!」
すでにニーニャはこれまでに無いほど顔が赤くなっていた。これ以上明人の顔を見ながら評価を聞くと恥ずかしさや嬉しさ、鈍感な明人への怒り、打ち明けられない自分の弱さ。いろんな感情が混ざり混ざって制御できなくなってしまいそうな状態である。
「明人!」
「なに?」
「ちょっと床に座って!」
ニーニャの言葉に疑問符を浮かべながら明人はその場に座る。
そして、ニーニャもベッドからおり、明人の背中に自分の背中を預けるように床に腰をおろした。
「ふぅ、これで少しは落ち着け……るわけないわよね」
ニーニャはぼそりと呟いた。
当然ながら明人とニーニャの背中が密着している状態なので、今のニーニャが簡単に落ち着くことができるわけがない。
むしろ、先ほどの状況よりも悪くなったと言っても過言ではない。感情の制御ができないことにより、思考力、判断力ともに低下していたようだ。
しかし、すぐまた別の態勢を指示すれば、流石の明人も気づくかもしれない。そう考えたニーニャは気づいてもらいたいような気づいてもらいたくないようなそんな葛藤の中、なんでもいいから話を始めようと思いーー。
「今日は綺麗な満月ね」
「そうなの?」
明人は立ち上がり、窓の方に向かって空を見上げる。
ニーニャは顔を抱え込み、会話のミスチョイスをしたことを猛省していた。
「やっちゃった、なんで明人を立たせるような会話を最初に持ってきちゃったのよ! 私は馬鹿か!」
明人に聞い声ないほどの小声でしかも早口でそんなことを呟く。
「たしかに綺麗な満月だね」
そういいなが明人は先ほどと同じ位置に戻りニーニャの背中に背中をあづけるように坐り直す。
「ニーニャはさ、こっちの世界どうだった?」
「最初は不安だったけど、すごく楽しかったわ。まさに知らない世界の扉を開いた感じね!」
「そっか」
「うん、明人は……」
ニーニャは一度そこで沈黙する。今まで明人に聞きたかったが聞けなかった、そんな質問を今してもいいのか考えていたのであった。だが、今聞かなければ後悔する。ニーニャの直感がそう訴えかけていた。
「明人は……私たちと出会って良かったと思う?」
その言葉を口にした瞬間、恐怖がニーニャの体を支配しーー。
「……」
明人の沈黙がニーニャの恐怖を煽る。
明人の返答、その内容が悪い内容だったら。遠回しに迷惑だなんて言われたら。私たちの存在をどこかで否定されてたら、悪い方悪い方に思考が進んでいく。こんなことなら質問を口にすべきでなかったとニーニャは後悔し始める。
「ニーニャが来てから僕の生活も刺激的ですごく楽しかったよ!」
「ほんとに?」
「当然だよ! ……ってもしかしてニーニャ、僕が心の底では迷惑だと思ってるんじゃとか考えてないよね」
言われた瞬間、ニーニャは一瞬びくりと震えた。その震えを背中に感じた明人はーー。
「やっぱりね。あのさ、ニーニャ。僕が迷惑だと思える人を長期間居候させると思う?」
「でも、私の師匠も泊めてくれてるじゃない」
ニーニャは自身の師匠の存在そのものが迷惑だと考えているようだ。
「あの人は例外だよ。それに短期間だし……」
明人も呆れたようにため息混じりに返答する。
「それに、もしもニーニャのことが迷惑だっていうなら、レフィアさんのことを引き受けたりしないし、あんな風に送迎会なんてしないよ!」
明人はまくしたてるように言葉を続ける。
「だから、絶対、自分が迷惑だなんて思わないで! そう思われる方が僕としては悲しいんだからさ」
ニーニャは膝をぎゅっと抱え込みーー。
「ありがと、明人」
そう言った。
「こちらこそ、この世界に、家に来てくれてありがとう!」
明人もうつむきながら、笑顔でそう言った。
背中合わせの状態でしばらく沈黙が続いた頃、明人はあることを思い出した。
「そうだ、ニーニャ、一つ聞きたいことがあるんだけど」
「ん?」
明人が立ち上がり、机の上にあるクリスマスプレゼントである原稿用紙が入っていた袋に手を入れ、1枚の手紙を取り出す。
「これもクリスマスプレゼント?」
「あ“ーーーーーーーーーーー!」
ニーニャは手紙を指差しながら叫び声をあげ、すぐさまその手紙を回収しようと明人の方に駆け寄る。
「その手紙はクリスマスプレゼントじゃないの! 間違って紛れ込んだのよ! 悪いけど返してくれない?」
手を差し出しながらニーニャは小声でーー。
「どうりで……いくら部屋を探しても見つからないわけよ」
と呟く。
ニーニャの様子から見てとても大事なものであることは明らかだったので、明人は何も言わず手紙を返却した。
手のひらに手紙が置かれた瞬間ーー。
「これ、読んでないわよね」
「うん、ニーニャに確認してからにしようと思ってね」
ニーニャは明人に背を向け、手紙の封が切られていないかを確認する。
ハサミで切られた様子もノリが剥がされた様子もないため、明人は実際に読んでいないのであろう。
そのことにホッとしたニーニャであったが、それと同時に一つの考えが頭を過ぎった。せっかくの2人きり、今この場でこの手紙を渡して仕舞えばーー。
そんなことを考え始めたのであった。
「どうしたの、ニーニャ、そんな難しい顔をして」
「ちょっと待ってくれる。今色々頭でシミュレーションしてるから」
ニーニャは頭の中で何パターンかの手渡し方法をシミュレーションし、1つの答えを導き出した。
「小細工なんて必要ない……わね」
その言葉を口にしたのち、ニーニャは一度深呼吸をし、大きく頷く。
そしてーー。
「ただいまー、ニーニャ、準備できてるかー?」
玄関から2階にアゲハの声が響く。
ニーニャ聞こえた声にがっくりと肩を落としながら、明人と一緒に玄関へと向かう。
玄関ではアゲハが神主さんのところでいただいたのであろう焼き鳥を片手に持ち、もう片方の手に精霊石を持っていた。
その隣では疲れた顔をした緑も立っていた。
アゲハの声で春奈も仕事を一時中断し、玄関に来たようだ。
「さて、それじゃあ帰るぞ、ニーニャ!」
「え? もう帰るんですか? 出発は今日の朝なんですよね」
「だからだよ」
今の時刻は午前3時、ギリギリのところで朝と言えなくはない。
「ユグドに帰る方法は人目につくと大変なことになるので、人が少ない今の時間が丁度いいんです」
緑がアゲハの話を簡単にかいつまんで説明する。
「そっ、そうなんですね」
「そうだ、だから今すぐ行くぞ!」
「ちょっと待ってください。どうなるかわからないですが、お弁当を詰めるので、少しだけ時間をください」
夜に準備していたお弁当をキッチンで弁当箱に詰め、玄関へと持っていく。
「これです」
「ありがとう」
「サンキュ」
お弁当箱をアゲハとニーニャに手渡す。ニーニャは明人がお弁当を詰めている間に持っておりてきた荷物の中に水平を保てるようにお弁当箱を入れる。
アゲハも自分のリュックにお弁当箱を水平に入れ背負い直す。
「さて、準備は整ったな」
「師匠、あと少しだけ待ってもらえます?」
アゲハの言葉にニーニャが言葉を差し込む。
「まぁ、ミドリの準備が終わるまでは大丈夫だぞ」
「わかりました」
玄関の中には明人とニーニャだけ。ニーニャは先ほどと同じように深呼吸をして、大きく頷き、明人の目をじっと見つめて口を開ける。
「明人、この手紙受け取って欲しいの。私の気持ち。読んでその返事は私が帰ってきたときに教えて」
ニーニャは小刻みに震える手で手紙を明人に差し出す。
明人は真剣な表情でその手紙を受け取りーー。
「ありがとうニーニャ。僕も返事を伝えたいから早く帰ってきてね!」
受け取ったのちハニカミながらニーニャに伝えた。
「当然よ! 速攻で帰ってくるわ!」
ニーニャは満面の笑顔で明人に応える。
外のアゲハが「こっちは準備できたぞー」っと声をかけてきたので、ニーニャと明人は外に出た。
「では、アゲハとニーニャさんをユグドにお送りします」
緑は車の運転席から顔を出しながらそう言った。
「なんか、思ってたのと違いますね」
「そうね」
明人と春奈は魔法陣のようなものが現れて送られるのかと思っていたので、車を見た瞬間ちょっとがっかりしていた。
「これで、ニーニャとアゲハさんを後ろに乗せてゲートみたいなのを通るんですか?」
明人がもう一つの可能性を緑に確認するとーー。
「いいえ、違います」
否定された。
「じゃあ、どうやって?」
「なんとこの車、精霊石を助手席に置き時速60kmで走ることで、車体表面にゲートが発生して、そのままニーニャさんとアゲハの目の前を通り過ぎる2人をユグドに送ることができるのです!」
「……はぁ!?」
信じられないことを聞いた。そんな気持ちでいっぱいな明人であった。当然春奈も同じような反応である。
「まぁ、百聞は一見にしかずですよ」
そう言って緑は少し離れたところまで車を動かし、道路のど真ん中にアゲハ、ニーニャの順に立たせる。
「それじゃあいきますよー!」
緑は軽トラを時速60kmで走らせる。
「明人、いってきます!」
ニーニャは満面の笑みで明人に挨拶をしーー。
「ニーニャ、いってらっしゃい!」
明人の声がニーニャの耳に届いたのと同時に、緑の運転する車はアゲハとニーニャの目の前を通り過ぎ、2人はこの世界から居なくなった。
「これで2人はユグドに送られました」
運転席から出てきた緑の言葉で、明人は初めてニーニャがこの世界からいなくなったこと認識した。
「いってらっしゃい。ニーニャ。きっと無事で帰ってきてね」もう一度明人は心の中で強く願った。
次の更新もしくは後2話で一旦区切ります。
短編等の更新は行う可能性もありますので、完結とは致しません。
お手数お掛けしますが、宜しくお願いします。




