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年末の大掃除

今週分の更新です。

2週間お休みして更に遅れてしまい申し訳ございません。

楽しんで頂けると幸いです。

宜しくお願いします。

ニーニャがユグドに帰ると言ったクリスマスから、4日がたった。

世間はすでに年の瀬気分となり、どのテレビ番組を見ても年末という単語が飛び交っている。

そんな中、森川家は現在年末の大掃除で大忙しである。


「ニーニャ、庭の掃除は終わった?」

「まだよ! 今からレフィアと春奈とやるところよ」

「了解。僕の方は玄関の掃除が終わったからお風呂と洗濯機周りの掃除に移るよ」

「おっけー」


明人とニーニャが廊下のすれ違いざまに軽く言葉を交わし、そのまま各々の担当掃除場所に向かう。

庭ではすでに春奈が軍手を装着し、右手にゴミ袋を持ってスタンバイしていた。


「ニーニャ様、こちらを使用してください」

竹箒を携えたレフィアは軍手をニーニャに軍手とゴミ袋一式を手渡す。


「ニーニャちゃん、レフィアちゃん、よろしくね!」

「まかせて! さっさと終わらせちゃいましょ!」

「はい、枯葉の掃除が終わりましたら草毟りの方をお手伝いいたします」


意気込んだ後、ニーニャは庭に生えていた雑草を一本ずつ抜きゴミ袋に入れ、レフィアは庭に散らばっている枯葉をニーニャたちの邪魔にならないところに集めていく。


庭の半分ほどの雑草を抜き終わった頃、家の窓が開き大きな欠伸をしながらアゲハが庭の様子を伺う。


「おー、よく働いてるなー」


その様子を見たニーニャはいつもように呆れ返っていた。


「師匠、今日は朝から精霊の力を分けてもらいに行くんじゃなかったでしたっけ? そのために緑先生を神社に呼んでましたよね?」

「いやー、ここって朝寒いじゃん? で、布団ってあったかいじゃん? 二度寝するに決まってるよねー!」

「はぁ……この人は本当に……」


ため息混じりにポツリと呟くと同時に先ほどまで窓際にいたアゲハの姿が消えた。呆れている間にキッチンの方に向かったのだろうと思ったニーニャは草毟りに戻ろうと庭に視線を向けるとーーそこには頭から地面に叩きつけられたアゲハの姿。そして、アゲハの四肢を固定する緑の姿があった。


「まさか、私がここでパイルドライバーをかます事になるとは思っていませんでしたよ」

「お前さ、何してくれてんだよ」

「あら、生きてましたか」

「こちとら伊達に戦争生き抜いてないっての」

「はぁ」


緑は残念そうな表情でため息をつき、そのままアゲハから離れた。アゲハは緑が離れる同時に立ち上がりーー。

ぐぅぅぅぅーーお腹を鳴らしていた。


「腹減ったな。ニーニャ、何か食いもんないか?」

「……」

「そうですね。ここに丁度いいものがありますよ」


ニーニャが呆れていると緑がポケットから包み紙に包まった丸い何かを取り出し、アゲハに差し出す。


「これっぽっちじゃ腹なんて膨れねーぞ」

「いいからいいから、食べてみてください。きっと天にも昇る心地になりますよ」

「まじか! そんなにうまいのか!」


すぐさま包み紙を取り外し、口の中に放り込む。

瞬間的に見えた包み紙の中身に春奈とレフィアの顔から血の気が引き、アゲハから目を逸らす。

ニーニャと緑は口の端を吊り上げる笑っている。


アゲハはもぐもぐと口を動かし数秒後ーー泡を吹いて倒れた。

その背には何かを誘うかのように空から神々しい光が差し込む。

ニーニャと緑は胸の前で両手を合わせてこうべを垂れた。その表情は何かを成し遂げた達成感で彩られていた。


「ついに、ついにやりましたね! 緑先生」

「えぇ、本当に、本当に長かった……」


緑は目を瞑るとうっすらと涙を浮かべる。これまでアゲハによってもたらされた苦労を噛みしめているのだろう。


「ここでアゲハとの因縁が終わると思うと、嬉しいような、晴れやかなようなーー複雑な気分です」

「私も同じです。なんといいますか、爽やかなような、清々しいようなーー複雑な気分です」


「そうかそうか、そんなにいい気分なんだな」


慈愛に満ちた笑顔をしていたニーニャと緑は声が聞こえたのと同時にしかめ面になっていた。


「流石に死ぬかと思ったぞ」

「ちっ……天に召されなかったんですね……」

舌打ちとともにニーニャは毒を吐いた。


「私の毒耐性を甘くみるなよ!」

「くっ、その毒耐性も計算して作ったというのに……」

「すみません、私の見積もりが甘かったみたいです」

緑は悔しそうに、ニーニャは自分の見積もりが甘かったことを嘆いていた。


「まぁ、そんなことはどうでもいいんだけど、さっきので一層腹が減ったんだけど」

悔しがっている2人を傍目にアゲハがお腹をさすっているとーー。


「ニーニャ、レフィアさん、春奈さん、少し休みましょうか」

お風呂と洗濯機周りの掃除を終えた明人がおやつと飲み物を乗せたお盆を持って窓を開けた。

その瞬間アゲハは動いた。ニーニャと緑が集中していればアゲハの行動を止めることをできた。しかし、一瞬明人が窓を開けたその瞬間だけ意識が明人に移ってしまった。そのことに気づいた時には時すでに遅し。


「しまっ……」


アゲハは行動の最終局面に入っていた。

そう、明人が持ってきたお菓子目掛けて手を伸ばしたのである。


急接近する物体に明人は驚き、右足を一歩後ろに下げようとしたが左足に引っかかりバランスを崩してしまった。

そのまま明人は手に持っていたお盆を放り投げ、その場に尻餅をつく。


「いつっ……」


空中に舞ったカップからはいれたての熱いお茶やコーヒーが宙を舞う。カップが落ちてくると悟った明人は頭に手を置き頭を守り目を瞑ったが一向にカップも宙を舞ったコーヒーも落ちてくることはなかった。


「大丈夫ですか? 森川くん」

明人が目を開けると、液体の入ったコップを乗せたお盆を持った緑がすぐ近くに立っていた。


「大丈夫です! ありがとうございます!」

緑にお礼を言ったところで明人は首をかしげる。


「そういえば、森山先生はなぜ(うち)にいるんですか?」

緑は空いている左手でアゲハを指差す。それをみた明人も何かを察したようだ。

持っていたお盆をテーブルの上に置き、緑はお菓子に夢中なアゲハの首根っこを掴み、そのまま玄関の方まで引きずっていった。


「ニーニャさん、おそらく本日中には溜まりきりますので、明日朝の出発になると思っておいてください」

玄関から聞こえた緑の言葉に、ニーニャと明人は無言で頷き、レフィアと春奈は眉を寄せ、悲しそうな表情をしていた。


「明人さん、春奈様、おねがーー」

「レフィアさん、ちょっと瑞波を呼びにいってきてくれないかな? あと、健人の足止めをお願い」

レフィアが何かを言いかけたのを遮るように明人が言葉を重ね、その言葉をきいたレフィアは両手を前で握り、綺麗なお辞儀をした。


「わかりました。ありがとうございます」

静かにそういうと、レフィアはすぐさま木崎家へと向かった。


「さて、僕らも年末の大掃除は中断して、色々と話をしよう」

「そうね、でも、瑞波が来るまではお茶とお菓子で休憩したいわ」

「もちろん」


明人も頷き、春奈も一緒に頷いていた。

休憩に入ってからしばらくすると、玄関をあけ放ち瑞波が挨拶もなしに入ってきた。


「瑞波、家に上がる時は玄関は閉めないと」

注意するニーニャに駆け寄りその体を瑞波はぎゅっと抱きしめる。


「レフィアちゃんから話を聞いたの。なんで帰っちゃうの。この世界でやるべきことを全て終えちゃったの。それともこの世界に価値がなくなった。それともーー」

瑞波は目にいっぱいの涙を溜めながらまくしたてるようにニーニャに質問をする。

「それに明人、あんたニーニャちゃんを止めるどころかユグドに戻るように言うなんてどう言うことよ!」

涙を流しながら瑞波は明人を睨みつけた。


「その辺りの詳しい話をするために呼んだんだよ。とりあえず、垂れている鼻水と涙を拭きなよ」

そういって明人はテッシュ箱を瑞波に手渡し、空いている席に着くように促す。


「じゃあ、ニーニャから説明をお願い」

「わかったわ」


そこで瑞波にはクリスマスの夜に行われた話の全てを伝えた。


「うん、それは戻った方がいいわね!」

ニーニャの話が終わる頃には涙も引いていた。


「瑞波もそう思うだろ」

「うん、こんな説明されたら後押しするしかないじゃない」

「ってことで、本日はニーニャ、レフィアさん送迎会を家でやろうと思うんだ」

「なるほど、掃除の手が必要ってことね! まかせて!」

瑞波は胸を張りながら、拳で軽く胸を叩いていた。


「明人、私はなにを手伝えばいい?」

「いや、主役はのんびりしてくれてたらいいよ」

「そんな訳にはいかないわ! っていうか、私が手伝いたいのよ。できたら料理の手伝いとかがいいわ」

その意図を察した春奈と瑞波はーー。


「いいじゃない! 今日を逃したら当分ニーニャちゃんの作ったご飯が食べれないのよ!」

「そうよそうよ! 私もニーニャちゃんの作ったご飯を食べたい!」

「うーん……じゃあ手伝ってもらってもいいかな?」


その言葉を聞いたニーニャは満面の笑みで「うん!」と答えたのであった。

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