ユグドの事情とニーニャの決意
今週分の更新です。
楽しんでいたので頂けると幸いです。
宜しくお願いします。
まずはニーニャがユグドで何が起こりこちらの世界に来たのか、こちらの世界に来てから何があったのかを重要な点だけピックアップしてアゲハに説明をする。
アゲハはニーニャの説明を静かに聞き、時に頷き、時にお茶をすすり、時に笑い、時にツッコミを入れていた。
多少の脱線をしつつ、小1時間ほどでニーニャの身に何が起こったのかの説明が終わり、続いてアゲハが口を開いた。
「私の説明をする前に、まず最初に聞きたいことがあるのよ」
ニーニャが首を傾げながら質問を促す。
「本当にここはミドリの部屋なの?」
「まだ言うか!!」
「いやーだってこんなに綺麗なミドリの部屋とか……居心地悪いんだよ」
「だったら別のところで話せばいいでしょうが!」
「連れてきたのはお前だろ?」
「あー言えばこー言う、だからあんたは面倒くさいのよ!!」
普段の緑であればどこか余裕がある雰囲気を醸し出しているのだが、アゲハと話している緑はまるで子供のようだ。
明人とニーニャもその様子を見て呆然としてしまう。
「森川君! あなたの家に移動しましょう! これ以上は私の堪忍袋が限界です!!」
あっけにとられていた明人に急に話題が振られたため、少しの間硬直した。この時、反射的に「はい」と答えなかったあたり明人は一歩引いた目線でアゲハと緑のやり取りを見ることができていたのかもしれない。
「えっと、すみません、今日は無理なんです」
「なんでですか!?」
「実は……春奈さんが締め切りを破った別のライターさんの埋め合わせで原稿を書いてて……」
「え? ちょっと待ってください……今日はクリスマスですよ__聖なる夜ですよ?」
「はい、その聖なる夜に春奈さんは家で缶詰です」
明人は固く目を閉じ、缶詰をしている春奈のことを思い出しながら声を絞り出す。
その様子を見た緑は口に手を当て息を飲んだ。
「神様はなんて残酷なの」
この様子を見て何も言わないあたりアゲハも空気を読めるエルフのようだ。
「でも、この原稿が終わったら森山先生に合コン開いてもらえるから頑張る! と言ってたんで少し安心してるんですよ」
「へっ?」
「え?」
先ほどまで春奈がいたたまれないと思っていた緑は明人の言葉を聞いてキョトンとする。
明人はてっきり緑と春奈の間で話がついていると思っていたが、今の緑の反応は何も聞いていないと言う反応である。
「え? 私が? 春奈さんの?」
「はい、少し前に約束したとか」
「…………あっ……」
そうクリスマスの少し前、まともに恋愛をしたことがないと嘆いていた春奈に、緑は合コンをセッティングすると伝えていたのである。そのことを思い出した緑の顔から血の気が引き、そこまで暑くもないのに、変な汗が頬をつたう。
「えっと、森山先生」
緑は携帯を手に取り、凄い勢いで電話帳を漁り始める。
「森川君、ニーニャちゃん、私は今から合コンセッティングのため色々と電話をかけることになるから離席するわ! 話はここでしていていいから」
「それだとユグドの事情がわからないんじゃないの?」
ニーニャが尋ねると__
「大体の事情はわかるから大丈夫よ! あとアゲハ、私が出て行ってから笑ったら精霊力を纏わせた拳で1000回殴り飛ばすから!」
と言い残し緑はトイレにこもった。
明人とニーニャもそこまで言わなくても笑わないだろうと思い、アゲハに視線を戻す。
目の前には俯いたアゲハ。明人と緑のやり取りの途中で寝てしまったのだろうか。そう思いながら明人はアゲハの肩に手を置き起こそうとすると、アゲハの肩は小刻みに震えていた。
「ぷっ……くくくくく……あははははははははは……ひぃひぃ……さいっっっこう!!」
大爆笑である。どうやらアゲハが俯いていたのは緑と明人の会話が面白すぎて笑いを堪えていただけのようだ。
今の会話のどこに笑う要素があったのか明人とニーニャは分からなかった__。
ただ、ひとつだけは分かることはある。それはこの後緑が戻ってきた時にアゲハと緑によって激闘が起こるということ。
■
それからしばらくは会話ができる状態ではなかった。真面目な話をしようとアゲハが話し始めるが、すぐに先ほどの光景を思い出してか笑いがこみ上げ話を続けることができなかった。
「さて、しっかり笑わせてもらったから話をするか」
そう言うとアゲハは一口お茶を口に含み__。
「単刀直入に言うぞ。 ニーニャ、お前をミルストリア王国に連れ戻す。それが私の役目だ」
おそらくニーニャは予想ができていたのであろう。アゲハの目をじっと見つめている。
「『なぜ?』って聞き返さないのか?」
「はい。でも一言言わせてもらいます。『いやだ』と」
アゲハもニーニャの目をじっとみつめる。両者の間に何か火花が散っているようだ。
「今ユグドが、ミルストリア王国が、お前の領地がどうなっているのか……わかって言ってるのか?」
「いえ、しかし、まだ私がこちらにきてから1年も立っておりませんので、そこまで様変わりしていないでしょう」
ニーニャの言葉にアゲハは考えこむ。先ほどのニーニャの説明の時もそうである。期間の話をするたびにアゲハは考え込んでいた。ニーニャは説明に夢中でその様子を見ていなかったようだが、明人は気になっていた。
「その1年も立っていないってところなんだけど……ユグドではお前が居なくなって既に60年が経過しているんだ」
「ふぇ!?」
60年__エルフからしてもそこそこ重みのある年数である。多少の時間の誤差があることは想像していたようだが、ニーニャの驚いている様子からそれほどの時間の差異があるとは考えていなかったようだ。
「流石に60年も経てば色々と情勢が変わりますね……今ユグドがどうなっているのか教えていただけませんか?」
アゲハは頷き、口を開いた。
「ここ数十年ユグド全域で天変地異が起こっている。それにより、ミルストリア王国の領土でも日照りや大洪水、地震や火山の噴火、竜巻や一部の砂漠化。これらの災害に見舞われているんだ。ちなみに、ニーニャの領土では__」
「おそらく、洪水と竜巻。あとは一部の砂漠化ですか」
「正解」
不在にしていたとはいえニーニャの領土である。自分の領土でどのような災害が起こるかは見当がついていたのであろう。
「領民たちは……」
ニーニャの声は震えている。
「そこは安心していい。ニーニャの領土の領民だなんだかんだで災害に打ち勝って、あまつさえほかの領土の支援に行ってるよ__」
ニーニャはホッと胸をなでおろした__が、しかし、アゲハの言葉には続きがあった。
「ただ、それもそろそろ限界が近づいているんだけどな」
結局ニーニャは安心することができないままであった。
「で、王はこの天変地異を沈めるため、儀式を執り行うことにしたわけ」
「なるほど、それで私なんですね」
「そう言うこと」
首を傾げている明人を見たニーニャは__。
「えっとね、実は私って王族の中で唯一結界系の精霊術を使えるエルフなの。だから、私の力で天変地異を封印しようってことなのよ」
「天変地異を封印?」
天変地異とは自然界に突発的に発生する災害のため、封印などをすることはできない。せいぜい天変地異が起こった時にいかにして被害を最小限にするかを考え対策をとる程度だ。
「ユグドの天変地異は、精霊を暴走させる核が長きにわたる封印を破って出現することで発生するんだ」
アゲハの補足により明人は何を封印するかを理解した。
「なるほど、だからその核を再封印するためにニーニャの力が必要なわけですね」
明人の言葉にアゲハは首を縦に降る。
「まっ、とはいえ、ニーニャさんがわざわざ帰るほどのことでもないですけどね」
廊下の方から少し疲れた顔をした緑が携帯を持って戻ってきた。
「どうでした?」
「まぁ、私が本気をだせばこれくらい大したことないですよ」
そう言って緑はニーニャのとなりに腰をおろし__。
「私が知る限りの情報では、既に災害対策部隊が沈静化に動いているはずです。その辺りはどうなっているんですか」
「はぁ……その認識で間違いない。殆どの地域は災害対策部隊によって封印されている。ただ、最も被害が出ている地域は未だに封印できていないんだ」
「で、その原因は?」
「神獣が核になっている地域があるんだよ」
「え? あんたたちなにやったのよ」
想像の斜め上の回答だったのか、緑は眉をひそめる。
「それを巫女が聞いてきたんだよ。で、神獣の回答が『ニーニャと遊びたい』だそうだ」
「えっとそれって……」
アゲハ、緑、明人がニーニャに視線を向ける。ニーニャはアゲハに視線を送り、何かを理解したアゲハは1つ頷いた。
「師匠と旅をしている時に助けた白い獣がいたのよ。その子が神獣だったの。で、その助けた子を然るべきところに返したまではいいんだけど、その子が定期的に私のところに現れるようになったのよ。その度に2、3日遊んであげて、満足したら帰るを繰り返していたんだけど……」
つまり、ニーニャと一定期間遊べなくなった神獣はニーニャと遊びたいという目的のためだけに天変地異を起こしているという。
「なんとも傍迷惑な……」
緑は額に手を当て、首を左右に振る。
「まっ、そんなわけでニーニャに帰ってきてもらわないと困るんだ。まぁどうしても嫌だっていうなら神獣を殺すって手もあるんだけどな」
その選択肢はニーニャに委ねられている。いきなりの内容でニーニャもまともに思考ができないため、一旦小休止を挟むことになった。
アゲハと緑は近くのコンビニへ買い出しへ行き、部屋は明人とニーニャの2人になった。
「明人、私はどうすればいいと思う?」
ここで明人が行かないでくれといえば、ニーニャは留まってくれるかもしれない。だが__。
「行ってきなよ。行って天変地異をすぱっと解決して戻ってくればいいんだよ!」
「いや、でも、帰ってこれないかもしれないのよ……」
「かもしれないね。でも、ニーニャはそれでいいの? 顔に行きたいって書いてあるよ」
「うそ! 誰よそんなイタズラしたの」
ニーニャは両手で頬を触る。当然だがマジックなどで書かれているわけではない。
「ニーニャ、動かなくて後悔するよりも動いて後悔した方がいい。そう思って君も行動して、この世界に来ていろいろなことを学んだんだろ。だったら、今回もニーニャは行動に移すべきだよ」
それからニーニャは暫く考えた。明人はニーニャが答えを出すまで静かに待ち続けた。
「うん、明人、私ちょっとユグドに帰るわ」
こうしてニーニャがユグドに帰る決意を表明した。




