決着、そして邂逅
今年最後の更新です。
楽しんでいただけると幸いです。
宜しくお願いします。
様々な思いが交差したプレゼント交換が終わり、クリスマス会もいよいよ大詰めというタイミングで、体育館にいる教師陣が慌ててクリスマス会実行委員のいるステージ裏へと駆け込んだ。
それから少しすると、現在ステージで行なっている手品研究会の手品を中断し、生徒たちがざわめく中1人の教師がステージに上がった。
「えー、クリスマス会を楽しんでいる皆さん。先ほど役所の方から一匹の野生のイノシシが本校のグラウンドに出没したという連絡を受けました。そのため、イノシシの対処が終わるまでは皆さんはこの体育館から出ないようにしてください」
なにがあったのかと心配していた生徒たちであるが、教師の一言を聞き張り詰めた空気が一気に霧散した。
「いやいやいや、ちょっと待って、なによこのそんな事かーみたいな空気は! イノシシが学校に侵入したのよ!」
ニーニャは近くに住む猟師から語られたイノシシの怖さを思い出したのか、身を震わせていた。
「あー、そっか、ニーニャが来てから初めてだったか」
「え?」
「たまにあるのよ、イノシシが侵入することって」
「うそ」
「ほんとほんと、去年なんて駐車場にイノシシが侵入して先生の車に片っ端から体当たりするって事件があってさ。体当たりされた先生はほんとうに可哀想だったわ」
当時のことを思い出し、瑞波、明人、健人は一様に頷き、ニーニャは開いた口が塞がらない。
「えっと……その時はどうしたの?」
「役所の人が来て、然るべき対処をしてくれたわよ。車はどうなったかは知らないけど」
「なっ、なるほど……役所の人も慣れたものな……」
ニーニャは自分の言葉を途中で切り、グラウンドの方に視線を向け睨みつける。
「急にどうしたの、ニーニャ」
「……ちょっと気になったことがあって」
そういうと体育館全体を見回し__。
「この感じ、やっぱり……」
ニーニャはうつむきながら、小さな声で自分に言い聞かせるように言葉を吐き、一度深呼吸をする。
「うん、気のせいだったわ! でもこの町の役所の人たちってすごいのね!」
顔を上げた頃にはいつものニーニャに戻っていた。
何か気になることがあったのだろうと思った明人であったが、ニーニャが口にしない以上追求をしようとは思わず。
「まっ、イノシシと鹿と猿の対処は心得てると思うよ!」
いつもの調子でニーニャに応えた。
■
黒い雲が空を覆い、グラウンドではイノシシとアゲハが睨み合っている。
『アゲハ……さすがにもうそろそろ限界かも……』
節約しながら使っていた肉体強化ではあるが、タイテーニアの精霊力が完全に底をつきそうになっていた。最後の力を振りしぼって一撃__と考えてもいたが、その最後の力を出すこともできなさそうだ。
「ここまでありがとね、ティア。肉体強化を解除して寝てていいわよ。あとは、私がなんとかする!」
『ダメよそん……』
タイテーニアの反論の言葉が最後まで紡がれることはなかった。
「さってと、どうしようかな」
エルフとはいえ、肉体の耐久性は人間と同じである。強化されていない状態でイノシシの突進を受ければ当然命を落とす可能性もある。直撃を受けなかったとしても骨の1、2本は覚悟しなければならない。
肉体強化が解除された状態で撃退するには、対抗するための武器が必要である。アゲハは周りを見渡すが、あるのは細かい砂利ばかり。
「もうちょっと障害物が多い場所に逃げ込むべきだったわね」
後悔しても後の祭りであるが、後悔せずにはいられない状態であった。
アゲハの言葉を聞いてか、イノシシは足で地面をふみ鳴らし、そして突進の勢いをつけるべく前足で砂利を掻きはじめる。
「見る、見る、見る!」
一瞬が勝負を分ける。タイミングを外せば確実に体の一部が機能停止する。そうなれば2度目の突進をかわすことはできなくなる。
アゲハはイノシシが体重を前にかけたのを見定め、左に避けるよう重心を多少左に乗せた。
次の瞬間、案の定イノシシは勢いよく突撃して来た。避けるタイミングは完璧であった。しかし、イノシシは突進で踏み切る前に多少右に重心をおいていた。これは踏み切る前の一瞬でアゲハの体の重心を見定めた結果である。
そのため、本来であれば避け切れるだけの距離であったが、突進の軌道が多少右に傾いたため、アゲハの右足にイノシシの足が当たるような形になった。
「ぎっ…………あっっっっっっっっがっっっっっ」
嫌な音が聞こえた。あまりの痛みに声すら出ない。酸素を取り込もうと呼吸が荒くなり、額からは脂汗が流れてくる。だがイノシシからは目を離さない。むしろより一層怒りの念を込めてイノシシを睨みつける。
アゲハの様子を見たイノシシはすぐさま次の突進の準備を始める。
追い込まれた動物は恐ろしい。直感的にそう感じ取ったのであろう。イノシシは急ぎ地面を前足でかき__そして先ほどよりも強い力でアゲハに向かって走り出した。
「ぐっ、ぢぐじょおおおおおおおおお!」
イノシシが走り出すと同時に折れた右足を地面に叩きつけた。その反動を利用して突進を避けようとした。目からは自然と涙が溢れていた。
が、しかし、勢いあまりグラウンドの砂利に足がとられた。ただただ右足に激痛だけが残り、その場で体が地面に倒れる。
「あ“っあ”あ“あ”……」
言葉は出ない。死ぬ前に一言悪態の一つでもついて死んでやりたかったが、そんなことさえできないのか。
「あっ……」
そうしてイノシシの突進を真正面から__受けることはなかった。
最大限の力を込めて突進をしたにもかかわらず、そこに物体と衝突した衝撃が発生することはなかった。そのことに驚いたイノシシは焦りながら周りを見渡す。しかし周りにアゲハの姿を見つけることはできなかった。そのことに恐怖を感じたイノシシはグラウンドを走り回った。
そうしてしばらく走り回っていると役所の害獣駆除班がグラウンドに到着し、適切な処理が行われることとなった。
こうしてアゲハとイノシシの激闘はあっけなく終わったのである。
「しょーもない生だったわ」
「なにがしょーもない生よ。まったく」
そこは死後の世界であるはずなのに、聞き覚えのある懐かしい声が耳を打つ。その声に惹かれアゲハは固くつぶった瞼を開いた。
「……ミドリ! あんたなんで死後の世界に!?」
「バカなの?」
そういうと緑はアゲハをその場におろし、右足に触れる。
「あ“がっ……」
激痛を伴うということはまだ体が現世にあるということ。皮肉にもその激痛によりアゲハは自分が死んでいないことを理解した。
「じゃっ……じゃあここはどこなのよ」
「ここはグラウンドから離れた校舎の中よ」
緑はアゲハの腫れ上がった足からブーツを脱がし、腫れの患部に7色の石と手を当て精霊の力に呼びかける。
「癒しを」
その一言で石は強く輝き出す。その輝きが治ると、アゲハの足の腫れが引いていた。
「なっ……あんた……」
「どうしたの?」
「この精霊のいない地で、こんな高度な精霊術を……どういうことなのよ」
「秘蔵の精霊石を持ち出したんだから感謝しなさいよ。とはいえ、この精霊石に溜めていた精霊力を使用しても完治までは無理だったわ」
アゲハは廊下に右足をつくと、軽い痛みはあるものの立てないほどではない。
「ありが……ってミドリ、あんたこんなところでなにやってるのよ!」
「なにって、教師をやっているわ」
訳が分からないアゲハは首を傾げた。その様子を見て緑は__。
「教師ってのは__」
「それはわかってる。教育者でしょ」
言葉の意味は理解できているが、緑が教師をしていることが理解できなかったのである。
「いや、あのミドリが教師をしているなんて」
「あー、まぁそうよね。あの頃の私を知ってたらそうなるわね」
「そりゃそうでしょ!! 戦場の悪夢、災害とも呼ばれていたミドリよ! 誰が教師をしてるなんて思うのよ」
アゲハとミドリはユグドでの戦場で仲間として戦ったのである。2人が戦場に立っていた頃はユグドでの勢力争いや魔物との戦いが激化している頃であった。そんななかアゲハは精霊の女王との契約を結び世界最強の精霊使いとなり、緑に至っては戦場で姿が見えればその戦場の全ての敵を死に至らしめるとされ、敵からはおそれられていた。
そんな死神のような存在が教師をしているのである。当時の緑を知る者からは驚愕以外の何者でもない。
「まっ、私の話はおいおいね。それよりも、あんたはこんなところでなにしてるのよ。この世界には私ともう1人しかエルフがいないはずなのに」
「少し前に、この世界に神域が現れただろ。その時にたまたまティアの力で世界を見てたら、あんたがいたから挨拶にと思って。ティアの力を使って転世してきたのよ。それに、知り合いに似た少女もいたもんでね」
「知り合いに似た少女?」
「ミルストリア王国 第15王女 ニーニャ=ミルストリア よ」
アゲハの言葉を聞き、緑は合点がいった。しかし、この場合アゲハとニーニャを合わせるべきか。そこが問題であるが、なにも言葉を返さないのは逆にニーニャがこの世界にいることの照明になってしまう。
「誰よそれ?」
「ん? あぁ、お前の姿がユグドで見えなくなってからだったがミルストリア王国が建国されたのは……」
ユグドの情勢についても緑は情報を仕入れているため、その辺りの事情は把握している。
「あれだよ、戦場のお調子者と言われたゲリアが建国した国だよ。そこの第15王女が私の弟子で、ここ最近姿をくらましてな。短期間いなくなるのはいつものことだが、かれこれ50年ほど姿が見えないからさすがのゲリアも心配し始めて、私に捜索依頼を出したわけよ」
「へぇ、あのゲリアが国をね。で、その王女の師匠があんたと……あんた師匠とかできるの?」
「なんだよ! 私だってやればできるんだぞ!」
「いや、あんたの説明『あーやってこーやってドーンだ!』とかだったじゃない」
アゲハがニーニャの師匠をやっていたことは知らなかったが、過去のアゲハを知っている緑からすると、ものを教える人材とは到底思えなかった。
「まぁ、大半が実地訓練だったしな」
あっけらかんというアゲハの言葉に緑は涙を流しそうになった。
「おいおい、私の成長がそんなに嬉しいのか?」
当然そうではない。緑はニーニャの不憫さに涙したのである。
カツン__。
足音が聞こえた。
「だれ?」
アゲハは足音の方に視線を向け警戒する。
緑は足音の方に視線を向けため息を一つつく。
影から出てきたのはニーニャであった。
本年も読んでいただきありがとうございました。
来年も今年と同じペースで更新いたしますので、宜しければニーニャの行く末を見守っていただけるとありがたいです。
Twitterなどもやっていますので、宜しければそちらも見てみてください。
ポケカとソシャゲの話しかしないですが……
それでは皆さん、よいお年を!




