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衣食住と先立つ物と

本日の投稿です。

楽しんで頂けると幸いです。

よろしくお願いします。

朝食の片付けを終え、全員がリビングで一息ついたタイミングで明人が口を開く。


「今日なんだけど、二人の衣類とか必要なものの買い出しに行こうと思うんだけど、日本のお金なんて持ってないよね?」

昨日、こちらの世界に来たばかりの二人が日本の通貨を持ってるはずもないと思いながら、明人は念のため確認する。


「そうですね、日本のお金は持っていませんが――」

と言いながらレフィアがポケットから貴金属と宝石類を取り出した。

ニーニャも同じようにポケットから貴金属と宝石類とユグドの通貨が入った袋を取り出していた。


「ここにある宝石、貴金属類を日本のお金に変えることは可能でしょうか?」

テーブルの上に貴金属と宝石の小山ができるくらいの量はあった。


これだけの貴金属や宝石を換金すると怪しまれる可能性もある。そもそもユグドでは宝石や貴金属と扱われていた代物でも、日本でも同等に扱われるかは不明だ。

それ以外にも、宝石の価値を日本で正当に評価することができるのか、ユグドにしか存在しない鉱物などが含まれており、それがきっかけで面倒ごとの種になってしまうかもしれない。

様々な要因が考えられるものを安易に売却するわけにはいかないと考える明人は春奈に助力を求めた。


「どうしましょう、春奈さん」

春奈は明人の呼びかけに気づかず、机の上に置かれた宝石や貴金属をまじまじと見つている。

「春奈さん?」

「あっ、ごめんごめん、ついつい宝石と貴金属に目がいっちゃって」

春奈は机の上に置かれた宝石類から目を離さず明人の呼びかけに応える。


「えーと……それでどうしましょう。僕は売らない方がいいと思うんですが」

「そうね、私も同意見よ。色々問題も起こりそうだし」

春奈も明人の意見に賛成を示し、この宝石類は売却すべきでないという判断に至った。


そのやりとりを見ていた、ニーニャは――

「やっぱりダメだったかぁ」

とテーブルにうな垂れた。


「ニーニャ様、行儀が悪いですよ」

レフィアが注意すると、ニーニャはうな垂れたまま顔だけをレフィアの方に向け、不平を漏らす。


「だってさ、もっと価値のあるものを持って行こうって言ったのに、レフィアが止めるから」

「それはそうでしょう。王家の秘宝級の宝石を持ち出そうとしていたのですから、お止めするのが普通です」

「でもさ、価値がない宝石しか持ってこれなかったから、こっちで売らない方がいいって明人と春奈は言ってるんでしょ。だったらやっぱりあの秘宝を……」

そこまで言ったところでニーニャの言葉は遮られた。


「ちょ、ちょっと待ってよニーニャ」

「?」

割り込んで来た明人の方にうな垂れたまま顔を向け、ニーニャは疑問符を浮かべる。


「ここにある宝石や貴金属が、この世界で価値があるかは調べないとわからないよ」

「でも売らないって言ってたでしょ」

「ニーニャちゃん、売らないと売れないは違う意味合いなの。私たちがこの宝石や貴金属を売らないって決めたのは、異世界のモノだからよ」

春奈はニーニャとレフィアの分かるようになぜこの宝石や貴金属を売らないかを説明する。

それを聞いて納得したのか、ニーニャもうな垂れている体制から姿勢を元に戻していた。


「そういうことなら仕方ないけど、衣服のお金どうしよう……」

「ニーニャ様、これは衣服の話だけではありません……」

「どういうこと?」

「これらの宝石と貴金属でお金を得られない、ということは……住む場所も、食べるものも買えないということです」

レフィアは諭すように、静かにニーニャに告げた。

その言葉を聞いたニーニャの顔から血の気が引いていく。


「ほんとに……どうしよう……」

ニーニャはまたしてもテーブルにうな垂れ、レフィアもこの状況は想定外だったのか、同じくテーブルにうな垂れる。


住む場所と食べるものにも困る、とうな垂れる二人を見て春奈は明人の耳元で――

「明人、あんたニーニャちゃんとレフィアちゃんにあのこと話してないの?」

と聞く。


春奈からの質問に対してしばらく考えた明人は、トイレ騒動で二人に大事なことを伝えていないことを思い出した。

「あっ……、忘れてました……」

「それじゃあ、こうなっても仕方ないわね」

春奈はやれやれと言った感じに肩をすくめる。


「こうなったら、この家を出た後に宝石や貴金属を買い取っているお店に行って、売ってでもお金を稼ぐしか……この家を出た後だったら明人や春奈に迷惑もかからないわ」

「そうですね、ニーニャ様、もうそれしか方法がないような……。しかし私たちだけで日本で商いをすることはできるでしょうか?」


「ふふ、私の本当の力を見せる時が来たようね」

「ニーニャ様、まさかニーニャ様に隠された力が……」

「ええ、この姿でしかできない最終奥義よ!」


「ゴクリ……いったいどんな技なのですか……」

「泣いて懇願する」

「……申し訳ありません、ニーニャ様、もう一度お聞かせ願えますか?」


「だから、泣いて懇願するのよ。世界が違えど、子供が泣いて懇願すれば大人も根負けするでしょう」

「……おいたわしや、ニーニャ様……ううっ」

うな垂れたまま会話を続ける二人を見て、明人が声をかけた。


「ニーニャ、レフィアさん、二人にお話があります」

二人は、今はそれどころではないと思いつつも、うな垂れたまま顔だけを明人の方に向ける。

「なに?」

「なんですか?」


明人はコホンと咳払いを一つして――

「この家には3部屋ほど空き部屋があるから、よかったらその内の1部屋を使わないかなって思ってさ。ちょうど住むところも探さないといけないみたいだしさ」


ニーニャとレフィアは一度互いの顔を見てから、姿勢を正し、明人の方を向いた。

「本当にいいの?」

「本当にいいんですか?」


「うん、春奈さんにもオッケーはもらってるよ」

ニーニャとレフィアが春奈の方を向くと、うんとうなずきを一つ返した。


春奈のうなずきを見て、ニーニャは真剣な目で明人の方を見て――

「住居を提供してくれると言っているあなた達からすると、図々しいことかもしれないけど、一つだけ、わがままを言ってもいいかしら」


コクン――。

明人はニーニャの言葉に一つうなずきを返した。


「私は、住居を借り受けるのに対価を支払わないっていうのは嫌なの。何かを得るには対価が必要だと思っているわ。それは精霊の力を借り受けるのと一緒。絶対に崩してはいけない世界の真理なの。だから、私たちが支払える対価なら何でも支払うわ。対価としてここにある宝石類が欲しいというのなら、すべては無理だけど一部なら……」


「なるほど、部屋を貸す対価ね。確かにそのあたり何も決めてませんでしたね、春奈さん」

「そうね、どうする、宝石でも貰っとく?」

明人と春奈が気を抜いた感じでしている会話が終わるのを静かに待っていた。


「まっ、そのあたりは明人が決めていいよ。私は居候の身だし」

「ん~、わかりました」

春奈との会話を終え、明人はニーニャとレフィアの方に向き直る。


「じゃあ、こうしよう。ニーニャとレフィアさん、二人には家にいる間、家事の手伝いをしてもらいます。それを対価として、住居と食事の提供を約束しましょう」

明人の言葉にニーニャの口がふさがらず、レフィアも困惑している。


「そうね、それが一番いいわね。明人の手伝い宜しくね!」

春奈は明人の言葉に同意し二人によろしくと伝えた。


「ほ、本当にそんなのでいいの?」

「もちろん! 家主が言ってるんだからそれでいいんだよ」


その言葉を聞いた二人は――

「明人、春奈、本当にありがとう! そして、これからよろしくお願いします!」

「明人様、春奈様、本当に、本当にありがとうございます。このご恩は必ずお返しします。これから、よろしくお願いいたします」

二人は深々と頭を下げてお礼を言った。


住居と食事の問題はこれで解決した。そのことに喜んでいるニーニャとレフィアを見て春奈は話を本題に戻す。

「で、衣服を買いに行くお金の話に戻すんだけどさ」


その一言を聞き、喜んでいたニーニャとレフィアは一転、不安な表情をあらわにした。

「そっちの問題が……片付いてなかった……」

明らかにトーンの下がった声で、ニーニャの口から言葉が吐き出された。


「うん、でさ、当面の衣服を買うためのお金と必要なものを買うお金を、私の方で出してあげようかなって思ってるの。当然対価は要求するけどね」

先ほどのニーニャの反応を見ていた春奈は、先に対価を求めると伝える。


「ええ、私たちにできることなら何でも言って」

「じゃあ、エッチな要求をしても?」

ニヤついた顔をしておっさんみたいな要求をしようと確認すると。


「え……えっちなこと……いや、あの、それは、私たち女同士ですよ……?」

「こっちの世界では女同士もアリなのよ」

グヘヘといわんばかりのゲス顔をさらす身内にこれ以上粗相をさせるわけにはと思い明人が口を挟む。


「春奈さん、いいかげ……」

「わかりました」

明人が口をはさみ切る前に、ニーニャが了承の意を示した。


「ちょっ、ニーニャ!?」

「ニーニャ様!?」

「いいの、それで済むのなら」

明人とレフィアの驚きの声に、ニーニャは静かに応えた。


「はぁ、冗談よ、冗談、私は普通に男が好きだから。でもね、ニーニャちゃん、簡単に『なんでもする』なんて言っちゃだめよ。こういうことを要求してくるやからもいるんだから。気をつけなさいね」

春奈は右手をパタパタ降り、あきれ顔でニーニャに注意した。


「えっ、あっ、はい」

不意のことでニーニャも反応しきれていない。


「私が要求する対価は、この宝石よ」

春奈は宝石の小山から真っ黒な宝石を手に取った。

遠目から見ると真っ黒な宝石だが、よく見ると黒の中にきらめく光がちりばめられており、光の当たる角度によって様々な色に変化する。とても幻想的な宝石である。


「この宝石が対価でいいんですか?」

「うん、さっきこの宝石を見て、一目ぼれしちゃったの!」

手に取った宝石に頬ずりしながら春奈は答える。


「そんなのでよければ、もう一つ持っていきますか?」

「えっ、いいの! じゃあ、もう一つ貰っちゃおっと!」

かくして、ニーニャとレフィアはここでの衣食住問題は解決したのだった。

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