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秋の味覚とパーティー

今週分の更新です。

楽しんでいただけると幸いです。

宜しくお願いします。

文化祭が終わり、少し騒がしかった日常から解放された次の週の土曜日。


時刻は昼の15時を回ろうとしていた頃。


明人はいつものようにレフィアと分担し家事をこなしていると、玄関の扉が勢いよく開いた。


「明人! 今日はパーティーよ!」


そう言って玄関の前に立っていたのは早朝から春奈と出かけていたニーニャであった。その姿はあちこちが泥で汚れており、ところどころ服も破れ一部裂傷を伴っている箇所もあった。


「ど――」


「ニーニャ様! そんな姿では傷に菌が入ってしまいます! すぐにお風呂で体を洗い、傷口の手当てを!」


明人がニーニャの様子を聞こうとしたその瞬間。レフィアはニーニャをお風呂に連行して行った。


その様子を見た明人はリビングに戻り洗濯物の山からニーニャの服を手に取った。


「レフィアさん、風呂場前に衣類置いときますね。下着は持ってきてないです」


「ありがとうございます。下着は私が持ち込んでいますので大丈夫です」


風呂場の扉越しにそんな会話をしたのち、明人は外でせっせと動いている春奈の元に向かう。


「いやー、ありがとね。明人」


「大丈夫ですよっと」


車のトランクからダンボールを手に取り春奈と2人で玄関へと運ぶ。数自体は少ないが、一つ一つの重量はなかなかのものである。一人で運んでいてはダンボールの底が抜けてしまうかもしれないほどだ。


それらのダンボールを玄関に運び終え、中を開けてみるとそこには、さつまいも、様々なきのこ、栗、じねんじょ、米といった様々な秋の味覚がつめこまれていた。


「あとこれも」


そう言って春奈が最後に車から降ろしてきたのはクーラーボックスである。その中身を見てみると、牡蠣、アジ、コチなど秋が旬と言われる魚類が氷に冷やされている。


「で、この食材とニーニャのあの姿はどうしたんですか?」


「いやぁ、じつは今日、町内会でお世話になってる人たちから秋の味覚採取ツアーをしようって言われててね。一人で行こうとしてたところをニーニャちゃんに見つかっちゃって」


「あー、なるほど」


春奈の出かける理由を聞いたニーニャが目を爛々と光らせてついていくと言っている様子が目に浮かぶようである。


「そしたら結構調子に乗っちゃって……」


「あんまり取りすぎると動物たちがかわいそうですよ」


「そこは大丈夫よ! なんせプロが一緒だったんだから。採っていい範囲ってのをちゃんとわきまえて採ってきてるわよ」


そんな話をしていると――。


「こんにちわー。森川さん」


後ろから少し訛りの入ったしわがれた声が聞こえてきた。


「あら、本川のおじさんじゃないですか。どうしたんですか?」


「さっき解体が終わったからおすそ分けに来たんよ」


そう言って本川が袋を包みを一つ取り出し、春奈に手渡した。


「解体って……あっ! もしかして!」


包みを丁寧に剥がすと、赤みのブロック肉が現れた。


「そっ、猪肉だよ」


「そっか! いつもこの時期ですもんね! ありがとうございます! そうだ、ちょっと待っててください」


春奈は台所からビニール袋を2枚手に取り、玄関にあるダンボールとクーラーボックスからそれぞれのビニール袋に適当に食材を入れ。


「本川のおじさん、これ今日採ってきたんで是非!」


「こんな貰っていいのかいな?」


「はい! 猪肉もいただきましたし、なにより、いつもお世話になってますから!」


「だったらお言葉に甘えるよ。ありがとなー」


本川を見送り、玄関にある食材をリビングに運び込んだ。


「そういえば、明人、猪肉はどうするつもりなの?」


「さっき、本川さんから猪鍋にすればいいって教えてもらったから、猪鍋にしようかなと」


「いいわね! じゃあ、私は近くの家の人たちに食材お裾分けしてくるわね」


春奈はいくつかの小袋に食材を詰め込んでいく。


「そだ、よかったら瑞波ちゃんと健人くんも呼んであげたら?」


「ですね。2人にも手伝ってもらいましょう!」


そう言って春奈がリビングの扉に手をかけると、その扉が勢いよく開いた。


「うわっと」


「あっ、ごめん、春奈」


扉の前にはまだ髪の毛が半乾きのニーニャが立っており、お風呂場からレフィアの「お待ちください! ニーニャ様」という声が聞こえてくる。


「だいじょぶよ。私はちょっとご近所さん行ってくるねー」


「いってらっしゃい!」


リビングから手を振り春奈を見送ったニーニャは、髪の毛をドライヤーで乾かし始める。


「ニーニャ様、まだ傷の手当てが終わってません!」


救急箱を手に持ってレフィアがリビングに入ってくると、すぐさま髪を乾かしているニーニャの近くで擦り傷に傷薬を塗り、絆創膏を貼る。


「これくらい大丈夫よ」


「そうはいきません。『もしも』があってからでは遅いのですから」


ブツブツ言いながらもニーニャはレフィアの手当てを拒むことはなかった。ニーニャの髪が乾ききる頃には手当ても終わっており、レフィアはキッチンにいる明人の手伝いを始める。


ニーニャは乾いた髪を適当にまとめあげ、木崎家へと向かった。


「明人さん、今日のメニューはどうされますか?」


「そうですね。いろんな食材があるので、足の速いものから使っていきたいですね」


「となると、肉と魚介類ですかね」


「あとはキノコ類も使っちゃいましょう……ってこれ……この香り……松茸!」


「松茸とは?」


「高級食材ですよ! これ1本でいくらすることやら」


レフィアは明人から受け取った松茸を鼻の近くに近づける。


「なるほど、これは心地いい甘い香りですね」


「はい! これは松茸ご飯決定です!」


そう言ってダンボールから見つかった松茸2本を新聞紙にくるみ、シンクの上に置く。


「あとは、椎茸、シメジ、マイタケですか……椎茸は銀杏やじねじょと一緒に茶碗蒸しに。シメジとマイタケは猪鍋にいれましょう」


「明人さん、クーラーボックスの食材はどうします?」


「アジはなめろうとお刺身、塩焼きにしましょう。牡蠣はシンプルに蒸し焼きにします!」


明人はクーラーボックスから牡蠣を取り出す。


「レフィアさんは軍手を付けて牡蠣の殻をタワシで洗ってください」


「了解しました」


レフィアが牡蠣を洗っている間、明人は封筒に適当に銀杏を入れ、電子レンジで温める。


「音がなりますが気にしないでください」


電子レンジの中から銀杏の弾けるけたたましい音が家中に鳴り響く。


何度か弾ける音が聞こえると、ドタドタと靴を履いたまま廊下を走る音が聞こえた。


「明人! レフィア! 何があったの!」


「焦らなくても大丈夫だよー。ニーニャちゃん。今のは銀杏を弾けさせた音だから」


「銀杏ってあの独特な香りの食材よね?」


「そだよー」


ニーニャの後から普段と変わらない様子で瑞波がリビングに入ってくる。


「あきとー、手伝いに来たよー」


「ありがとう、瑞波。ニーニャは靴を脱いで玄関までゴー! そのあと廊下は拭いといてね」


「料理なら安心ね。わかったわー」


そう言うとニーニャは靴を脱ぎ、そのまま玄関に向かって歩いて言った。


瑞波が手伝いに来てくれたので、本格的に役割分担を決めた。明人は茶碗蒸しと松茸ご飯。瑞波はアジのなめろうとお刺身。レフィアは牡蠣の蒸し焼きとアジの塩焼き。ニーニャは米研ぎとテーブルの準備。


各員の役割を分担すると、明人は野菜の入ったボウルと空のボウルと卵を持ってテーブルへ。瑞波はキッチンにまな板を置き、刺身包丁でアジを調理。レフィアは洗い終えた牡蠣を底の深いフライパンに水を溜め牡蠣を蒸し焼きに。ニーニャは炊飯ジャーの釜に5合ほど米を入れ、米を研ぐ準備をしていた。


そうして料理を各員で分担し1時間ほどした頃には、アジの塩焼きと牡蠣の蒸し焼き以外は完成していた。


「さて、じゃあ、メインに取り掛かりますか!」


そう言って明人は冷蔵庫から猪肉を取り出した。猪肉は適当な大きさにスライスし、ボウルへ入れ酒と生姜をまぶしてしばらくおいておく。その間に野菜やキノコを適当な大きさに切り、鍋に入れ味の素とともに煮込む。アクなどが出た場合は適宜取り除く。ある程度煮込むことができたら猪肉と酒を鍋に投入しさらに煮込む。猪肉に火が通ったら味噌をといて一煮立ち。


「最後にネギを加えたらぼたん鍋の完成! レフィアさんの方はどうですか?」


明人の隣では、レフィアが牡蠣の蒸し焼きとアジの塩焼きの仕上げを行なっていた。


「はい、こちらもあと少しです。先にぼたん鍋を持って言ってください」


「了解です」


ぼたん鍋をリビングに持って行く頃には春奈と健人となぜか緑もリビングに集まっていた。


「あれ? 森山先生?」


「こんにちわー。春奈さんから秋の味覚を堪能しないかって呼ばれましてー」


ニーニャ、緑、健人は、すでに配膳されている空の茶碗と箸を手に持ち、今か今かと待ちわびている様子である。

春奈は一人お猪口に日本酒を入れながらチビチビと飲み進めていた。


「さて、それじゃあ!」


テーブルの上に用意されている鍋敷きの上に土鍋を置き、蓋を開けた。湯気とともに味噌と出汁の香りが立ちそれだけでお腹の虫が騒ぎ出す。

鍋がテーブルに置かれたのを見て、瑞波は冷蔵庫からアジのなめろうとお刺身を取り出し、テーブルに配膳した。それとともにレフィアも完成したアジの塩焼きと牡蠣の蒸し焼きを並べて行く。


春奈は待っていましたと言わんばかりにそそくさと牡蠣の蒸し焼きを手に取り、ツヤ、ハリが抜群の大粒の身を一口で食べきり、お猪口いっぱいに注がれた日本酒をぐいっと飲み干す。


「ぷはぁ、おいしー!」


「はーい、ご飯いる人はお茶碗くださ――」


明人が最後まで言い切る前に緑の右腕はお茶碗を明人の前に差し出していた。ご飯が盛られた茶碗からは独特な甘い香りが漂っており、橋でひとつまみしご飯を口に入れると、口内で香りが爆発する。


「さいっこう!」


「アジも甘みがあって美味しいですね」


レフィアはアジのなめろうと刺身から手をつけていたようだ。テーブルにはわさびと生姜が置かれていたが、レフィアは生姜醤油で食べているようだ。


「明人! 猪肉! 猪肉! 猪肉! 椎茸!」


「いや、それじゃわからないよ。ニーニャ」


「猪肉の脂肪って牛や豚と違って少しコリコリしてるのね! 噛みごたえがあって美味しいわ! それに獣臭さも全然ないし! それに出しを吸った椎茸。これ本当に最高ね! 私これだけで生きていけるかも!」


「ほんと、味噌の味付けも絶妙でこのぼたん鍋去年よりもおいしくなってるわ!」


「うんうん、うまいうまい!」


ニーニャ、瑞波、健人の感想からぼたん鍋も大成功のようだった。


「それはよかった!」


全員へのご飯の配膳を終わらせた明人も暴れるお腹の虫を沈めるため、この騒がしいパーティの中心に箸と茶わんを持って突き進むのであった。

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