サンタのコスプレと駆け抜けるイノシシ
今週分の更新です。
楽しんでいただけると幸いです。
宜しくお願いします。
恋する乙女はやはり強い。そんなことを考えながら瑞波はもうすぐ始まるクリスマス会に向けてニーニャ、レフィアを含めた女子生徒たちと一緒にサンタ服に着替えているところであった。
「ねぇ、瑞波……」
「どしたのニーニャちゃん?」
瑞波がサンタの帽子をかぶると、ニーニャの方に振り返る。
「いやー、やっぱり似合いますなー」
ニーニャの姿を見て瑞波はニヨニヨと笑みを浮かべ、下顎を右手でさすっている。
ニーニャの周りではカメラを構え、高速で動きながらニーニャの姿を360度から撮影している。
「いや、あのね、なんかおかしくない?」
ニーニャは1人違和感を感じ何度も何度も周りを見渡す。
そう、レフィア含む他の女子生徒はスカート姿のサンタ服であったが、ただ1人ニーニャだけはなぜか他の生徒たちと異なる服装をしていた。
「何がおかしいの?」
「いや、だって、他の人たちなんか大人っぽいけど……私のこれって……」
瑞波がニーニャの両肩に手を置き、顔を近づけ__。
「ニーニャちゃん、誰だって大人になる前はみんな子供なの!」
そうニーニャに伝える。
「そうよね! みんな子供なのよね! ……ん?」
瑞波の言葉を復唱したが、そこに1つの疑問が生まれた。
「子供? ちょっと待って、もしかしなくても……」
「いやー、ニーニャちゃんの体格に合うサンタ服が子供用しかなくてね!」
そう、ニーニャの着ていたサンタ服は子供用であり、さらには__。
「しかも、そのサイズだとズボンタイプのしか置いてなくてね!」
そう言うと、瑞波はニーニャに向けてウィンクしながらペロリと舌を出した。
「ふざけんなー! 別の服を要求する!」
駄々をこねる子供のようにニーニャは別の服を要求するが、瑞波が用意した服はサンタ服の一着しかなかった。
「っていわれてもねー」
「でしたら、私が持ってきた服に着替えるのはどうでしょう」
「さすがレフィア! ほかのサンタ服を持ってきてたのね!」
レフィアはロッカーにしまってあるカバンから一着の服を取り出し、そして、目にも留まらぬ速さでニーニャを着せ替えた。
「お着替え完了いたしました。ニーニャ様」
「ふふふー! どうよ! これで私も大人なサンタになれたでしょ!」
目をつぶり胸を張るニーニャは非常に可愛らしい姿をしていた。
「「うわぁ、可愛い!」」
更衣室にいた他の女子生徒からも可愛いと言う言葉が聞こえ、ニーニャはさらに胸を張る。
パシャリ__。
「すみません、ニーニャ様2つほどつけ忘れたアイテムがありました」
そう言うと、胸を張っているニーニャの側へ行き、1つは首へ1つは鼻へそれぞれのアイテムを着けていった。
「完璧です! ニーニャ様」
「うんうん、完璧だねー」
「「やっぱり、それを着けてなくっちゃね!」」
最後のアイテムを身につけたニーニャを見て更衣室にいる全員はおもいおもいにカメラのシャッターを切った。
「流石に胸張るのも疲れたわね」
そう言ってニーニャはポーズをやめ自分の服装を確認する。
「…………瑞波、ちょっと写真見せて」
「ん? なんかあった?」
「レフィア」
静かな声でニーニャはレフィアの名を呼んだ。
「これは?」
「ニーニャ様に用意した服でございます! 想像通り可愛さ満点でございます!」
「まぁ、さっき着てた服よりは好みだから……うん、いっか!」
こうしてニーニャはレフィアが用意したトナカイのコスプレを受け入れたのであった。
その後ニーニャはじっと自分の服を見つめ、胸の辺りに手を置くと__。
モフッ__。
「はぁー」
心地いいいもふもふ感に表情が緩んでいた。
「むぅ、兄さんの癖に、いい仕事するわね」
「さすが瑞波さん、健人さん作だと触れただけでわかるとは」
「伊達に兄弟やってないわよ!」
そう言って3人は体育館へと向かった。
■
「しくじったわね……」
『ごめん、アゲハ。私の責任だわ』
アゲハは一匹の動物と正面切って対峙しながら、動物の隙を伺っている。
「ティアの責任じゃないわよ。私が先走ったりしなければ……」
食料が尽きて2日。水だけをお腹に入れ、光が指す場所を目指してアゲハは歩いていた。その道中で一匹の動物を見つけ、2日ぶりの食料確保のため、狩をしようと考えたこと、あの程度の動物であれば一瞬で片がつくとたかを括ったこと。それらが今の状況を作り出してしまったのである。
アゲハの出会った動物は冬眠時の栄養を確保できなかったイノシシであった。
本来のアゲハであれば精霊術を利用して一瞬でイノシシを狩ることができるのだが__。
違う世界での野宿。2日間の絶食。さらには、ティターニアの精霊力を無駄遣いできない状況であること。
それら負の要因がいくつも重なった結果、イノシシとにらみ合いをする羽目になったのだ。
「くっ、お腹捨てるからかマイナス思考になってるわね……」
『そうね、私も力が足りなくて思考がマイナスよりになってるわ』
きゅるるる__。
イノシシと睨み合いになる緊張状態であったとしても体は正直である。さらには極度の緊張状態にあるため、普段以上にカロリーを消費しているのだから、お腹の音がなってしまうのも仕方のないところである。
その音を聞いたイノシシは一気に地を蹴り、アゲハに向かって一直線に走り出した。
イノシシの時速は50キロであり、生身の人間がその速度で衝突された場合、良くて骨折。悪ければ死に至る。
それをアゲハはギリギリのところで交わし、側に落ちている尖った石を拾い上げ、力一杯イノシシに投げつけた。常時発動している肉体補助の力により、普通の人間が投げる数倍の速度で飛んでいく石であったが、その分厚い筋肉と厚い皮に守られ、石はイノシシの体に多少傷をつける程度であった。
「くっ、やっぱりダメか」
『肉体補助をいつものレベルまで引き上げたほうが__』
「ダメよ。そんなことしてティアの力を失ったらそれこそ私死ぬわよ!」
2人がそんなやりとりをしている間に、イノシシは再度地を蹴りアゲハに向かって突進する。
『アゲハ! 近場の木に登りましょう!』
「うー……先に進みたかったけど仕方ないわね!」
そう言ってアゲハは地を蹴り飛び上がり、木の枝を掴んだが__。
ボキッ__。
枝がアゲハの体重を支えきれず折れてしまった。
「うそ!?」
『防御補助のみを最上位まであげるわ!』
精霊力を節約するため1つの肉体補助のみを最上位強化し、イノシシからの突進を真正面から受けることとなった。
突き飛ばされた勢いで地面を何度かバウンドしながら転げる。そのまま後方にあった木にぶつかることでアゲハの体は止まった。
「ありがと」
『気にしないで。でも、次は無理よ』
防御補助のお陰でアゲハの体は傷1つなく、五体満足である。しかし、今の防御補助によりティターニアの精霊力はいよいよ最低限の肉体補助ができる程度しか残っていない。
「この距離を利用するわよ!」
そう言ってアゲハは振り返り、全速力で山の傾斜を駆け出した。
本来であればアゲハが逃げ出した時点でイノシシもそれ以上アゲハを追うことはない。だが、アゲハと対峙していたイノシシは違ったようだ。
アゲハの背中を標的と捉え、体重をかけ地面を蹴り抜く。先ほどよりも長い距離蹴り抜くため徐々に速度が上がっていく。
『追ってきたわよ!』
「足音が聞こえてるもんね!」
森の中の木々をかいくぐり山を駆けると、やがて道路に出た。
「なによ……この硬い道……」
『わからないわ……ユグドにはなかったもの。でも__』
「ええ、道なりに下っていきましょう!」
『硬い道だから足に負担がかかるわよ。大丈夫?』
「それくらい、あの突進を受けるよりもはるかにマシよ!」
道路に出たからと言ってイノシシが走る速度を落とすことはない。
当然ながら追われている以上、アゲハも速度を落とすわけにはいかない。そのままアゲハは道路を駆け下りる。
それからしばらく走ると、アゲハの視界に見たこともない建造物が目に入る。
「なによこれ……」
見たこともない建造物に目を奪われながらもアゲハは走る速度だけは落とさなかった。
「これがこの世界の文化なのね……」
『ええ、そうみたいね』
「ふふ、面白そうじゃない!」
『楽しそうね』
「当然! こういう未知なるものってワクワクするじゃない!」
『じゃあ、まずはこの状況を打破しましょうか!』
先ほどまで悲観的になっていたアゲハが子供用に好奇心をあらわにしたことでティターニアも今の状況が楽しくなってきたのであった。
「そうね! じゃあ目の前に見える街まで逃げ切るわよ! 精霊力は大丈夫?」
『ええ、無茶でもやってやるわよ! 街に着いたらしっかり休ませてもらうからね!』
時期的に来週、再来週は短編にするかもしれないです。
宜しくお願いします。




