パジャマパーティ
今週分の更新です。
先週は休載して申し訳ありませんでした。
楽しんでいただけると幸いです。
宜しくお願いします。
少女は自らの思いをその少年に伝えた。
その思いを伝えるのにどれほどの時間がかかり、どれほどの覚悟と勇気を要したのか。
少女は頰を赤らめ、怖さからかぎゅっと目を瞑っている。少女の思いを聞いた少年は最初こそあたふたしていたが、少女の様子を見ているうちに徐々に穏やかな表情を見せ――。
「ありがとう!」
その一言とともに少年の体は光に包まれた。
「平和の代償がこんなことなんて……私は嫌だよ!」
少女は目に涙を溜め唇を噛みしめながら、少年の姿が徐々に薄くなっていくのを見ていることしかできなかった。
「仕方ないさ。最初からそういう約束だしな」
「それでも、それでも!」
少女は駄々をこねる子供のように身を振り、我儘に言葉を重ねる。
そんな少女を見かねた少年は、両腕で少女を優しく包み込み――。
「そう言ってくれるのは君だけだよ。本当にありがとう」
そう囁くと、少女は少年の胸元で涙を流しながら悲痛な声で泣き叫ぶ。しばらくすると少女は少年の胸元から離れ、グスグスと鼻をすすりながら、流れそうな涙をこらえ、笑顔を作る。
「こん、な、ワガママな、私に付き合ってくれて……グス……ほん、とうに、あり……がとう」
「こっちこそ、君にも色々助けられたよ! 本当にありがとう」
少女はブンブンと首を左右に振り、何も言わず消えゆく少年に目を向ける。
「さて、じゃあ、最後に一言。この世界に危機が訪れたら。俺はまたこの世界を救いに来てやるぜ!」
少年は拳を突き出し、そしてその場から姿が消えた。
少女はその場で泣き崩れ、それから何時間も涙を流し続けた。やがて、流す涙が枯れた頃、少女は少年から渡された剣をその場に突き立てる。
「あなたが作ってくれたこの平和を私たちは護り続けるわ」
少女の誓いとともに暖かい風が少女の頰を撫でた。まるで隣にいる少年が頰を撫でてくれるかのように。
■
明人は原稿を机の上に置き、目を閉じ作品を吟味している。
「……」
「ゴクリ__」
「うん、いいと思う! 僕は好きだよ!」
その言葉を聞いたニーニャは両手を振り上げ、そのままゆっくりと後ろに体を倒して大声をあげた。
「まにあったー!」
現在12月19日の夜クリスマス会まであと6日というところでクリスマス会の冊子に掲載される原稿がなんとか完成した。
「頑張ったね、ニーニャ」
そう言って明人は倒れたニーニャの頭を撫でると、ニーニャは恥ずかしさのあまり、ゴロゴロと転がり――ゴンッ――ベッドの角で頭を打った。
「いだだ」
「そんな勢いよく転がるから」
「明人が驚かすからでしょうが!」
少し前からニーニャは自分の様子がおかしいと感じていた。明人を目にすると瞬間的に心臓が早くなり、明人が瑞波と話しているのを見ると、何かもやもやした気持ちになり、何が起こっているのか自分でも理解できない状況であった。
「明日の朝先生に原稿渡しに行って来るね」
「ありがとね、明人!」
そう言って明人がニーニャの部屋から出て行くと、ニーニャはベッドに飛び込みえへへと笑いながらゴロゴロと左右に転がり、たまに転がるのをやめたと思えば、自分の頭に手を乗せ、またゴロゴロと転がり始める。
その行動を何度か繰り返したのち、ニーニャはベッドから立ち上がり両手で頰を叩く。
「よし、明日は休みだし、今からクリスマスプレゼント用の小説を書くわよ!」
机の上に置いてあるペンを握りしめ、ニーニャがノートを広げると扉がノックされる。
「明人? 何か忘れ物?」
扉の方に視線を向けると、そこにはレフィアが立っていた。
「どうしたの? レフィア?」
「ニーニャ様、原稿の進みはどうですか?」
「ふっふふー、完成したわよ!」
嬉しそうに右手でピースを作るニーニャの姿を見て、レフィアはホッと旨をなでおろした。
「それでは、多少は余裕ができたということですね」
「いや、クリスマスプレゼント用の小説書かないと」
「余裕ができたということですね」
レフィアが一瞬でニーニャとの間を詰め、顔を近づける。
「いや、だからクリスマスプレ」
「できたということですね!!!」
何度も余裕がないことを訴えようとしたニーニャであったが、レフィアの異様な圧に根負けし。
「すこし……なら」
その言葉を聞いた瞬間レフィアはニーニャを片腕で抱え__。
「ちょっ、レフィアこれ、もうちょっと緩めてくれても……」
抱えられたニーニャは力を入れてレフィアのホールドを緩めようとするが、一切緩むことはなかった。
レフィアはニーニャを抱えたまま目的地へ向かって走り出す。
■
「で、これはどういう状況なのよ」
ニーニャは周りを囲むレフィアと瑞波に聞くが、レフィアは携帯で写真をとり続け、瑞波は横で服を選ぶのに必死でニーニャの言葉に耳を傾けなかった。
「ニーニャ様、少し顔を下に傾けて上目遣いで」
「こう?」
「そう、いいです、いいですねぇ!!」
さまざまな方向に移動しながらレフィアは写真を撮り続ける。
「じゃなくて! どうしてこんな状況になってるのよ!」
一向に状況を把握することのできないニーニャは憤りを爆発させていた。
「いやー、なんていうか折角作ったのに使われる機会がないのって可愛そうじゃない」
「ですから、ニーニャ様に着てもらって写真に収めようかと」
2人は親指を立てた握り拳を突き出した。
「あのさ、私、小説書きたいから帰るね」
そう言って瑞波の部屋から出ようと扉に手をかけると、両肩に2人の手が軽く置かれた。簡単に振り払える程度の力だと感じたニーニャは取っ手を回し、扉を押し開こうとしたが、その瞬間、全身が重くなった。
扉を押すことができないほどのプレッシャーをその身に受けたのだ。
何度か扉を押す力を加えるよう体に命令をするが、体が言うことを聞かない。
ゆっくりと首だけで左右を振り向くと、レフィアは悲しそうな表情を、瑞波はただひたすら笑顔で次にニーニャに着せるであろう服を左手で見せつけている。
「……仕方ないわね」
2人からは逃げられないと悟ったニーニャは抵抗することを諦めた。
「よっしゃー! 夜通しパジャマパーティーだー! と、その前に、お風呂入ろっか」
お風呂に入り、体を洗ったのち、ニーニャはさまざまなパジャマを着ることとなった。猫、熊、うさぎ、サメ、ピ○チュウ。いろんなパジャマを着た結果最後にたどり着いたのは。
「これ、なんか落ち着くわ」
「兄さん……なんでこんなの作ったのよ……」
「これはこれで有り!」
布団の上には緑色をした楕円形の物体が横たわっていた。ニーニャの顔が見えるあたりから上の方に触手のようなものが伸びており、上から見るとまさにミドリムシであった。
そんなこんなでパジャマの着せ替えは終わった。
■
「そういえば、ニーニャちゃん、最近調子悪いんだって?」
脱ぎ散らかしたパジャマを畳んでいるなか、瑞波が口火を切った。
「え? 私なら元気よ」
ミドリムシのパジャマを着たままニーニャは体を迷惑にならない程度に激しく動かす。
「じゃなくて、明人のことよ」
その名前を聞いた瞬間ニーニャは動きを止めた。たしかに最近明人に話しかける前に少し間を置いて、準備してからでなければ話しかけることができなかった。
それだけでなく、ほかの女性だけでなく、瑞波と話しているのを見ているだけでも何かモヤモヤした感情があらわになる。
「私は気づかなかったんだけど、レフィアちゃんがね」
ニーニャがレフィアの方に視線を向けると先ほどの幸せ顔とは打って変わって、心配そうな表情を見せていた。
「ってことで、今からそのあたり、詳しく聞かせてもらおうじゃない! まっ、私が何か言える訳でもないけど、話すだけでも楽になるだろうからね」
いち早くパジャマを畳み終えた瑞波は、部屋をでて飲み物とお菓子を持って戻ってきた。
ニーニャとレフィアもパジャマを畳み終え、パジャマパーティ第2部が開幕したのであった。
「で、何があったの? ニーニャちゃん」
「特に何があったってわけじゃないわよ。ただ……」
そう言ってニーニャは最近の自分の状況を瑞波とレフィアに話し始める。レフィアはその話を聞いても特に変わった反応は見受けられなかったが、瑞波は話を聞けば聞くほどニーニャの鈍感さにため息しか出てこなかった。
「これって何かの病気なのかしら」
「うん、間違いなく病気だね。それも一生治らないかもしれないびょーき」
「え? うそ……一生治らない?」
ニーニャとレフィアの顔から血の気が引き、一気に空気が重くなった。
「あー、ごめんごめん、この病で直接的に死に至ることはないから大丈夫だよ。まぁ、この病が原因で死ぬ人はたまにいるけど、今回のケースでいうなら大丈夫でしょ」
瑞波の言葉で安心したレフィアから悲壮な表情は消えたが、当事者であるニーニャは未だ表情が硬い。
「それは、医者に行った方がいいのかしら」
「行かなくていいよ。むしろ、行っちゃダメ! 行ったら明人が絶対についてくるから」
瑞波はニーニャの上に乗らんばかりに身を乗り出し、医者に行くことを止めた。
「わ……わかったわ。でも、この病気どうすれば」
「そんな悩めるニーニャちゃんには、これの本を貸し出してしんぜよう」
瑞波は本棚に置いてある本を2冊取り出し、ニーニャに手渡す。
「えっ? これ! 私1冊目は読んだことあるわ! まさか2巻があるなんて」
「そうなの? じゃあ、2冊目だけでいっか」
ニーニャは本を眺めながら目をキラキラとさせている。
「時間はないだろうけど、その本を読めば病の招待も分かるわよ」
「えっ、この小説そんなことまで書いてあるの。なにそれ、神本じゃない!」
先ほどまでの悲壮な表情が嘘のようにニーニャのテンションが上がり、ワクワクが止まらない様子であった。
「ニーニャちゃんの話も聞けたし、それじゃあそろそろ寝ますか!」
■
翌日、本来であればクリスマスプレゼント用の小説を書くはずだったニーニャであるが、瑞波から借りたバイブルの2巻を1日中読みふけることになった。
そして、ニーニャは気づいたのであった。自分が何の病に侵されているのかを。
「そうなので、これが、この感情が『恋』ってやつなのね」
ニーニャは布団の中に潜り込み、枕に口を当てて大きな声で叫んだ。
この声が近くにいる誰かに気づかれないように。




