人形作り(SS)
更新が遅れて申し訳ありません。
今週分の更新です。
楽しんで頂けると幸いです。
宜しくお願いします。
チクチクチクチク――
チクチクチクチク――プスッ――
チクチクチ――
「レフィアちゃん、調子どうよ」
部屋の中でレフィアがフェルトに糸を通していると、急に扉が開き飲み物を持った健人が入ってきた。
「はい、順調だと思います」
にこりと微笑むレフィアの手元を見ると、左手に黄色のフェルト生地を持ち、右手には糸の通った針を持っていた。
どれどれと健人がレフィアからフェルト生地を受け取り全体を見てみると、ところどころフェルト生地が赤く染まっている。
「……レフィアちゃん、左手を見ようか」
健人の指示に従って自分の左手を見たレフィアはその場に崩れ落ちた。
「また、またやってしまったのですか……」
「またやっちゃってるね……」
健人の部屋の隅には糸を通した後のフェルト生地が何枚か積まれていた。
フェルト生地は元々鮮やかな黄色をしていたのだが、部屋の隅に積まれているフェルト生地はところどころが赤く染まっている。
「レフィアちゃんって結構不器用なの?」
健人は救急箱から新しい絆創膏の箱を取り出し、レフィアに手渡す。
「いえ、そこまで不器用ではないと思うのですが……ただ、たしかにこのような針作業は殆ど経験がないですね」
レフィアは針で刺した指に絆創膏を巻き、健人に箱を返そうとしたが健人はそれを片手で制した。
「この調子だとまだ必要になるだろうし、そのまま持っといて」
「ありがとうございます」
そのまま絆創膏の箱を脇に置き、レフィアは新しいフェルトを手に取り糸を縫い始める。
「レフィアちゃんってさ、本当にニーニャちゃんのことが好きなんだねー」
「そうですね。好きですし――尊敬もしています」
「うん」
そこで会話は途切れ、レフィアは黙々と針を進める。健人がいるからか慣れてきたのかはわからないが、指を針で刺すことなく順調にフェルトに糸を通せている。
最初の工程の終盤に差し掛かったのを確認した健人は、次の行程で必要な道具を準備する。
綿、肌色のフェルト、緑のフェルト、赤のフェルト、水色の色鉛筆、それらをまとめて準備をする。
「健人さん! できました!」
そう言ってレフィアは自分で作った髪の毛部分のフェルトを健人に渡す。
手に取った髪の毛部分をいろんな角度から確認し。
「おっけー! 次の段階に進もうか!」
健人はテーブルの上に先程準備していた道具を置き、レフィアに説明を始める。
「じゃあ、こっからは全パーツの切り出しから始めよるよ」
本来であればパーツの切り出しは一番最初に行う行程ではあるが、レフィアが初心者ということもあり健人は簡単な髪の毛部分の工程だけを進めるよう指示していた。
「それじゃあ、色鉛筆でフェルトにあたりをつけていこう」
「はい!」
それぞれのフェルトに色鉛筆であたりをつけ、そのあたりに合わせてハサミでパーツの切り出しをする。
それぞれのパーツを切り出すと、次に、綿の塊から顔、胴、手、足に使用する適量をちぎり軽くほぐす。
これで準備は整った。
そこからはひたすらに綿を挟んだフェルトに糸を通す。
チクチクチクチク――プス――チ――
「レフィアちゃん、ちょっと待って!」
レフィアの手元をずっと見ていた健人はレフィアの指に一瞬針が刺さったのが目に映った。
健人の声を聞いたレフィアは、すぐさま左手に持っていた人形のパーツから指を離し床に落とし、指を見る。
もう何度目かわからないくらい見慣れた光景がそこにはあった。
「はぁ、またやってしまいました」
「はい、絆創膏。フェルトの方にはついてなかったよ」
「ありがとうございます」
「いえいえ、少し休憩しよっか」
そういって健人はお菓子をテーブルに広げた。
「はい……」
レフィアの返事から少し気が落ちているように感じた健人は、机の引き出しから一つの人形を取り出し、机の上に置いた。
「これは?」
「これは俺が初めて作った人形だよ。これ作ったとき一体どれだけの時間がかかったと思う?」
健人の質問を聞いたレフィアは、健人の人形作りの速さを考え――。
「2時間くらいでしょうか」
逆算して時間を算出した。
「1週間だよ」
その言葉にレフィアは目を見開いた。
「1週間……ですか」
「そっ、1週間。しかも、学校が終わってから寝るまでずっとその人形作ってだぜ」
そう言った後に健人は左手をレフィアの前に出す。
「それに、俺が指を針で刺した回数、なんと40回」
どれだけ不器用でもそこまでの回数を指を針で刺すのはなかなか難しい。それどころか10回も指を刺せば、自分には向いてないと思い、投げ出してしまうであろう。
そんな中、健人は諦めずに人形を作った。
「どうして、そんなになってまで?」
「まぁ、ね、男っての、兄ってのはいざという時に頑張らなきゃならんのですよ」
健人は肩をすくめ、困ったように笑った。
「で、俺が言いたかったのは、失敗してもそこで立ち止まらなければ、先に進めるってこと」
笑顔が眩しかった。レフィアはどこか失敗してはいけないという思いに囚われていたのだろう。その思いを健人の一言が壊したのであった。
「健人さん、ありがとうございます」
今までニーニャ以外に見せたことのないレフィアの満面の笑顔がそこにはあった。
■
「ただいま戻りました」
レフィアがリビングに入ると、ニーニャと明人がテーブルに座り小説について会議をしていた。
「あっ、おかえりなさい、レフィアさん」
「おかえり、レフィア」
「ただいま戻りました」
そう言ってレフィアはニーニャの近くへと歩み。
「ニーニャ様」
「どうしたの?」
レフィアはニーニャの前に小さなフェルト人形のストラップを差し出した。
「これ――レフィアだ! すっごい! レフィアが作ったの?」
「はい、健人さんに色々教えてもらいながらですが」
「これ、私がもらっていいの?」
「はい、そのために作りましたから」
「ありがとう!」
ニーニャは満面の笑みでお礼をいい、レフィアは微笑みながら――。
「どういたしまして」
そう答えたレフィアの手の中には、ニーニャと健人のフェルト人形が握られていた。




