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いつもの日常と設定会議

今週分の更新です。

楽しんでいただけると幸いです。

よろしくお願いします。

秋祭りから数日が経ち、平凡な毎日が戻ってきた。


明人としては秋祭りの最中に起こった現象が未だに夢だったのではないかと思うくらいに不思議な現象であり、生涯忘れることのできない秋祭りだったと感じており、数日が経った今でも、余韻から抜け出すことができない。


そんな余韻が抜けきっていない明人は、文化祭で出した小説の完成版の打ち合わせをするため、ニーニャの部屋を訪れていた。


「で、僕なりに考えたんだけど、こんな最終回はどう?」

そう言いながら明人はニーニャに設定ノートを差し出すが、ニーニャは虚空を見つめ一向に明人の差し出すノートを手に取ろうとしなかった。


「ニーニャ?」


どうやら、秋祭りの余韻が抜けないのはニーニャも同じであったようだ。

そんなニーニャの頭に明人は手を乗せ、ニーニャが気づいたと同時くらいにニーニャの頭をわしゃわしゃと撫で付ける。


「ちょっ! なにするのよ! 明人!」


ニーニャは後ずさりながら自分の頭に手を置き、明人に抗議の声をあげるが、明人はやれやれと言わんばかりに首を左右に振っている。


「ニーニャ、秋祭りの出来事が衝撃的だったのはわかるけど、もう少し小説の内容に集中しようよ」


そう言って明人は机の上に置いた自分の設定ノートを指差し、ニーニャもそちらに視線を向ける。


「あっ、ああ、ごめんなさい、ちょっとボーッとしてたわ」


「まぁ、あんな体験したんだから、仕方ないよ」


ニーニャは設定ノートを手に取り、内容を確認している。

その中で、勇者が別の世界へと帰ってしまう設定が書かれており、ニーニャはその内容を読んだ瞬間。


「明人は、私がユグドに連れ戻されたらどうする?」


無意識のうちにそんな質問を明人に投げかけていた。


「そんなの追いかけるに決まってるよ」


唐突な疑問であったにも関わらず、明人は即答する。


「え?」


ニーニャはどうしたのと言わんばかりの顔で明人に視線を向ける。


「いや、だから、今の質問への回答だよ」


「え? 今私質問なんてしてた?」


無意識のうちの質問だったため、ニーニャは自分が質問をしたことに気づいていなかった。


「してたよ。『私がユグドに連れ戻されたらどうする?』って」


「で、その回答が『そんなの追いかけるに決まっってるよ』?」


「そうだよ」


明人は気恥ずかしさから口を閉ざし、ニーニャは難しい顔をしていた。


「うーん……でも、明人がユグドに来たら数時間で死んじゃう気がするわ……」


「数時間って……せめて数日とかじゃ無いの?」


「こっちの人間には精霊力に対する抵抗がないでしょ。だから、濃密な精霊力に長時間触れていると、体が精霊力に耐えきれず崩れていくのよ」


明人はニーニャの説明からその光景を想像してしまい、表情を引きつらせながら――。


「グロっ」


「でしょ。だから、私に何かあったとしても絶対にユグドに来ちゃダメだからね!」


そう言ってニーニャは中断していた設定確認を再開した。


その様子を見ながら、明人は考えていた。


ニーニャが何故突然ユグドに戻る話を打ち出して来たのか。最初にニーニャたちがこの世界に来た時は、帰るために精霊力を集めたいと話していた。でも、神社にいる精霊から精霊力を長期間分けて貰った今まで、ユグドに帰るという話は一度も出てこなかった。それに、連れ戻されるって。どういうことなんだろう。


設定を読んでいるニーニャを凝視し、明人はそんなことを考えていた。


「明人、そんなに見つめてくると……なんだか恥ずかしいわ」


設定に目を通しているはずのニーニャであったが、急に顔を赤らめノートで口元を隠し、上目遣いで明人を見る。


「すみませんでした!」


即座に謝罪。明人は机に両手を置き、そのまま額も机に打ち付ける。勢いよく額を机に持っていったため、ゴンッという音が部屋の中に響いた。


「別に謝る必要はないんだけど、私に何か聞きたいことがあるんじゃ無いの?」


「えっと……その……」


「そこで言い澱むなんて、そんなに聞きづらいことなの?」


「聞いていいのかはちょっと迷うかな」


明人は視線を逸らしながら頰を掻く。


「聞けばいいじゃ無い! 言いたくなければ言わないだけだから」


ニーニャが明人に質問を促すと、明人も覚悟を決めたようだ。


「ニーニャは近いうちにユグドに戻るの?」


「戻らないわよ。戻るわけないじゃない。っていうか、なんでそうなるのよ!」


冷めた目で見られながら回答されるだけでなく、なぜかキツ目に言い返された。


「ニーニャがユグドに連れ戻されるって質問をするからだろ!」


「あー、なるほど、そういう考え方もあるのね……ごめんごめん。明人のくれた設定の中に勇者が別世界に帰るって設定があったから、ついつい口に出しちゃっただけよ」


ニーニャは笑っているが、明人からすると笑い事では無い。


「それに、明人との共同作品がまだ完成してないし、今すぐに帰るなんてありえないわ! 幸いレフィアもこっちの生活を気に入ってるみたいだしね」


その言葉を聞き、明人はホッと胸をなでおろす。


「それでね、明人、勇者が別世界に帰るって設定なんだけど、このまま採用しちゃって、さらに勇者を追いかける少女の物語を書きましょうよ!」


「異世界ファンタジーからの現代ファンタジーってこと?」


「そうそう! 魔王が倒されて、勇者が元の世界に帰ってハッピーエンドも悪くないけど、それだと少女がかわいそすぎるじゃない。だったら、完全無欠のハッピーエンドにするために、少女には勇者を追いかけてもらいましょう!」


ニーニャのテンションが急速に上がり、いつもよりテンポの速い口調で先の展開を明人に語っていく。その内容をひたすらメモとして残す明人。そんな話が2時間ほど続くと、明人のメモの文字がミミズ文字のように適当になり、ニーニャも喉が渇いてきたようでゼェゼェと息を切らしている。


それでもニーニャは喋り出そうと口を開きかけたので、明人は右手を前に出し――。


「ニーニャ__ちょっと休憩して何か飲み物と甘いお菓子を取りに行かない?」


と提案する。


「賛成。流石に喉が乾いたわ」


明人とニーニャはリビングに降り、明人はカフェオレとオレンジジュースをお盆に乗せ、ニーニャは適当なお菓子を小さなカゴに盛り、部屋まで運び込む。


「うーん、もぐもぐ。やっぱり、『ばか◯け』は美味しいわね」


「ニーニャ、甘いお菓子って言ったのになんで全部『ば◯うけ』なんだよ」


「そこに『ばかう◯』があったからよ! もぐもぐ」


「まぁ、美味しいからいいんだけどさ……」


そういって明人はお菓子カゴを漁るが、目的のものが見つからない。


「ニーニャ、なんでカゴに入ってるのが全部ゴマ揚げ醤油なんだよ……」


「もぐもぐ――ゴクゴク――ぷはぁ――そこにゴマ揚げ醤油があったからよ!」


「全部『◯かうけ』なのはいいんだけど――なんで青のり醤油がないんだよ!」


森山家では『ばか◯け』の派閥としてゴマ揚げ醤油派閥と青のり醤油派閥で分かれていた。言わずもがなニーニャはゴマ揚げ醤油派である。対して明人は青のり醤油派である。

こうして派閥が分かれているため、『ば◯うけ』を購入するときは必ず、ゴマ揚げ醤油と青のり醤油の2種類が入っているアソートを購入している。

にもかかわらず、このお菓子カゴにはゴマ揚げ醤油しか入っていない。


「もぐもぐ――ゴマ揚げ醤油が至高だからよ!」


「それ、レフィアさんの前で言えるの? ニーニャ」


「こんなこと、レフィアに言えるわけないでしょ……明人だから言えるのよ」


口元に『ば◯うけ』食べかすをつけながらニーニャは頰を赤らませる。


その様子を見て、明人は不覚にも可愛いと思ってしまった。


が、しかし、それとこれとは別の話である。


「ニーニャ、僕が青のり醤油派って知ってるよね。それなのにゴマ揚げ醤油ばっかりとってくるのは……」


「だって、ある時に食べないと、春奈に全部食べられちゃうじゃない」


基本的に自宅作業をしている春奈は小腹が空くと家にあるお菓子をつまむ。それも『ば◯うけ』があれば、必ずと言っていいほど『ば◯うけ』のゴマ揚げ醤油を食べるため、ニーニャが学校から帰ってきて食べようとしても基本青のり醤油しか残っていない。


「そう、この間もゴマ揚げ醤油を春奈が全部食べちゃったせいで私は……私は……」


今にも泣き出しそうなほどの悔し顔をしているニーニャを見ていると、明人にはそれ以上何も言うことができなかった。

明人はそのまま無言で立ち上がり、ニーニャの部屋を後にした。

しばらくして、明人はもう一つのお菓子カゴにゴマ揚げ醤油の追加と青のり醤油を入れて戻ってきた。


「今回はニーニャが全部食べればいいよ!」


「うっ……明人……ありがとう!」


ニーニャは『ば◯うけ』を口に頬張りながら、明人と一緒に明人がまとめたメモに目を通している。


明人はニーニャの説明の中でおもしろいと思った内容に丸をつけ、面白くない、またはややこしいと思った設定には下線を引いていた。


ニーニャも勢いで話を進めていたため、明人取ったメモを見直して欲しい設定にだけ赤ペンで丸をつけた。


「こんな、もぐ、ものね」


「そうだね。ただ、このボリューム……また書き終わらないじゃない?」


本来であれば文化祭で出した小説のエピローグを書いて完成版を出すという話だったが、設定を色々と考えた結果、エピローグどころか新しい作品を一本作るレベルのものになってしまった。


「うーん、1ヶ月寝なければなんとかなるわよ!」


ニーニャが笑顔でそんなことを言うものだから、明人は――。


「死ぬ」


その一言で打ち返した。


「だったら、当初の予定通り、勇者が別世界に戻るまでをエピローグで書いて、次に作品を公開するタイミングで少女が勇者を追いかける話を作りましょう!」


名案でしょと言わんばかりにニーニャは目をキラキラさせて明人の方を見る。


そのニーニャの様子を見ていると明人は自然と笑みがこぼれ、嬉しさでいっぱいになった。


「そうだね! じゃあ次に作品を公開する時も一緒にタッグを組もう!」


そう言って明人とニーニャは握手をした。



「はぁ、ここどこよ――」


暗闇の中アゲハがぼそりと呟くと、体の奥から声が聞こえた。


『さぁ、でも、異世界には辿り着けたわよ』


「それならよかったわ」


『でも、あのトラップのお陰で元々目的としていた場所から着地点がずれたのと、精霊力を思ったより消費しちゃったわ』


暗闇にだんだんと目が慣れてきたアゲハは周りを見渡すと、そこには木々が立ち並んでいた。

地面の傾斜と枯葉が落ちていることから、ここが山中だと推測できる。


「幸い、どこかの山に着地したみたいね。日が登ったら一旦水場を探しましょう」


1週間は生きていけるだけの保存食と飲料を持ってはきているが、いざという時のためにアゲハは水場を見つけておきたいと考えていた。


『それがいいわね。今夜はそのあたりにある木の上で明かしましょう』


アゲハは木の上に登り、腰を落ち着けると遠くに見える光が見えた。

しかし、世界を移動したアゲハは多大な疲労感に苛まれ、その光がなんなのか考える前に眠りに落ちた。

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