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頂きますとご馳走様

投稿時間がバラバラですみません。

本日の投稿です。

よろしくお願いします。

ニーニャとレフィアがお風呂でピンク色の世界を堪能している間、明人はせっせとトイレの掃除に励んでいた。


何枚もの乾いた雑巾を床に敷き、上から踏み水分を含ませた後、バケツの上で絞るそれを難度か繰り返し、ある程度水がはけたら乾いた雑巾で床全体を拭き、最後に除菌シートで便器と床と壁を拭いて、便座カバーを代えて掃除終了である。


「ふぅ、こんなもんかな」


一通りの作業を終え、明人がバケツと雑巾を抱えて掃除したトイレを見ていると、春奈が寝ぼけ眼をこすりながら起きてきた。


「ふぁぁ、おはよー明人ぉ」

「おはようございます。春奈さん」


「ん? トイレ掃除でもしてたの?」

「トイレが詰まっちゃって水が……」


「あー、逆流してきちゃったか」

「そうなんですよ」


春奈は明人の頭にポンと手を乗せ――。

「掃除お疲れ様。今はもう使える?」

トイレの方を指した。


「はい、もう大丈夫ですよ。僕は雑巾とバケツを片付けてきますね」

そういって明人は玄関前に設置してある掃除用具専用の洗濯機に雑巾を放り込み、春奈が趣味でやっている庭の畑にバケツの中の水を撒き、家の中に戻る前に雑巾を入れた洗濯機に洗剤を入れ、洗濯を始める。


「さて、もろもろ片付いたかな」

一息ついたところで、明人は朝食の準備をしようとリビングに向かった。

リビングに入るとすでに春奈が朝食用のご飯、サラダ、お味噌汁、卵焼きを準備し始めていたので、明人は椅子に座り一息つく。


「ほい、朝からお疲れ少年!」

そう言いながら春奈は明人の方にコーヒーカップを差し出した。


「ありがとうございます」

カップを受け取りコーヒーを口に含む。


「朝食はあの子たちがお風呂から上がったら持ってくるわね」

そう言うと春奈はテレビをつけ椅子に座った。


テレビから流れる全国ニュースは田舎には関係のない都会の話ばかり、そもそも田舎で事件や事故なんてめったに起きないうえ、たとえ起きたとしても余程大きなニュースでなければ全国ニュースになることもない。せいぜい地方のローカルチャンネルで報告されるくらいだ。


「次のニュースです。都内の工事現場にあったクレーン車が盗まれました――」

「クレーン車を盗むなんて、都会はやっぱり物騒ね」

「そうですね。そもそもクレーン車なんて盗んでどうするんですかね」


「さぁ、どっかで売りさばくんじゃないの」

「ふーん、まぁそうですよね」

このあたりに関係のないニュースにあまり興味を持たない二人にとって、全国ニュースは会話のネタ程度でしかなかった。


「そういえば、今日の新聞ってもう中に入れてる?」

「あっ、まだですね、今取ってきます」

そういって明人はリビングを出て玄関にあるポストから新聞を引き抜いて戻ってきた。


「どうぞ」

「ありがと!」

森川家が取っている新聞は、ローカル新聞であり、主にその都道府県に密着した内容が書かれている。


挟まっているチラシをテーブルの上に置き、春奈は一面から新聞を読み進める。

テーブルに置かれたチラシをしばらく眺めていた明人が、思い出したかのように口を開いた。

「そうだ、春奈さん、今日って暇ですか?」

「んー、そうね、昨日原稿入稿したし、あんたの春休みが終わるくらいまでは暇よ」


「だったら、今日ニーニャとレフィアさんを洋服店に連れて行ってあげてほしいんですけど」

「そっか、あの子ら昨日着ていた服しか持ってないのね」

「そうなんですよ、今回は母さんの服と僕の子供の頃の服を渡したんですが、サイズとかが……」


「そうよね。まっ、他にも必要なモノもあるでしょうし、今日は諸々買い出しに行こっか」

「お願いします!」

会話が終わる頃には春奈も新聞を読み終え、新聞に挟まっているチラシを色々と眺めている。普段はあまりチラシを見ない春奈のだが、予め買い物に行くのが決まってる日などはよくチラシに目を通している。


「やっぱりお風呂は最高!」

リビングの扉が開き、恐竜の絵が描かれた七部丈のTシャツに半ズボンを身にまとったニーニャと、パーカーとタックパンツを身にまとったレフィアが入って来た。


「おあがり」

ニーニャがご満悦な顔をしている一方で、幸せそうな表情だが血の気が引いて今にも倒れそうにレフィアがフラフラしている。


「レフィアさん、なんだか顔色が悪い上、フラフラしてますけど大丈夫ですか?」

「大丈夫です明人さま。神々の御許に近づきすぎただけです」

「それ死にかけてますよね? とりあえず座って休んでください」

フラフラのレフィアに座ることを勧め、明人と春奈はキッチンに向かった。


明人はコップに冷えた水を入れ、ボーッとしているレフィアの前に出し、春奈は卵焼きを焼き始めた。

「ニーニャちゃん、ちょっと手伝ってくれる?」

キッチンの方から春奈の声が聞こえ、ニーニャもそれに返事をした。

「はーい」


キッチンに来たニーニャに春奈はご飯のよそい方を実演する。

「この容器をお茶碗っていうんだけど、人数分のお茶碗にご飯をよそってテーブルまで運んでくれる?」

「わかったわ」

「お茶碗は落とすと割れて、怪我することもあるから気をつけてね」

ニーニャは春奈からの注意を聞き、ご飯をよそった茶碗を両手に持ちテーブルまで運ぶ。


人数分の茶碗を運び終え、キッチンに戻ると、

「ニーニャ、これも運んでもらっていい?」

味噌汁をよそいながら明人はニーニャに確認した。

「うん!」

「熱いから気をつけてな」

ニーニャはご飯の時と同じ要領で、味噌汁をテーブルまで運ぶ。


運び終わるころには春奈が卵焼きを焼き終えてテーブルまで運び、明人はサラダの入った大皿を持ってリビングに戻ってきた。


「おっと、お茶、お茶」

春奈がお茶を忘れていたことに気づきキッチンに戻り冷蔵庫からお茶を取り出し、人数分の持って戻ってくる。


「ニーニャちゃん、レフィアちゃん、はい、二人はこれを使って」

そう言って春奈はニーニャとレフィアにスプーンとフォークを差し出す。

異世界から来たニーニャとレフィアには、お箸を巧に扱うことが出来ないだろうと思った春奈が、お茶を取りに行ったときに一緒に持ってきたのである。


「こちらにもスプーンとフォークはあるのですね。よかったです。先ほどからこの棒でどうやって食べたものかと考えていたのです」

春奈の差し出すスプーンとフォークを受け取りながら、レフィアがホッとしている。

ニーニャも同く、スプーンとフォークを受け取っていた。


「それじゃあ、いただきます」

「いただきます」

春奈と明人は食事の前に挨拶をして朝食に手を付け始める。


ニーニャとレフィアはその挨拶を不思議そうに見ている。

「「いただきます?」」

見よう見まねで二人も食事前の挨拶をしてから朝食に手を付ける。


「そういえば、二人は昨日コーヒーを飲んで大変なこと? になってたけど朝食で出したものって大丈夫なの?」


二人が朝食を食べる前に気づいた春奈が聞くと

「おそらく大丈夫だと思います。基本的に穀物、草類、肉類、果実類についてはユグドでも主流でしたので。それにニーニャ様と私は少し特殊で、毒のあるものを食べたとしても毒素のみを体から排出できる体質なんですよ。ただ、排出に多大な体力を使うため、2、3日動けなくなってしまうのですが」

と春奈の疑問にレフィアが回答した。


「ってことは、コーヒーも軽微な毒として扱われたから昨日はあんなことになっちゃったってこと?」

「いえ、あの黒い水、コーヒーですか? については私もよくわかりません。もしかすると、ここまでの疲れが一気に押し寄せて来てダウンしてしまったのかもしれないです」

レフィアがそう答え、ニーニャにも同じように確認すると――。


「私の場合、レフィアとは少し違って、なんていうか、酔った感じになったのよね。確かにここまでの疲れってのもあるんだと思うんだけど。コーヒーってお酒が含まれてたりするの?」

「コーヒーにアルコールは含まれてないわね」

「だとすると原因はわからないわね?」


結局ニーニャも原因はわからずじまいの状態ではあるが、基本的にこちらの食べ物を食べても大丈夫だろうという結論に至り、何か体がおかしくなったら都度その食べ物を避けるようにしようという方針になった。ニーニャのこちらの食べ物をできるだけ多く食べて、ネタにしたいという思いも考慮された上での方針だ。

方針が決まったところで、改めて朝食に手をつけ始める。


「どれも美味しいですね。特にサラダ、こちらの草類はエグみが少なくてとても食べやすいです。それにこのドレッシングもとても美味しいです」

「このごはんってのもユグドにはない物よね。食感とか不思議だけど私これ好きだわ! 卵はユグドとあまり変わらない味ね」

ニーニャとレフィアはごはん、卵焼き、サラダに手をつけユグドの食材との差異で盛り上がっている。ただ、一向に味噌汁にだけは手をつけるそぶりを見せない。


それどころか、明人と春奈が味噌汁を食べるたびにその様子をまじまじと見つめている。

それに気づいた明人が――。

「どうしたの二人とも」

と聞くと――。

「いえ、あの、好きなものは人それぞれだと思うの、それがたとえ腐った泥水だとしても、それが好きな人もきっといるわよ」

ニーニャが慌てて言葉を取り繕った。


どうやら、ニーニャやレフィアは味噌汁のことを腐った泥水だと思っていたようだ。そのため、味噌汁にだけは手をつけず、普通に味噌汁を食べている明人と春奈をまじまじと見ていたようだ。

「あれ、さっきお味噌汁運んでくれてたよね、あの時に聞いてくれればよかったのに」

「あの時は、こぼさないように運ぶのに集中してたから気づかなくて。給仕をしたのも久しぶりだったから」

ニーニャは曲がりなりにも王女という立場なので、給仕をする方が珍しいというのは道理である。本来なら一切給仕を行なったことがないと言われても驚かないほどの身分なのだから。


「なるほどね。このお味噌汁っていうのは大豆という豆の発酵食品である味噌をお湯に溶かしたものだから、見た目と匂いは癖があるけど食べると美味しいよ」

と説明するが、ニーニャとレフィアの表情はこわばるばかりである。


「これも経験だと思って食べてみたら?」

明人がそういうと、ニーニャも意を決したように味噌汁のお椀を手に取り、口に運ぶ。

「ズズズッ」


明人と春奈が味噌汁を食べていた時の動きを見よう見まねで行い味噌汁を口に含む――。

表情はこわばりながらも、しっかりと味噌の風味を確かめている。


「に…ニーニャ様…」

「うん、これは確かに美味しいわ! ちょっとクセはあるけど好ましい味ね」


ニーニャの反応を見てレフィアも意を決して味噌汁を口に含む。

「はぁ、なんでしょうこの心温まる味、見た目で判断してはいけないというのよく言ったものです。本当に美味しいです」


ほっこりとした顔をしているレフィアは時間をかけて味噌汁を味わい始め、一方ニーニャは一口目をしっかり味わった後はすごい勢いで味噌汁を食べ終わっていた。


そんな一幕がありながらも、何事もなく朝食を終え、明人と春奈は――。

「「ごちそうさま」」

と食後の挨拶をした。


「えっと、ごちそうさま」

「ごちそうさま」

ニーニャとレフィアも見よう見まねで食後の挨拶をする。


朝食後に笑顔でおいしさを語り合うニーニャとレフィアの姿を見て、春奈も満足そうにしていた。

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