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月と泉とやさぐれエルフ

今週分の更新です。

楽しんで頂けると幸いです。

宜しくお願いします。

木々が生い茂る湿原に、一筋の月光が差し込む。


月光は湿原の中心にある明度の高い泉に反射し、あたり一帯を青白く神秘的に彩っていた。


そんな泉の傍で1人の女性が空を見上げ、わなわなと震えている。


女性は意図が切れたかのようにう空を見上げる体から前屈姿勢になりため息を吐いたのち、大きく息を吸い込み――。

「もー、あの子はいったい、どこに行きやがったあああああああ!」

勢いよく体を仰け反らせ、空に向かって息が続く限り叫び続けた。


これ以上声が出ないというところまで息を出しつくし、糸の切れた人形のようにその場に倒れこんだ。


出し切った酸素を体に取り込もうと肩で息をしながら細かく呼吸を刻み、ある程度酸素の供給が終わると、透き通る泉に反射する自分の顔を見て、また一つため息をついた。


「はぁ、ほんと、あの子は一体どこに行っちゃったのよ――」

『まさか世界中探すことになるとは思わなかったわね』

「ほんとよ。私が想定していた100個の候補全てで外れを引いた時の絶望たるや……」

『そうね、あの時はあなたの癇癪で町が壊滅しないようにするのが大変だったわ……』


泉を覗き込む女性と、泉に映る女性の口元、表情はそれぞれ異なった動きをしていた。

泉を覗き込む女性は虚ろな目で泉を見つめ、泉に映る女性は焦りと疲れが入り混じった表情をしていた。


『え?』

泉に映る女性が急に目を見開く。


「どうしたのよ?」

『ちょっと待って!』

泉に映る自分が何か面白いものを見つけたと言わんばかりにテンションが上がっている。


『おぉー! これはなかなか面白いわね!』

「だからどうしたのよ!」

探し人が見つからないことと、内容のわからない言葉を投げかけられているため、苛立ちが積もっているようだ。


『これよこれ!』

そういうと泉に写っていた自分の顔が消え、一つの映像が映し出された。


「なによこれ?」

映し出された映像には白い立方体で一部が囲まれた建物らしきものが映し出されていた。



『いやー、どこの世界かまではわからないんだけどね、なにかの儀式で神域を出現させたみたいなのよ』

「うっそ! そこって精霊の加護が存在する世界なの?」

『そうね、この世界に精霊は存在しているわ。だからこそこうして泉に映し出すことができているんだから』

「っていうか、あんた精霊を通して異世界を見通せるなんて私に一言も説明してないわよね。タイテーニア?」


泉に映るタイテーニアは舌をチロリとだし、右拳を頭に軽く当てる。


「なによ、そのポーズ。なめてんの?」

『なめてないわよ! これは今映し出してる世界で少女がドジをした時にするポーズよ!』


タイテーニアが真剣な表情で言い返すも、女性は半目で泉をねめつける。


『その目、信じてないわね』

「うん。 あー、もう面倒だから私もあいつと同じように異世界に高飛びしてやろうかしら!」

そう言って女性はテイターニアが泉に映し出している異世界の様子を見ている。


『それは良くないわよ』

女性はしまったと思ったが時、自分の発言を撤回することはできない。そもそもテイターニアの一言により、自分の言った言葉が地雷だったことに気がついたのであった。


『面倒ごとが多いから異世界に行くなんて発想はやめなさい。これが今まさに命の危機に晒されていてすぐにでも異世界に行かないと死ぬという状況であれば、異世界に行った方がいいわ。命より大切なものなんてないんだもの。でも、面倒ごとから逃げるための異世界転移はただの無駄よ。一時的に面倒ごとから解放されるかもしれないけれど、行った先で面倒ごとに巻き込まれない保証なんてないし、嫌なことからの逃げ癖がつくいちゃうと、この先の人生の本当に大切なタイミングで逃げちゃうから。それだけはやめなさい』


安易に発言したことに対して反省しつつ、テイターニアの説教を左から右に聞き流しながら、泉に映る映像に目を向ける。


「神域ねー」

『ちょっと、アゲハ、聞いてる? だからね……って、ん?』

「あー、はいはい、聞いてる聞いてますよー」

適当に返事をしながらアゲハはその場で仰向けになった。


『ねぇ、アゲハ。ちょっと、これ見て!』

「はいはい、聞いてますよー!」

『いや、聞くじゃなくて見るの!』

テイターニアがひどく焦った様子でアゲハをまくし立てるも、アゲハはまだ説教が続けられると思って一向に泉を見ない。


『アゲハ! この娘、ニーニャじゃないの!?』

「あー、はいはい、ニーニャね、ニーニャ。どこにいるんだろねー……今、なんて言ったの!」

アゲハはその場で体を起こし、すぐさま泉に写っている異世界の様子に目を向ける。


そこに写っていたのはニーニャの幼い頃にそっくりな少女であった。


「うーん、ニーニャって確かもうすぐ成人の儀を行うくらいには成長してたと思うんだけど」

『でも、この娘、あまりにニーニャに似すぎてない?』

「まぁ、そうなんだけどね……って、ん? ちょっと、テイターニア……そのニーニャに似た娘の右斜め後ろで笛を持った女性に近づくことってできる?」

『うーん、あなたが魔力を少し分けてくれるなら、できなくはないわよ』

「いいわ。すぐにやって」


アゲハは自分の体から魔力を吸い取られる感覚を味わうのと同時に泉に写っている人物を見て驚愕し、納得がいった。

「ははーん、なるほどね。だったらありえるかもしれないわね!」

『どうしたのよ?』


アゲハはブツブツと小言を呟きながら情報を整理していっている様子であり、テイターニアはそれを見守ることしかできない。


やがて、アゲハの中に一つの仮説が生まれた。その仮説を実証するため、アゲハは――

「ねぇ、テイターニア。私、その世界に行って見るわ。道を開けてくれる?」


『はぁ、あなたがそのテンションで言い出す時は、本当に何かある時だから断るに断れないのよね。うーん……6日後そこまで待ってちょうだい』

「どうして? できたら今すぐがいいんだけど」


6日という時間を長く感じたアゲハはすぐさま開けて欲しそうにテイターニアに理由を聞く。


『あっちの世界で私の力を自由に使えるかわからないからよ。 だから、あなたが今持っている精霊石に精霊力を蓄えて、何が起こっても対処できるようにしたいのよ』

「それもそうね。わかったわ。じゃあ6日後にしましょう」


説明に納得したアゲハはテイターニアの提案に乗り、6日後に異世界へ行くことにした。


それまでの期間は近場の街で必要なアイテムを購入し、野宿の準備を始めた。


泉付近で野宿をしても良かったのだが、精霊の力を効率よく石に込めることを考え、聖木(せいぼく)が多い森で野宿をした方が良いという判断に至り、近くの街で話を聞いて見ると、どうやら、湿原から北に1時間ほど進んだところに聖木の群生地があるようなので、そこまで移動し、野宿をすることにした。


聖木の群生地には綺麗な水も流れており、小さな池もできていた。


水辺の近くで野宿をするのが最適と考えていたアゲハはすぐさま池の近くにあった幹の太い木に精霊魔法を使い、アゲハが2人ほど入れる広さの穴を作った。


その木の穴で雨風をしのぎつつアゲハは6日間、体の清め、食事、睡眠の時間を除いた全ての時間を精霊石に力を蓄えることに集中した。


その結果、大精霊石に1つ、中精霊石2つ、小精霊石7つと手持ちの全ての精霊石に力を蓄えることができた。


これだけの精霊石に力を蓄えれば、精霊力の存在しない地で過ごしたとしても3年間は贅沢に精霊力を使うことができる。


そして、泉で映像を見てから6日後。


『それじゃあ、準備は整ったわね』

「ええ。行きましょうか」


アゲハがそういうとテイターニアが周りの精霊に語りかけ、精霊たちは会話を始める。その会話をテイターニアが口ずさむと、泉全体が淡く光だし、そして、一つの穴が出現した。


『アゲハ』

「わかってるよ。テイターニア」

2人が一言交わすと、アゲハは穴へと飛び込んだ。


「まってなさいよ! ニーニャらしき娘とミドリ!」

『ちょっと待って……これはまずいわ……』

精霊の道を落ちていくなか、テイターニアが焦り出す。


「どうしたのよ?」

『うそ、誰よこんなことしたの!』

焦りすぎてテイターニアにはアゲハの声が聞こえていないようである。


「だからどうしたのよ!」

『着地点がずれてる……』

「え?」

『だから、あの神域が出現した位置からずれてるみたい!』

「ええええええええ!」

『今もう一度確認したらずれてたみたいなの……』

テイターニアがしょんぼりと呟き、アゲハはもう一度――


「ええええええええ!」

そんな叫び声が精霊の道にこだまし、そしてアゲハとテイターニアは異世界へと転世した。

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