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神楽舞

今週分の更新です。

楽しんでいただけると幸いです。

よろしくお願いします。

祭りが始まり、多くの人が神社の境内におとづれている。

出店を見ているものや、お参りをしているもの。神楽の前で座り舞が始まるのを待っているもの。


「いやー、毎年言ってるけど、この光景好きだなー」

「ええ、普段静かな領域が人々によってざわめきたつこのギャップがいいんですよね」

「目的は違えど一つ所に集まる。それは私たちにはできないことだからね」


人の集まりを鳥居の上から見ながら、精霊たちは楽しそうに会話している。

こちらの世界の人間に精霊は見ることができないため、境内を動き回って人々を観察しても騒ぎになることはないのだが――。


「あー、とりいのうえきらきらー」

鳥居に向かって歩いてくる少年が鳥居の上を指さしながら隣を歩く母親に教えるかのように大声を上げる。その言葉につられ隣にいる母親が少年が指差す方に視線を向けると、鳥居の上の一部に太陽光が当たり少し明るくなっていた。


「ほんとだねー、鳥居の上ピカピカだねー」

「ぴかぴかじゃないよ、きらきらだよ」

少年は小首を傾げなら母親に再度言い直させる。

「そうだねー。きらきらだねー」


時折、子供、それも赤ん坊から保育園くらいの間の子供は純粋に精霊が見えてしまうことがある。

そういった混乱を避けるため、精霊たちは極力人混みの中を飛び回らないようにしているのだ。


「さて、そろそろかなー」

「そうだね。そろそろだね」


精霊たちが視線を境内から外に向ける。

そして、神楽の笛の音が聞こえるとともに外に向かって飛び出した。


「それではみなさん。実りを届けに行きましょう!」

その言葉に精霊たちは頷くような動作をし、田畑の密集する地区へと向かう。


◾️


緑の笛の音色が聞こえ、しばらくしてから明人は太鼓を打ち鳴らす。それと同時にニーニャと瑞波は練習を重ねた動きで、手に持った鈴を鳴らしながら舞を始める。


緑、瑞波、ニーニャはそれなりに練習を行っていたこともあり、多少緊張したとしてもテンポを崩すことはなかった。

だが、明人だけは違った。急な代役、ほぼ当日のみの練習、そして大勢の視線による緊張。それらが重なり明人は自分の太鼓の音しか耳に入らなくなっていた。その結果、太鼓の音が走り始めたのであった。


今はまだ緑もニーニャも瑞波も合わせることはできているが、このまま明人の太鼓が走り続けてしまうと、神楽に支障をきたしてしまう。


そのことを観客に悟られず明人に伝えなければならないのだが、神楽を舞っている今の状況ではどうあっても無理である。


「瑞波」

瑞波と近づく型の際にニーニャが小声で瑞波に声をかける。


「ん?」

「明人の太鼓が走ってる件なんだけど、次の型から……」

ニーニャは小声かつ早口で瑞波に説明し、その説明をきいた瑞波も「わかった」と小声で呟いた。


そして、ニーニャと瑞波が移動するタイミングで――


シャリィン――


先ほどまでは静かに鈴を打ち鳴らしていたが、急にニーニャと瑞波の鈴の音が力強く鳴り響いた。

そして、その音はたしかに明人の耳にも届いた。明人が目だけで周りに視線を送ると、ニーニャと瑞波の動きが先ほどよりも少し早くなっていることに気づいた。


さらには、緑の吹いている笛の音も早くなっていることに気づく。


その全てが明人の太鼓が走ったことに起因すると気づいた明人は、申し訳ない気持ちで一杯になるのと共に、テンポを元に戻すにはどうするべきかという考えが頭の中を駆け巡る。


明人は今一度楽譜の内容を思い出し、少し先のタイミングで笛と太鼓が交互に演奏する箇所があることを思い出した。


「うん、そこでテンポを戻すしかないな」

小さな声で自分に言い聞かせるようにつぶやく。太鼓の音により周りに明人のつぶやきは聞こえることはないが、明人はつぶやきを持って自分にカツを入れた。


舞は進み、緑の笛の音が止まる。太鼓のみの演奏パートである。

続いて笛の演奏が始まり、太鼓の演奏が止まる。


笛のみの演奏が15秒ほど続き、そして笛と太鼓の音色が再び重なる。

明人の太鼓の音は先ほどまでとは異なり、練習時と同じテンポで音を刻み始めた。


そのことに気づいた緑、ニーニャ、瑞波は心の中で安堵し、自分の役割に集中した。


緑は練習時と変わらない演奏ぶりであったが、ニーニャと瑞波は鈴の音を強くした影響か、練習の時以上に体全体を使った動きとなっていた。


シャリィン――


そして、再度力強く鈴の音色が鳴り響いた瞬間――。


明人、ニーニャ、瑞波、緑は、真っ白で無音の空間に立っていた。


◾️


精霊たちは田畑を周り、作物に農薬をかけるが如く精霊の力を振りまいている。


「全員集合してください」

声の聞こえる範囲でバラバラに行動していた精霊はその声を聞き、すぐさま集まった。


「私の方は終わりました。みなさんはどうですか?」

「とりあえず、南側おわったよ」

「西も終わってる」

「東も終わった……」

「北なんだが、以前よりも田畑が広くなっていて、まだ終わっていない」

「なるほど、では、全員で北に向かいましょう」


その一言で精霊たちはいつも通りひとかたまりになり北に向かった。


北の田畑の様子を観ると、以前よりも倍以上に広くなっており、現在は3分の1ほど精霊の力を振り撒いたところであった。


「これは別れて作業をした方がいいですね」


その意見に精霊全員が同意し、再度別れて作業を始める。


その後10分ほど経過する頃には北側の全域に精霊の力を振りまき終えた。


「いやー、終わった終わったー」

「さて、帰りますかー」

「待ってください。あと二つ行くところがあるでしょう」

精霊たちが首をかしげるような動作をして数秒考えたのち――。

「あぁ、水源と町か!」


田畑に流れる水源の浄化も実りを届けるための重要なものであった。

そして町の散策。精霊たちは秋祭りの時にしか神社から外に出ることができない。そのため、外に出られるこの秋祭りでできうる限り町の情報を集めておくのであった。


「それでは、水源に……」

先陣を切って水源に向かおうとした精霊がその動きを止め、神社のある方角に視線を向ける。


他の精霊たちも何かを感じ取ったのであろう。同様に神社の方角へ向き直り。

「うわー、あの2人がいたら何か起こるとだろうとは思ってたけど、まさかここまでとはねー」

呆れ気味な声に賛同するように他の精霊たちも頷くような動作をする。


精霊たちの目には神社の一部を覆う真っ白な立方体が写っていた。

「神域……」

神社の一部がこの世ならざる神々の領域に侵食されている。


「あのさ、ちょっと気になったんだけど、あの2人は良いとして、残りの2人は神域に踏み込んで大丈夫なのかな?」

「大丈夫でしょう。人間があの領域を認識など出来ませんから。それこそ私たちに接触でもしない限りは」


「…………」

数秒間の沈黙が場を支配した。

そう、夏のあの日のことが精霊たちの脳裏をよぎったからである。


「おそらく、あの2人も私たちに接触したことにより神域を認識することはできますね。ただ、逆を言えば、私たちと接触したからこそ神域を認識したとしても精神の崩壊などは起きないでしょう。それに、何かあればあの2人が黙ってはいませんからね……」


先ほどまでリーダーシップをとっていた精霊から動揺と焦りが見えた。


「ぐだぐだ言ってないで、僕たちは僕たちの仕事をさっさと終わらせて神社に戻るよ!」


普段おちゃらけた様子の精霊が力強く言うと、精霊たちも頷くような動作をし、全速力で水源へと向かった。


◾️


「うそっ……」

ニーニャの表情は驚愕に彩られ緊張と共に汗が頬を伝って行く。


明人や瑞波も同様である。何が起こったのか理解ができていない――。


緑は目を細め、観客の居る方向を見据えている。


唯一の救いとしては第六感とも言えるのだろうか、神楽を止めるべきではないと感じたことである。その感覚は全員共通のようで、誰一人として神楽を止めようとはしていなかった。


無音であるため明人の太鼓が乱れそうになるが、頭の中にある楽譜とニーニャと瑞波の舞を照らし合わせ、なんとか乱すことなく太鼓を叩くことができている。


「――――」


何かを感じたような気がした。ただ、それが何なのかは明人には分からない。


頭の楽譜とニーニャと瑞波の舞の動きから、神楽が終盤の盛り上がりどころであることがわかる。


その盛り上がりに対してこの空間の何かは喜び、感情を高ぶらせているのだろうか。


空間に歪みがないため、そう言った感情の機微ですら感じ取ることができない。


最後の節、太鼓を激しく連打、舞の動きは激しくなり、音は聞こえないが動きで床を力強く足で踏みならしていることがわかる。


「――――」


それに合わせてか何かを感じたような気がした。


そして、大きくバチを振りかぶり、力強く太鼓を2度打ち鳴らす。


その後は静かな笛の音色でゆっくりとニーニャと瑞波は殿の中央まですり足で移動するのである。


明人はバチを下ろし、ニーニャと瑞波に視線を向ける。


その動きはとても美しく、神々しかった。


2人が中央まで移動すると、正面を向き正座をしたのち頭を下げる。


その瞬間、真っ白な空間は音もなく消え去り。観客からの拍手の音が耳を打つ。


空間が消え去るほんの一瞬、瑞波と明人の体の中に光る粒子が吸い寄せられるように入って行った。


本人たちはそのことに気づいておらず、ただただ、今は観客からの拍手が聞こえていることに安堵している。


こうして、秋祭りの神楽は幕を閉じた。

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