最後の追い込み
投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
今週分の更新です。
楽しんでいただけると幸いです。
よろしくお願いします。
カーテンを開けると、雲ひとつない青空に広がっていた。
窓を開けると少し肌寒い風が流れ込んできて、徹夜で疲れている体に染み渡る。
そんなことを考えながら明人は、まだ音がなる前の目覚まし時計の設定を解除しリビングへと向かった。
リビングの扉を開けると、既にレフィアと春奈がリビングで作業をしている。レフィアは準備したお弁当と朝食をテーブルへ運んでおり、春奈はテーブルの上に置いてあるノートPCを睨めつけている。
そしてニーニャは、神妙な面持ちをしながらソファの上で胡座をかいている。
「おはようございます」
少々気の抜けた挨拶を明人がすると――
「おはようございます」
「はよー」
「……」
三者三様の挨拶が返ってきた。レフィアと春奈はいつもどおりの挨拶をしているなか、ぼーっとしていて聞こえなかったのかニーニャだけは無言だった。
「すみません、明人さん、ニーニャ様は今精神統一中のため、そっとしておいてあげてください」
「精神統一?」
「はい、祭事などがある時はその日の朝に気持ちを整えるため少しの間だけああやって静かに胡座をかくんです」
いつも子供のようにはしゃぎ回るニーニャを見ている明人は、ニーニャの少し大人びたおとなしい様子に少しドキドキしていたが。
「あっ、明人おはよー。レフィア、朝食できてる?」
そのドキドキもつかの間、すぐにニーニャは精神統一を終え、いつものニーニャに戻った。
「はい、ニーニャ様既に準備は完了しています」
「よし、明人も降りてきたから、朝食にしよっか」
春奈が号令をかけると、ニーニャ、レフィア、明人は既に配膳が終えているテーブルを囲む椅子に座った。
本日の朝食はトーストとサラダ、ハムエッグとコンソメスープとなっている。
「そういえば、明人は太鼓どうにかなりそうなの?」
ニーニャの質問に少しだけ表情を曇らせた明人だが――
「とりあえず、叩く分には問題ないと思う」
小学校の頃の練習と昨夜から今朝にかけての徹夜での練習により叩くだけならできるようになっていた。
しかし、太鼓を上手に叩くのは並々ならぬ練習が必要となる。今の明人は文字通り譜面の通りに太鼓を叩く。そこまでである。
「うん、譜面通りに叩けると思えるようになっただけでも上出来よ。取り敢えず、ご飯を食べたら神社へ行って、人が集まるまでに何度か太鼓を通しで叩いてみるしかないわね。そのために森山先生にもお願いして朝早く来てもらうんだから」
舞の始まる時間は13時からとなっており、本来であれば準備も含め11時に神社に着けば良いのだが、今回明人の太鼓の練習のため、全員7時には神社に集合することになっていた。
時計を見ると針が6時30分を指していたので、全員いつも以上の速さで朝食を食べ終え準備を整え神社に向かった。
神社に着くと、既に緑と瑞波は神主家でお茶をすすっていた。
「おはようございますー。みなさん」
「おはよ、みんな」
2人の挨拶に対してそれぞれ返答をし、明人たちも神主家にお邪魔すると、ちょうどお茶菓子を持ってきた奥さんから――
「朝早くから本当にありがとうございます」
そう言われ会釈をされる。
「いえいえ、困った時はお互い様ですから。神主さんの容体はどうですか?」
奥さんの挨拶に春奈が応対し、心配そうな表情をしながら神主さんの容体を伺うと――
「はい、昨夜のうちに痛みは引いたそうですが、いつまたなるかわからないので、当分は安静にと先生から言われ、今も病院のベッドで療養中です」
「そうですか、痛みが引いたのであればよかったです。しかし、今も病院のベッドですか……」
「はい」
「では、祭事の仕切りは……」
春奈がホッとした表情をしたのもつかの間、すぐに次の問題に顔を曇らせることになった。
「はい、主人が昨夜隣町の神主さんに連絡したところ、運良く代わりを引き受けてもらえました」
その話を聞いた春奈はホッと一息つき、表情をゆるませた。
「それならよかったです」
「はい、本当に」
「それじゃあ、あとは、明人だけね!」
プレッシャーをかけるかのごく春奈は明人の方を向きながら力強く声を発すると、明人はゴクリと唾を飲み、少し緊張した面持ちで首を一つ縦に振った。
◼️
関係者は神楽殿に入り、春奈とレフィア、神主の奥さんは観客席に座りながら太鼓を叩く明人の姿を見ている。
まず最初に太鼓だけで楽譜に沿って叩けるかを確認しているところである。
ラストスパートの激しい叩き打ちを終え、感覚を開けて大きく太鼓を打ち鳴らし、そして最後は静かに二度太鼓に打ち鳴らす。
そうして明人はバチを下ろし――
「どうでしょう……」
自分の中では最低限譜面通り叩けたと思っていた明人であるが、それは主観的な考えであるため周りに意見を求める。
全員がなかなか口を開かないため、明人はゴクリと唾を飲み誰かが口を開くのを緊張した面持ちで待つ。
「テンポは少し早いですが、音については問題ないと思います」
最初に口を開けたのは神主の奥さんであった。
「そうですねー。テンポについてはこの後笛と合わせながら微調整していきましょー」
次に緑が口を開き、提案する。
「うん、まぁ昨日の今日でここまでできたのなら上出来ね。やるわねー、明人!」
春奈の一言にニーニャと瑞波もウンウンと頷く。
「じゃあ、今から笛と太鼓で音合わせをしましょう。舞については少し後でいいから、お茶でも飲みながら少し休んでて!」
春奈の号令で、瑞波とニーニャは春奈に一声かけてからレフィアと一緒に御神木の方へと向かった。
「じゃあ、はじめましょーか、森川くん!」
「はい! よろしくお願いします! 森山先生!」
こうして残り短い時間での明人の太鼓の特訓が始まった。
◼️
神楽殿の方からお腹に響く太鼓の音が聞こえてくる。
「なんかいつもと音が違うなー」
「そうね、いつもよりテンポが早いわね」
「そりゃそうでしょ。神主さん、ギックリ腰で運ばれちゃったんだから」
「そういえばー、そうだったねー」
人には聞こえない声でザワザワと精霊たちが騒ぎ立てる
普段であれば、この時間帯は精霊たちの眠りの時間であり、静かに眠っているか軽い寝言が聞こえてくる程度なのだが、秋祭り当日である本日は違った。
「いつも以上に御神木がざわめいていると思ったら、珍しいわね。貴方達がこの時間に起きているなんて」
「おお、舞い姫様のお越しだ」
「今日は楽しみにしてるわよー」
「そうだそうだー!」
「って言っても私たちは貴方が踊るところは見れないのだけどね」
その言葉を聞いた精霊達はハッと気づき、少しだけ声のトーンが下がった。
「で、どうしたんだい、こんなところに。舞の最終調整に来たんだろ?」
御神木の上いた光がニーニャの方に近づき、問いかけてくる。
「ええ、もう少ししたら私たちもテンポ合わせに行くわ。その前に……」
ニーニャの言葉をきいた精霊達の頭にクエスチョンマークが浮かび、ニーニャの近くでニーニャを眺めていると――
「ぷぎゅっ」
精霊たちは急に圧迫感に襲われた。
「にゃっ、にゃんだこれ」
「何かに掴まれている……」
その言葉を聞いたニーニャはニヤリと笑い、精霊たちはそのまま上下にシェイクされる。
「あがががが」
「うぇぇぇ、ぎぼぢわるい」
精霊たちから阿鼻叫喚の声が聞こえるとニーニャは笑みを浮かべながら――
「これで昨日の恨みは返したわ」
と宣言し、それと同時に精霊たちは圧迫感から解放された。
「ニーニャ、まさかおまえ、僕たちの分けた精霊力を使って自然干渉したな!」
「えぇ、昨日のバカにされた恨み、晴らさずにはいられるわけがないもの!」
「ちょっと笑い者にしただけじゃんかよー」
「それくらいで怒るなんて、懐の小さいやつめ!」
「そうだそうだ!」
精霊たちのブーイングを聞き流し、ニーニャは――
「しーらない!」
と言って御神木から離れていった。
「はぁ、まっ、舞い姫のご機嫌がこれで治るなら安いものかな」
「いやー、ほんとほんとー」
「あんたは少し反省しなさいよ。誰のせいでこんなことになったと思ってるのよ」
「いやーすまんすまん」
そんな一幕を終え、精霊たちも本日の準備に取掛る。
最初はいつも通りに身を清め、神社の周りの木を巡る。そして、もう一度身を清めたのち、御神木の根元で静かに時を待つ。
一連の作業を行なっている間も、笛と太鼓の音色は鳴り響き続けた。
時を待つ頃には、神楽殿の床を打ち鳴らす音と、鈴の音も聞こえるようになった。
そうして、時を待ち境内が人の声でざわつきはじめた頃――
「それじゃあ行きましょうか。 実りを届けに!」
その言葉に周りにいる精霊たちは一様に頷き、そして集まった精霊たちは光となり、鳥居に向かって飛び去った。




