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舞と太鼓とぎっくり腰

今週分の更新です。

楽しんでいただけると幸いです。

宜しくお願いします。

境内に響き渡る笛の音が鳴り止むとともに、2人の少女は神楽殿の真ん中で(こうべ)を垂れながら膝をついていた。

「はい、おっけー! 2人とも今日までよく頑張ったわね」

神楽殿の外に配置された複数の椅子に座ったままニーニャと瑞波の神楽を見ていた春奈は、さながら映画監督のように自前のメガホンを口にあてている。


その言葉を聞いたニーニャと瑞波はふぅと小さく息を吐き、その場に立ち上がり笑顔でハイタッチを交わしていた。

その後ろでは、笛の音を間違えずに吹き切った緑が静かに息を吐き、「よかった」と周りには聞こえないほどの小さな子で呟いていた。

普段の練習では緊張している様子を見せない緑であっても、明日の本番を控えたリハーサルでは流石に緊張したようだ。


太鼓の前では神主さんが額に汗を滲ませながらいつもと変わらない様子で立っている。

流石に何年も神楽の太鼓役をやっているため、神主さんも慣れたものである。


「よし! じゃあ一旦休憩! 休憩が終わったら後2〜3回通しでやって、それが終わったら今日は解散! 明日の本番のために帰ってお風呂入って寝るわよ!」

両手を叩きながら神楽殿にいる全員に聞こえるよう春奈はメガホン越しに全員に指示を出した。


その指示を言いたニーニャは――

「あれ? 春奈、そろそろ原稿の締め切りヤバいんじゃないの?」

春奈の指示に対してニーニャが少しずれた返答をすると。

「当然! 私が寝るわけないじゃない! 帰ったら即仕事モードよ! 明日は2人の神楽の時間まではフルスロットルで原稿作業するわよ!」

もともと秋祭りの神楽のコーチをすることを念頭に置き、原稿作業を終わらせ納品していた春奈であったが、別のコーナーを担当していた作家がとある事情で両腕を怪我したため、急遽春奈にそのコーナーの原稿作業が回ってきたのであった。

もちろん最初は春奈も断っていたが、担当編集である智花の泣き崩しにより、まんまと作業をすることになってしまったのであった。


「仕事で大変なところ、ほんとうにありがとうございます」

神主さんが神楽殿の上から頭を下げる。

「いやいや、元々神楽のコーチについては請け負うつもりで自分の作業は終わらせていたのですが……どこぞの作家が怪我しやがったもんですから。しかも完全なる自業自得! 理由聞いた時は私も唖然としたんですから!」


春奈がチラチラと瑞波たちの方に視線を送っていたことに気づいた瑞波は――

「ちなみに、どんな理由で元々の作者さんは怪我されんたんですか?」

と尋ねると、春奈は良くぞ聞いてくれましたと言わんばかりの満面の笑みを一度作り、憎しみの篭った声で語り始めた。


「聞いた話によれば……彼女とのデート中に、彼女をお姫様抱っこをしたら腰から変な音が聞こえたと……」

「あー……」

ニーニャ1人が首をかしげる中、神主さんと緑と瑞波はいたたまれないと言わんばかりの表情になっていた。


「物書きなんだから手と腕が動けば書けるでしょ!」

ニーニャの一言にここだけは物申すと言わんばかりに神主さんが声を上げた。

「ニーニャちゃん。あのね、ぎっくり腰ってほんとうに辛いんだよ。ニーニャちゃんは若いからぎっくり腰になったことなんてないだろうけどさ……」

神主さんがどこか遠いところを見ながらそんな風に語る。


「えっと、そんなに辛いのね……知りもしないで語っちゃってごめんなさい」

「いやいや、いいんだよ。ところでそろそろ練習を再開しないですか?」

「それなんですが、あと少しだけ待ってもらえますか?」

そう言って春奈は携帯を取り出すと、何かメッセージを打ち始めた。


「あと、2分くらいで着くそうです!」

「あぁ、もしかして明人くんとレフィアさんを呼んだんですか?」

「そうです! 差し入れとともに!」

そんな話をしていると、神楽殿の横を通る明人とレフィアの姿が目に入った。


「はい、差し入れと共に参上! しました」

レフィアの反応に神主さん以外の全員が固まった。

「明人さん、やはりこの決め台詞は私には似合わないようです」

「みたいですね。やっぱりポーズも必要だったんですかね?」


そんな話をしている2人にニーニャが容赦ない一言を放った。

「あのね、明人、レフィア、ポーズをつけようとつけまいと、みんなの反応は変わらないから」


「「えっ?」」

明人とレフィアはどうしてと言わんばかりの表情で周りを見渡す。

全員が三者三様に軽く頷き、ポーズをつけたところで何も変わらないということを動きで語ってくれていた。


「で、なんでそんなわけのわからない行動にでたのよ、レフィアは?」

「ちょっとテレビの影響で……やはり私ではダメでしたか」

「うん、ちなみに明人がやってても寒かっただけよ」

「辛辣だな!」

3人のやりとりが長くなると思った春奈は手を叩き――

「はい、そこまで。明人とレフィアちゃんも来たので、もう一回通しましょう!」


春奈のその一言を聞き、全員が初期位置についた。

明人とレフィアは春奈のとなりに座わり、空き席に差し入れの食べ物を置いた。


前奏の笛の音が響き渡り、舞が始まる。

木製の笛の音色と、力強い太鼓の音、そこに涼やかな音色で鈴が鳴り響き、時に激しく床を足で叩きながら動き、時には音も立てずに動く。

「この太鼓懐かしいですね。小学校の地域文化を調べる授業で練習したんですよね」

「あれ、そんなことしてたの? 私知らないだけど」

「いや、何度か話しましたよ……」

「私も歳かな……」

そんなやりとりを春奈と明人がしている中、レフィアは初めて見る舞、そしてニーニャの舞であることに感動しその一挙手一投足から目を離すものかと神楽殿を凝視していた。


舞も佳境に入り、太鼓が激しく打ち付けられ、そして最後に太鼓の大きな音が――


ゴキィ――


鳴りひびかなかった。


そして、太鼓の音の代わりに神主さんの声とも取りきれない叫びが聞こえた。

「いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」

それを聞いた春奈はすぐさま椅子から立ちあがり、神楽殿に走った。


瑞波、ニーニャ、緑もすぐさま中断し、神主さんに駆け寄った。

春奈が神楽殿に入った頃には叫び声は収まっていたが、その代わりに小さな声で「こしぃ、こしぃ」と聞こえてきた。


「神主さん、このタイミングですか……」

腰に手を当て硬直した神主さんは、紛れもなくぎっくり腰で動けなくなっていた。

明人とレフィアが手伝い、神主さんを神楽殿から神主さんの家の居間に運び込み、神主さんの奥さんに治療具を用意してもらった。


その間に春奈は救急車を呼び、救急車が来るまではひと段落つくことになった。


「うちの主人がご迷惑をおかけしました」

「いえいえ、家のお守りは私たちがするので、救急車が来たら付き添いで行ってあげてください」

「わかりました。ありがとうございます。ところで、こんなことを聞くのはおこがましいのですが、明日の舞は……」

奥さんの言葉を聞き、ニーニャ、瑞波、緑の表情に陰りができる。


「はい、舞は成功させます!」

「でも、太鼓がいないんですよ……」

「いやー、それがさっきいい話を聞いてね」


春奈はニヤニヤと笑みを浮かべながら差し入れを開けている明人の方に視線を向け。

「ということで、明人、よろしく!」


差し入れを分けている明人の手が止まり、油の刺されていないロボットのようにギギギと首を回し春奈の方に視線を向け__

「まじですか?」

それに対して春奈は__

「本気と書いてマジと読む!」


レフィアと春奈と明人以外の全員が驚きの表情を隠せぬまま、太鼓役として明人が神楽に参加することとなった。


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