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精霊とちょっとしたハプニング(SS)

今週分の更新です。

タイトルにSSとついていますが、先週の続きです。

楽しんでいただけると幸いです。

宜しくお願いします。

冷たい風が頬を撫で、寒いと表現して良いのか、涼しいと表現して良いのか分からない気温の中、神楽殿の外から観客の声が境内内に響き渡る。

「いやー、あのニーニャちゃんの動き最高だよ。まさか手の叩く音が鳴ると同時に床に伏せるなんて」

「ほんと、訓練された兵士って感じだよな!」

「あー、お腹痛い、あの子の行動はいちいちツボにくるわー」

「はいはい、ニーニャちゃんも真剣なんだから、笑ったりしちゃいけないよ」


神楽殿で話を聞いていたニーニャは耳の端でその声の内容を聞き取っており、眉をヒクヒクと動かしていた。


「そろそろ静かにした方がいいと思うよー。エルフの聴覚って優秀らしいからみんなの声聞こえてるかもよー」

その場にいる注意したモノ以外の、全員一斉に口に手を当て、その後なにも言ってないかのようにごまかしながら口笛を吹く。


しかし、そんな行動は時すでに遅く、休憩時間中のニーニャは神楽殿の正面に見える本殿の縁に座っている精霊たちを数秒間見据えたのち、邪悪な笑顔を披露した。


「あちゃー、これは後からなにを要求されることやら……」


そんな話をしていると、ニーニャの後ろから1人の女性が近づいてきていた。

「あれー、ニーニャさん、なにやってるんですかー?」


ニーニャが左方向から首を回し、後ろを振り向くと誰もいない。


「こっちですよー」


ニーニャから見て右側から声が聞こえたので、そちらに顔を向けると、緑がニーニャと同じように本殿を見ていた。


「緑先生。お疲れ! ……様です」

「はいー、お疲れ様ですー。それでー、なにやってたんですかー?」


プライベートモードの間延びした喋り方の緑に違和感すら覚え始めるほど、教師として振舞っている緑がニーニャの中の当たり前となっており、敬語で話すべきなのか、プライベートモードとしてタメ語で話すべきなのか混乱している。


「えっと……ですね、神楽殿から観る境内の様子なんて滅多に見れないと思いまして、色々じっくり眺めていたんですよ」


「なるほどー、たしかにそうですよねー、始めて神楽殿に入ったのであればー、ここからの風景は新鮮ですよねー」


「そうなんです! こう、今まで見れなかった風景を見ることで、何かしら新しいインスピレーションが生まれるというか!」


そう熱弁するニーニャの話を聞きながら、緑もニーニャが視線を向けていた辺りに、同じように視線を向けしばらくジッと見つめていた。


「えっと……緑先生?」

そんな緑の様子を見たニーニャは訝しげな表情をしながら緑に声をかける。


「んー、どうしたんですかー?」


「先生もしかして……その視線の先に何か見えてたりしますか?」

緊張した様子でニーニャが緑に尋ねると。


「はい、見えてますよー」

緑の回答を聞いたニーニャは背筋が凍った。


「えっと……ちょっと待ってください。何が見えてますか?」

ニーニャは緑の横顔から視線を外すことなく質問する。

ここでの緑の回答によってはニーニャは即座にこの場を離れる必要があった。


当然である。もしもエルフにしか見えない精霊の姿が見えているのであれば、緑はエルフであると断言できる。


そしてニーニャからすれば、エルフはユグドにしか存在しない種族であり、そのエルフがこの世界にいるということはミルストリア王族の誰かが派遣したエルフの可能性が高いと考えられるからである。


しかし、ニーニャにも腑に落ちない点はいくつもあった。緑に出会ってから約8ヶ月。何度もニーニャを捕獲することはいつでもできたはずだ。だが、それでも緑の口から見えているものの回答を聞くまでは暗視できない。


「あれー、ニーニャさんには見えてないんですかー?」

「ゴクリ」

ニーニャは体重を後ろにかけ、後方に飛ぶ準備をする。


「本殿の縁の下で丸まっているかわいい猫ちゃんがー」


「……」

数秒の沈黙の後、ニーニャは本殿の縁の下に視線を向けると、そこには2匹の猫が丸まっていた。


「あっ、あぁ、あの猫ですね……すみません、建物に気を取られてて気づきませんでした!」


一気に気の抜けたニーニャはその場に座り込みながら笑っていた。


「造形として綺麗な建物ですからねー、そちらに目が奪われてしまうのは仕方のないことですよー」


緑もニーニャの隣に座ろうとすると――

「練習再開するわよ!」

と春奈の声が神楽殿に響き渡り、座ろうとしていた緑は中腰から立ち上がり、所定の位置に向かった。


ニーニャも立ち上がり、もう一度本殿の縁の下に視線を向けた。

その頃には2匹の猫もいなくなっていた。軽く左右を見渡したが、どこにも猫の姿が見当たらなかった。


まるで、最初からそこには猫なんていなかったかのように。


不思議に思い少し首を傾げたものの、本殿の下にでも入っていったのだろうと思い至ったニーニャは1人で納得した後、所定の位置へと戻っていった。


所定の位置に戻った頃に、ニーニャは精霊たちのヤジに怒っていたことを思い出し、今度絶対に文句を言ってやると固く心に誓ったのであった。


「ふぅ、舞の休憩は終わったみたいだし、そろそろ準備をしますか」

「そうね、完成形はリハーサルの時にでもみましょ!」

「あー、本番の舞も見たかったなー……」

「はいはい、愚痴らない愚痴らない。みんな同じ気持ちなんだから」


そう言って精霊たちは本殿の縁から飛び上がり、笛の音を聞きながら鳥居の方へ向かって飛んで言ったのであった。



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