音合わせ(SS)
更新遅くなってすみません。
今週分の更新です。
内容がいつもの半分くらいのため、SSとタイトルに記載しておりますが、前話の続きです。
楽しんでいただけると幸いです。
よろしくお願いします。
神楽殿の中央に寝そべるニーニャへ春奈、瑞波、緑、神主さんの視線が向けられると、いきなりニーニャが両手で顔を隠し、体を丸めはじめる。
その様子を見た4人はそれぞれ誰が話しかけるかを目と顔の動きだけで協議するが、一向に誰も話しかけない。
その状況にしびれを切らした春奈は、握りこぶしを作り正面に突き出し、チョキ、パーの順で手の形を変えた。
その様子を見た他のメンバーは春奈の意図を組み、全員春奈と同じように握りこぶしを作り正面に突き出す。
その様子を見た春奈は一つ頷き、突き出した拳を軽く上下に振り始め、3度目の振り下しで手の形を変える。
他のメンバーはその動きを見て、頷く。
そして、4人同時に腕を軽く上下に振り、3度目の振り下しで一斉に手の形を変えた。
春奈はグー。
瑞波はパー。
緑はパー。
神主さんはパー。
結果、春奈の一人負けとなり神楽殿で丸まっているニーニャに声をかける。
「えっと、ニーニャちゃん?」
「ごめんなさい……」
力のない声でニーニャは謝罪した。
「謝る必要なんてないわよ。いきなり地べたに寝そべり始めたからびっくりしたけど、ニーニャちゃんに怪我がないのであればいいのよ! でも、なんで急に寝そべったりしたの?」
春奈は勢いよく神楽殿に寝そべったニーニャへの心配半分、疑問半分といった様子で応対する。
「えっと……笑わないで聞いてくれる?」
「大丈夫、笑ったりしないから! とりあえず、そのミノムシのような体制を元に戻そ!」
瑞波がニーニャに駆け寄り、ニーニャの方を掴みニーニャの体を起こしはじめる。
そのままニーニャは正座の体制になり、ニーニャの近くに4人のメンバーが座り込む。
「で、どうして神楽殿に寝そべったの?」
春奈が再度聞き直すと__
「えっと、簡単に説明すると……条件反射なの……」
「「「条件反射?」」」
ニーニャの説明に全員が首を傾げ、ニーニャはその様子を見た後に説明を続けた。
「私の故郷では狩が盛んで、一定の距離で獲物を見つけると、笛の音で知らされ、その音が聞こえたのちに手を叩くことで、地べたに体を倒し気配を消し獲物に近づいて狩っていたの」
ニーニャの説明を聞いた神主さんはポカンとした表情で口が半開きになっていた。
神主さんの反応は最もだ。日本で狩をするには狩猟免許を取得する必要があり、最低でも18歳以上でなければ試験を受けることができないのである。
ニーニャが海外からの留学生であることを知っていたとしても、まだ18歳にも満たない学生が狩をしているなどと思っていなかったため、面食らったのである。
春奈と瑞波の表情にも多少の驚きが現れていた。
2人はニーニャが何者かを知っているため、狩りについて驚くことはなかった。2人が驚いていたのは、異世界に神楽笛と同じような音色を出す楽器があるということに驚いていた。
この世界でエルフといえば海外の神話が元となっており、使用する道具などの情報についても海外仕様のものが多い。そんな中、神楽笛と同じような音色をだす笛がユグドにあり、エルフが使用しているということを聞くと、多少なり驚くことになる。
そんな驚きを隠し得なかった3人とは別で、緑は困った表情をして__
「えっとですねー、身についた条件反射となると短期間の訓練でどうにかできるような問題ではないですよねー。このままだと2人での神楽舞ができないのではー?」
と現時点で最大の問題点を口にする。
その言葉を聞いたニーニャは表情を暗くし少し俯いた。
春奈、瑞波、神主さんも緑の言葉を聞き、思考を切り替えどうするかを真剣に考え始めている。
「今から代役を立てるのは無理ですか?」
神主さんがそう提案するが、残りの時間で舞を覚えるのは難しいということで却下となり、他の方法がないかを再検討する。
「うーん……こりゃお手上げかもしれないわね」
右手を額に当てポーズをとった春奈はため息と一緒に諦めの言葉を口にした。
重たい空気がその場を支配し始めているところ、緑が口を開いた。
「あのー、もしかしたらー、笛の音色だけなら問題ないのではー?」
その言葉を聞いたニーニャはハッと顔を上げ、大きく頷いた。
「ええ、いや、うん! 笛の音色が聞こえてから手を叩かれるとさっきと同じことになっちゃうけど、手さえ叩かれなければ大丈夫よ!」
その言葉を聞いた春奈、瑞波、神主さんは__
「「「よかったー」」」
同時に安堵の声を上げた。
「えっと、本番では手は叩かないの?」
神楽舞を知らないニーニャは舞の前に笛の音の前奏と手を叩くという動作が必ず含まれると思い込んでいた。そのため、必ず条件反射で舞殿に寝転んでしまうと考えていたのであった。
「ええ、本番で手を叩くことはないわ。笛の前奏を聞いて、前奏が終わるタイミングでニーニャちゃんと瑞波ちゃんが舞い始めるだけね。今は練習だし、どこで動き始めればいいかわからないと思ったから手を叩いていただけなのよ」
春奈の説明をきいたニーニャの表情には笑顔が戻り__
「それなら大丈夫よ! 本番は舞えるわ!」
そう言いながらその場に立ち上がった。
「わかったわ。だったら、練習の時も手を叩くのはやめましょう。動き出しの合図として、足の裏で舞殿の床を打ち鳴らすわ。それなら大丈夫でしょう」
「ええ、手を叩く音でなければ大丈夫よ!」
ニーニャは満面の笑顔でそう言ったのであった。
こうして音合わせの小さなトラブルは幕を閉じた。




