動き出す秋祭り
忙しさにかまけて先月で1周年だということを忘れていました。
読んでくださっているみなさんのおかげです。ありがとうございます。
これからも今まで通りのペースでのほほんと更新していきますので、よろしくお願いします!
今週分の更新です。
楽しんでいただけると幸いです。
よろしくお願いします。
秋――
読書の秋、運動の秋、食欲の秋。
秋と一口に行っても人によって様々な感じ方がある。
「ねぇねぇ、やっと秋だよ、あの時期だよ」
「そうだね。この時期が一番楽しみだしね」
「それに、今年はあの子もいることだし」
「そうね、あの子には是非舞って欲しいわね」
「でも、この町に籍を置く人しか舞には参加できないんじゃ?」
「いや、それが、今年は人が少ないこともあって、外部の人でも参加が可能らしいよ」
「それなら、その話をそれとなく……」
「「「くっくっく、たのしみだなー!」」」
秋の夜、神社の木々の合間から、人には聞こえない精霊たちの声が響き渡った。
ブルルッ――
精霊たちの声が神社に響き渡ったのと時を同じくして、洗い物をしていたニーニャは体を震わせた。
「どうしたの? ニーニャ」
「いや、なんか寒気が」
左右後ろを確認して、ニーニャは洗い物を再開する。
「最近寒くなって着たから風邪の引き始めかもね。 あとで生姜湯を作ってあげるから飲んでから寝るといいよ」
「ありがと、でも、最近は布団を蹴り上げることもなくなったんだけどなー」
食器を全て洗い終えたニーニャは水道の水を止めると、ゴム手袋を外し台所にある小さな洗濯バサミのついたハンガーに干し、リビングへと向かった。
明人は、ニーニャの洗った食器を食器乾燥機に入れ、戸棚からリビングにいる全員分のマグカップを出し、ホットコーヒー、暖かい緑茶、生姜湯、を入れ、リビングへと持って行くと、春奈が回覧板を読んでいる。
「あれ? ニーニャとレフィアさんは?」
「んー? なんか、ニーニャちゃんが暖かい服着たいって言い出したから、レフィアちゃんも一緒に部屋に行ったわよ」
「なるほど、あっ、はい、コーヒー」
明人は春奈の前にマグカップを置く。
「ありがと」
明人は持っていたお盆を机に置くと、自分の分のマグカップを手に取り、春奈の隣の席に座った。
しばらくすると、ニーニャとレフィアが戻ってきた。レフィアはいつも通りのメイド服だが、ニーニャは先ほどまで着ていたTシャツの上にはんてんを羽織っていた。
「明人さん、緑茶ありがとうございます」
「明人、生姜湯ありがと」
各々飲み物に口をつけると、ホッと一息――
「あー、生姜湯美味しー、体があったまるわー」
「はい、暖かい緑茶も美味しいです」
そんな会話をしばらくしていると――
「こんばんわー。入ってもいい?」
玄関から瑞波の声が響いてきた
「どうぞー」
「やっ!」
リビングに入ってくると敬礼ポーズをとって挨拶をする。それにつられたのか、ニーニャとレフィアも同じようにポーズを決めて挨拶を返した。
「こんばんわ、こんな時間にどうしたんだよ。瑞波」
「いやー、ちょっとニーニャちゃんをスカウトに!」
そういって瑞波はニーニャを指差し、ニヤリと笑った。
「へ? 私?」
「そう、ニーニャちゃん! あっ、でも、状況に応じてはレフィアちゃんも!」
ニーニャにさしていた指を左に少しスライドし、今度はレフィアを指差した。
「私もですか?」
「とりあえず、コーヒーでいいかな? あと、ここ座って」
「あ、うん、コーヒーで大丈夫、ありがと」
明人は自分が座っていた席を瑞波に譲り、そのままキッチンに向かい、コーヒーを淹れはじめた。
「えー、単刀直入に聞きます! ニーニャちゃん私と舞いましょう!」
「えっと、ごめん、瑞波、さすがの私もその一言だけじゃわからないわ」
困り顔のニーニャの隣ではレフィアが頷いていた。
「あれ、でも舞うのってこの町に籍がないとダメだったんじゃなかったっけ?」
キッチン戻ってきた明人は瑞波の前にコーヒーを置き、ソファに座った。
「いやー、人が少なくなってきてることもあって、今年からはそれ無くしたそうよ。この町に住んでたらおっけーらしいの」
「なるほどね、たしかに人が少なくなってるから、そういう対応をとらないと舞い自体が無くなりそうだもんね」
2人の会話を聞いていたニーニャは何を話しているのかさっぱり分からず、首を傾げていた。
「瑞波、1から説明してくれない?」
「えっとね、夏にカブトムシを取りに行った精霊のいる神社覚えてる?」
「もちろん! 今も1週間のうち4日くらいは通ってるわ!」
ニーニャは精霊から力を分けてもらうため、週に4日精霊の元を訪れ精霊石に力を蓄えていたのであった。
「おぉ、結構通ってるね。その神社で秋のお祭りがあるのよ」
「お祭り! って山車って呼ばれる大きな車引いて人が大勢集まるあのお祭り!」
ニーニャがテーブルに乗り出し、目をキラキラとさせて瑞波に問いかけると――
「流石に、テレビでやるような大きなものではないけどね。そのお祭りで男は山車を引き、女は神に舞を捧げるって習わしがあるんだけど、その舞を一緒に踊って貰えな――」
「踊るわ!」
瑞波が言葉を言い切る前に、ニーニャは踊る宣言をし、胸の前に拳を作っていた。
「喰入り気味にってきたわね。結構な期間放課後に練習があるけど大丈夫? クリスマス用の原稿とかもあるし」
「たしかに、少し辛いかもだけど、せっかく文化に触れるチャンスだもの、これを逃す手はないわ! まぁ、いざとなったら明人一人でお願いね!」
そうってニーニャはソファ側に視線を送り、顔の手前で両手を合わせて明人を拝む。
「うん、せっかくのチャンスなんだから、小説のネタにできるようバッチリ舞ってくるといいよ!」
「やったー! ってことで、瑞波、私も舞うわ!」
「おっけー、じゃあ、神主さんに連絡しないと」
と携帯を取り出したところで、明人が再び口を開いた。
「あっ、でもさっき言ってた、クリスマス用の小説を僕1人でっていうのは却下。それは当然一緒に頑張ってもらうから。それができるならっていう条件だけどね」
「それはもちろんよ! 私ができることが頑張るわ! でも、できないところはフォローしてほしいかな」
「うん、もちろん、フォローはするよ!」
明人は頷き、その頷きにニーニャも頷き返した。
「瑞波、今度こそおっけーよ!」
「おっけー、そういえば、明日って夜に神社行くよね?」
「うん、明日は神社に行くわよ。どうして?」
「じゃあ、明日ついでに巫女服の採寸もしてもらいましょ。私もしてもらうし」
「いいわね! そうしましょ!」
その後瑞波はコーヒーを飲み終え帰宅し、ニーニャは巫女や舞いという単語に興奮したのか瑞波が帰ってから舞のテレビの見よう見まねで練習をしていた。
■
翌日の夜、明人、ニーニャ、レフィア、瑞波は神社の御神木前で立っていた。
「やっほー、ニーニャ」
「やっほー、みんな。今日も少しだけ力を分けてもらいにきたわよ!」
「ほいほい、じゃあ精霊石を出してくれる?」
明人とレフィアと瑞波は御神木から少し離れたところに用意された椅子に座り、ニーニャの様子を見ている。
「うーん」
瑞波は目を細め、ニーニャの立っている位置をにらめつけていた。
「はぁー、やっぱりニーニャちゃんと手を繋がないと見えないわね」
「そりゃそうだよ。僕らはもともと見る力がないんだからさ」
「いやー、ニーニャちゃんやレフィアちゃんの近くに長くいたから私にも見えるんじゃないかと!」
瑞波が勢いよく立ち上がると――
「そんなこと言ったら、僕の方が先に見えるようになってるだろ」
明人は冷静に返答した。その返答を聞いた瑞波が座っている明人の方に視線を向けると、明人も瑞波と同じように。いや、瑞波以上に目に力を入れてニーニャの方に視線を送っていた。
「もしかして……明人、ニーニャちゃんとここに来るたびに……」
「当然だろ……はぁ」
瑞波の言葉に明人はため息交じりに返答する。
明人も瑞波と同じようにニーニャと触れ合う時間が長くなったので、自分の中にある隠された力が目覚め、1人で精霊を見ることができるのではないかと考えていた。その考えのもと、ニーニャが精霊と対話している間、何度も何度も目を細め精霊の姿を1人で視認できないかと試していたのであった。
「今日もダメかぁ」
ニーニャが精霊との対話を終え、明人たちが座っている方向に振り向いたので、明人は時間切れとして肩の力を抜いた。
「お疲れ様です。ニーニャ様。こちらをお飲みください」
ニーニャはレフィアから受け取った紙パックの果汁100%のりんごジュースをストローを使い飲み始めた。
その裏で、レフィアはうっすらと浮かぶニーニャの汗をタオルで拭き始める。
「ぷはぁ、もう涼しいとはいえ、やっぱり精霊と対話するのは体力を使うわね」
汗拭きが終わりタオルを洗濯物を入れる袋に仕舞うと、先ほどまでレフィアが座っていた位置にニーニャは腰を落ち着ける。
「そうだ、精霊との対話でちょっと驚きと反省があって――」
いつもは精霊との対話の内容ニーニャから話すことはないのだが、珍しくニーニャが精霊との対話について口火を切った。
「なになに!」
明人がニーニャの珍しい行動に気を取られていると、瑞波が食いついた。
「あのね、精霊たちからお祭りで神楽を踊ってほしいって言われたのよ」
「あらま、それはなんたる偶然! で、なんて返したの?」
「いやー、最初は渋い顔をして精霊が必死に説得してくるのを楽しく聞いてたんだけど、途中からなんか居たたまれなくなって……今日神楽で着る巫女服の採寸に来たって言ったのよ――そしたら、精霊全員から総ツッコミを受けちゃってね。まぁ、最終的に喜んでくれてたから良かったけど」
「まぁ、そりゃそうでしょうよ」
瑞波が呆れた顔をしていると、ニーニャんも面目なさそうに軽く頭を下げる。
「とりあえず、精霊たちには謝って許してもらったから、今後も大丈夫だけど。やっぱりこういう相手を試すようなことはしちゃダメね」
反省しているためか、精霊との対話が終わったいつも以上に、ニーニャの声に覇気がなかった。
「まっ、ニーニャが今回の行動を反省できてるなら、いいんじゃないかな」
「明人?」
「間違って、反省して、そして次に生かす。そうやってみんな成長していくんだよ!」
「珍しくいいこと言うじゃない」
瑞波が茶化すのを聞き――
「って僕も昔春奈さんに言われたんだよ」
と明人は付け加えた。
「うん、そうよね。今日から当分は心の中で反省してるわ」
そう言ってニーニャが椅子から立ち上がり伸びをするのを見た瑞波が――
「じゃあ、そろそろ行きますか。あまり遅くなるのも神主さんに悪いし」
と声を上げると、明人、ニーニャ、レフィアは頷き、神主さん邸に向けて歩みを進めた。




