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神の目線と結果と始まり

今週の更新です。

楽しんでいただけると幸いです。

よろしくお願いします。

文化祭が終わった翌日、振替休日として学校は休みである。

部活動をしている生徒たちも顧問の意向に部活は休みとなり、完全なオフ日となっていた。ただ1つの部活動を除いては。

「えー、みなさん、文化祭お疲れ様でした。みなさんのお力添えもあり、2年7組クラス別出し物ランキングで1位でした!」

昨年の殺意に満ちた表情とは打って変わって、いつも以上の笑顔であった。

部室内からは部活動に来た文芸部員たちからパラパラと拍手が起こったが、それも一瞬のこと、すぐに拍手は止みため息とともに机に肘をつき、焦点の定まらない目で机を眺める。


「えーっと、あんまり嬉しくなかったですか?」

緑がしょんぼりした表情なると__

「いや、ランキングは嬉しいですよ。でも、ちょっと引っかかることがあって」

瑞波が口を開き、放ったその言葉に、部員は全員肯首した。


「気になることとは?」

場の空気を読んだ緑が瑞波に質問を投げかけると__

「えっとですね、私たち文化祭中何をやってたんだっけなって思って……」

「だよな。俺なんかレフィアさんと4組の宝探しやったくらいしか記憶にないぞ。あっ、後後片付け」

「そうなんだよね、僕も同じような感じなんだよ。ニーニャと一緒に宝探しをしたってことしか……」

「2人はまだいいわよ。私なんて、クラスの出し物と文芸部の冊子配りやったなー……やったわよね……確かやったはず……みたいな曖昧な感じにしか覚えてないのよ」

三者三様、思いの丈を話し始めると、文化祭での不満が徐々に大きくなっていき、緑にもそれを止めることはできそうになかった。


そんな状況を見かねたニーニャが__

「そうね、私たちの住んでいたところでは、神様が世界を管理していて、その神様の目に止まらなかったものは事象として認識されないと言われてきたわ」

「えっと、ニーニャちゃん、それってどういう……」

「例えば、私たちが文化祭用に書いた小説があるじゃない。この小説は主人公とヒロイン、そしてボスにフォーカスを当てて物語を作ってるでしょ」

瑞波が頷き、ほかの部員も興味ありげにニーニャの話に耳を傾けている。


「じゃあ、主人公がボスと戦ってる間、サブで登場した農民たちは何をしていたと思う?」

「いや、そんなの物語に書かれてないんだから知らないに決まってるでしょ……あっ」

瑞波は理解したとともに、その理不尽に天井を見上げていた。


「なるほどね。物語に書かれない以上、誰の目にも止まらないから何があったか認識されない」

「うん、だから、神様の目に止まらないものは事象として認識されないの。だからこそ、フォーカスをあてたい内容やキャラに関してはスピンオフなんていう形で神の目に触れるようにしているし、そうでなくても、思い出の振り返りなんかで目に止まるようには出来るから」

「それが成された時に、初めて私たちは文化祭で何をどうやったのかを理解できるのね……」

「うん。だから、これは最早神頼みしかないわ」

そういうとニーニャは柏手を打ち、何もないところに向かって拝み始めた。それを見た瑞波も同じ行動をとった。


そうしてしばらくすると、ニーニャと瑞波は席に戻り__

「「なんか、本当にすまんかったって謝られた気がする」」

2人同時に同じことを言ったので、これは本当に謝られたのかもしれないと部員全員がため息をつく結果となった。


そんな一幕もあったが、振替休日の本日、文芸部員が部室に集まったのは他でもない。文化祭で頒布した小説に関するアンケートの結果を開封するためである。

構内のいたるところに置いてあった文芸部作品アンケート用のアンケート入れを回収し、すでに部室の机の上に配置済みである。

「こういうのってあんまり書いてもらえる気がしてなかったんだけど、箱を振ったら思った以上に入っててびっくりしたわ」

「まぁ、何だかんだ学校のみんなも、来る人も人がいいから何かしら書いてくれるんだよ」

「これが優しい世界ってやつなのね」

ニーニャは持ってきたハンカチで目元を拭う演技をしたのち、担当していたアンケート箱を開けて中からアンケートを取り出した。


「アンケートは面白かった作品欄に書かれているAからCで分けてね。分け終わったら私が一旦預かるから」

そう言って緑もボックスを開けて作業を始める。

「ねぇ、明人、私たちの書いた作品ってAからCのどれなの?」

「いや、僕も知らないよ。どの作品に何の英語が割り振られているかを知っているのは森山先生だけなんだ」

「え? じゃあ、読んでくれた人も誰が書いたのかわかってないってこと?」

「うん。そうなるね。印刷の時に森山先生が、タイトルと書いた人の名前を消して、印刷に出してるから。ってこの話一回説明されてるよ」

「……えっと、これはあれよ、さっき話してたように、神の目に認識されていなかったから忘れていたのよ!」

そう言いながらニーニャは手に取るアンケートを何度か取り落としていた。


みんなが黙々と作業をしたおかげで、1時間ほどでアンケート箱の開封が完了した。

開封したアンケートを一旦緑に渡し、明人たちは部室内にある本を読み始める。

それからしばらくすると、ニーニャは明人の制服の裾を引っ張り、部室から出るよう指示をしだした。


明人が部室を出て少ししてからニーニャも部室からでて、扉を出て左手の壁を背もたれに座っていた明人を見て、となりに腰を落ち着けた。

「で、どうしたんだよ、ニーニャ」

「いやー、ちょっと気になったんだけど、緑先生にアンケートを渡してから結構時間が経ってるけど、なんでそんなに時間がかかるのかと思って」

ニーニャからすれば、集めたアンケートはそのまま自分たちに再頒布されると思っていたため、なぜここまで再頒布に時間がかかるのか理由がわかっていなかった。


「なるほどね。森山先生はアンケートのコメントを一つ一つ読んでくれてるんだよ」

「やっぱり、文芸部顧問だから、そういうことやってるの?」

「うん、それもあるだろうけど……心無いコメントを間引くためにやってるんだよ」

「心無いコメント?」

とニーニャが首を傾げたので、明人は率直に__

「悪意のある評価のことだよ」

「それって、酷評じゃなくて? もしも酷評だったらそれも受け入れないといけないでしょ」

「うん、悪評も評価の形だから作り手はそれを受け止めないといけない。でも、そうじゃなく、僕のいう悪意のある評価っていうのは、作品の評価に関係ない人を傷つける評価のことなんだ。例えば『死ね』って一言書かれてたりね」

明人も昔何かしらの悪意のある評価を受けたことがあるのか、表情に影を落とした。


「あー、この世界特有の文化よねそれ。私たちの世界じゃそんなことしてたらみんなから軽蔑されるわよ。人を傷つけて優位に立っているように思えるのはただの思い違い、やった人の都合のいい思い込みよ。本当に優位に立ちたいのなら、同じ土俵に立って、正々堂々とその人と戦って勝つ。それが私たちの世界の常識だから」

「清々しいまでの騎士道だね」

「ええ、だからこそ、もらった評価はしうっかりと受け止めないといけないの」

ニーニャは自分が書いた小説への酷評が原因で旅に出ることを決意し、そしてこの世界にやってきた。

それはひとえに自分への評価をしっかりと受け止め、先に進むことを決意したからだ。


「やっぱりすごいな、ニーニャは」

明人はニーニャに聞こえないほどの小声で呟いた。

「え? 明人今なんか言った?」

そんな風にニーニャが聞き返すと同時に部室の扉が開いた。


「おーい、明人、ニーニャちゃん、アンケートの整理おわったって」

健人が首だけを扉からだし、明人たちに伝え、その言葉を聞いた明人たちも部室に戻った。


「はい、では、皆さんアンケートの結果を発表したいと思います!」

部員たちはゴクリと唾を飲み、一度に頷く。

「まず、全体のアンケート数は137票でした。去年に増して多かったです。では、第1位。健人、レフィアチーム。得票数53票」

「え? まじ?」

状況が飲み込めずフリーズするレフィアに、状況は飲み込んだものの全く信じられない健人。そして、それ以上にこの状況が信じられない明人、ニーニャ、涼、瑞波の4名であった。


「コメントとしては『楽しく読めた』『笑えた』とかコメディ作品としては成功と言っていいコメントが多かったわ」

「いよっしゃああああああ! レフィアちゃん俺たちやったよ!」

健人がフリーズするレフィアの肩を激しく揺らすも、レフィアは放心状態であった。


「ちょ、緑先生、次、次の発表お願いします!」

喜ぶ健人を横目に、瑞波は次の発表を促した。

「わかったわ。第2位は__涼、瑞波チーム。得票数49票。 で、3位は明人、ニーニャチーム。得票数35票」

涼と瑞波はほぅっと安堵の息を吐き、明人とニーニャはがっくしと肩を落とした。


「まぁ、多少は予想してたけど、やっぱりこうなったか」

「うん。でも結果は素直に受け止めないと」

明人は力なくニーニャに話しかけると、ニーニャも力なく返答した。


「えっと、涼、瑞波チームの作品に対する主なコメントは『きゅんきゅんした』『もう1人の女の子が幸せになってほしいからスピンオフ書いて』などのこめんとがありました。恋愛特化の小説を書いてたからいいコメントは貰えてるわね」

緑はアンケートの束を涼と緑に渡した。


「で、明人、ニーニャチームだけど、『こんな異世界に行ってみたいと思った』『バトルシーン凄い迫力だった』などのコメントが多かったわ。こっちもバトル物のコメントとしては申し分ないコメントが貰えてるわ」

明人とニーニャは緑から受け取ったアンケートに目を通すと、設定やバトルに関する評価は良かったが、最後が駆け足であったこと、結局主人公とヒロインがどうなったのかの結末を書ききれなかったこと。その辺りが読みたかったというコメントも多く見受けられた。


「やっぱり、エピローグが書けなかったのが原因の一旦ね……」

「でも、あの状態でも読んで楽しんでくれた人がいることは良かったね」

「ええ、でも、私もやっぱりエピローグは書きたいわよ。それで、完成系を読んでもらいたい!」

「うん、僕も同じ気持ちだよ。ニーニャ」

先ほどまで落ち込んでいた明人とニーニャであったが、貰ったコメント読み終えてから、目の中にやる気の炎が燃え上がっていた。


「そうね、私たちも兄さんに負けて悔しいから、今年中にリベンジしたいわ」

「そうだね。負けっぱなしは嫌だな」

瑞波と涼のやる気も燃え上がっていた。


「くくく、我々に勝てるとでも思っているのか? だったらかかってくるがいい!」

健人はラスボスのように椅子に座り、他チームを思い切り煽り倒した。


「うーん、じゃあ、冬の書き出し大会やりましょうか」

「「「書き出し大会?」」」

「そっ! 外部のお客さんも参加できるクリスマス会があるじゃない。そこのパンフレットに文化祭と同じように作品を載せてもらうのよ」

「え? そんなことできるんですか?」

「うん、実は前にその話をもらってたんだけど、期末テストとか、クリスマス会の準備とか忙しいからって断ってたのよ。昨日の打ち上げの時のその話があったから、一度考えさせてもらうことにしてたんだけど、今のこの感じ見てると、やりたいでしょ?」

緑が全員に問いかけると、一斉に頷いた。


「わかりました。では、担当の先生には書かせていただくことを連絡するわ。ただし、書くからには全力よ! クリスマスが近いからって浮き足立たないように!」


「レフィアさん、今度も1位とってやりましょう!」

「……はい、はい、とってやりましょう!」

健人のガッツポーズに合わせ、レフィアも同じようにガッツポーズを作る。


「涼、兄さんには負けないようにしないとね」

「ああ、流石に2度も同じ敗北はしないよ!」

そう言って瑞波と涼はノートを開き早速設定を考え始めた。


「今度こそ!」

「やってやろうじゃない!」

そう言ってニーニャと明人は拳をつき合わせていた。


こうして、文芸部員の新たな目標が定まったのであった。

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