文化祭準備と受難
今週分の更新です。
楽しんで頂けると幸いです。
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「もう、ダメ……」
ドサッ――
ニーニャは最後まで言葉を発することができないまま、その場に倒れこんだ。
「ニーニャ様!」
血の気の引いた表情をしたレフィアがすぐさまニーニャのそばに駆け寄り、倒れたニーニャを抱きかかえる。
レフィアはニーニャの額などに手を当て触診したのち、胸に耳を当て心音を確認する。そして、ニーニャの胸から顔をあげたレフィアは目を閉じ、首を横に振った。
「うそ、そんな、そんなのってないよ! ニーニャちゃん……」
瑞波は口元に両手を当て、悲痛な表情で倒れるニーニャを見つめる。
明人は、握りこぶしを机に叩きつけ、ワナワナと震え――
「あとちょっとなんだから頑張ってくれよ! ニーニャ! 僕らももう限界なんだよ!」
と悲痛の叫びをあげた。
その叫びに反応してか、ニーニャの口から「ぐぅ」といびきが聞こえてきた。
「レフィアさん、すぐにニーニャ叩き起こして!」
「了解しました!」
ニーニャの服の襟を掴みレフィアは思い切り前後に振り、その後何度かニーニャの顔を叩く。
「はっ、私また……」
「おかえりなさいませ、ニーニャ様」
目の下にクマができ、疲れきった表情をしたレフィアは機械的にニーニャに声をかけた。
眠気で崩れ落ちそうな体をなんとか両足で支え、ニーニャは再び作業場へと戻った。
■
遡ること2日前。
「んーっ、もうすぐ文化祭! 準備も大詰めね!」
明人は、ニーニャ、レフィアと一緒に朝の部室に向かっていた。
「そうだね。とりあえず、ニーニャの原稿が間に合ってよかったよ」
「いやー、面目無い。本当にギリギリだったから、エピローグも書けなかったし、どこかでこのエピローグを書きたいわ」
「うーん、次に書くタイミングかー。じゃあ新年の初書きの時にでも書こうか!」
部室棟の階段を登りながら明人がそういうと。
「新年とは一体……」
レフィアが小首をかしげる。
「こちらの世界では12月31日に今の年が終わり、翌日の1月1日から新しい年が始まるという考え方があるんですよ。その新しい年の事を新年というんです。ユグドにはなかったですか?」
「ユグドでは世界全体で新しい年を始めるという風習はないわね。種族によって一年という感覚は大きく違うものだから、世界全体で祝う風習ができなかったんだと思うは」
踊り場に立ったニーニャからそう返答された。
「ただ、そのかわり、家族が生まれた日。誕生の日は家族全員で盛大にお祝いするわよ! ユグドではその誕生のお祝いを持って各個人の新しい1年が始まるとされてるわ」
「へー、なるほどね。エルフは誕生日が1年の始まりって考え方か。レフィアさんたちも同じだったんですか?」
ニーニャの後ろを歩くレフィアが軽く頷き。
「そうですね。私たちも同じように、個人の誕生の日が新たな1年の始まりでしたね」
「ということは、ユグド全体でそういう風習なのかな」
レフィアの返答を聞いた明人がボソリと呟くと、いつのまにか隣にいたニーニャが――
「多分そうよ! そういえば、明人の誕生の日っていつなのよ?」
「僕の誕生日? 12月25日だよ」
「へー、世界的にお祝いする日の近くじゃない。いいわね!」
そう言ってニーニャは微笑むが、明人は微妙な表情をしていた。
「うーん、僕さ、子供の頃自分の誕生日が嫌いだったんだよ」
「どうしてよ! 誕生の日は素晴らしい日よ!」
明人は恥ずかしそうに頰を掻きながら――
「いや、クリスマスと被ってて誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントを一緒にされてたんだよ」
「クリスマス?」
と首を傾げ、ニーニャが悩んでいるのを見て、明人が説明しようと口を開けると。
「あー、思い出した。赤い服を着たサンタとかいうおじいさんがプレゼントを持って来てくれる日のことね!」
「あれ、ニーニャ知ってたんだ」
「うん、近所で子供と遊んでた時に教えてもらったのよ!」
と胸を張ってきたので、明人はニーニャの頭を撫でようと手が頭に触れた瞬間――サッ――。
ニーニャは数歩後退りして、顔を赤く染めていた。
「いや、頭を撫でようとしただけなんだけど……」
「いやー、明人のことだから子供から教えられてどうするんだ! って頭を軽く叩かれると思ったのよ!」
ニーニャが少し早口言葉でそういうと、すぐそこだった部室までの距離を早足で歩き、勢いよく部室の扉を開けた。
「おはようございます!」
明人はニーニャの行動がよくわからず、頭に疑問符がいくつか浮いていたが、部室を見るとさらに疑問符が増えることになった。
「えっと、どうしたんですか、森山先生」
「あっ、森川くん、ニーニャさん、レフィアさん、おはようございます〜」
緑はよろよろと首を入り口の方に向け、消え入りそうな声で挨拶をする。
「緑先生、なんか顔色悪いですよ。 何かあったんですか?」
「実は……」
緑の話を聞き、ニーニャは何もわかっていなかったのか、ただ首をかしげるだけであったが、明人とレフィアは顔から血の気が引き、今にも倒れそうな状況になっていた。
「いやいや、そんなのってないでしょ」
「森山先生。今のは事実なんですか?」
「ええ、私もまさかこんな漫画みたいな展開になるなんてー予想すらしてなかったですよー」
部室だからか、動揺しているからか緑の口調がプレイベートモードのものになっていた。
緑、明人、レフィアが絶望に打ちひしがれていると――
「おっはよーございます!」
「はよーございます」
瑞波と健人が部室に入ってきた。
「あれ、どったの?」
「明人とレフィアちゃん、それに緑先生もなんか顔色悪くない?」
瑞波と健人が部室に入るやいなや、部室に漂っていた重い空気が払拭され。
「あぁ、あっ、信じてた、僕は信じてたよ! 二人なら大丈夫だって!」
二人の姿を見た明人は目にうっすらと涙を浮かべていた。
「いや、だから何があったのよ」
瑞波が再度問いただすと、緑が口を開いた。
「あのね、さっき私宛に電話がかかってきたの。25件ほど……」
「「25件!? 先生何やったんですか!?」」
朝から25件もの電話が掛かってきたことに驚きを隠し得なかった瑞波と健人は、同時に同じ質問を緑に投げかけた。
「何もやってません! 電話は7組の生徒の親御さんからです!」
緑の返答を聞いた瑞波は真剣な表情になり。
「もしかして、全員風邪で休みとか? ってそんな漫画みたいな展開ないわよねー!」
あははと笑いながら瑞波は笑い飛ばしたが、その言葉を聞いた緑、明人、レフィアは同時に頷く。
「あは……は……? まじ?」
瑞波の顔から笑顔が消え、冷や汗が頰をつたう。
「本当にそんな漫画みたいなことあるのかよ……」
瑞波の隣では健人も頭を抱えていた。
部室全体に払拭されたと思われる重い空気が再び漂い始める。
ここにいる全員はほとんど諦めようとしていた。そう、ただ1人を除いては。
「明人達はなんでそんなに難しい顔してるのよ? 私たちがいるじゃない!」
「いや、流石に無理だろ……この人数で残りの準備を終わらせるなんて」
「明人、やる前から諦めたら何もできないわよ! ダメでもともと、やれたらかっこいいじゃない!」
そう言ってニーニャはニヤリと笑みを浮かべる。
部室にいる全員がポカーンと口を明け、ニーニャの方をただただ見つめる。
「……やってやる」
そんななか明人はボソリと呟き、その呟きを大きな声で再び呟く。
「こうなりゃ、やってやろうじゃねーか!」
その言葉を聞き、不安を抱えながらも1人1人が頷き、最後にニーニャが頷く。
「先生、宿泊許可を2日分お願いします! 瑞波とレフィアさんは現在の各工程の進捗状況を見て、重要なものから優先してニーニャと健人に振ってください! ニーニャと健人は振られた作業を進めて! 数人で考えないといけない作業で重要なものは今日の午後使ってまとめて考えよう!」
その指示を聞いた各員はすぐさま部室を出て、教室に向かった。
「やってやりましょう! 明人!」
「あぁ、やってやろう! ニーニャ!」
■
そして、冒頭。文化祭前日の朝。
「さっ、流石に宿泊2日目となるとやばいな……」
明人達は学校に2日間宿泊し、仮眠は軽く取っているもののほぼ徹夜状態で作業を進め、スケジュールから少し遅れているもののなんとか作業を進めていた。
だが、体力はもう限界。少しでも瞼を閉じると、そのまま意識が飛びそうなほどである。
「なんとかここまでは来れたけど、もう、無理よ」
「明人、ほら、あそこに大きなおっぱいが!」
瑞波は悲痛な叫びをあげ、健人はありえない妄想を口にしだした。
ニーニャはカクンカクンと首を振り下ろしながらは目を覚ましを繰り返して、作業が全く進んでいない。
レフィアは機械のように手を動かしてはいるが、作業効率が確実に悪くなっている。
「くっ、もう、ここまでが限界か……すみません、森山先生」
「あなたはよくやったわよ、森川くん」
明人も緑も諦めようとしたその時。
ガラララ――
「いやー、ごめんごめん、大事な時に風邪なんかひいちゃって」
始発が学校の最寄り駅に着いて少しした頃、秋音が教室に入ってきた。
「うおっ、みんな顔がゾンビだよ! って、なんで5人がこの時間に!?」
「あっ、あきねー」
瑞波が目に涙を溜めながら秋音に抱きつき、今日までの概要を説明した。
「まじか……」
秋音は驚きの表情をして明人達を見つめ、真剣な表情になり――
「あきとん、今日までの進捗まとめ見せて!」
明人は進捗を書いた紙を秋音に渡す。
「うん、これなら私1人でもなんとかなりそう。 あんた達は保健室と宿直室借りて寝てきなさい!」
「いや、でも流石にこの作業を1人では辛いだろ」
「ふふん、私を誰だと思ってるのよ! この秋音様に任せなさいな!」
そう言って秋音は胸を手のひらで叩く。
それを合図にしたかのように教室内にゾロゾロと生徒が入ってきた。
「いやー、すまんかった」
「風邪ひいちゃってー」
風邪でダウンしていた生徒の殆どが復帰し、休んだことの罪悪感からか始発で学校に来たようだ。
「えっ、お前も風邪ひいてたの!?」
「えっ? お前も?」
「じゃあ、文化祭の準備は?」
学校に来てクラスのほぼ全員が風邪を引いていたことを知った生徒達は、焦り出した。
「はーい、みんな静かに、あきとん達が作業進めてくれてたおかげで、ほぼスケジュール通りに作業が進んでるわ! だから、あとは私たちで作業を進めるわよ!」
その秋音の姿を見た明人達はコソコソと教室を出て、保健室と宿直室へ向う。
「「森川くん、木崎くん、木崎さん、ニーニャちゃん、レフィアちゃん。 ありがとう! 後は任せて!」」
教室から生徒達が顔を出し、そう叫んだ。
「後は任せた!」
明人は最後の力を振り絞り、みんなの叫びに応え、そして明人と健人は保健室へ、ニーニャとレフィアと瑞波は宿直室へと向かった。




