とある因縁と新学期
先週に引き続き今週も更新が遅れてしまい、申し訳ございません。
今週分の更新です。
楽しんでいただけますと幸いです。
よろしくお願いします。
夏休みが明け、多くの生徒が日焼けをしたり、体格が少し変わったり、カップルが成立していたりと夏を謳歌していたリア充な生徒とは裏腹に、1学期からほとんど変わることのない、秋音がいつもどおり瑞波の後ろの席に座って何かを悩んでいるようであった。
「相変わらず変わらないねー、秋音は」
「ふっふふー、変わることのない唯1つの女子力を備えている最強の女子ですから! てか瑞波とは夏休み中もしょっちゅうあってたんだから、変わった変わってないなんてわからないでしょーが」
秋音はノートの上で止まっていたペンを置きペンを持っていた右手で、瑞波の耳たぶを触り始めた。それに応戦するように瑞波も秋音の耳たぶを触り、互いに耳たぶの成長を確かめ合う。
「ふむ、お主、なかなかやりおるな。まさかここまで成長しているとは」
「いやいや、お主こそ、この触り心地、さぞかし名のある耳たぶ職人とお見受けする」
秋音と瑞波のやり取りを横から見ていたニーニャとレフィアは、二人がなにをしているのか理解することが出来ずポカーンと二人が耳たぶを摘んでいるのを眺めている。
「レフィア、私たちもやってみようかしら」
「そうですね、ニーニャ様」
ニーニャとレフィアが互いの耳たぶを触ろうと腕を伸ばしたところ、明人が2人の腕を掴み、その行動を抑制した。
「どうしたのよ、明人」
なぜ腕を掴まれたのかがわからなかったニーニャ首をかしげると、明人はニーニャの耳元で――
「ニーニャ、新学期早々自分がエルフだってことをみんなに知られることになっていいのか?」
「……」
その言葉を聞いたニーニャは伸ばしていた腕をさっと引っ込める。
その後明人は同じようにレフィアに耳打ちすると、レフィアもハッと目を見開きすぐに、腕を引っ込めた。
「やるんだったら家でやってくださいね」
そう言っていると教室の扉が開き、緑がいつもの調子で入ってきたので、各自自席に戻る。
「みなさん。おはようございます。夏休みは謳歌できたみたいですね。さて、楽しい夏休みが終わり、本日から2学期が始まります。とはいえ、2学期も学校行事が色々ありますので、これはこれで楽しくなるでしょう。特に、文化祭です! 目指せ学年別クラス対抗出し物投票1位!」
普段クールな緑が教壇から身を乗り出し、目に轟々と燃え上がる炎の錯覚が見えるほどの熱い視線でクラス全体を見渡したのち、握りこぶしを高々と掲げた。
緑が文化祭にここまでの情熱を注ぐと思っていなかったため、クラスの大半の生徒はポカーンと口を開けていた。
そんな中、健人が手を挙げ――
「先生って、そんなに文化祭に情熱捧げてましたっけ?」
「木崎くん、よくぞ聞いてくれました。あれは昨年の文化祭打ち上げの時のことです」
「あっ、いや、長くなるなら別に説明は……」
健人が緑の話を打ち切ろうと声を上げるも、その声は緑に届かず。
■
一年前の文化祭教員打ち上げにて。
打ち上げ場所は30人ほど入れる座敷のある行きつけの居酒屋で行われていた。
緑が仲の良い教員と疲れを癒すようにゆっくりとお酒を飲んでいると、少し離れた席から歩いてきた東堂が、緑の隣に座り。
「どーも、森山先生。飲んでますか?」
「東堂先生。お疲れ様です。飲ませていただいてます」
「それは良かったです。あぁ、グラス空いているじゃないですか。注ぎますよ」
そう言って東堂は手に持っているビール瓶から緑の持っているコップにビールを注ぐ。
「ありがとうございます」
「いやー、今年は私のクラスが文化祭の学年別クラス対抗出し物投票で1位を頂いちゃいました」
「そういえば、今年4組が出し物1位でしたね。おめでとうございます」
「ありがとうございます。いやー、やっぱり私の教育がいいのか、他のクラスと違って、文化祭と言えど手を抜かず頑張ってくれるいい生徒に恵まれましたよ。」
「そうですか。それは良い事ですね」
突如始まった東堂の自慢話に、失礼のない程度に相槌を打ちつつ、心の中では鬱陶しいから早く自席に戻って欲しいと念じたが、その思いは届くことはなく、延々と東堂の話が続けられる。
「最近の生徒は行事ごとは遊びの場だと思う生徒が多く、手を抜く生徒が多々います。そんな中うちのクラスだけは、みんな行事ごとも授業の一環としっかり捉え、真摯に行事に向き合ってくれるんですよ! 本当にいい生徒たちで」
話す間もお酒を飲み、徐々に話し声が大きくなっていき、他の先生からも気の毒そうな視線を送られ始める。
「それは本当に良い生徒に恵まれましたね。ただ、他のクラスの生徒が手を抜いていたと一概には言えないですよ」
「いやいや、他のクラスの生徒たちは行事ごとを遊びと思ってますよ。現に他のクラスの評判はそれほど良くなかったですからね。実際私も他のクラスを回りましたが、不出来なクラスが多かった。やはりあれじゃあダメですよ」
声を大にして他のクラスを批判し始めたため、周りの先生から東堂に向けられる視線が鋭いものになっていく。
「あの、東堂先生、そろそろ飲みすぎでは?」
「いいえ、全然大丈夫ですよ! いいですか、他の先生方は生徒に甘い! そんなんだから行事を遊びだと思う生徒が多々出てくるんですよ! やはり教育者としてもっと生徒達にしっかりとした教育をしなければ」
大声でそんなことを言い出したため、ほかの教員のイライラが加速し、貧乏ゆすりを始める教員も出始める。
「いやいや、そんなことないですよ。他の先生方もしっかりと生徒達に教育されてますよ」
「森山先生はクラスを担当してないからそんなことが言えるんですよ! クラスを担当したら、如何にほかの先生達が手を抜いているか分かりますよ!」
そう言ったのち、しばらく東堂は沈黙し――
「あぁ、そうか、森山先生は未熟だからクラスを担当させてもらえないんですね。 すみません、そんな先生にこの話をしても意味ないですよね」
そう言って東堂が頭を下げて謝罪する姿を見た緑は、来年必ずクラスを担当して東堂が担当するクラスを叩き潰すと心に誓ったのであった。
■
「ということがありまして。あまりに酷かったので、今年は痛い目を見せようと思ったんです」
クラスの全員は声を一言も発することなく、微動だにすることもなく、緑の話を一言一句逃してはならないと試験に臨む時以上の集中力で話を聞いていた。
それもそのはず。回想中、緑の後ろに修羅が見えるようなほどの怒りが滲み出ていたのである。そんなプレッシャーの中集中して話を聞かないという選択肢を選べるものはこのクラスどころか、この学校中に一人もいないであろう。
「と、いうことで、みなさん。必ずや学年別クラス対抗出し物投票にて1位を獲得し、東堂先生に裁きの鉄槌をくらわせてやりましょう!」
緑が高々と拳を突き上げたのを見て、クラス全員「うおおおおおお」と叫びながら拳を突き上げた。
普段は行事に協力的でない生徒達も緑の凄みに負け、今回ばかりは全力で協力することとなり、クラス全員が文化祭のためだけに一丸となった。
それと同時に、クラスの大半の生徒はこの時、同じことを頭に浮かべていた。
『あぁ、だから昨年東堂が担当していたクラスだけはクラス替えで誰一人として別クラスに行くことがなかったのか……』と。
そんな教師陣の思いはあったとしても、生徒達からしたらお祭りはお祭りである。全力でクラスの出し物を完成させるが、それも1つの思い出として楽しむ心を忘れることはない。
「先生すみません。それって愛ゆえにだったりしますか?」
恐怖心を母のお腹の中におき忘れてきたのか、このタイミングで秋音が手を上げ、そんなことを言い出した。
「そうですね――顔を見ると吐き気を催す人間に対して愛を持つ方が難しくないですか?」
「……なるほど、それは難しいですね。失礼しました」
噂好きの秋音は東堂が緑のことを好いており、様々なアプローチをかけているという話しを聞いていたため、緑にその気があるのかど直球に聞いたわけだが、結果はこの通りである。
「うーん、このネタを書くのはちょっと可哀想か。てことは別ネタ探さないと……」
そう言って秋音はノートに目を落とし、次の校内新聞のネタを考えることにしたのであった。




