夏休み最終日
更新が1日遅れました。すみません。
今週分の更新です。
楽しんで頂ければ幸いです。
宜しくお願いします。
合宿が終わってから数日が経ち、夏休みの終わりが翌日に控えていた本日の朝。
ニーニャは椅子に座りながら、鬼の形相で1枚の冊子を睨みつけている。
「どうしよう、これ」
一言ボソリとつぶやいた後、ニーニャは机の上にうなだれて、足をバタバタと動かしながら過去の自分を呪った。
「ニーニャ、朝ごはんできたよー」
1階から明人の声が聞こえてきたので、ニーニャはこの現状を打開する方法を考えながらトボトボと1階に向かって階段を降りていると――
スカッ――
余程焦っている時でなければ起こさないようになミス。階段を一段飛ばしてしまった。ニーニャの頭の中ではそこに段があると思いながら足を下ろしていたため、そのまま――
ドドドドド――
ニーニャは階段から滑り落ちた。
「どうかなされたのですか、ニーニャ様!」
レフィアがリビングの扉を開け、目に移ったのは廊下を背に倒れたまま足を動かすニーニャであった。
「に、ニーニャ様?」
音と状況からニーニャが階段から落ちたことを察することができたレフィアだったが、なぜニーニャが廊下を背に足を動かし続けているのか理解できなかった。
その様子を見て数秒レフィアは思考をフルに回転させ、ニーニャの行動を分析。
「もしや!!」
何かにひらめいたレフィアはリビングに戻り明人を連れて階段下で足を動かすニーニャに近づいた。
「明人さん、日本の技術とはこれほどまでに凄いのですか……」
「いや、レフィアさん、なんの話しですか?」
「え? いや、このニーニャ様を見て何も思いませんか?」
「いや、何も」
明人の返答にレフィアはコホンと軽く咳払いをし――
「明人さん、このニーニャ様の足の一定の動き、廊下に倒れているにもかかわらず微動だにしないこの姿。これはニーニャ様の姿をしたロボットですよ!」
「なっ、なんだってー!……ってそんなわけないでしょ。いつも通り悩んでいるのニーニャですよ」
「たしかに、悩んでいるニーニャ様にも類似していますね」
明人は廊下に横たわるニーニャの額に手を添え、少し中に浮かせてから軽く振り下ろした。
ペチン――
「あいた」
額に手のひらが当たるとニーニャは動かしていた足を止め、目を開けた。
ニーニャの視界には明人と、レフィアそして、天井が広がっている。
「ねぇ、明人、私なんで廊下で寝てるのよ」
「うん、それは僕が聞きたいよ」
考え事に意識を集中させすぎたニーニャは階段を踏み外して落ちたことにも気づかず、まだ階段を歩いていると思い、足を動かし続けていた。
■
「で、何に悩んでいたの?」
朝食を食べ始め、しばらくしてから、明人はニーニャの悩み事を聞くために質問をした。
「むぐっ……ケホケホ」
「ニーニャ様、水を!」
口に入っていたものを喉に詰まらせかけたニーニャにレフィアはすぐさま水の入ったコップを差し出した。
「ングングッ――はぁ……な、なんでもないわよ」
ニーニャはバツが悪そうめをそらしたため――
「ニーニャ、今ならまだ間に合うかもしれないよ」
そう言って明人はお茶を飲みながらチラリとニーニャの方に視線を向け、ニーニャは数秒固まった後。
「……ほ、ほんとうになんでもないから!」
ニーニャは右手をパタパタと左右に振り、残っていた朝食を掻き込み。
「ごちそうさま」
そう言って食器を台所に持っていき、そそくさと自室へと戻って行った。
「レフィアさん、どう思います?」
「確実に何か隠していますね」
「ですよね」
リビングから階段を駆け上がるニーニャを見ながら明人とレフィアが会話をしていると玄関のドアが勢いよく開き――
「あきとおおおおおおお!」
「健人、靴、挨拶!」
叫び声とともに靴も脱がずに家の中に入る勢いだったため、明人は即座に大声で指示を出した。
健人は玄関に座り、靴を脱ぎ――
「お邪魔します……あきとおおおおおおお!」
軽くお辞儀をしてから、リビングにいる明人に泣きついた。
「で、今年は何教科だ?」
明人にとっては毎年の光景であるため、単刀直入に健人に確認すると。
「2教科……」
明人は健人の返答に驚きを隠せず――
「レフィアさん、ちょっと僕の頰をつねってもらっていいですか?」
「え? つねる、ですか?」
「はい。僕は今、夢の中にいるかもしれませんので」
「いや、夢じゃねーよ、現実だよ。少しは信じろよ」
健人の返答があまりにも信じがたい返答だったため、明人は未だに困惑していた。
「いや、だってさ、お前いっつも夏休みの宿題を8割残して最後の日に泣きついてきてたんだぞ。それが今年はほぼ終わってるとか信じられるわけないだろ!」
「レフィアさんに簡潔な説明をしてくれてありがとう。って、レフィアさん驚き過ぎですよ!!」
健人がレフィアの方に視線を向けると、レフィアは口に手を当て、信じられないものをみるような目で健人のことを見ていた。
「いえ、まさか、真面目な健人さんがそんな、宿題をほとんど残していたなんて」
「ちょっと待ってください、レフィアさん、誰が真面目ですって?」
「ですから、健人さんが」
「こいつが? 真面目? 毎年人の宿題を写すことにほぼ全てを任せているこいつが?」
「はい、補修が終わった後も一緒に宿題をやろうとお誘いを頂き、一緒に宿題をしましたし、色々教えても貰いましたよ」
明人はパクパクと口を開閉し、驚きのあまり健人に視線を向けると。
健人は胸を張り、夏休みで最もムカつくであろうドヤ顔を晒し――
「俺もやればできるんだよ」
「よし、じゃあ残りの2教科も余裕だな」
「申し訳ございませんでした、明人様!」
瞬間、健人は目にも留まらぬ速さで明人に向かって土下座をしていた。
「ふぅ、そういえば、レフィアさんの方は大丈夫なんですか? 健人と一緒に宿題をしていたのなら、同じように残っているんじゃないですか?」
「いえ、私の方は大丈夫です。昨日の時点で前宿題完了です」
明人は握りこぶしを縦にし、親指を立てたレフィアを見た後、もう一度土下座をしている健人に視線を送り、健人の肩に手を置いた。
「本当に不甲斐ないと思っている所存です!」
何を勘違いしたか健人が声を荒げたため、明人は健人の耳元で――
「レフィアさんに見せてもらえばいいんじゃないか?」
「……」
土下座ポーズのまま数秒間思案する。いや、思案するフリをした健人は、すぐさま土下座の相手を変え――
「レフィアちゃん、本当に申し訳ないのですが、俺に残ってる2教科の宿題を写させて下さい」
「はい、別に構いませんよ。色々教えていただきましたし!」
「だったら、リビング使っていいですよ。春奈さんも夜まで帰ってこないそうなので。家事周りは僕がやっておくので、レフィアさんは健人についてあげてください」
「承知しました」
そういうと明人は健人の肩に手を置き――
「ジュース1週間分な」
と囁き、健人も明人に聞こえる程度の声で、「承知」と短く応えた。
■
やるべき家事を一通り終えた明人は、昼食を作るまで少し時間があったため、一度自室に戻ろうと2階に上がると、ニーニャの部屋の扉が少し開いていた。
扉の隙間から見えたのはニーニャが机に向かって頭を抱えている姿であった。
「ニーニャ、そろそろ隠し事を教えてくれてもいいんじゃないか」
「あっ、明人、女の子の部屋にノックもなしで入るなんて!!」
「まぁ、そこは謝るけどさ」
「それに、なにも隠してないわよ」
ニーニャは机の上の冊子を背中に隠したが、明人はズカズカとニーニャの方に歩み、ニーニャの背中に隠した冊子を手に取った。
「はぁ、あのさ、ニーニャ、なんでこれを隠したんだよ」
明人が手に取った冊子は国語の夏休みの宿題であった。
「あのー、そのー……えへぇ」
ニーニャはハニカミ、誤魔化そうとするも、今の状態で明人がごまかされることもなく。ただただ無表情でニーニャを見つめ続けている。
数分間その状況が続き、ついにニーニャが音をあげ、椅子の上で正座をし――
「すみませんでした! 1人でなんとかできると思ったんです!」
その言葉を聞いた明人はパラパラと宿題のページをめくるが、1ページ目から最後のページまでただの1文字も回答が書かれていなかった。
「はぁ、あのさ、僕やニーニャを頼りなよ。ギリギリになるまで隠してたら本当に危なかったよ。ニーニャ」
「ううう、ごめんなさい。文章問題って聞くとやっぱり苦手意識で後回しに後回しにってなって……」
「今になったと。まぁ、まだこのタイミングでよかったよ。それにそんなに問題数が多い宿題でもないしね。さて、で、ニーニャは僕に言うことあるでしょ」
「えっと、宿題を手伝ってください」
「50点かな」
「えぇ……」
明人は目をつぶって腕を組んで立ち続け、ニーニャはなにを言えばいいのか考える。
「えーと……宿題ができてないことを相談せず、隠してごめんな……さい」
「うん、最初のと合わせて100点だね。よし、じゃあ宿題終わらせようか。ここでいいよね?」
「ええ、大丈夫よ! よろしくお願いします!」
そうして明人はニーニャの夏休み最後の宿題の手伝いを始めた。
結果、ニーニャと健人は、なんとかその日の23時過ぎには宿題が片付き、何事もなく新学期を迎えることができそうであった。
ただし、その代償として、昼食と夕食はカップ麺になり、春奈が悲しみを背負ったことは言うまでもなかった。




