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文芸部と夏の合宿 その2

今週分の更新です。

楽しんで頂けると幸いです。

宜しくお願いします。

春奈、智花、緑の大暴走は全員が一斉に寝るという形で終止符が打たれた。

その間、明人とニーニャだけでなく、夕食を食べにきた他の文芸部員達も3人の相手をすることとなり、みんな疲労困憊状態である。

「っしょと、なんとか運び込めたな」

「じゃあ、おやすみなさーい」

明人達は疲労困憊の中、食事スペースで寝こけていた3人をログハウスに運び込み、ログハウスを後にした。


「で、先生も一緒になって寝入っちまったし、どうするよ」

「うーん、今日は僕らもおとなしく寝ようか。先生がいないなかでの花火や肝試しは危ないし。それに……みんな疲労困憊だろ」

健人の質問にみんなの顔色を見て涼が答える。

「その言葉、そっくりそのまま返すわよ涼」

普段あまり疲労の色を見せない涼も今回ばかりは疲れたのか、いつもよりげっそりとしている。


「まぁね。流石に僕も疲れたよ。それじゃあ各自ログハウスに戻ろうか」

ログハウスに向かう最中、明人がふとニーニャの方に視線を向けると、ニーニャは何か言いたそうな顔をしているように思えた。

しかし、ログハウス前での別れ際になっても、ニーニャは何も言わなかったので、明人も気のせいだと思い、気にせず涼と健人とともにログハウスへと戻った。


ログハウスに入るやいなや、涼も健人もシュラフの上に身を置き――

「流石に疲れた……シャワーは明日の朝にでも浴び……る……ぐぅ」

と言っていびきをかきはじめた。


明人も同じようにシュラフに身を置き眠りにつこうとした。

しばらく目を瞑りゴロゴロとしているが、一向に眠れる気配がない。体はたしかに疲れているが、頭が冴えてしまい、いろんな想像が展開されていく。

「はぁ、眠れない……」

眠ることを諦めた明人は、カバンから筆記用具を持ち出し、食事スペースへと向かった。


「さてと、それじゃあ、やりますかね」

「そうね、さっきの続きを始めましょうか」

明人は独り言のつもりだったが、予想外の方向から返答があった。


声のしたキッチンスペースに視線を向けるが、声の主は見当たらない。

「明人、上よ上」

その声の通り、キッチンスペースの屋根に視線を移すと、そこにはニーニャが座りながらヒラヒラと手を振っていた。

「そんなところで何やってるんだよ、ニーニャ」


「いやー、自然の中で、星が綺麗だったから、ついね。ユグドを思い出して感傷に浸ってたのよ――っと」

ニーニャが屋根から飛び降り、地面に綺麗に着地したのち、明人の座っているテーブルに歩みを進めた。

「それは、なんかゴメン」

「いいのいいの、それよりも、小説の続き書くんでしょ! 私も書くから、一緒に書きましょ!」

そう言うと、ニーニャはズボンに挟んでいたノートをテーブルに置き、ペンを走らせ始めた。


しばらくの間、明人達の周りからは虫の声とペンの音だけが聞こえていたが――

「んーっ――はぁ――とりあえず、最終決戦前までは書けたわ」

ニーニャはグッと伸びをしながら明人に進捗を伝えた。

ニーニャの書いているパートは中盤から最終決戦まで。最終決戦後の内容は、それぞれの担当パートが書き終わったのちに、2人で考えようと事前に打ち合わせていたのだ。


「おつかれ、そこまで行けば、あとは最終決戦のみだろ?」

「そうね、明人はどこまで進んだの?」

「僕ももうすぐ中盤の盛り上がり部分だよ」

「なら、明人の書いてるところが書き終わったら、2人で交換して読んでみましょ」

「そうだね、明日の昼には盛り上がり部分も書き終わると思うから、夜に交換しよう」

「うん!」

明人の言葉を聞いたニーニャは笑顔で頷き、ノートを閉じて席を立った。


「ニーニャ、寝るならノートを持っていかないと?」

「まだ、寝ないわよ。夜風が気持ちいいから、少し散歩するの」

「ちょっとまって、ニーニャ」

呼び止められたニーニャは不思議そうな表情で明人の方を見つめる。

呼び止めた明人はといえば、ペンを置き難しい顔で考えていた。


「うーん――」

「どうしたのよ、明人」

「ニーニャ、息抜きに僕も一緒に散歩に行っていいかな」

その言葉を聞いたニーニャは、ヤレヤレと肩をすくめ呆れ顔で――

「なによ、そんなこと聞くのに考えてたの?」

と明人に切り返した。


「いや、まぁ、ダメならいいんだけどさ」

そう言ったところで、ニーニャはテーブルの方に戻ってきてノートを手に取り、ズボンに差し込んだ。

「一緒に夜の散歩といきましょうか、明人! 私がエスコートしてあげるわ」

そう言ってニーニャは明人に手を差し出した。


「うん、いや、ここは僕がエスコートするところでしょ」

ニーニャの手を取った明人は少し考え、反論するが――

「どっちでもいいじゃない」

と笑顔であしらわれた。


食事スペースから少し海側に歩くと、緩やかな坂道が見える。

「この坂道を降りると、砂浜に降りれるんだ」

「夜の海ね! いいじゃない!」

こちらで夜の海をまだ見たことがないニーニャは興味に引かれ自然と歩くスピードが速くなっていった。

「ちょっ、ニーニャ、速度緩めて、こけ、こけ!!」

「大丈夫よ! ちゃんと明人がこけないスピードで歩いてるわ!」

手をつないでいる明人はニーニャに引っ張られる形で転けないように坂道を降りることになった。


砂浜に着くと、静かな夜の中ゆったりとした波の音だけが聞こえてくる。

空には星の海に輝く満月、海には満月で光の橋がかかっていた。


「ほぅ」

ニーニャは感嘆のため息を漏らし呆けた顔でその風景を見つめ、明人はそんなニーニャを見て――

「ぷっ――あはは」

ついつい声に出して笑ってしまった。


「明人、人の顔を見て笑うのはどうかと思うわよ」

明人の笑い声を聞いて、ニーニャは目を細めて静かな声で明人に抗議するが、そんなこと御構い無しに明人の笑いは止まらない。

「ごめんごめん、ニーニャの顔を見て笑ったんじゃないんだよ――はは」

「じゃあ、なんで笑ったのよ!」

「いやさ、僕が始めてここにきた時もこの風景の美しさに呆けた顔をしたんだよ。それで春奈さんに“明人、あんたもうちょっと驚くなりはしゃぐなりのリアクションはできないの?”って言われたことがあってさ。それを思い出したんだよ」

「……うーん」

明人の話を聞いたニーニャは腕を組み急に唸り、首を左右に揺らし始めた。その様子を明人は静かに眺めニーニャが口を開くのを待っている。


「うーん……」

何かを考えていたニーニャは考えることを諦め、一言――

「わからないわ!」

「なにがだよ!」

ニーニャの一言にテンポよくツッコミを入れた明人をスルーし、ニーニャは――

「わからないのよ、明人と同じって聞いてなんか嬉しかったのよ。でも、今まで他人と同じであることに何も感じたことがなかったから、この感情がなんなのかわからないのよ。明人はわかる? この気持ち」

困った表情をしてこちらを見つめる。


「うーん……それは他人に興味を持ち始めたってことじゃないかな」

「他人に興味?」

「うん、これはニーニャがなのか、エルフがなのかわからないけど、あまり他人を気にかけたことがないんじゃない? 自分が楽しいから、自分のためって感じで行動することが多かったんじゃないかな」

「そうね、たしかに自分が何をしたいかで私は動いていたわ。それはエルフ全員そうだと思うわよ」

ニーニャは明人の言葉に肯首しながら答える。


「そうなると、ニーニャはこの世界で生活していく中で、本来エルフじゃ得られない感情を得られたって事だよ」

「……う、うん」

明人はちょっとオーバーに両手を広げて笑顔でニーニャに告げるが、ニーニャの方は微妙な表情をしていた。

「あんまり嬉しそうじゃないね」

「まぁ、戸惑ってるってのが正直なところね。この感情はエルフには不要なものであり、だからこそエルフはこの感情を持っていなかったんじゃないかって思っちゃって」

ニーニャの考えは間違いではなかった。

エルフは長命であるがゆえ、多くの種族の死を何度も見ることになる。その間、他人に興味を持ってしまうと、その興味を持った他人が死んだ時に心の中にポッカリと穴が開く。一度や二度であれば穴を埋めることもできるだろうが、それが百、千、もっと多くの回数を経験することになるとしたら。

他人に興味を持つことで自分の心を殺してしまうことになる。だからこそ、エルフは他人に興味を持たないのであった。


「たしかに、本来なら持っちゃいけない感情なのかもしれない。でもさ、そこで止まったらそこまでだよ。一歩先に踏み出して、踏み出した先で問題が起こったら、その時に考えればいいんだよ」

「うーん……それもそうね。せっかくユグドで生活してたら手に入らなかっただろう気持ちを手に入れたんだから、小説に生かしていくわ! でも、もしも問題が起こったら……その時は相談に乗ってね明人!」

モジモジとしながらニーニャが明人に伝えると明人は――

「うん、任せてよニーニャ!」

と笑顔でニーニャの頭に手を置いてゆっくりと撫でた。


他人に興味を持ち始めたということはニーニャの中に恋愛感情が芽生え始めたのだろうと明人は推測していたが、そのことをニーニャに伝えようとはしなかった。

明人自身それを伝えるのが怖かったからだ。

ニーニャにはああ言ったけど、僕は一歩先に踏み出すのが怖いんだ。そんな思いを胸にしまいながら明人は満点の星の海に視線を移した。

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