文芸部と夏の合宿 その1
今週分の更新です。
楽しんでいただけると幸いです。
宜しくお願いします!
潮風薫るキャンプ場、目の前に広がる光景に明人は呆然と佇むことしかできなかった。
ガバガバと酒を飲む春奈、泣きながら春奈に絡んでいる春奈の担当編集の智花、ただただひたすらに笑いながら酒を呷る緑。まだ宵の口であるこの時間で、既に3人の保護者、スポンサー、監督者は全員完全にできあがっていた。
「なぁ、ニーニャ、これはもう色々諦めるしかないかもしれない……」
「やっぱり……そうなるわよね」
明人の隣で明人同様この光景に呆然と佇んでいたニーニャは、悲痛の色を含んだ言葉で返答する。
「ニーニャ……ニーニャの気持ちはよくわかる。現に僕も同じ気持ちだよ。でもさ――」
明人は再度視線を3人の大人の方向に移し――
「これはもう、どうしようもないよ……」
「ごめん、そうよね。ほんとごめん。数時間前にあんなことを提案した自分を殴り飛ばしてやりたいわ」
「いや、こっちこそごめん。あの時ニーニャにお願いしなければ……」
明人とニーニャは互いに謝りあい、数時間前の自分の行動を後悔することしかできなかった。
■
合宿場所であるキャンプ場は明人の家から車で片道20分ほどかかる場所にある、海の見えるキャンプ場であった。
入り口から右手に移動すると、車が2台ほど通れる道を挟んんで左右に5棟ずつログハウスが建てられており、その奥には車が10台程停車できるスペースの駐車場があった。入り口から左手に移動すると受付棟として、宿泊用よりも大きめのログハウスが建てられていた。
受付棟の正面には調理用スペースと調理したものを食べられるテーブルと椅子が並べられている。
明人、ニーニャ、レフィアは全ての荷物を持ったまま受付棟の前に設置されている椅子に座り、駐車場に車を停めにいった春奈を待っていた。
「まぁ、予想はしてたけど、やっぱりこの場所を提案したのは春奈さんだったんだね」
「えっ!? 明人はわかってたの? 私なんて春奈からその話を聞いた時に驚いちゃったわよ。ねっ、レフィア」
「はい、まさか合宿場所であるキャンプ場を提供してくれるのが春奈様とは」
合宿所の提供者が春奈だという話を聞いたニーニャとレフィアは「へ?」と一言だけ発し、驚いたまま固まったのであった。
「まぁ、僕の場合は、毎年この時期に春奈さんが出版社の夏休みイベントに呼ばれてたの知ってたしね」
「それだったら確かに予想はできるわね」
「まぁ、当たって欲しくなかった予想だったんだけどね……」
明人は通り目をしながらボソリと呟いた。
そのつぶやきを聞いたニーニャとレフィアは首を傾げ不思議そうな顔をしている。
「明人ー、ニーニャちゃーん、レフィアちゃーん」
ログハウスの方から春奈の声が聞こえたので、振り返ると春奈が手招きしているのが見えたので、明人、ニーニャ、レフィアは荷物を持って春奈のいるところに向かった。
「春奈さん、受付はいらないんですか?」
「いらないみたい。さっき駐車場で犬養から電話があったからついでに聞いたんだけど、ログハウスの扉に名前の書かれた用紙が貼られているみたいだから、それを見て荷物を運び込んで欲しいだって」
「了解です! 持ってきたクーラーボックスは僕の部屋に置いといていいですか?」
明人が肩にかかっているクーラーボックスを春奈に見せると、春奈はクーラーボックスの紐に手をかけ、明人からクーラーボックスを受け取った。
「私は荷物を置いたらすぐに釣りに行くから、クーラーボックスはもらっとくわね」
「了解です。僕らは何か準備とかした方がいいですか?」
「そうねー。じゃあ、車の鍵渡すから、トランクから飲み物類ともう1つのクーラーボックスを下ろして、明人の入るログハウスに置いといてくれる? お酒類は何本かクーラーボックスに入れといてくれると助かるわ」
「了解です。じゃあ僕はそれらの準備をしますね」
そういうと、春奈がポケットからとりだした車の鍵を明人に差し出し、明人はそれを受け取った。
「じゃあ、私は明人の手伝いをするわね」
ニーニャが手を挙げ、明人の手伝いをすると申告した。
「うん、よろしく。じゃあ、レフィアさんは他の文芸部のメンバーが来た際にログハウスに案内してあげてください。他のメンバーについたらレフィアさんに電話するよう伝えておくので」
「承知しました」
「じゃあ、一旦は各々の作業に取り掛かるということで。解散!」
春奈の言葉を聞き、各々はまず自分の荷物をログハウスに持って行くよう動いた。
明人のログハウスは、文芸部の男子である健人、涼と同じログハウスで、道路右手の一番入り口に近い位置のものだった。
レフィアとニーニャは瑞波と同じログハウスで、明人達の真正面のログハウスに入ることになっていた。
明人、ニーニャ、レフィアは各々荷物を置き、それぞれの仕事へと移った。
明人とニーニャは駐車場に向かい春奈の車から飲み物とクーラーボックスを持ち出し、明人が寝泊まりするログハウスに持ち込み、飲み物をクーラーボックスに移し替える。
用意していた2つのクーラーボックスの蓋にソフトドリンクとアルコールと書いた紙を貼り付け、明人はソフトドリンクをニーニャはアルコールをクーラーボックスに入れて行く。
「ねぇ、明人、氷が少なくて、割とすぐに溶けちゃいそうだから、精霊術を使って氷を溶けにくくしてもいいかしら?」
「精霊術ってそんなこともできるの?」
「うん、簡単な術だし、失敗することもないから」
「まぁ、冷えた飲み物が飲めるのは嬉しいし、やってもらっていいかな?」
「了解! じゃあ、明人もソフトドリンクを詰め終えたら、クーラーボックスの蓋を閉めてね」
そう言ってニーニャはアルコール類を全てクーラーボックスに詰め、クーラーボックスの蓋を閉めた。明人も同様にソフトドリンクを詰め終えたのち、クーラーボックスの蓋を閉めニーニャの隣に移動した。
「精霊の加護にて一切の熱を通さぬ空間を作りたまえ――熱遮断」
クーラーボックスが一瞬うっすらと白く光ったが、すぐに光は収まり、ただのクーラーボックスがそこに置かれているだけだった。
「これで、蓋をあけるまでは冷気は逃げないわ!」
「ありがとう、ニーニャ! しっかし、精霊術って便利なんだね」
「いやいや、こっちの家電の方が便利よ!」
そんな話をしていると、ログハウスの扉が開き――
「おっす、明人、準備は終わってるか?」
と健人が荷物を持ってログハウスに入ってきた。
「おっ、ソフトドリンクも冷やしてたんだな。一本もらい!」
そういって健人は明人が止める間もなく、ソフトドリンクの入ったクーラーボックスを開け、中かジュースを取り出し飲み始めた。
「……」
「……」
「ん? どうしたんだよ明人、師匠。俺の顔に何かついてるか?」
健人はペタペタと自分の顔を触って確かめるが、特に何がついていることもないため。
「なんだよ、何もついてないじゃんか」
「いや、まぁ、いいよ別に。特に何かあったわけじゃない」
「そうね、何もなかったわ。何も……」
「なんか意味深だな」
そう言って健人は首をかしげ、明人とニーニャはため息を1つついた。
その後、お昼を過ぎたくらいに顧問の緑がキャンプ場に到着し、その少し後に涼がキャンプ場に到着した。
キャンプ場にて各々の荷物を自身が寝泊まりするログハウスに持って言ったのち、緑と春奈と智花が寝泊まりするログハウスに移動し、文化祭向けの小説を書き始めた。
「ニーニャ、このあたりの主人公の感情の推移がすこしわかりづらいから、一言付け足した方がいいかもしれない」
「明人、ここの状況表現がわかりづらいから、もうすこし説明を追加して」
ニーニャと明人は互いに書いている小説のダメ出しをしている。
明人とニーニャは2人で設定を考え、リレー小説として作品を完成させる方針で小説を書いているのであった。
今回文化祭に出す小説の条件としては、2人1組で書くオムニバス小説であるため、リレーで書いても問題はない。
瑞波と涼はそれぞれ、設定を作る側と書く側で分けて作っている。
健人とレフィアも瑞波達と同様の方針のようだ。
そうして、それぞれが試行錯誤しながら小説を書いていると――
「ただいまー!」
春奈が扉を開けて入ってきた。
「おおう、若者達頑張ってるわね。先生もお疲れ様です」
「いえいえ、この度はキャンプ場に誘っていただき本当にありがとうございます」
緑は立ち上がり、扉の前にいる春奈にお辞儀をする。
春奈は、緑のお辞儀を見て、右手を左右に振り――
「いえいえ、いつも貸切にする割に来る人少ないんでいいんですよ! ところで、明人とニーニャちゃん借りてもいいですか?」
明人とニーニャは名前を呼ばれたので、顔を上げると、春奈がいい笑顔でクーラーボックスを差し出す。
「いい魚釣れたから、さばいて! ご飯の前にすこし飲みたいの! 犬養もいろんな用事終わって食事スペースで伸びてるから!」
春奈の話を聞き、緑は――
「じゃあ、森川くんとニーニャさんは調理担当として仕事をしてきてください。皆さんはもう少し小説の作業を続けてください」
そう指示を出した。
「えー、私はもうちょっと考えたいんですけど……」
「軽く飲めるツマミだけ作ってくれれば、ここに戻ってきていいから」
ニーニャの文句に春奈が回答し、その回答に納得したのか、ニーニャは1つ頷き、調理場へと向かった。
「私も行った方がいいですね。犬養さんにもお礼など伝えないといけないですし」
緑もニーニャの後を追うように食事スペースへと向かった。
「じゃあ、僕らも行きますか。春奈さん、僕の寝泊まりするログハウスにアルコール置いてあるんで、持ってきてもらっていいですか?」
「いいわよ。ちなみに、キスが釣れてるから、刺身にして!」
「わかりましたよ」
そう言って明人も食事スペースへと向かった。
「なぁ、俺らどうするよ」
「そうね。今のうちにある程度まで終わらせといたら夜は遊べるんだから、夜に遊ぶため、キリのいいところまで終わらせたらいいんじゃない?」
健人の問いに、瑞波が答え、涼、レフィアも瑞波の意見に賛成だったため、首を縦に振った。
■
「それじゃあ、お疲れ様でした! 乾杯!」
春奈、智花、緑はそれぞれ手に持った缶ビールをコツンとぶつけ、一気に胃の中に流し込んだ。
「ぷっはー! 美味しい!」
「ほんと、これただの缶ビールですか? なんか不思議な味がするような」
「たしかに、この缶ビールこんな味だったっけ?」
そんな声が聞こえる中、明人が調理場で魚をさばき、第一陣の刺身を皿に盛り付けていた。
「ニーニャ、刺身できたし、持って言ってくれる?」
「了解!」
そう言ってニーニャは皿を持って春奈達の座っているテーブルに行き、青い顔をして刺身の乗った皿を持ったまま戻ってきた。
「明人、やばいわ……」
「? どうしたんだよ、ニーニャ」
「さっきアルコールの入ったクーラーボックスに精霊術掛けたじゃない?」
「うん」
「あの精霊術で使った精霊の力が……アルコールに微量だけど転移している……」
「え……ちょっ、それって人体に何か影響が?」
ニーニャのいった内容を理解した明人は、声を小さくニーニャに問いただす。
「いや、あの程度だったら体内に入っても大丈夫。神社で手と口を清めた時に明人も多少なり体内に入ってるでしょ。それと同じ程度だから」
そのことを聞いて、明人はホッとした。だが、であれば、ニーニャがここまで血相を変えるのはおかしいと思い当たった明人は――
「じゃあ、何がやばいんだよ」
「うん、ただの水だったら、何事もなく終わってたの、ただ、アルコールだと酔いを加速させるみたいで……」
そう言ってニーニャが春奈達の座っているテーブルを指差すと。
ガバガバと酒を飲む春奈、泣きながら春奈に絡んでいる春奈の担当編集の智花、ただただひたすらに笑いながら酒を呷る緑の様子が目に入った。
「おう……」
「このまま放っておくと何がおこるかわからないわ……」
呆然と立ち尽くした明人は一言口を開き。
「なぁ、ニーニャ、これはもう色々諦めるしかないかもしれない……」
「やっぱり、そうなるわよね……」
結果として、明人はおつまみをつくりつつ夕食の準備を、ニーニャはおつまみを運びつつ春奈達の様子を監視する役目を分担し、なんとか夕食時間までに、夕食の準備を済ませたのであった。
「ニーニャ、僕たちはこの後頑張ろう」
「そうね、それしかないわね!」
そう言って、明人とニーニャは固く握手を交わしたのであった。




