海と泳ぎの練習_後編
今週分の更新です。
楽しんで頂けると幸いです。
宜しくお願いします!
世の中には動物に好かれる人、嫌われる人が存在する。
動物に好かれる人は、何をすることもなく動物から擦り寄られる。
逆に、嫌われる人は何をするでもないが動物から警戒され、触れようとすると攻撃される。
では、動物以外はどうだろうか。
例えば、大地や空といったここの意思を持たない自然物に好き嫌いはあるのだろうか。大抵の人はそんなものはないと思うだろう。そして、明人も同じように考えていた。
本日、ニーニャの泳ぎの練習を始めるまでは。
「ねぇ、明人、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「どうしたの? ニーニャ」
「いや、どうしたもの何も……この状況ってどうやって乗り越えればいいのかしら」
「そうだね、どうしようもないんじゃないかな」
浮き輪を持ったまま、海の上に立っているニーニャの姿を見た明人は、額に手を置き首を左右に降る。その隣で、瑞波はポカーンと口を開けたまま固まっていた。
明人のその言葉を聞いたニーニャは一度浜辺に戻り、もう一度海に向かって走り出した。
ニーニャの足が海水に触れて1、2歩は確実に海の中に足があった。しかし、3歩目を踏み出した瞬間、ニーニャは完全に海水の上を走っていた。
「なんでよ! さっきまで入れてたじゃない!」
ニーニャは海には入れないことに憤りを感じ、海の上で地団駄を踏んでいる。
「瑞波、ちょっと僕とニーニャはあっちの岩陰の方に行くよ。流石にこの姿をレフィアさんと瑞波以外に見られるのはまずいし……」
「そうした方がいいね。もうすぐ涼も来る頃だし、私がフォローしとくわ。解決したらこっちに戻ってきてね」
「了解! じゃあ、ニーニャあの岩場の方で原因を探ろう」
「はぁ、はぁ、わかったわ……」
海に向かって何度も何度も地団駄を踏んでいたせいか、息を切らせていたニーニャはトボトボと浜辺経由で明人が指差した岩場に歩いて行く。
明人はその後を追って、浜辺で必要な道具を持った後、ニーニャの歩いて行った岩場に向かった。
「じゃあ、ニーニャ、まずは2つ試すべきことがある」
浮き輪を装着したまま岩場で三角座りをして海を見つめるニーニャに明人はそう言った。
「1つ目、場所を変えた場合海に入れるか、2つ目、浮き輪を外して海に入ったらどうなるか。この2つを試してみよう」
「そうね……」
先程とは打って変わって元気のない声でニーニャが返事するので――
「どうしたんだよ、ニーニャ、そんなに気落ちしなくても」
「はぁ、いや、多分だけど、根本の原因はそれじゃない気がするのよ。まぁ試してみるけど。はぁ――」
ニーニャは大きなため息をついて、明人の提案した2つの方法を試したが、結局海の中に入ることはできなかった。
「ほんとだ……」
「うん、やっぱりね。これで原因はわかったわ」
「え? 原因がわかった?」
「うん、でも、はぁ、どうしよう」
ニーニャは海の上で膝を抱え込みながらため息をついている。
「原因を聞いても大丈夫?」
「あっ、うん、原因は私が海に嫌われたからよ」
「海に嫌われる?」
「うん、より正確に言うと、海に拒絶されているからかな」
そう言ったニーニャは大きなため息をついてからトボトボと岩場に戻ってきて、浮き輪を外し、座り込んだ。
「さっきまで大丈夫だったのに、どうして急に嫌われるんだよ」
「最近神社の精霊から少しずつ力を分けてもらってるじゃない?」
「う、うん?」
ニーニャが海の話とは全然違う精霊の話を始めたため、明人は首を傾げながら返事をする。
「どうも、さっき溺れた時に無意識にその力を少し使っちゃったみたいで……それで海に嫌われちゃったのよ」
「いやいや、なんでそんなことで嫌われるんだよ」
「私が異世界の存在だからよ。この世界では海のことを母なる海と言ってるじゃない。この世界で生まれた人間は海からすれば子孫なのよ。だから、多少異質でも受け入れられる。でも、子孫でもない存在がさらに異質な力を持っていたら? 自分に害が及ばないよう拒絶してもしかたないわよね」
「うーん、だったらさ、海にニーニャは大丈夫って思わせればいいじゃん!」
明人の提案を聞いたニーニャは大きなため息をつき、ジト目で明人を見据える。
「どうやって?」
「こうやってだよ!」
そういって明人はニーニャの手を掴んで海に向かって走り出し、手を繋いだまま岩場から海にダイブした。
「っぷは! なにすんのよ!」
左手で顔に滴る海水を拭い、明人に抗議する。
「なっ、うまくいっただろ!」
ニーニャが明人に抗議すると、明人は笑顔でそう言った。
「へ?」
そこまで言ってニーニャは自分の顔に海水が滴る不思議と、肩までが少しひんやりしていることに気づいた。
「うそ! なんで!」
驚いたニーニャはバタバタと海の中で動き回った。
「あっ、ニーニャ、あぶな」
明人が危ないと言おうとした瞬間、ニーニャの手が明人から離れ――
ジャバーン! ビタン!
ニーニャは海からはじき出され、海水に叩きつけられた。
「うぅぅ、いひゃい……」
海水の上でニーニャは赤くなった鼻の頭をさすりながら涙目になっている。
「だから言ったのに」
明人はニーニャのそばに行き、ニーニャの手を握る。すると先程と同じようにニーニャの体は海に沈んだ。
「子孫の信頼した人は、先祖も信頼してくれるんだろうね」
ニーニャはポカーンと口を開けて明人の方をじっと見つめている。
「明人……面白い考え方するのね」
「そう? 結構普通な考え方だと思うんだけどね。まっ、なにはともあれ、これで練習できるな!」
「そうね、それが一番の目的なんだから! じゃあ浮き輪取りに戻りましょ!」
「うーん……」
「どうしたのよ、明人?」
浮き輪を取りに戻る提案に明人は難色を示している。
「いや、いっそ浮き輪を使わずに僕が手を引いてバタ足から練習してもらおうかなって。僕に手を引かれるのが嫌なら、瑞波を呼んでくるけど」
明人の言葉を聞き、ニーニャは迷うことなく――
「嫌なわけないじゃない! もともと明人にお願いしてたんだから! よろしくお願いします。教官!」
そう言ってニーニャは最近見た軍隊ものの映画の真似をして空いている左手で敬礼のポーズをとり、ニッコリと笑った。
それを見た明人は不意に体温が上がり、顔が赤くなった。
「明人?」
「い、いや、なんでもないよ! じゃあ、練習するか!」
「うん!」
そういって、ニーニャは明人に手を引かれながら、バタ足の練習を始める。
■
明人とニーニャが2人で泳ぎの練習を始めて数時間が経った。
ニーニャも何となく泳ぎのコツを掴み始めており、徐々に1人でも泳げるんじゃないかと思い始めていた。
「ねぇ、明人! いまのバタ足良かったんじゃない! しっかり前に進めてる感じがしたんだけど!」
「うん、徐々に力強くなってきてるよ!」
「よし! じゃあもう一回!」
そう言って明人に手を引かれながらニーニャはバタ足を始める体勢に移行した瞬間。
「明人、ニーニャちゃん、そろそろ昼だけどまだダメそう?」
岩陰から瑞波がヒョコッと顔を出し、声をかけてくれた。
が、ニーニャはその声に驚き、明人から手を離してしまった。
「「あっ……」」
その瞬間、ニーニャは海から弾き出され、さらにバタ足で振り上げていた足を拒絶された海に打ち付ける。
ゴイン――
海で聞こえるに有るまじき音が聞こえたのと同時に、ニーニャは声にならない悲鳴をあげていた。
「っ――」
「うわっ、ニーニャちゃん大丈夫? かなり痛そうな音が響いたけど……」
「あっ、うっ、うっ、うん、だい……じょぶ」
ニーニャは目一杯に涙を溜めつつ、足をさすりつつ立ち上がろうとしたが、足が痛すぎて立ち上がれなかった。
それを察した明人は、ニーニャを背中におぶり、泳いで岩場まで戻った。
「あれ、明人、ニーニャちゃん海に入れるようになったの?」
「うん、この世界に生まれた人間に触れながらだったら海に入れるみたいなんだ。理由は後で説明するよ。とりあえず、今はニーニャの足を手当てしないと」
「そうね! クーラーボックスに氷があるからそれをタオルで巻いて足に当てよう」
そういって明人はニーニャを背負いながらみんながいる場所へと向かった。
その後は、ニーニャの足の手当てをしたものの、その日は足の腫れが引かなかったため、このままニーニャに練習させるのは良くないと緑からストップが入ったため、ニーニャはレフィアと一緒に砂のお城や砂遊びをしていた。
時折、他のメンバーも砂遊びに混ざりつつ海に入りつつ、また、ビーチボールなどをやって夕方ごろに解散となった。
その頃にはニーニャも遊び疲れたのか明人の背中で寝息を立てていた。
「明人さん、私がニーニャ様を背負いますよ」
「いいんですよ、レフィアさん、というか、レフィアさん瑞波たちの分もクーラボックス持ってるんですから、これ以上負荷をかけるわけにはいかないですよ」
「そうですか? では、お言葉に甘えて」
「それに、僕は背負いたくてニーニャを背負ってるんですから」
レフィアに聞こえないくらいの声で明人はボソリと呟いた。
「明人さん、何か言いましたか?」
「いやいや、何も言ってませんよ。もしかして、今日の夕食何にしようって漏れちゃってたかな」
そう言って明人たちは帰路に着いたのであった。




