海と泳ぎの練習_前編
今週分の更新です。
楽しんでいただけると幸いです。
よろしくお願いします。
ざぷーん、ざぷーん――
青い空、白い雲、水平線まで果てしなく続く青色の海。そして、白い砂浜。
船釣りから数日後、今日も今日とて明人たちは海に来ていた。
本日は文芸部総出で海水浴に来ていた。
「っと、この辺でいいか」
明人は背負っていた荷物を降ろし、砂浜にビニールシートを引き、パラソルを突き立てる。
周りを見渡しても見えるのは、岸壁と20人くらいの人がくつろげそうな広さの砂浜と海だけであり、明人以外の人は誰もいなかった。
明人はビニールシートの上に座り、浮き輪に空気を入れていると――
「おっ、いたいた!」
岩陰から健人の声が聞こえた。
「おっ、今日は俺たちだけか!」
「よっ、健人、そうみたいだ――すぅーふぅーーー」
健人は両肩にかけていたクーラーボックスをパラソル下に置き、どかっとビニールシートの上に座り込み、萎んだビーチボールを手に取り、空気を入れ始めた。
「すぅー、ふぅーーー」
「すぅー、ふぅーーー」
男2人で空気を入れる音だけが聞こえる空間に耐えかねた健人は、膨らませたビーチボールを置き――
「あいつら、準備にどれだけ時間かけてやがんだ! まさかナンパに!?」
「その心配はないよ」
キョロキョロと周りを見渡す健人に、冷静に明人は返答する。
この海水浴場は。地元の人占有の海水浴場だからである。
一般開放されている海水浴場から少し離れたところにあり、ここに来るにはちょっとした探検気分を味わえる天然の洞窟を進む必要がある。
しかも、洞窟に入れるのは地元民または地元民の親族のみであった。
「大方、ニーニャが洞窟に目をキラキラさせて足を止めてるんだろ」
「それにしたって遅くないか? それに、涼はどうしたんだよ」
ただ話すのが暇になったのか健人が砂で山を作りながら聞いてくる。
「おまえ、涼からは連絡があっただろうが、午前中は用事があるから、昼から参加するってよ」
「うぇ、うそ、見てねーぞ」
作りかけの山をほったらかしにして、健人はカバンの中を漁り、携帯電話を取り出す。
「あぁ、この怪文書か……こんなのお前と瑞波しかわからないだろ」
「いやいや、ニーニャやレフィアさんもわかるようになったぞ――すぅー、ふぅーーー」
2つ目の浮き輪に空気を入れている明人がしれっと答える。
「ちょ、まじか、もしかしてこれ読めないの文芸部じゃ俺だけ?」
健人ががっくりと肩を落としていると、岩陰からニーニャたちの声が聞こえた。
「すっごいわね! 天然の洞窟! すごく涼しくて気持ちよかったし、洞窟の隙間から入ってくる光が周りの湿った岩を照らしてすごく幻想的だったわ!」
ニーニャは海水浴場に着くなり、水着に着替えることなく、目をキラキラさせながら洞窟について語り出した。
「ニーニャ様、先に水着にお着替えなさった方が」
「もうちょっと待って、レフィア、明人と洞窟についてもうちょっと話したいのよ」
「とはいえ、早く着替えないと練習時間がなくなりますよ。それでも良いのであれば。話は帰ってからでもできますし」
ニーニャは数秒考えるポーズを取り、すぐさま水着の入ったカバンを手に取った。
「明人! 今日は絶対にバタ足をマスターするから、そのためにも着替えてくるわ!」
そう言ってニーニャは更衣室に向かって走り出した。それと同時にレフィアも同じように脱衣所に向かった。
「師匠、まだバタ足マスターできてないのか」
「まぁ、練習する場所ないしね」
ニーニャとレフィアが走って言った方を眺めながら健人がボソリと呟き、明人も律儀にそのつぶやきに返答した。
ニーニャたちと入れ替わるように入れ替わるように更衣室方面から瑞波と緑がこちらに向かって歩いてくる。
「おまたせ! どうよ!」
胸は少し控えめであるが、スレンダーな体つきの瑞波は上下フリルのついた淡いピンク色のビキニを見つけており、その白い肌とマッチしている。
その姿で一般開放されている海水浴場に出るとナンパ男子に囲まれそうであった。
「うんすごく似合って――」
「うーん、フリル邪魔じゃね? いっそその貧相な胸をだな……ごふぅ!」
明人が似合っていると言おうとしたところを健人の言葉が遮り、その上で瑞波からの鉄拳が腹部に刺さった。
「ねぇ、お兄ちゃん、もう一回行ってくれる?」
瑞波は砂浜に倒れる健人をクズを見るような目で見下ろす。
「ホント、木崎くんはもう少し言葉に気をつけた方がいいですよ〜」
そんなことを言いながら、そそくさとカバンから本を取り出し、パラソルの下のビニールシートに座り込み緑は本を開く。
緑は白いビキニに花柄がワンポイントで入っており、下はパレオをつけている。
「先生は泳がないんですか?」
「来る前に読み始めた本の続きが気になってるので、この本読み終えたら泳ぎますよ。読んでる間は荷物番してるので、森川くんたちは泳ぎにいってくれていいですよ〜」
「了解です! じゃあ準備運動していつも通り競争するか」
すでに準備運動を始めている瑞波と、倒れている健人に声をかけ、明人も準備運動を始める。
「で、今回は何を賭けるよ」
健人がそういうと、瑞波が――
「海の家で美味しそうなアイスがあったのよね」
「じゃあ、それで!」
明人も瑞波の意見に同意した。
「いつも通り、ここから200m先にある浮きにタッチして戻ってくるまでで」
瑞波がいつも勝負条件を改めて確認する。
「先生、お願いします!」
「はいはい、よーい――ドン!」
緑の言葉を金切りに3人は海に向かって走り出した。
「うわぁ、さすが明人、泳ぎが得意ってだけあって早いわね」
3人が競争をしてしばらくすると、ニーニャとレフィアが脱衣所から戻ってきて、明人たちの競争を眺めている。
浮きに最初に手をつけたのは明人であった。
それに次いで、瑞波と健人がほぼ同時に浮きに手をつき、そのまま折り返す。
後半からは健人が異常なほどの伸びをみせ、明人に近づく勢いであった。
健人に近づかれたのがわかった明人は内心焦っていたが、それでもまだ余裕があると思っていた。
その次の瞬間、明人は右側から瑞波が飛び出した。
瑞波は途中から最も得意なドルフィンキックでの潜水に切り替えていた。しなやかな筋肉が生み出すドルフィンキックの速度は凄まじいもので、そこそこ距離のあった明人との差を一気に詰めた。
3人の競争は最後まで接戦であったが、最後の最後で健人が追い上げ、1位をもぎ取った。
「うおっしゃあああああ!」
「ぐぬぬー。今年は勝てなかったか」
瑞波が両膝に手をついてハァハァと呼吸を整えながらそう言う。
「くっそー、今年は負けたか……」
最後にゴールした明人は砂浜に座り込み、息を整える。
「明人、ゴチになります!」
「ゴチになります!」
健人と瑞波が明人に向かって両手を合わせて拝む。
「了解! 昼食後でいいだろ?」
「「当然!」」
息ぴったりだなと思いながら明人はニーニャとレフィアの方に視線を向ける。
ニーニャは子供用の競泳水着に、ゴーグルのついたキャップをかぶっている。かぶっているキャップの後ろには穴が空いており、団子型に丸めた髪の毛を出していた。
レフィアはシンプルな青色のビキニを着ている。色々水着を選ぼうとしたが、レフィアの胸のサイズではシンプルな水着しか存在していなかったのだ。
「レフィアさん、最高です!」
健人はすぐさまレフィアの元へ行き、水着の感想を述べ始める。
「明人、ニーニャちゃんの泳ぎ見るのよね?」
「うん、そのつもりだよ。じゃあ、私も一緒にニーニャちゃんに教えてもいい?」
「あー、了解、いいよ」
瑞波の言いたいことを理解した明人はニーニャにその旨を伝え、3人で少し離れたところに移動した、
「さて、とりあえず、バタ足と息継ぎだけど、まずはコレを使おう」
そう言って明人は来るときに手に取った浮き輪をニーニャに装備させる。
「明人、何よコレ、学校ではこんなの使わなかったわよ」
「大丈夫だから、それで一人で海の中入って見なよ」
明人の提案を聞き入れ、恐る恐る海に足を進め、海岸から徐々に離れて行き、足がつかないところまで移動すした。
「えっ、沈まない……うそ、すごい、明人、これすごいわね!」
浮き輪の上でニーニャがはしゃぐので、落ち着くよう言うが、一向に落ち着かず――
スポッ――
浮き輪がニーニャから外れ、ニーニャが海に沈没した。
「ゴホッ、ゲホッ」
沈没したニーニャを瑞波と協力して砂浜に運び込む。
「うえええ、海の水ってこんなに辛いのね……ゲホッ」
「だからはしゃがないよう言ったのに」
明人は咳き込むニーニャの背中をさする。
「でも、あのアイテムのおかげとはいえ、私沈まなかったわ!」
ニーニャが目をキラキラと光らせ、明人と瑞波を見る。
「うん、だから、浮き輪を使いつつ、浮くことに慣れよう!」
こうして、ニーニャの泳ぎの特訓が始まったのであった。




