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夏休みの始まり

今週分の更新です。

楽しんで頂けると幸いです。

よろしくお願いします。

「えー、それではみなさん、明日から夏休みですが、ハメを外しすぎないよう気をつけて2学期も元気に登校してきてください。これにて1学期終了です」

緑が教室の生徒全員を見渡しながらそういうと、委員長が立ち上がり――

「きりーつ、礼」

クラス全員が立ち上がり――礼をする。

そして、夏休みが始まった。



パタパタパタパタ――


「おはよう明人! いつまで寝てるの、起きて起きて!」

ニーニャは明人の部屋に侵入し、明人の布団を引き剥がす。

「んー、ニーニャ……あれ、もうラジオ体操の時間?」

そう言って明人が目覚まし時計を手に取ると、時刻は4時30分を指していた。

「ニーニャ、ラジオ体操は6時からだよ」

「そんなの知ってるわよ」

「じゃあなんで起こしたんだよ! まだゆっくり寝れる時間じゃ無いか」

ニーニャから布団を取り返し、二度寝を始めようと明人は布団をかぶる。


「この格好を見てもわからないの!」

そう言ってもう一度ニーニャは明人の布団を引き剥がした。

「この姿って……」

眠気まなこをこすりながら明人はニーニャの服装を見る。その服装は、頭には麦わら帽子を被り、肩から虫かごを掛け、右手には虫取り網が携えられていた。

服装も夏とは思えない、長袖長ズボンを履き、手には軍手が装着されていた。

「ふふん、どうよ」

準備万端よと言わんばかりに胸を張ってその姿を見せつける。

「あぁ、そうか、カブトムシを取りに行くんだっけ?」

「そう、それよ! 黒光りしたツノの生えた虫! カブトムシ! 本当は二本角のクワガタも欲しいんだけど、この辺じゃあんまり捕れないんでしょ?」

ニーニャは腕を組み、残念そうな顔をしながら明人を見る。


「よし、じゃあ、ちょっと見に行くか!」

ニーニャと話しているうちに明人もカブトムシを捕まえに行きたいと思い、準備を始めた。


「ニーニャ様、明人さん、おはようございます」

準備を終え、玄関前に行くとレフィアが水筒を持って立っていた。

「おはようございます。レフィアさん」

「朝早く涼しいとはいえ、脱水症状などが怖いからと春奈様が水筒を準備されていましたので、お渡しします」

「朝早くからお疲れ様です。春奈さんは?」

「先程自室に戻られおやすみになられました」

そういってレフィアは口元に人差し指を当てる。


「そうですか。じゃあ、すみませんが朝食の準備をお願いします。あと、ラジオ体操会場には直接行きますので」

「わかりました。いってらっしゃい」

「「いってきます」」

そう言って明人とニーニャは外に出て、目的地に向けて足を進める。


「「いってきまーす」」

木崎家の前を通ると、ちょうど玄関から瑞波と健人が出てきた。

「あれ、明人にニーニャちゃん。もしかして2人も?」

「なるほど、その格好は、瑞波たちもか」

瑞波、健人の格好は長袖長ズボンに肩から虫カゴと水筒を掛け、虫取り網を携えている。


「ねぇねぇ、瑞波たちもカブトムシ取りに行くんでしょ、どこに行く予定なの?」

「ふっふーん、秘密だよ」

「えー、教えてくれていいじゃない」

「だーめ!」

明人と健人も瑞波とニーニャの後ろを歩くと、T字路についた。


「ねぇ、明人、どっちにいくの? 瑞波たちはあっちに行くみたいだけど」

ニーニャはT字路の右手てを指差し、確認する。

「瑞波についていけばいいよ。目的地は同じだから」

そういうと、少し進んでいる瑞波のところまでニーニャは駆け足で進み、瑞波に体当たりをする。


「ちょっ、ニーニャちゃん! あぶなっ……とと」

「瑞波捕まえた!」

そんなやりとりをしながら、しばらく歩くと、目の前に大きな石の鳥居が見えてくる。


明人、瑞波、健人は鳥居の前に立ち並び、1礼をする。ニーニャも見よう見まねで同じように1礼する。

「なんだろう、すごく懐かしい感じがする」

鳥居をくぐって境内に向かって歩く中、ニーニャは周りを見渡しながらそんなことを口にしていた。


境内は木々のおかげもあり、涼しく、神社まででにじみ出ていた汗もスッと引いていた。

そんななかニーニャはずっと境内を見回している。それだけでなく不意に走り回ったと思ったら一本の木の前で立ち止まり、じっとその木を見つめている。そして、一定時間が経つとまた同じように別の木に向かって走り、じっと見つめる。そんなことを繰り返していた。


その間に瑞波が神主さんに裏の森に入いってカブトムシを捕まえる許可を取ってくれていた。

「ニーニャ、裏の森に行くよ!」

明人が鳥居寄りの木を眺めていたニーニャに呼びかけると――

「明人、もうちょっと、もうちょっとだけここにいてもいい?」

と返答された。

「兄さん、先に行っててくれる? 私もニーニャちゃん待ってから行くから」

「おう! まかせとけ! 先に大物捕まえても文句言うなよ!」

そう言って健人は神社裏の森に向かった。瑞波は明人と一緒にニーニャを待っていた。

全ての木々をじっくりと見回ったニーニャは最後に置かれている手水舎の前で溜まっている水をジッと見つめていた。


「ここは手水舎っていって参拝をするときにはここで手を洗ってから参拝をするんだよ」

そう言って明人は置かれている柄杓を手に取り、龍の口から流れている水を柄杓にため、右手、左手の順で洗い、最後に柄杓の水を手のひらにため口に含み、口を洗った。


「こうやってね」

ニーニャも同じように柄杓を手に取り、明人の真似をした。


「――」


ニーニャは柄杓を置き、また境内の木を見つめる。

ただし、今度はジッと見つめるのではなく、感嘆の声をあげながら見つめていた。

「すごい、すごく綺麗」

明人もニーニャの見ている木を見つめるがいつも通りの木であり、特段ほかの木と変わらないように思える。違いといえば、木にまとわりつく苔の模様の違いだけだ。


「なぁ、ニーニャ、何が綺麗なんだよ」

「明人には見えないの?」

「うん? 何がだよ。目の前に木は見えてるぞ」

そう言うとニーニャは少し考え始める。


「うーん、ちょっと明人、私の手を握ってくれない?」

そう言ってニーニャが右手を差し出したので、明人はその手を握る。


リーン――


涼やかな音色が聞こえたような気がした明人は、キョロキョロと周りを見回すが、特に音が出そうなものはなかった。

「明人、そっちじゃなくて、上よ」

ニーニャの指差した方に視線を向けると――


リーン――


涼やかな音色と主に、木の周りが七色に光、葉っぱがガラスのように透き通っていた。

光が動くごとに模様が変わり、まるで万華鏡を見ているような美しさだった。

「綺麗――」

明人は口をぽかんと開けずっとその様子を見ていた。


「ねぇ、2人ともフリーズしてどうしたの?」

明人と同じように手水舎で手と口を清めた瑞波がフリーズした2人を不審に思い近づいてきた。

「ニーニャと手を繋いで上を見たらわかるよ」

明人の言葉にニーニャが左手を瑞波に差し出し、瑞波はその手を握り、ニーニャや明人と同じように空を見あげ、言葉を失った。


「ふぁ――」

そうして光が消えるまでニーニャ、瑞波、明人は手を握ったままその場に立ち尽くした。

「おまえら、何してんだよ」

何時間そこに立ち尽くしていたのだろうか、後ろから健人に声を掛けられ、3人はハッと我に返った。


「たけ……ひと……どうしたんだ?」

「いや、どうしたんだじゃねーよ。もうすぐラジオ体操の時間だぞ」

健人にそう言われ明人はバッと右手にはめていた腕時計に目をやる。デジタルな文字で5時45分と表示されていた。

神社に着いてから1時間経っていた。


「嘘だろ……」

「いや、ほんとだよ。ってかおまえら何手を繋いで立ち尽くしてんだよ。仲良しさんかよ」

「いや、ちょっと待って、僕たちが木を見つめてたのはほんの10分程のはず……だよな、瑞波」

「うん……」

明人の問いに瑞波は頷いたが、同時に足と首の疲労度合いから、どう考えても10分程の疲労でないとも感じていた。


「まぁ、それは後でいいだろ。とりあえず、ラジオ体操会場の駐車場に向かうぞ」

そう言って健人は駐車場に向かって歩きだす。


「ニーニャ――これって」

明人がニーニャに尋ねると、明人の想像がわかっているかのように――

「そうよ、明人の想像の通り――あの七色の光が原因よ」

ゴクリ――明人と瑞波は唾を飲み、ニーニャは言葉を続ける。


「人って、集中すると体感で30分程しか経っていないのに、現実時間では1時間経っているってことあるでしょ。それと同じなのよ」

「それと同じって――」

「あの光の動きは人を極度の集中状態に誘う動きだったみたいね、あそこで健人に声をかけてもらえなかったら精霊たちが消えるまであのままだったかも」

「……ゾッとしない話ね」

瑞波は水筒のスポーツドリンクをゴクゴクと飲み、そう答える。

「でも、これではっきりしたは。この世界にも精霊はいる! この世界の住人はそれを認識できてないだけね」

新たな発見。これが世界に知れたら大変なことになりかねない。世界の常識を覆す発見である。

ただ、明人はそんなことどうでもいい、今自分がファンタジーに触れたことに対して明人は高揚している。


「でも、ニーニャはこの世界で精霊を感じられないって……」

「うん、それなんだけど、この世界では神聖な場所にのみ精霊が存在するのかも。これは推測の域をでないけどね」

「じゃあ、じゃあ、この世界にはやっぱり僕たちの知らないファンタジーが存在しているんだ!」

そうして明人はとても嬉しそうに、子供のようにはしゃいでいた。


「あれ、でも精霊が現実にいたって事実があるなら、これは現実であってファンタジーではない? あれ?」

「まぁ、その辺りは後で整理するとしましょ。とりあえず、ラジオ体操の会場についたんだし、まずはラジオ体操よ!」


そういって、明人、ニーニャ、瑞波、健人、そして会場にすでに到着していたレフィアは、小学生や中学生、大人に混じって――

「ラジオ体操第一――」

ラジオから流れるその音声に合わせて体操を始めるのであった。

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