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合宿と妄想と

先週は急遽投稿を休止してしまい申し訳ありませんでした。

活動報告の方にも記載いたしましたが、別途短編のファンタジー小説を書いていたため、休止しておりました。

ご興味のある方はそちらの方も読んでいただけますと幸いです。


エルフが綴る異世界小説も更新分も楽しんでいただけると幸いです。

よろしくお願いします。

「えー、ということで、明人、ニーニャペアが料理の準備でよろしく」

「ちょっ、それってもしかしなくても……先生や一緒に合宿場に行く人たちの……」

涼からの指示を聞いた明人は一瞬緑のほうに視線を向け、確認する。

「そうですね、おつまみとかの準備も準備してもらいますよ!」

緑はニッコリと微笑み、みんなに見えないように小さくガッツポーズを作っていた。


「ちょっ、明人、もしかして私やっちゃった?」

緑の言葉を聞きながらニーニャは不安げな表情で明人を見る。

「ニーニャ、僕らは……」

「ゴクリ――」

「先生たちが眠るまで、集中して小説を考えることができない!」

明人の宣言を聞いた瞬間ニーニャは四つん這いになり――

「うそでしょおおおおおおおおおお!」

その叫びは文芸部部室内に響き渡った。



期末テストの返却も終わり、夏休みまであと3日となった本日――

文芸部では夏休み中に行う合宿について話が行われていた。


「えー、昨年は学校で合宿したわけだけど、今年は先生の知人がキャンプ場を貸し切ってくれるそうなので、そこで合宿をしようと思う」

文芸部部長である涼が淡々と今年の合宿場所について説明をしたところ――

「ちょ……ちょっと待ってよ涼、貸切のキャンプ場って……結構お金かかるんじゃ?」

「そうよ、活動資金は限られてるし、今年は文化祭で出す出版物の印刷代も去年より割増なのよ。っていうか決める前に私に相談してよ!」

涼のいきなりの説明に明人と瑞波は活動資金の心配と共に、相談をしてもらえなかったことに多少の憤りを感じていた。


「って言われると思ってたよ。とりあえず、相談しなかったのは悪かったよ。でも、2人とも期末テストで大忙しだっただろ」

明人と瑞波はそれぞれ、ニーニャや健人のテスト勉強を見ていたということもあり、合宿の件を話し合うことができる状態ではなかった。

「うっ……それについては、ごめんなさい」

涼の核心を突いた言葉に瑞波は気まずげな表情をし、謝ることしかできなかった。

明人も同じく、涼が怒っているわけではないのだが、自責の念から気まずそうに口を噤んでいた。

「えっと、別に責めてるわけではないから。2人はそれぞれの役割を全うしてたんだから。もしさっきの言葉が2人を責めてるように聞こえたんだったら謝るよ。ごめんなさい。ただ、今回は条件が凄く良かったのと、キャンプ場を使わせて貰う都合上、早めに返事をする必要があったんだ。だから、2人に相談せず進めちゃったんだ」


涼も2人に相談せずに進めたことを申し訳ないと思っていた。そのことを察した明人は――

「ありがとう。そうだね、たしかに僕も相談を受ける余裕がなかったから、ここまで進めてくれてて、本当にうれしいよ。ただ、やっぱり資金が限られている以上、その辺がどうしても心配で」

その横で、瑞波もコクコクと頷いている。


「そうだね、でも、僕みたいなのでも一応文芸部の部長だからさ、資金ついては考えてるよ」


涼は一呼吸置き――


「今回の合宿場の施設利用料と宿泊中の食費は、先生の知人が全額してくれるそうなんだ」


信じられないと言った表情で瑞波は固まり――数秒の間が空いた。

「でね――」

涼が続きを喋ろうとした瞬間、硬直から復帰した瑞波が――

「ちょっと待って、それはさすがに怪しすぎるわよ! 私たちの宿泊費や食費を負担して相手になんのメリットがあるって言うの!」

机から立ち上がり、涼の突拍子も無い説明に対し反論する。


「うん、それを今から話そうと思ってたんだ」

「あっ、えっと、その、そうだったんだ、ごめんね」

瑞波はぺこりと頭を下げ、腰をおろした。


「でね、今回資金を負担してくれる代わりに、僕らは雑用をすることになるらしい。その辺りについて詳しくは先生が来たら話してくれると思う。僕も雑用で何をするかは聞いてないんだ」

「うーん、それなら……まぁ、納得できなくもないわね。でも、先生の知人とはいえ、信頼できる人なの?」

「まぁ、その辺りについては先生が保証してくれるよ。それに、あんまり疑いすぎると先方に失礼だと思うんだ」

涼は苦笑いをしながら瑞波の質問に答える。


「そっか、兎にも角にも、詳しい説明は先生から聞く必要があるってわけね」

「そうなるね」

「だったら、先生の話を聞いて、それでも何か怪しさを感じたら、今年も学校で合宿できるように先生を説得しましょ」

「うーん――先生の説明を聞いたうえで、合宿の多数決をとるよ。それで過半数以上がキャンプ場を嫌がったら、先生を説得しよう。それでどうかな」

涼としては、一度お願いしたのに、こちらの都合で厚意を無駄にしてしまうことに気まずさを感じているため、瑞波の意見を最大限取り入れ、そのうえでキャンプ場での合宿に行ける確率が上がるよう提案をした。


「それはそうよね。わかった。その案でいきましょう! 明人もそれでいいよね」

「うん、それでいいと思うよ」

明人自身は久しくやっていないキャンプができるということと、いつもと違う環境で創作ができるという考えから、緑の説明を受けるまでもなく、キャンプ場での合宿に賛成しようと考えていた。

「それじゃあ、一旦は先生からの説明を待とう。たぶん後30分もしたらくると思うから」

涼がそう言って本を開いたので、そこで一旦合宿の話が終わった。


「ねぇねぇ、明人、話は終わった?」

明人が本を開くと、それを見計らっていたかのように隣にいるニーニャが声をかけてきた。

「うん、終わったよ」

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、部室の外まで出てもらってもいい?」

「ん? それは全然構わないけど」

2人は部室を出て、2、3歩左に移動し、壁際でしゃがみこみ――

「あのね、合宿ってなに?」

ニーニャは明人の耳元に口を近づけ囁くような小声で尋ねた。

「えっとさ、ニーニャ、質問を応える前に1ついい?」

「どうしたの?」

「なんで耳元で囁くように質問するんだよ。息がかかって凄くくすぐったい上に、なんかいわれのない恥ずかしさがあるんだけど」

恥ずかしさのせいか明人の体温が上がり、顔も少し赤みがさしていた。


「内緒話しをするときは、こうやって耳元で囁くようにする。ってこないだ読んだ漫画に書いてあったんだけど」

「いや、もうそれ、囁くように言うことでもないよね」

明人の反応にニーニャは首を傾げ、数秒考えたのち――

「それもそうね」

といって明人の耳元から口を遠ざる。


「というか、合宿のことを聞くのになんで、内緒話しにしようとしたの?」

「いや、だって、あんな風に合宿って言葉が飛び交ってたから、知らないことで怪しまれると思って」

ニーニャの言葉に得心のいった明人は――

「あー、なるほどね。ユグドには合宿って言葉はなかったの?」

「言葉自体はあるわよ。ただ、意味がこっちの言葉と一緒かわからなかったのよ」

「なんだ、じゃあ、先にユグドでの意味を教えてくれない? こっちの意味と一緒だったら説明する必要ないからさ」

しゃがむのに疲れたのか、明人は壁を背もたれに廊下に座りニーニャに説明を促した。その姿を見たニーニャは同じように壁を背もたれに、明人の隣に座り、ユグドでの合宿について説明を始める。


「ユグドでの合宿を一言で言えば、発情した雄と雌を引き合わせて子作りをさせる宿のことよ」

「…………」

「どうしたのよ明人、面白い顔をしちゃって」

ニーニャの言葉を聞き、明人は思考が停止した。

「ごめん、ニーニャ少し考えさせてくれ」

停止した思考でなんとか口にできた一言はその言葉だけであった。

「あっ、意味があってるか考えるのね。わかったわ」

ニーニャの返答を聞き、明人は座る姿勢を三角座りにし、膝に頭を抱え込むようなポーズになった。

”よし、よし、よし、冷静になれ、落ち着け落ち着くんだ。いや、なんていうかニーニャはなんでああも恥ずかしげもなく、ああいうことが言えるんだ。そもそも、エルフって恋愛感情とかわかんないんじゃないのか。いや、恋愛感情なくても発情とかはするのか? というか今はそんなことどうでもいい。とにかく落ち着かせろ。ファンタジー小説の読みすぎでたくましく鍛えられたこの妄想力と想像力の暴走を落ち着かせろ! ……そうだ、こういうときは今日の晩御飯の献立を考えるんだ!“

明人は、ニーニャの一言から生まれたあらぬ妄想による生理現象を抑えようと、ひたすら今日の晩御飯を何にするかを考え続ける。


”よし、治ってきた。これならなんとか“

明人がそう思った矢先に――

「あきとー、そろそろ合宿について教えてくれない? ユグドの合宿とこっちの合宿って一緒なの?」

「…………」

”人とは男とは、悲しい生き物である一度抑えたところで、ちょっとしたきっかけでまた暴走するのだから“

そんなことを考えながら、明人は三角座りの体勢のまま、ニーニャに合宿について説明をした。

「こっちでの合宿ってのは、同じ目的を持った仲間で1つの施設に集まり、集中的に作業や勉強をすることを合宿って言うんだ」

「なるほどね、やっぱりユグドとは意味合いが違ったわね! ありがと、明人! じゃあ部室に戻りましょうか」

そういってニーニャは立ち上がり、部室に戻ろうとするが、明人は立ち上がろうとしなかった。

「ねぇ、明人、部室に戻らないの?」

「ニーニャ、先に戻っていてくれるかな?」

「いいけど、どうしたの? もしかして気分が悪くなったの!?」

焦って人を呼びそうなニーニャに明人は――

「いや、ちょっと一人で考えたいことがるんだ。今後の小説作りにも役立つと思うから、しっかり考えがまとまったら、またニーニャにも教えるよ」

そう力強く答えた。


「よかったぁ、気分が悪くなったわけじゃなかったのね。そういうことなら、わかったわ先に部室に戻るわね」

「うん、心配してくれてありがとう」

その言葉を聞き、ニーニャは部室へと戻っていった。


それからしばらくして、もう大丈夫だと思ったその瞬間――

「森川くん……何やってるの? もしかしてみんなにいじめられてたり?」

その声を聞き明人がソロリソロリと顔を上げると、そこには緑が立っていた。


「いえ、ちょっと考え事を――」

そう言って明人は何事もなかったかのように急いで立ち上がり、緑の背中を押す。

「ほらほら、先生、みんな合宿の話を聞きたくてウズウズしてますよ!」

「あっ、ああ、でも、本当に大丈夫か?」

「大丈夫です!!!」

その一言は、廊下の端にまで響くほどの大声で発せられた。



部室に入った緑は最初に今年の合宿についてさっと説明をした。内容は涼が説明した内容とほぼ同じである。

「ってことで、今回一緒に同行させてもらう人についてなんだけど、ここにいるみんなが知ってる人よ」

その一言を聞いた明人は、嫌な予感が頭をよぎった。

“いやいや、まさかそんな――ね”

そんなことは無いと頭に浮かんだ想像を捨て去り、緑の説明を待った。

「えー、今回キャンプ場に同行させてくれる人は、天城春奈さんです!」


ゴンッ――


嫌な予感が的中した明人はショックでテーブルに頭をぶつけた。

「大丈夫か? 明人」

「あぁ、問題ないよ。森山先生続けてください」

テーブルに頭を置いたまま、健人に応え、緑に続きを話してもらうよう促した。


「で、今回の雑用なんだけど、小説を書くグループの2人組で担当してもらおうと思うの。ちなみに、主な雑用は3つ。1つ目が荷物運び、2つ目が料理の準備、3つ目が後片付け」

緑は手を突き出し、人差し指、中指、薬指を1本ずつ順番に立てながら説明をした。

「これを私が作ってきたくじで決めようと思うの!」

そう言って緑は、丸い穴の空いた箱に3本の割り箸が刺さったくじをテーブルの上に置いた。

「さっ、各チーム代表を選んで、箱から見えている割り箸を1本つまんでね。私が”せーのっ”って言ったらみんなでその割り箸を引っ張ってね。ちなみに、割り箸の先端が『赤』だったら『荷物運び』、『青』だったら『料理の準備』、『緑』だったら『後片付け』だから」


健人、レフィアチームはレフィアさんが、瑞波、涼チームは涼が、明人、ニーニャチームはニーニャが割り箸を引くことになった。


ジャラジャラ――


割り箸を引く前に緑は箱の割り箸をシャップルし、各々が好きな割り箸をつまむ。

「青以外だったらどっちでもいいや」

明人は気の緩みから一言発してしまった。発した瞬間明人は自分の過ちに気づき、すぐさま口を手で抑えたが時すでに遅し、その言葉を聞いた涼と瑞波はニヤリと口をゆがめる。


「先生、ワンモアシャッフル!」

瞬間、明人はすぐさま緑にもう1度シャッフルしてもらえるよう伝えたが――

「せーのっ!」

こちらも時すでに遅し、緑はせーのコールを言い放った――


明人の立てたフラグは折られることなく、その役目を全うした。

そして、ニーニャの叫び声が文芸部部室内に響き渡ったのであった。

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