もうすぐ夏休み
今週の更新です。
楽しんでいただけると幸いです。
よろしくお願いします。
ミーンミンミンミン――
窓の外に見える青空は透き通るほど青く、適度に散らばる白い雲がより一層空の青さを強調している。
あと数日学校に通ったら夏休みかぁ――
授業の休み時間にそんなことを考えながら、明人は窓からぼんやりと空を眺めていた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――」
その隣で、清々しい青空に鬱憤をぶつけるようにニーニャは深いため息をついていた。
「あぁ、もうダメ、ダメよ、こんな気分で休み時間を謳歌するなんて無理よ」
「ニーニャちゃん、今回は大丈夫だって! だってみんなであんなに勉強したし、家でも明人と勉強したんでしょ」
「そうだよ、私たちも協力したんだから、大丈夫だって! あきとんのスパルタ学習も乗り越えたんでしょ」
「それはそうだけど……はぁぁぁ」
瑞波や秋音が元気付けようと励ますも、ニーニャは本日何度目かわからないほどため息をついている。
2日前に全教科の期末テストが終わり、昨日かテストの返却が始まり、本日が現代文のテスト返却日であったのだ。
「だって、この結果によっては文化祭に参加できないのよ。せっかくの努力が水の泡になるのよ……」
「ニーニャ様、ため息は幸運を逃してしまうとテレビでやってましたよ」
「うそ!? 今幸運に逃げられるわけにはいかないわよ! 幸運を回収しないと! すぅぅぅぅ」
レフィアから思いもよらない言葉を聞き、ニーニャは吐いたため息を回収しようと勢いよく息を吸う。
「ゴホッ、ゴホッ、ゲホッ……これで幸運回収できたかな」
勢いよく息を吸い、むせて眼に少し涙を溜めるニーニャを見て、不憫に思えたのか瑞波が――
「うん! きっと回収できたよ! これで現代文のテスト結果も大丈夫だよ!」
そう言って瑞波はガッツポーズを作る。
「そうですよ、ニーニャ様、あとはため息を吐かないように、吐きそうになったら口を手で塞げばいいのです!」
瑞波に続いてレフィアもニーニャを励ます。
「そうよね、幸運を回収したんだから! あとは幸運を逃さなかったら大丈夫よね!」
瑞波とレフィアの励ましを聞き、ニーニャは小さくガッツポーズを作る。
キーンコーンカーンコーン――
休み時間を終えるチャイムがなり、生徒が各々の席に着こうと移動する。
「ニーニャ」
明人は自席に戻ろうとするニーニャを呼び止める。
「何? 明人」
ニーニャが明人の方に振り返ると――
「今回は大丈夫だよ!」
と一言言って明人は自席へと戻った。
明人の言葉を聞いたニーニャは1つ頷き、先ほどの悲壮感や不安を漂わせていた表情から、いつもの自信に溢れた表情に戻っていた。
全員が席に着きしばらくすると、A3サイズの茶封筒を持った緑が教室に入ってきた。
「きりーつ、礼」
「よろしくお願いします」
全員が着席したのを見て――
「はい、それじゃあ今日は、みんなお待ちかねの期末テストの返却をするわよ」
そう言って緑はA3サイズの封筒から採点済みのテストを取り出す。
「先に言っとくけど、今回は赤点が2人いたので、赤点を取った人は夏休み中に補習授業に出てもらうからね」
その言葉を聞いたニーニャは自身の溢れた表情から一転し、絶望的な表情をしている。
「あぁ、私の文化祭……おわった……おわった」
ボソボソと何度も終わったと呟きながら机に頭を預けるニーニャ。
いつもの授業中であれば、緑から注意が飛んできそうだが、テストの返却中であるため、注意されることはなかったが、瑞波とレフィアが心配そうにニーニャの方を見つめている。
そんな中、明人の隣でも1人絶望的な表情をしている奴がいた。
「なぁ、明人、やらかした……」
「なるほど、じゃあ、警察に行ってこい」
「犯罪じゃねーよ!」
そう言いながら健人はバッとテストを明人に見せる。
「あぁ、なるほどね、なんていうか、ご愁傷様」
健人の点数欄には28点と書かれていた。
「えっ、ちょっと待て、これって俺は文化祭に参加できないってことか?」
ここまでレフィアと一緒に小説の設定を考えてきた健人は、テストを手に持ちながらブルブルと震えている。
「それは大丈夫だと思うよ。森山先生がニーニャに言っていたのは連続で赤点を取ったらって言ってたから。健人は中間テストの時は赤点じゃなかっただろ」
「はぁぁぁ、そうか、それなら良かった。ここまでレフィアちゃんと進めてきたんだ、これで参加できなかったらレフィアちゃんに申し訳立たない」
健人はホッと胸をなでおろす。
「森川くん」
「はい」
健人とそんな話をしていると、明人の名前が呼ばれる。
「森川くん、今回頑張ったじゃない」
緑からそう言われながらテストを受け取り、自席に戻ってテストに目を落とすと――
「92点……」
高校に入って以来、テストの度に平均点前後の点数しか取れなかった明人は、手元にあるテストの点数を見て左手で小さくガッツポーズを作った。
「ニーニャさん」
そうしているうちに、ニーニャの名前が呼ばれ、目から光が消え、絶望の表情を貼り付けながら、トボトボと教壇の前まで力なく歩いていく。
「ニーニャさん、よく頑張ったわね」
そう言いながら緑がニーニャにテストを渡すが、赤点だと思い込み、頭の中で終わったと反芻しているニーニャの耳には緑の言葉が届かなかったようだ。
絶望の表情をしたままニーニャは自席へと戻り、テストを開くことなくそのまままた机に頭を預ける。
「レフィアさん」
「はい」
レフィアが教壇の前に立ち、テストを受け取る。
「レフィアさん、今回はちょっと良くなかったわね?」
「?」
緑の言葉に小首を傾げ、レフィアは自席へと戻り、テストを開き、目を点数を見ると――ガタガタと震え始めた。
「それじゃあ、残りの時間は今回間違いが多かった場所を説明していくわね」
そう言って緑は黒板に向かって、問題と解説を書き始める。
その間、ニーニャはずっと机に頭を預け、レフィアはずっとテストを見ながらガタガタと震えていた。
キーンコーンカーンコーン――
「はい、それじゃあ今日はこれで終わり。みんなテストで間違えたところは見直しておいてくださいね」
そう言って緑は教室から退室する。
「やっぱり、勉強したところでできないものはできないのよ」
ニーニャはブツブツとマイナスな言葉を呟き続けている中、レフィアも震えながら混乱している。
明人はニーニャの席に近づき、ニーニャの頭の下にあるテストを抜き取り、点数欄に目を落とす。
「ニーニャ」
「だから、羽根のない人間に空を飛べって無理なのよ」
「ニーニャ!」
「これで文化祭に参加できないのね」
「ニーニャ!!」
何度読んでもマイナスの言葉でしか返答がなかったため、明人はニーニャの方を掴み、体を揺らし始める。
「なによ、明人、私を責めにきたの? いいわよ、好きなだけ責めなさいよ」
ニーニャは明人の方に顔を向け、力なくそう言うと――
「なんで、ニーニャを責める必要があるんだよ」
明人が手に持っていたテストをニーニャに見せるよう机の上に置く。
「赤点を取るどころか、平均点以上の成績を取ったニーニャを責める道理なんてないよ。頑張ったね、ニーニャ」
そう言って明人はニーニャの頭に手を置く。
ニーニャはガバッと机から頭を引き剥がし、机の上に置かれたテストを手に取り、何度も何度も点数欄を確認する。
「明人、やった、やったわ、これで、これで文化祭に参加できるわ!」
ニーニャは両目に少し涙をため、満面の笑顔を作った。
「ほら、だから大丈夫だって言ったじゃない! よかったねニーニャちゃん」
「そうだよ、努力はしただけ自分に返ってくるんだよ」
瑞波も秋音もニーニャにお祝いの言葉を送る。
「ありがとう! 瑞波! 秋音!」
そう言ってニーニャはレフィアの席まで移動し――
「レフィア! やったわよ! これで私文化祭に参加できるわ!」
とレフィアにテストを見せる。
「よっ……よかったですね、ニーニャ様」
レフィアは泣きそうな顔をしながらニーニャにお祝いの言葉を送る。
「どうしたのよ、レフィア、何かあったの?」
そう言いながらニーニャがレフィアのテストに目を落とす。
「……」
「レフィアちゃんはどうだったのー?」
明人たちがレフィアの席に足を運び始めると――
「やめて、こないであげて!」
ニーニャが両手を広げレフィアを守るようにレフィアの席への道を塞ぐ。
「あー、やっぱり、レフィアさんでしたか」
ニーニャの行動を見た明人がそういうと――
「えっ、やっぱりレフィアちゃんだったの」
瑞波が明人の方を向いて再度聞き直した。
「何がレフィアちゃんだったんだよ」
健人が近づくとより一層レフィアの震えが強くなった。
「も……」
「も?」
「申し訳ございません、健人さん」
椅子から立ちあがり、丁寧なお辞儀で謝罪をした。
「ど、どうしたのレフィアちゃん!?」
「わ、私、現代文で赤点を取ってしまいました」
フルフルと体を震わせながら頭を下げている。
「あぁ、そんなこと? 大丈夫大丈夫、俺も現代文赤点だったから」
ヘラヘラと笑いながら健人は自分が赤点だったことを伝えると――
「へ?」
レフィアが驚きの表情で顔をあげる。
「それでは、私たち……文化祭に……」
「明人曰く、それは大丈夫みたいだよ」
健人が授業中に明人から聞いた話をレフィアにすると、レフィアは胸を撫で下ろし――
「それでは、夏休み中は一緒に補習ですね。よろしくお願いします」
レフィアは健人に改めてお辞儀をする。
「あれ、この状況……俺、補修中に死ぬんじゃないか……」
そう言った健人の肩に明人はポンッと手を置き――
「健人……補習が始まる前にお前の命は召されることになりそうだぞ」
そう言いながら健人の後ろを指さす。
ポキ、ペキ――
不穏な音が聞こえた瞬間、健人は脱兎のごとく走り出そうとしたが――
ガシッ――
走り出すには遅すぎた。レフィアに気を取られ、背後を警戒するのを忘れていた健人のミスである。
「瑞波さん、ここは穏便に話そうじゃないですか」
「ええ、そうね、兄さん、私のお小遣いが減額されることについて何か弁明があるのなら聞くわよ」
「……ごめんなさい」
状況的に素直に謝るほかなないと思った健人は、瑞波に謝罪した。
「そう、弁明はないのね。わかったわ、それじゃあ、減額された分は兄さんのお小遣いから貰うから」
「いや、そんな殺生な! だいたい瑞波の教え方が悪……」
ボゴッ――
健人が言葉を言い切る前に瑞波の右フックが健人の腹部に刺さる。
「くへっ」
「あー、これ、今年一強烈なやつだな……」
傍目から見ていた明人は思わず言葉を漏らし、自分のお腹をさすった。
健人が教室の床に倒れこむのを見計らったかのように――
ミーンミンミンミン――
先ほどまで止んでいた蝉の鳴き声が窓の外から聞こえてきた。




