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転生ですか?いいえ転世です

本日も2本アップ予定です。

そのうちの1本目です。

楽しんで頂けると幸いです。

大声をあげてなお、頭の中がパニック状態の明人は、とりあえず落ち着こうと深呼吸を始める。


スゥーハァー。


深呼吸って素晴らしい。深呼吸をするだけで落ち着くことができる。などということはなく、未だに脳内ではいろいろな思考がぐるぐるして完全に落ち着くことはできなかった。

でも、少なくとも最初よりも少しは落ち着けたので、深呼吸の素晴らしさを改めて実感した。


「少しは落ち着いた?」

ニーニャからの問いに、明人は頭を縦に振る。


コンコン――


「明人、なんかすごい大声聞こえたけど大丈夫? はいるよ」


ガチャ――


「春奈さん、まっ……」


明人の声が届く前に扉は開かれ、春奈が部屋に入ってきた。


「て」


最後の一言は部屋にむなしく響いた。

部屋の状況を見た春奈は――


「うーん……ちょっと待ってね。んー……あのぉ……お邪魔しましたー」


回れ右をし、静かに扉を閉めて部屋を出ていった――


バン!


のちに勢いよく扉を開いてまた部屋の中に入ってきた。


「いやいやいや、ちょっと明人、さすがに小学生は犯罪よ! っていうか外国の人? それにメイド? なに、一体何がどうなってんのよ。説明してよ、姉さんになんていえば……あわわわわわ」


人って自分よりパニックになっている人を見ると冷静になれるもんなんだな。

明人はそんな風に考えながら、自分よりもパニックになっている春奈を見て完全に落ち着きを取り戻した。


「春奈さん」

春奈の肩に手を置き、呼びかけるが聞こえていない。


「春奈さん!」

強めに呼びかけ、やっと反応があった。


「なに!! あっ、明人、と、とりあえず謝っときなさい! ねっ、謝ればなんとか……」

「落ち着いてください」

「これが落ち着いて……」

「とりあえず、深呼吸してください!」


春奈に向かって少し強めに指示をする。


すぅはぁ――


「少し落ち着いた」


やはり深呼吸は偉大。ありがとう深呼吸。

明人はあらためて深呼吸の偉大さを認識し、心の中で感謝の言葉をつぶやく。


「よかったです。僕もまだ状況がつかめてない状態なんですよ。とりあえず、僕はロリコンじゃないので大丈夫です」


その言葉を聞いた春奈はホッと胸をなでおろした。


「えーと、とりあえず落ち着きました?」


ニーニャが明人と春奈に向かって声をかけると、明人はニーニャのいる方に向き直った。


「はい、とりあえずは僕も叔母も落ち着きました」

「よかった!」


ニーニャもホッと胸をなでおろしていた。自分とレフィアの存在のせいで問題が起きたことに心中穏やかではなかったようだ。


「とりあえず、私から今の状況を説明するので、あなた方とこの世界について教えてもらえるかな?」

ニーニャからの提案に明人も同意する。


「では、場所を変えましょう」

明人は自室で話してもいいと考えていたが、ニーニャとレフィアは靴を持ったままだったため、一度玄関に靴を置いてもらいリビングで話すことにした。

リビングに移動するまでもニーニャは家の中をキョロキョロと見まわし、時折「ふわぁ」と声を漏らしていた。

レフィアは静かにニーニャの後ろについて歩いていた。


春奈に頼み、ニーニャとレフィアをテーブルの方に連れて行ってもらい、明人は飲み物の用意をしにキッチンに向かった。

春奈と自分の飲み物はコーヒーを用意し、ニーニャとレフィアには何を出せばいいかわからなかったので、とりあえずミネラルウォーターを出すことにした。


「お待たせしました」


明人がリビングに飲み物をもっていくと、春奈は席についており、ニーニャとレフィアは春奈の対面に位置する椅子の前に立っていた。


「えっと、ニーニャさんとレフィアさんはなんで立っているんですか?」

「私たちの王国では、初対面の相手には立って挨拶するのよ」

「なるほど……って僕さっき挨拶されてますよね?」


飲み物全員の席の前に置きながら明人は質問する。


「ええ、でも私はあなたから挨拶を返してもらってないから、仕切り直しということで」


そういわれて思い返すと、明人は挨拶を返す前に事実を受け入れきれず、パニックに陥っていたのを思い出した。


「いわれてみれば、あの時は挨拶よりもパニックが勝っていたので……」


その言葉を聞き、ニーニャはほほえみ一つで返してくれた。

そして、両手でドレスの裾をつまみ、お辞儀をした。


「私はニーニャ=ミルストリア、ミルストリア王国の第15王女。あなた方が言うところの異世界から来たエルフです。よろしくお願いします」


ニーニャの挨拶が終わると、隣で立っていたレフィアが両手でメイド服の裾をつまみ、お辞儀をした。

「私はハーフオーガのレフィアと申します。ニーニャ様のメイドをしております。以後よろしくお願いいたします」


二人は挨拶が終わり、姿勢を元に戻した。

改めて二人の容姿を見ると、親子だと思うくらい年齢が離れていそうな印象を受ける。

レフィアは背が高く切れの長い目に綺麗な緋色の瞳をした美人系の女性で、自己主張の激しい胸は思春期の明人には目の毒であった。

一方ニーニャは小学生のような体系で、くりっとした目に青緑の瞳、床まで垂れ下がっている長いブロンドの髪が特徴的だ。


明人が二人の姿をまじまじと見ていると、横から肘でつつかれ挨拶を促された。

二人は椅子から立ち上がり、

「僕は森川明人、今はこの家の家主代理をやってます。よろしくお願いします。」

「私は天城春奈、明人の叔母で保護者代理よ。よろしく」


順に名前と簡単な紹介をしたのち、二人はニーニャとレフィアに向かって軽く礼をし、ニーニャとレフィアに椅子に座ってもらうよう促した。

二人が椅子に座るのを確認したのち、明人も椅子に座った。


「じゃあ、さっそく説明をしてもいいかしら」

ニーニャがそう口火を切ったのに対し、明人と春奈はうなずいた。


「ユグド、それが私たちの住んでいた世界の名前よ。その世界にあるエルフの王国、ミルストリアで私は王女を、レフィアは私のメイドをしていたの。あるとき、私がお忍びで城下町を回っていると、旅の行商人からとある書物をすすめられたのよ。その書物を読んだとき、今までの価値観が壊されたわ」


明人はその書物に新しい魔法や禁呪などが書かれており、今回の事態が起こったのではと考えながら、ニーニャの話に耳を傾ける。


「そう! そこに書かれていたのは異世界を題材にした物語だったのよ!」


バン!

ニーニャは机をたたき、目をキラキラさせて椅子の上に立ち上がった。

「へ?」

明人は予想外の続きに変な声を出していた。そんな明人の反応に気づかずニーニャは話を続ける。


「すぐにその書物を持ち帰って読みふけったわ。それで、何度も何度も読んでいるうちに、私もこんな書物を書きたいと思って、100年かけて設定を考えて書物を書いたのよ」


キラキラとした表情で語っていたニーニャの顔が突然くもりだした。

「でね、エルフ書物機構っていう王国の書物を管理している機関に提出したの。そしたらなんて返ってきたと思う? ねぇ!」

「えっ、いや、わからないです」


「異世界と題打っているのに異世界感が全くない。面白くない。読んでいてただただ疲れる。考えが稚拙。最後まで読むに値しない作品。異世界がどういったものなのか、もっとしっかり考えたほうがいいですね。なんて書かれてたのよ! それがもう悔しくて……悔しくて……」


ニーニャはそこから少し溜めて、続きの言葉を紡いだ。


「だから……書物機構の奴らをぎゃふんと言わせる書物を書くために旅に出ることにしたの! 異世界に! で、色々あってこの世界に来たの。これが私たちがこの世界に来た経緯ね」


「…………」


開いた口がふさがらない、言葉が出ない、あまりに予想の斜め上を行き過ぎた理由にどう応えていいのか全く分からない。

春奈はというと、静かにコーヒーを飲んでいた。


「えっと、そんなに簡単に異世界転生とかできるものなんですか?」

「普通は無理よ。異世界に転世するにはいくつかの条件があるのだけど、私はたまたまその条件を満たしていたのよ。それと転生じゃなくて転世ね。私たちは生まれ変わってこの世界に来たわけじゃないから」


「転世、ですか……誰彼かまわず、異世界に行けるわけじゃないのか。えっと……じゃあ、ニーニャさんの目的は、この世界について知りたいということなんですか?」


「そうよ! ただ、この世界のすべてを知る必要はないと思っているわ。異世界の空気に触れる、そして異世界のものを見る。それらすべてを私の中で昇華して書物を書くのだから、全てを知る必要はないと思っているわ。できれば異世界ならではの体験が少しでも出来たらそれでいいと思ってるの。あと、私たちの呼び方はニーニャとレフィアでいいわよ。それに敬語もいらないわ」


「わかった、ニーニャ。まだまだ聞きたいことはあるけど事情は把握したよ。となると書物を書くための体験が出来たらすぐに帰るってことなのかな」

「そうしたいのはやまやまなんだけどね……」


ニーニャは少しバツが悪そうな顔をしているとレフィアが口を開いた。

「現状私たちが元の世界に戻ることはできません」

「え? でも来ることが出来るなら、戻ることもできるんじゃないんですか?」

「いえ、ユグドとこちらの世界では条件が違うのです。ユグドでは、ニーニャ様が精霊の力を借りて、こちらの世界と道を繋げたのですが、こちらの世界には精霊が存在していないのです」


「えっと、つまり、こちらの世界では精霊の力を借りれないので、道が繋げないということですか」

「はい。本来こういうことが起こった時の為に、精霊石という精霊の力を蓄えた石を持って行動するのですが、今回は色々な事情がありまして、その石を持たないままこちらに来てしまったので……」


「ほんとごめんねぇ。レフィアぁ」

レフィアが淡々と話しているあいだ机の上に頭を置いてうなだれていたニーニャが申し訳なさそうに謝罪をする。


「大丈夫ですよ。私にはニーニャ様がいればどこでだろうと生きていけますので」

「レフィアぁ」

レフィアがニーニャに向かって笑いかけると、ニーニャはうれしさのあまり抱き着いた。

そんなほほえましい姿を眺めること数分。


「こほん、じゃあ改めて、私たちの帰る方法はおいおい考えていくとして、こちらの世界について説明してもらえるかしら」

ニーニャから説明を促されたので、明人はうなずき、この世界について説明を始めたのであった。

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